異世界転生したその日に魔王が死んだ
俺達は買われ、その人に連れていかれることになった。
「まって! 何で私を買わないんだ!」
後ろからアミラビリスの言葉が飛んできた。俺が振り向こうとすると男に目を覆い隠される。
「ああいう手合いに下手に反応するな」
「ひどいじゃないか! いつの間にかそんなにいい衣装を用意してカッコつけてさあ! だいたいいつこの世界に来たかぐらい教えてくれても……」
アミラビリスの言葉は途中で途切れた。俺の目を隠していた手が除けられると、俺達は木造の小さな部屋の中にいた。二つあるガラス窓からは温かな光が差し込んでいて、一つしかないベッドと、床に一つずつ正方形に明るい場所が出来ている。
「よっと」
男はベッドにレイブを降ろして俺の方を向いた。男はアミラビリスほどではないがかなり身長が高く、黒い髪は短髪でセンター分けされている。
「俺の名前は鷹山直也。よろしくな」
鷹山は笑顔でそう言った。日本人だ!初めての!
「俺は龍道真治です」
「僕はレイブ」
「とりあえず魔法を解除しようか」
鷹山は急に神妙な顔つきになって腰に差した剣に手をかける。次の瞬間、俺の体の中でガラスが割れるような音がした。なんかそういう魔法を無効化する剣を持ってるのか。
「よし」
鷹山は剣から手を離し、レイブが横になっているベッドに座った。
「君は普段、どうやって移動したりしているのかな?」
「えっと、脚にジェットがついてて、普段はそれで動いてます……」
なんかレイブの頬赤くないか……?
「今は壊れちゃってるの?」
鷹山は大人が子供によく見せる疲労と愛情の混ざったような微笑みをレイブに向けている。
「うん」
「どこが悪いとか、自分で分かる?」
「スカートの金属がダメになってて、飛べない」
「じゃあ、それを取り替えれば自由に飛べるようになるのかな?」
「うん」
「それだと、当分先の話になりそうだから車椅子が必要になりそうだね」
そういえばものすごく気になることがある。
「ここって、一体どこなんですか?」
「借りた部屋」
「そうじゃなくて、世界的なあれで……」
「あいつに説明されてないのか……」
あいつ……アミラビリスのことか、東洋人……もしかして奇想天外って呼んだ人かな?
そんなことを考えていると、鷹山が俺に向けて地図を広げた。その地図はよくファンタジーものでイメージされるようなものではなく、現代日本の図鑑の裏表紙についているようなカラフルなものだった。
「まず、龍道君の元居た世界をこことしよう」
鷹山は日本を指さした。
「そんで今の世界がこことする」
今度はハワイを指差した。
「君は遭難して、流れ着いたんだ。海を流されている時も泳いだりはできるじゃん? それがあの埼玉スーパーアリーナみたいなところで、そこからこの世界に引っ張られたって感じかな。分かる? 説明苦手でさ……」
うーんどういうことだ? 俺は世界規模の遭難をしたってことか? なんとなく理解はできる……。
「どうしよう。なにか必要なものとかはある?」
必要なものか……ものよりも情報が欲しいな。
「特にないんですけど、ついて行っていいですか?」
「いいよ。レイブ君は一人で大丈夫?」
「僕は大丈夫。むしろ真治の方が心配だよ」
くそ雑魚扱いか?
「そう、良かった。じゃあ行ってくるね」
俺は鷹山に連れられて、町の市場にやってきた。大きな道の両側にタープが張られていて、果物などが売られ、人で溢れかえっている。
「凄い活気ですね」
「この国の首都なんだって」
首都、東京と同じってことか。
「さて、車椅子の材料を探しに行こう」
歩き出した俺達は、すぐに立ち止まることになった。
「魔王軍幹部の襲撃だー!」
丁寧に状況を伝えてくれてありがとう! やっぱり魔王とかが存在する世界なんだな。
「行ってくる!」
声の方向へ鷹山は走り出していた。俺もそれを追いかけて走り始めた。
「はっや」
鷹山は人とは思えないほどに速かった。すぐに人混みの中に突っ込んで俺の視界から消えてしまった。その人混みも蜘蛛の子を散らすようにいなくなった。
歩いてくか。
「魔王軍幹部が一人、このブロブクイーンに剣士のあなたが勝てるかしら?」
ブロブって、どっかで聞いたな。アメリカのホラー映画だっけ。
ブロブフィッシュだとかの言葉が頭を駆け回る中、俺は鷹山の場所へ到着した。
「いやー凄いね君。体を変幻自在に変化させて動かせるとか、かなりすごいと思うよ」
鷹山はポケットに手を入れたまま、赤い半透明の女性に誉め言葉をかけ続けていた。何やってんだ?
「そうでしょう! 私はあなた方人間とは違うのです。恐ろしいでしょう」
あれだけ人が逃げていたしきっととんでもない存在なんだろうな。
「俺だって人間じゃないぞ。それよりも転職してみないか? 君の力はこんなところで消費されていい物じゃない。俺はいい転職先を探せるよ?」
「あなたこそ魔王軍に転職しませんか? 鑑定の結果を見るに幹部には及ばないまでもかなり評価される実力だと思いますよ」
なんでこの人たち転職の話をしてるんだ? 敵同士じゃないのか?
「……一応仕事と待遇を教えてくれない? こっちも養う相手がいるから」
養う相手……。レイブのことか。その辺考えてるんだな。
「仕事は人間の虐殺と奴隷達の管理でしょうか。あなたは強いので城の守りを任せられるかもしれませんが。待遇はいいですよ。我々の統治する地域で使える通貨が何匹か人を養えるくらいにはもらえますよ。獲物を追い回せるだけで十分な娯楽ですが。子供はいいですよ」
ブロブは子供の頭蓋骨を手元に出した。こいつは……最悪だな。
「そうか。君はその仕事を全うしているのかな?」
俺は後ろにいるから表情は見えないが、鷹山が剣を抜いたことは分かった。俺に全くそういう力はないが全身から怒りや殺意がたぎっていることが分かる。まるで、霊感のない人間が強い心霊スポットでひんやりとした風を感じるように。
「おっと? 怒った? でも私には君は勝てませんよ。ステータスもスキルも、鑑定から私以下だとわかりますから」
その言葉を聞いたであろう鷹山は剣を放り投げ、ブロブを殴り飛ばした。十数メートル先に落ちたブロブは不可解というような表情をしている。
「なぜ物理攻撃完全無効化スキル持ちの私にそんな攻撃が……」
そういうスキルシステムとかあるんだ。前の世界みたいだな。
「そんなこと、俺が知るか!」
鷹山は助走をつけて飛び、空中でなにかにぶつかって落ちた。
「馬鹿め! 私が無詠唱で魔法を使えることも知らずに戦いを挑むとは」
口調崩れてませんか?
「無詠唱とはロマンがないな」
鷹山が砂を払って立ち上がりながら言った。
「私は実用主義なんですよ」
「あんたの実用性にロマンを感じないって言ってんだよ。スキルだの無詠唱だの、考えるのがめんどくさくなったみたいな技の使い方しやがって」
なんでロマンを語ってるんだ?
「魑魅魍魎跋扈するこの末法の世界、鷹山直也はここにいる。……爆現!」
その言葉と同時に、埼玉スーパーアリーナで見た装甲が鷹山の正面に現れ、鷹山の方へ平行に移動しする。鷹山と接触すると光が放たれた。光が収まると、そこには装甲を纏ったであろう鷹山が立っていた。
「なんだそれ! 卑怯だろ」
そんな言葉に耳も貸さず、鷹山はブロブを叩きのめし始めた。どちらが悪かわからなくなるほどに。
「ならば……行け! 八魔官」
そう叫んだブロブの周りに大きな魔法陣が現れ、八体の怪物が現れた。八体の怪物は鷹山に襲い掛かった。ブロブは何かぶつくさとつぶやき始めている。
「……深淵よ我に……」
詠唱じゃね? これ。何とかして破棄させた方がいいよな。なんかないか? ある。俺には手から炎を放つスキル「ストライクドラゴン」がある。これを使えばもしかしたら。
「ストライクドラゴン!」
俺は手をブロブの方へ伸ばし、火を放った。それはあっさりと怪物の一体に遮られ、俺はそいつに襲われそうになった。
「危ないな。大丈夫?」
鷹山は怪人を手刀で気絶させ、ブロブの方へ向いた。ブロブの周りには大量の魔法陣が展開されていて、まさに今攻撃が放たれると言わんばかりであった。
「喰らえ、時空間破壊光線!」
ブロブの正面の魔法陣から放たれた放電のような光線を鷹山は胸で受け止め、手で払った。それを見たブロブはまるで世界の終わりのような怯えた表情になり、後ずさりし始めた。
「超転移!」
ブロブの体は光の粒となって消え、同時に鷹山も残像を残して消えた。その直後、鷹山はブロブのいた場所にブロブの首を掴んだ状態で現れた。鷹山はブロブを地面に叩きつけた。
「やっやめろ」
ブロブは、背中から翼を生やして飛び上がった。しかし、翼は塵となって消え、そこそこの高度で落下し始めた。ブロブの周囲に様々な魔法陣が現れながら塵となって消えていく。魔法陣は効果を発揮することがなかったようで、ブロブはそのまま地面に落下した。
電子音と共に鷹山の装甲が現れた際と逆の手順で消えた。
「大丈夫?」
「あっはい」
鷹山はブロブの元へ歩き始めた。ブロブの体は塵となり、上半身のみが残っている。その上半身も少しずつ塵となっていっている。
「私。死ぬの?」
ブロブの表情は、とても嬉しそうだ。何故だ?
「当たり前だ」
「ありがとうね」
そう言い残し、ブロブは塵となって消え去った。強烈な違和感がある。自分の死を望むような言動はさっきまでしていなかった。
「何かが来る……」
鷹山はそう呟き、どこからともなく白鞘の刀を取り出し、それを腰で構える。その直後、鷹山の目の前に三つの人影が現れた。鷹山はその人影に向かって抜刀し、斬りつけた。
「無駄よ」
人影の一つが刀を指でつまんで止めている。それを確認した鷹山は俺の体を抱えて後ろへ飛びのいた。
「逃げ……」
逃げろ、と言おうとしたらしい鷹山は町の方を見て言葉を止めた。町の方では八魔官と呼ばれていた怪物が暴れている。さっきのブロブ騒ぎでほとんどの住民はいないだろうが、レイブはおそらく動けていない。助けに行かないと。
「爆現しろ」
鷹山の言葉とともに、さっきの装甲が俺の目の前に現れ、俺の体に装着された。
「今から君をレイブちゃんの所へ送る。その装甲は無敵だ。守ってくれ」
鷹山がそういうと同時にオーロラのようなものが現れ、それに取り込まれた。
それが晴れると、俺はレイブの寝ている部屋の中にいた。
「僕を助けに来てくれたの?」
レイブはこっちを向いて頬を赤らめる。人違いだ。
「いや。中身は俺」
レイブは冷めた目をした。
「なんだ、じゃあ助けなくてもいいよ。僕固くて強いから」
いやここまでで強い要素あった?
「具体的にどう強いの?」
「溶鉱炉に沈んだ後から右手出してサムズアップできるよ」
とんでもねえ強さ! あれでもそれならなんで落ちたくらいで割れてたんだ?
「足のところは脆いの?」
「そんなことはないと思うんだけどな。本当は宇宙で三番目くらいに固い金属でできてるんだけど……」
すっげえな。なんで壊れたんだよ。
「壊れた理由に一つ心当たりがあるんだ」
「何?」
「アミラビリス……」
なるほど確かにアミラビリスならできる。
「呼んだかい?」
俺の後ろからアミラビリスの声がした。レイブは青ざめた表情をしている。なぜここにいるかを考えても無駄だろう。こいつは明らかな上位存在だ。
「察しがいいじゃないか二人とも」
俺がアミラビリスの方を向いたとき、アミラビリスの体は横に三つに切れ目が入り、オレンジ色の液体をまき散らしながら爆散した。アミラビリスのいた場所の向こう側には壁がなく、大量の切断された家屋の残骸らしきものが転がっていた。
「ひどいじゃないか鷹山さん。もしも私が体を瞬時にみかんにしなければ少年たちにトラウマが残るところだったよ」
みかんの汁が集まり、アミラビリスの形になってアミラビリスが復活した。どういう仕組みだよ。
「少年。そういうことはちゃんと言葉に出しなよ」
そう言ったアミラビリスの目の前に、鷹山が瞬間移動の様に現れて蹴り飛ばした。
「早くその子を連れて逃げてくれ」
正直、逃げた方が危ない気がするな。
「可哀想に。魔王軍とやらは君に何もかも奪われて殺されてしまったのだね」
「彼女たちに多くを奪われた者がいるんだ。憐れんでやるのは違うと思うぞ」
「そうじゃなくてな、ほらスキルとか魔法とかの能力を持ってったじゃん」
「コピーできちゃうガバガバセキュリティが悪いよそれは召喚」
鷹山の周りに骸骨が現れた。二十体くらい。
「ががばばセキュリティ? てか多くない?」
ががばばって懐かしいな。
「行け」
鷹山がアミラビリスの方を指差した。骸骨は彼女の方へ走り出し、光の粒となって消えた。
「新しく能力を手に入れると君はすぐうっきうきで使うよね。私もそうだけど温度差光線」
アミラビリスは右の人差し指を鷹山に向けた。彼女の指から鷹山の方へ白いビームが発射される。
「ナノバリア!」
鷹山はそう言い、左手を突き出して光線を受け止めた。よく見ると鷹山の前に薄く青いガラスのようなバリアが見える。
「焦ると普通に科学を使うのかい?」
「違うさ。血液蘇生」
鷹山がしゃがんで地面に手を突っ込み、地中から紫色の髪の少女を引き出し、光線を防ぐ盾にした。人を盾にするのはどうかと思うな。
「何やってんだよお前」
アミラビリスは右手を降ろして光線を止める。
「そうだぞ。私の魔法を真似るだけでなく魔王たるこの私を盾にするとは……」
鷹山は話している最中の少女をアミラビリスに投げつけた。アミラビリスは少女を優しく受け止め、地面に降ろした。
「しかし、魔王の魔法を使って只の人間が無事であるはずがない。その魔法は復活者を強化できる代わりに血液を消費するぞ」
鷹山はきょとんとした顔で自分の体を見直し、コートの中から機械を取り出して自身の腕に着けた。
「これで問題はないな」
貧血を何とかする機械。売れそうだな。いや割と現代科学でもなんとかなるか。
「あなた。私に協力しなさい」
少女はアミラビリスに言った。
「足手まといだよ」
酷いな。もうちょっとオブラートに包めないのか?
「私のレベルはカンストの100だ。これでも足手まといか?」
「君で100なら俺達は10億か?」
ひっでえいいようだな。
「随分とコケにしてくれるじゃないか。いいだろう。私の真の力を見せてやる」
魔王は両手を真上に掲げた。するとみるみるうちに太陽が沈み、空には満月が浮かんだ。
「時を操る程の魔法すらも無詠唱で扱える。これこそが魔王の力だ」
時間操作。漫画とかでよく見るよな。何で俺驚かないんだろう。
「いい武器にはなるな」
アミラビリスが片手を上げ、振り下ろす。それに連動するように夜空の月がどんどん大きくなり、落下してきた。すげー。
「おいやめろ。関係ない人が巻き込まれるぞ」
「君を始末すれば目撃者はいなくなるからいいんだよ」
俺が目撃者にカウントされてねえな。
「どうせ説得しても無駄だろうから止めといたぞ」
月は、雲よりも上の位置で停止した。そして鷹山は魔王を指差した。
「そういやお前無詠唱がどうのって言ったよな? 俺はそういう奴が嫌いだが、一度だけやってやる。見切ってみろ」
「ルールはよくわからんがいいだろう。私は無敵だ。そんな挑戦が無意味だという事を教えてやろう」
「いくぞ」
鷹山がそう言いった直後、俺の視界から鷹山が消え、魔王が上へと吹っ飛び、鷹山が元の位置に戻った。
「一万メートルは飛んだよ。凄いね。何やったの鷹山」
「クイックタイム」
「うーん知らないな。所で彼女は月に叩きつけられても生きてるみたい。見に行くかい?」
「とりあえず月を元の場所に戻してやれよ」
「いや。その必要はない。月は吹き飛ばされた彼女が全て食いつくしてしまったからね」
確かに月が消滅している。そしてその代わりに黒い怪物が空に浮いている。
「あれ。きっと彼女は月の全てを自身のエネルギーに変換したんだね。彼女はおそらくそういう種族だったらしい」
「なんかさ……でかくね? あそこが一万メートル先として、あれ60メートルはあるよ」
なるほど。でかいんだなあれ。それになんか迫ってきてる。
「じゃあ消すか」
アミラビリスの背中に一対の金属の翼が現れ、それらは浮遊して移動し、空中の怪物の方を向いた。
「私の必殺技を見せてやろう」
彼女は、怪物の方へと手を伸ばした。
「イージスアンシャイン!」
金属の翼が黒い光線を空中の怪物に向かって放った。怪物はここからでもわかるような速度で崩壊を始めている。
「なあ聞くぞアミラビリス。お前のその技って半径数十メートルに時空断裂を引き起こしてほかの世界とつなげるんじゃなかったか?」
「そうだけどそれが何か?」
「俺たち以外に二人巻き込まれるぞ?」
「まあ平気でしょ」
周囲の空間が黒くひび割れ、崩壊していく。それが俺の足元まで広がり、俺は落下した。
「カレーうどん一つ200円か。すごく安いな」
落ちた先は、うどん屋だった。活気のある町のチェーン店くらいの広さがあり、人かどうかはわからないが俺たち以外にも数人の客がいる。鷹山は食券でカレーうどんを頼んで席に座って待っている。レイブは訳も分からず混乱しているようだ。アミラビリスはうなだれている。
俺は食券機の前に立ち、なぜか持っていた200円を入れてカレーうどんのボタンを押した。
カレーうどん




