結局のところ異世界
ドラゴンから逃げ始めて数分。俺たちは地下駐車場にいた。
「少年にはドラゴンを倒せる技みたいなのはあるのかい?」
俺は戦闘関係だと六つの魔法と六つのスキルが使える。だが、屈強な鱗を持つドラゴンに俺の技が効くかはわからない。確かに俺は魔王と戦うときに活躍したけど、それはみんなの補助をしていたからで攻撃用の強い魔法やスキルは持っていない。
「ないのか……」
心を読んで会話するのやめてほしいな。せめて発言したい。
「わかったよ少年」
「ゼロ秒矛盾やめて!?」
この人は俺をからかって楽しんでいるんだな。性格が悪い。
「仕方ない。これを使うしかないか」
そう言ったアミラビリスがどこからか取り出したのは、様々な色の巻物だった。
「なにこれ」
アミラビリスの隣に座っているレイブがそのうちの一つを拾い上げた。
「それは私が友達からもらったお土産。中に物品や事象を閉じ込めて後から解き放つことができるみたい。開けると発動するよ」
アミラビリスがそう言ったとき、レイブは巻物の一つを開けてしまっていた。巻物が光を放ち、辺りをを包み込んだ。光がなくなるとそこには、亀甲縛りで天井に吊るされたレイブの姿があった。天井のどこかに固定されているらしい。
「当たりを引いたね」
レイブを見上げながらアミラビリスが言った。
「どこがだよ!」
レイブは涙目になって怒っている。
「いや、縛られるだけなら当たりだよ。外れを引くと生えたりするからね」
「「何が!?」」
「そりゃあナニが」
うわあ……。男がそれを開けたらどうなるんだ?
「それで、なにか役に立ちそうな巻物はあるんですか?」
「持ってたはずなんだけどな……」
そう言いながらアミラビリスは大量の巻物をあさっている。
「おろして」
吊られているレイブが俺に命令した。安全に降ろす方法がわからない。なにか足場みたいなものがあれば紐をほどいてゆっくりとおろせるんだけれど。これはアミラビリスに訊くしかないか。
「どうやったら降ろせますか? あれ」
「体の前側にある紐を切ってけばいいんだよ。気を付けてね」
アミラビリスの言う通りに、紐を切っていく。レイブの肌や服が切れないように丁寧に。その結果、失敗してレイブは地面へと落ちた。
「痛い」
「ごめんなさい」
「いや。元はといえばあいつのせいだから気にしないで」
それはそうなんだろうけど、落としちゃったのは俺なんだよな。申し訳ない。
「無理だ! 私は友達に頼る! もしもし!」
アミラビリスはそう言い、ガラケーを取り出して電話をし始めた。
「なにあれ化石じゃん」
やっぱりそうだよな。レベル2ってことはたぶん一つの星系の扱いが俺たちの文明での大陸と同じくらいなんだよな。この二人は俺の想像できない範囲の文明圏の存在なんだよな。
「そうそう! たぶんここはエリア3564だと思うんだ。はやく来てほしい。子供もいる」
そう携帯に向かって喋り、アミラビリスは電話をきって携帯をしまった。
……俺の時代でもガラケーって化石だよな? なんで宇宙規模の文明の存在がガラケーを使ってるんだ?
「アミラビリスさんの世界ってどれくらい発達してたんですか?」
アミラビリスはほんの少し考えて、思い立ったように言う。
「君くらいの文明のとこの神に勝てるよ。あと敬語使わなくていいよ」
おっそろしいな……。あれ? でも割と神の力って宗教によってまちまちだよな。どこの神の強さなんだろう。
「どうも」
後ろから男の声がした。
「なんでそれで来たの?」
俺が後ろへ振り向くと、白いベースに青い稲妻のようなラインの入っている装甲を着た? 存在が立っていた。
「さては人の時だと男なのに私に身長で負けるか……」
男はそんな事を言いかけたアミラビリスの首を一瞬で切り落とした。
「ひえっ」
俺は思わず車止めに座っていたレイブの後ろに隠れた。
「か弱い僕を盾にしないでよ!」
俺はレイブの裏拳をくらった。少しの間目の前がチカチカとして、元に戻ると、アミラビリスの頭は饅頭のようになっていた。
「今回は、日本語の言葉。意気地なしについて、解説していくぜ」
解説を始めたアミラビリスを、男は持ち上げて元の体の上に戻した。デフォルメまんじゅうだったアミラビリスの頭が元に戻り、整った顔に戻った。
「この程度で呼ぶなよ。もう切っといたからな。じゃあな」
男の後ろにオーロラのようなものが現れ、男はその中に走っていった。そのオーロラが消えた後、地面と壁と天井に一本の繋がった切れ目が走っていて、そこから物ががずれていることに気が付いた。切られたのか? いつの間に……。
「いやー恐ろしいね」
その切れ目はアミラビリスにも走っていた。そしてアミラビリスの真上の切れ目から赤い液体が滴り落ちた。上にいるドラゴンの血か?
「ともあれこれでクリアだね。出来れば遠くの世界に行けるといいんだが……」
アミラビリスの言葉とともに、俺達は眩い光に包まれた。
光がなくなると、俺達は宮殿のような場所の中にいた。周りには兵士のような人達と、一人だけ豪華な格好をしているおじいさんがいる。
「異界からの勇者よ! この世界を救いたまえ」
テンプレの奴じゃねーか。なんでここまで先のわからない珍妙な世界を冒険してたのになんでこんな一言でテンプレってわかる世界に着いたんだよ!
「意外と楽しんでたんじゃないか少年」
楽しんでたか? まあアミラビリスがいるとほぼレジャーくらいの感覚だよな。
「早速この者らに鑑定をしろ!」
豪華な格好の人が叫んだ。どうせ追放されるんだろうな。
「なにっ? 三人とも勇者のジョブを持っていないだと?」
ああ。やっぱりそんなことだろうと思ったよ。どうせ「お前達は追放だ!」でしょ?
「こいつらを奴隷にして売ってしまえ!」
俺達は魔法の呪印を付けられ、町の奴隷商の檻に放り込まれた。
「もうちょっと値上げしても売れるよ。あと値札のサキュバスってのも修正してほしいな」
アミラビリスは牢屋の中から、奴隷商のおじさんに声を掛ける。
「いや鑑定で出てるから。ほら」
奴隷商のおじさんは鑑定の画面を出してアミラビリスに見せた。
「ほんとだ」
やっぱりそんな気はしてたんだよな……。
「やっているか?」
黒いコートを羽織った男が奴隷商に話しかけた。
「そこの二人を買いたい」
男は、俺とレイブを指差して言った。