異世界転生を滅ぼそうということらしい
「タッグマッチと行こうじゃないか」
アミラビリスが鷹山と肩を組もうとして、手で顔を押されて拒否された。
「そもそも破壊者は俺だ。八つ胴の刀も持っている。だから俺が戦う」
鷹山が鞘に収まった日本刀をスーツの背中に手を入れて取り出した。そして、飾りのない鞘から鮫皮のままの柄を持って刀を抜いたタイミングで、鷹山はあることに気が付いた。
「もう柄があるから証明できないじゃないか」
「どういうこと?」
「八つ胴の銘はこの柄が巻かれる前の茎って部分に彫ってあるんだ」
「つまり?」
「俺が破壊者だって証明できない」
それを見ていた紫色の髪の少年は、身の丈に合わない刃長の長い刀を取り出して、抜刀した。
「そっちの男の方から刀を奪って確認しよう」
そう言い、刀を持って鷹山に突っ込んだ。すぐに反応して鷹山は刀を刀で受け止め、二人の鍔迫り合いとなる。
「無駄だよ」
鷹山がそういうと同時に少年の肘から先が切り落とされる。そのまま両手のあった所から緑色の液体を噴き出している少年を地面に押し倒し、頭を掴んだ。頭を掴んだ鷹山の手に光がまとわりつく。
「え? は? え?」
混乱して思考停止した少年が手足をばたつかせる。それを見ていられないという様子で、少年の姉が指を差した。
「それを殺せ!」
その言葉と同時に少女の周囲から鷹山に向けて光線が放たれ、すぐに減衰し、消滅した。
「君はこっちだよ」
アミラビリスが少女の腕を掴み、姿を消した。その様子を呆然として観客席の二人は見ている。
「止めに行く?」
レイブが辰道に聞かれると、すぐに首を横に振った。
「行ってどうなるの?」
辰道はレイブの言葉を無視し、観客席を駆け下りた。
「バカなの?!」
右手に炎を纏わせて鷹山に向かって跳んだ辰道は結局視認できない壁に激突して落下した。
「待て。殺す気はない」
鷹山はすぐに少年の頭を掴んでいた手を放して辰道の方を向いた。
「腕を切り落としてるじゃん!」
地面に座っている辰道の目の前に鷹山が立った。
「あのな、真二くん。人間ならともかく彼は……」
そう言い聞かせている鷹山の後ろで両手が再生した少年が立ち上がり、刀を構えた。そして、鷹山を背後から斬りつける。軽い金属音が鳴り、刀がひび割れた。
「なるほど、その力にその刀。俺を殺しに来たとは思えないほど弱いな」
一連の言葉を、鷹山は口を開かずに背中から発した。
「あんた一体何なの! 人なのか機械なのかはっきりしてよ」
「どっちもだ。平和を守るために生まれてきた」
鷹山は少年に向かって回し蹴りを放つ。亜音速で蹴り飛ばされた少年はアリーナの壁に激突し、全身から緑色の血を吹き出した。
「次は、あれか」
鷹山が数度刀を振った。空間が裂け、ピンク色のひらひらとした薄い服を着ている少女をアミラビリスがお姫様抱っこした状態で落下して着地した。
「怪我はないかい?」
アミラビリスが少女に優しい声をかける。
「大丈夫です」
少女も柔らかい声でアミラビリスに返事をした。
「誰だお前ら」
鷹山が問う。
「ひどいじゃないか。アミラビリスだよ」
「俺の知ってるアミラビリスは、少女に不貞行為を働く。よって少女から慕われているお前はアミラビリスではない」
「ひどいじゃないかまったく」
言い終わったアミラビリスの顔に、少年が跳び蹴りをした。
「お姉ちゃんを返して!」
「いいよ」
アミラビリスは右の頬を赤くしながら、少女をそっと降ろす。少女は少年に駆け寄り、抱きしめた。
「お姉ちゃん……」
「ナナ……」
数年ぶりかのように涙を流して抱き合う二人を、その場にいた者は啞然として見ていた。
「とりあえず畳と座布団を用意しよう」
鷹山はふざけた言動を取り始めた。辰道は無言で観客席に上がり、レイブの席の一つ左に座った。
「もう畳は敷いておいたよ」
アミラビリスはそれに乗った。一瞬のうちにアリーナの地面が畳になっている。
「仲直りしようじゃないか」
アミラビリスが二人に声を掛けた。
「わかりました。アミラビリスさん」
少女が語尾にハートマークでもついているのかというような猫撫で声でアミラビリスに返答した。
「ほんとにお姉ちゃん?」
「そうだよ。ナナ」
少女が少年の頭を優しく撫でた。
「そこの二人にも用があるね」
「わかったよ」
鷹山が指パッチンをすると、観客席に座っていたレイブたちが畳の上にワープした。
「それどういう原理でやってるの?」
「気がつかないように凄い速さで動かした」
「ワープっぽく見せるためだけにそれやるとかさあ? これだから素体が人間の奴はバカなんだから
アミラビリスが鷹山を煽る。
「何がバカだよ。この低学歴低収入低胸囲が」
鷹山はアミラビリスを煽り返した。
「表出ろ」
アミラビリスは中指を立ててアリーナから出ていった。それを追いかけ、鷹山も歩いて出ていった。
「あの人たちっていっつもこうなの?」
ナナが辰道に問いかける。
「さあ? 俺もよく知らない」
辰道は首を横に振った。ナナはレイブの方を向く。レイブも首を横に振る。
「そう言えば君のお姉さんの名前はなんて言うの? ちなみに俺は辰道真二で、こっちが……」
「レイブだよ」
自分の名前を言ったレイブの足元を、じっと見つめる。
「なんでレイブさんは足が……」
「こらっ」
しゃべりかけたナナの頭を少女が叩いた。
「気にしないでいいよ」
レイブが笑顔で二人に言う。
「そう言えば二人の名前はなんて?」
「僕はナナでお姉ちゃんはロク」
少年が指を指して自己紹介をした。ほんの少しの間、四人の間に平和な時間が流れ始めた。
「なあ鷹山。君一回あの子たちのとこの戦艦に負けてなかったか?」
埼玉スーパーアリーナの駐車場で、アミラビリスは壁に寄りかかった状態で、地面であぐらをかいている鷹山に話しかける。
「今はそれは問題じゃない。気になるのはあの子たちの組織だ」
鷹山が駐車場の天井を指差して言う。
「宇宙守備連合だっけ? 過激だよねえ。世界同士を行き来する者を全てなくそうとするなんて」
「それでだ。彼らはサンシュウ世界団を消滅させようとしている」
「どんなとこだっけ? 私地理苦手でさ」
「大量の世界が集まっている場所だ。惑星規模の世界から、宇宙規模の世界まで多くが存在していて、頻繁に世界間の行き来が引き起こされる。俺の故郷の世界もその中の一つだ。あとは、ステータス表示みたいな独特なシステムがある世界があることも特徴だったが、覚えてないのか?」
「あー。思い出した。異世界転生の世界か」
アミラビリスは目を見開き、納得した表情を鷹山に見せた。
「そう。それで、真二くんの世界もたぶんそこに入っていると思うんだ」
「なるほど……。つまり異世界転生とか、故郷とかが滅びるから、手を貸してってことね?」
「そういうこと」
「私はいいけど少年達はなしだな。危なすぎる」
「いや、真二くんの龍の力がこの異常な空間に触れたことによる信仰の特殊……」
手のひらからホログラムを出して、詳しく解説に入ろうとした鷹山の言葉をアミラビリスが遮る。
「少年が強くなっているのはわかっているよ。ロク君を君が本当は殺そうとしてたのも勘づいていたしね。でも、戦わせることはできない。信仰による力を持った存在がほかの世界に触れると制御しきれないほどの異常な力を得る。少年は恐らく元の世界で龍の力を手に入れたんだろう。ただ日常生活を送るのにも苦労していくだろう。そんな子を戦わせられない」
アミラビリスは鷹山を睨みつけた。
「いや……。どのみち真二くんは巻き込まれることになりそうだ」
駐車場の中に眩い光が放たれる。それが収まると、二人の前に三人の何かが立っていた。中央に立っているのは白髪白目で、二本の太刀を腰に差した巨乳の女性。彼女から見て右に、数メートルの全長を持つ巨大なウジ虫のような怪物と、左に黒い軍服を着ていて、顔の代わりに金属の三角柱の立っている男がいる。
「あの子たちを逃がしてくれ」
鷹山は三人の方を見ながらアミラビリスに言葉を放った。鷹山の顔に冷や汗が浮かぶ。
「分かった」
アミラビリスは、飛び上がり、地面をすり抜けて上にいる四人をまとめて抱きかかえ、眩い光とともにその世界から姿を消した。
「投降して大人しく死ぬことを勧めますよ」
三角柱が鷹山に声を掛ける。鷹山はそれを無視し、同じ長さのものを二本帯刀している女性をみて奇妙だという表情になった。
「君……その二本の刀はどうやって使うんだ?」
鷹山が怪訝そうに女性に問いかける。女性はそれに答えるように二つの太刀を抜き、両手に持った。
「申し訳ありませんが、死んでもらいます」
女性が胸の前で手を交差させるようにして構え、地面を蹴って鷹山に向かって飛び出した。彼女と鷹山との距離がたった数メートル縮まったところで、彼女の左右の太ももと二の腕が両断される。
バラバラにされた女性を飛び越え、鷹山は残った二体の前に立った。二体の間の空間に孔が開き、今度はオレンジ色で絡まったイヤホンのコードのような髪をしていて、服の代わりにぐるぐる巻きの導線で体を覆っている少女が現れる。
「二人は、逃げた子たちを追って」
少女は二体に指示をだす。指示を受けた二体の怪物は、無言で頷いてその場から消えた。それを見た鷹山は両手で刀を持ち、左後ろに引いた。
「すぐに私もそっちに行くから」
鷹山は刀を振る。音速を超えて動く刀の放つ衝撃波で駐車場の壁に一直線の亀裂が走る。しかし刀が触れる前に少女は姿を消した。
「外れ」
少女は、バラバラになってなおも生きている女性の前に現れた。
「直してあげるから、頑張ろうね。負けたらのきみの世界はなくなるから」
その言葉とともに、女性の体が動いてくっつき、元の姿に戻った。
「ばいばい」
少女は女性に手を振り、姿を消した。それを見た鷹山は怪訝な顔をした後に、右手で刀を抜き、女性を睨んだ。
「面倒だ……。殺してから考えるか」