カレーうどん
食券を取り、カウンターに出し、カレーうどんを受け取り、鷹山の隣の席に座った。なんか俺の方が早かったな。そういえばなんでアミラビリスはうなだれているんだ?
「それはだね少年。ここのカレーうどんは怪我やなんかを治療する効果があるんだ」
「何も悪いことないじゃん」
「麻酔とかも解除されるんだ」
だから何だよ。
「おっと。それは返して」
鷹山が言葉とともに人差し指を上に向けた。俺の体にくっついていた装甲は外れ、消えた。
「いただきます」
俺は手を合わせてからカレーうどんを啜り始めた。
「少年に使った薬の効果も切れちゃうんだ……」
今なんつった? まあいいか。
「ズルズル」
麵を啜ると、今まで疑問に思っていなかったことが次々と頭の中に引っかかっていく。なんでテンプレ異世界からうどん屋に落ちたんだ?
「この空間はそういう場所だからさ」
「は? ズルズル」
「お前はとことん説明が下手だな。アミラビリス。俺が教えてやる」
ありがたい。カレーうどんはおいしい。
「ズルズル」
「ここは、空間が破壊された時に稀に辿り着く場所だ。ほら……あれだ……あるだろ? 海外の都市伝説に。まああの埼玉スーパーアリーナと同じ様な空間の一種だ」
そう言って鷹山は席を立ち、地面のレイブを持ち上げた。なるほど。全くわからん。カレーうどんはおいしい。
「ズルズル」
「こういうのはたとえが必要なんだよ。一つ一つの世界は船で、そこから落ちると海が広がっている。そして私達は偶然いかだが下にあった。それがここだ」
結局は遭難したってことか。カレーうどんはおいしい。
「ズルズル」
「そしていかだは沢山存在する。いつ誰に作られたか、いつなぜ壊れるかもわからない。船の上のようないかだもあるし、まるでボロボロないかだもある。ちなみにここは、うどん屋を完全再現したいかだだね。信仰を持ったチェーン店のうどん屋が丸ごと何らかの影響で転移し、ここになったとされている。私達はここに始めてきたが、放浪者の間で見聞などは広まっているんだ」
結局ここは何なんだよ。カレーうどんはおいしい。
「ズルズル」
「ここはエリア1111。ここに流れ着いた人間は店の中心に出現し、手元に現れた硬貨でカレーうどんを買って食べ、そこの自動ドアから出ていく。一方通行な放浪者の休憩場所だ」
なるほど。カレーうどんはおいしい。
「ズルズル」
アミラビリスは俺の方を向いて怪訝な表情を見せた。カレーうどんはおいしい。
「なんか気持ち悪いよ少年。ずっとカレーうどんはおいしいって考えてるし、何なら啜る前においしいって思ってるのはやばいって。あと啜るのははしたないからやめなよ」
「啜るのは別にはしたなくないからやめなくていいぞ。ここは日本のうどん屋が元になってるからな。実質日本だ」
なんだその謎理論。
「待て。一旦食うのをやめろ」
鷹山は俺の手を掴んで止め、箸を置かせた。
「君は今、深刻なミーム汚染を受けているんじゃないか?」
まさかそんなわけないじゃないか。
「君は視覚的情報や嗅覚的情報を味と同じように認知するようになっている。これは十分なミーム汚染だ」
そんなことを言っている鷹山の肩をアミラビリスが掴んで、自動ドアの前まで引きずって行った。
「なにするんだよ」
「お客さんだ。相手してやれ」
「そんなわけないだろ。ここのドアは入るためのものじゃない。こっから入るなら現実改変でも……」
ドアが開き、小さな子供が入ってきた。明らかにサイズの合っていない大きな帽子を深く被り、これまたサイズの合っていない防寒着を着ていて、その隙間から出ている金髪くらいしかその人物の体を認識することは出来なかった。
「ここにほんとに破壊者がいるの?」
「私の予知に間違いはない」
似たような服装で紫色の髪だけが違うように見える子供が、また入ってきた。
「まあいいか。どうせ放浪者だ。全部殺すか」
金髪の子が手を振る。何も起きなかった。
「やっぱり。現実改変の対策はしてあるかー。ならこっちをいじろうかな」
金髪の方がまた手を振った。彼の後ろの方に爬虫類の鱗がついた人の手が現れ、こちらへ伸びてきた。
「なるほど」
鷹山が黒いコートを脱ぎ捨てる。脱ぎ捨てた後の彼は、髪がオールバックになっており、白いスーツを着ていた。何のための早着替えなんだそれ。
「ちょっと待ったそこの君たち」
アミラビリスが三人に声を掛ける。いかにも余裕たっぷりといった表情で。
「他のお客さんに迷惑だから場所を変えよう。それにたぶん私がそんなふうに呼ばれてた気がする」
なんかまともなこと言ってる。でも無視されるんじゃないか?
「いいだろう」
金髪の方が言った。いいんだ。
「まってお姉ちゃん。こいつが破壊者かわかんないよ」
紫色の方が鷹山に指を差し、姉に訴えかけた。
「殺してから確認すればいいよ。破壊者は八つ胴落としって文字の付いてる武器を持ってるらしいから」
うわ怖い。でもアミラビリスがどっかにやってくれるのか。
「じゃあ行くよ」
強い光が放たれ、俺は目を瞑った。そして目を開けると周りにはまたもや埼玉スーパーアリーナがあった。ここは観客席らしく、隣にはきょとんとした表情のレイブがいる。俺達は顔を見合わせ、あることに気が付いた。
「「結局巻き込まれてるじゃん!」」
用語の解説が必要な気がするので
エリア
この作品に出てくる異常な空間のこと。発見されると番号が割り振られる。発見された順番とは限らず、語呂でつけられることがある。
エリア5
一話の白い空間。提示された条件を満たすとその先が現れる。
エリア8
二話の太陽のない青空。影を攻撃すると脱出できる。
エリア9
二話の暗い部屋。音声で条件が示されること以外は5と同じ。
エリア✕w
二話の図書館の女の子がいたエリア。ある世界のアカシックレコードの一部が流れ着き意志を持った。元の世界のレベルが低いので脅威ではない。ただし脱出は困難。
エリア3564
埼玉スーパーアリーナとその周りの土地がある。本来は侵入も脱出もできず、誰もいない世界だが、時空を歪ませられるような存在が稀に利用する。三話の時のドラゴンは住み着いていた。
エリア1111
素晴らしいうどん屋さん。
レベル
文明の発展度。
0 現代
1 複数の惑星規模の文明
2 複数の星系規模の文明
3 複数の銀河規模の文明
4 複数の宇宙規模の文明
四、五話の世界。
レベル0
魔王様。
なんかかっこよさげな吸血鬼みたいな種族。月が出てると強くなる。