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↑かませ扱い

「そこのお前らァ~。私に同情しているな? 私が天使如き……」


 そう言いかけた図書館の女の子の腹部を食い破り、大きな紙魚が出てきた。気持ち悪いな。


「うっつ。うえっ」


 隣にいたレイブがそんな声をひねり出すようにして自分の口に手を当てた。手の隙間からピンク色で蛍光色の液体が垂れて、メイド服に染みを作った。


「大丈夫?」


 俺が聞いた直後、レイブは糸が切れたように地面に落ちた。レイブの足から何かが割れるような音がして、彼女は四つん這いのような姿勢になった。俺はしゃがんでレイブの背中をさする。


「あ、ありがとう。僕、虫、苦手で……」


 そんなにか……。アミラビリスは走り出しているし、俺が守らないと。


「少年! はやく彼女を連れてここから離れろ!」


 アミラビリスは足を止めてこちらへ振り向いて言った。その背中に大きな紙魚が投げつけられる。


「おいおい! 戦いの最中によそ見をするとは舐めているのかァ~?」


 俺はレイブを異世界で鍛えられたパワーによって抱きかかえて、彼らに背を向けて走り出した。自分が抱えているものが何なのかわからなくなるほど重い。体が悲鳴をあげている。だが、何としてもこのレイブを助けないといけない。そうしなきゃ、俺がここにいる意味はない。


 何度か転びそうになりながら、城の外に出た。そこには湿った地面だけが存在する薄暗い奇妙な空間がずっと続いていた。もう驚きもしない。そこで地面にレイブを降ろしてその隣にしゃがんだ。


「僕は今どこにいるんだろう。はじめは地獄からここに来れてむしろよかったと思ったけど、結局はマイナスがマイナスになっただけだった。君もそうでしょ? なんでこんなとこに放り込まれて平気なの?」


レイブが俺に問いかける。そういえばなぜ俺は平気なんだろうか。はじめは頭がおかしくなりそうだったはずだ。最初と何が違う?空間が広いことか? いや待て、違うのは俺なのかもしれない。俺はアミラビリスの植物の奴で意識を失った後から冷静になった。


 なぜ、俺は冷静になれたんだ? もしかしたらあの植物の奴に変な薬品とかが含まれていたのか? そもそも全部アミラビリスが仕組んだって可能性はないか? 彼女の力は本物だ。可能ではあるだろうし、よく考えたらその力以外のすべてが疑わしすぎる。天使の肩書も行動と合致していないように思えるし……だめだ。下手に疑うな。心を読まれたらどうなるか分からん。


「もうばれちゃったよ。少年は勘がいいなあ」


 その言葉に俺の背筋は凍った。生き物の吐息ような生暖かい強い風が後ろから吹き、それによって飛ばされてきた紙が一枚俺の頬に張り付く。


「なんだ?」


 その紙をはがし、俺は後ろへ振り向いた。そこにあったはずの城は大量の紙となって崩れ落ちていた。一体何が起きていて、あの城は何だったんだ?


「しっかりと疑問に思っているね。何が本当で何が噓かはわかっていないだろう。教えてあげようと思ったが、私の言葉は信じてくれなさそうだ。……そうだ。それに聞けばすり合わせはできるよ」


 アミラビリスは指を差した。その先では紙が大量に集まり、図書館の女の子がうずくまっている形を作った。


「なんと呼んでやるべきか……。君の名前は一体なんて言うんだい?」


「私に名前は必要ない……」


「じゃ。いいか」


 結局何が起きたんだ?


「少年は何が知りたい? いや。何もわからないか。ならば私が教えてやろう。この空間や複数の世界の存在が本物であることはそれが保証するとして、まず少年が疑わしいと思っていたのは私のことか」


 そう言ったアミラビリスの背中には金属の羽が生えた。


「私が天使なのは半分本当なんだ。ただし堕天使なんだけど……いや。翻訳に齟齬が生じているな。恐らく君の使っているのは古い型だね」


 アミラビリスは話しながら俺の方へ歩いてきた。逃げるか? 後ろに二人がいる。動けない。俺はその場にへたり込んだ。


「少年は少しは勇気があるんだね。でも大丈夫。翻訳を取り替えるだけだから」


 俺に影響があって翻訳に関係するものだと……異世界転移した時に女神からもらった翻訳能力のことか?


 アミラビリスは俺の頭に手を突っ込んだ。その手はすり抜けるように俺の頭に入り、すぐに出された。不思議と痛みはなかった。


「これで完了っと。ほら少年。私は悪性被信仰高位存在だよ。わかりやすくなってる?」


 前の方が分かりやすかったな。


「そうか。じゃあ私は駄天使だ」


 当然のように心を読んで会話するのやめてくれないかな。そんでわかりやすいけど向こうではどうやって発音しているんだ?


「それは普通にだ・て・ん・しって発音してるよ」


 アミラビリスはそれぞれの発音の形の口をして言った。固有名詞扱いか。


「それで本題だ。私の世界の天使は君の世界のそれとは違う。当然だがな。私の世界の天使は一人につき一つだけ欲望を持つ。信仰者はその天使に会うことでその欲望に折り合いをつける方法を学び、平和な世の中を作る。私はその役割を放棄して放浪してるから堕天使。私がこんなに俗っぽいのは、私の持つ欲が快楽欲だから」


 快楽欲ってなんだ?


「それはだね、快楽を浴びたいという欲だよ。優越感を感じるとか、好きなことをするとか、なんでも含まれる。楽しいならね」


 世界が違うと欲の内容も考え方も違うのか。


「そりゃそうだ。ちなみに力があるのは本当。……あんまり使えないのも本当。かわいい子に興奮するのも本当。君がここに落ちた原因は私。彼女の足が壊れちゃった原因も私」


 アミラビリスが言い終わったタイミングで図書館の女の子が口を開く。


「この世界を作ったのも……」


「私。じゃないよ!? なすりつけないで」


こんな状況でもふざけられるのか。


「もともと私は少しセ……遊んだら返してやるつもりだったんだ。脱出に失敗したのはそれの怒りを買ったからで……それは不当なクリア方法をしたせいだから……つまり、私があの剣を使ってしまったせい……はっ! 全部私のせいだ! ハハハハハッ」


 くそっそう言われると腹が立つ。美人が吐息のかかる距離で言ってくるから許せてしまいそうになるのが更に腹立つ。


「おや? 少年は怒っているな。そして私の美しさもわかっているな? よしよし」


 アミラビリスは俺の頭を撫でた。


「さてここで提案だ少年。君の今後の人生を決めるかもしれない重要な選択をしてもらおう。今、君には二つの選択肢がある。ここであったことは夢だった事にして帰るか、私についてくるか」


 そんなの決まっている。


「俺は帰る!」


 俺は言い切った。なんでもいいから帰りたい! 俺は現代日本で暮らしたい! 平和にあぐらをかきたいんだ。


「ほんとにいいの? ほんとに? こんな美人と放浪できるんだよ? 今なら彼女もつけるからさ!」


 アミラビリスは手を伸ばし、レイブを持ち上げて言った。


「僕を景品みたいに扱うな」


 レイブはアミラビリスに抱えられ、猫なら伸びている体勢になっている。


「でもどうせ帰る場所はないだろ? 君の主人はあの世にいるんだ」


「それなら元の宇宙に返してよ!」


 レイブがなんとかアミラビリスの方を向こうとしながら文句を言う。ごもっともだ。


「やだ。かわいいから手放したくない」


 こいつはそれに頭が支配されているのか。


「それなら僕じゃなくてもいいだろ!? 別のロボからの転身だから膝から下もついてないし、耳だってないんだぞ! そういう目的ならもっといいのが……」


「人の好みにケチをつけるんじゃないよ」


 結局こいつはただの誘拐犯では?


「正解! でもね、ただの誘拐犯と違うところは、私が美しく、強いということだ」


 間違ってないけどそれがなんだよ。


「それが何かだって? 冷静に考えなよ。私の周りにいれば安全なんだぞ。別に私の力があれば家にも帰れるし、君は旅行でも楽しむ気分でいればいいんだ」


 意外と悪いわけではないのか? なんか裏がありそうな気がするけど、とにかくアミラビリスは美人だし。


「そうそう!」


「ふざけるな!」


 後ろにいた女の子が激昂した。


「この私の場所を不正な方法で汚し! あまつさえここで下らない相談を勝手にしている!」


「いやいや、これは少年の今後の進退を決める大切な話なんだぞ?」


「そんなものこいつの考えからしてお前についていくに決まっているだろう! とっとと連れて立ち去れェ!」


 女の子がそう言ったと思ったら、散らばっていた紙が俺たちに集まり、周りを覆った。確かについていく方がいいと思うけど……。


「いやだね!」


 アミラビリスが手を蛇のように変化させてその紙を払いのけると、俺達がいる場所は、スタジアムモードのさいたまスーパーアリーナの北側の観客席の中段だった。ワープさせられたのか?


「詳しいね。少年」


 埼玉生まれ埼玉育ちだったからな。


「そうか。君の地元にこんな場所があるのか。じゃああれらも君の地元のものなのかな?」


 アミラビリスが指を差した先には、黒いドラゴンがいた。しらねえよ。どっちかというと天使がいる世界観の生き物だろあれは。


「私の世界にはいなかったな。というか、あれ、こっち向いていない? ここだと私はそんなに能力使えないみたいだから襲われたらかなりまずいんだけど」


「どうでもいいから持ち方変えて?」


 ずっと猫のようになっていたレイブがアミラビリスに文句を言った。


「分かった」


 アミラビリスがレイブをおぶったところで、ドラゴンが羽ばたき始めた。


「逃げろ!」


 アミラビリスの言葉で、俺達は出口に向かって一斉に走り始めた。

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