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脱出

 ここに来てから二か月が経った。二か月だ。空母の残骸からの物資はかなりあったから、あと数日でトビエイの修復は出来るらしい。


 ここに来て非常に大きな問題が生まれていた。ブレイドさんはこの状況に耐えきれなくなっている。


 レイブは楽しそうに自分を現地改修しているし、俺はそれを見てるのが楽しい。シリーズがでかくなったSF作品の外伝に出てくる開発シーンとか実験シーンとかが嫌いな男はいない。軍人の人たちは言わずもがなだし、ロクやナナは本人たち曰く「自由が楽しい」ということだ。


 二か月の間に俺達の世界が滅びていないことを祈ろう。


「見てみて! ホバークラフトだよ」


 スカートをロングにしたレイブが、地面近くをふわふわと移動している。それを追いかけているロクとナナが微笑ましい。


 トビエイと軍人さん達は艦の修理をしている。


 俺の仕事はブレイドさんの監視だ。今この人は逃げ出し、自害しようとしたところをレイブに見つかって、縛られて俺の目の前にいる。


「縄を解いていただけませんか?」


「駄目です。何をする気ですか?」


「……」


 背中を誰かに叩かれる。振り向くと、金属の棒を構えたレイブがいた。


「見て! ヒートシャフト!」


 うん、見た。


「見てて! 凄いから」


 ナナが大きなコンクリートの破片を持って来て、地面に置いた。それを、赤熱した金属の棒でレイブが叩き切る。


 コンクリートの塊の断面はじゅわじゅわと赤い液体になっている。


「じゃ!」


 レイブたちはまた工作をしに走っていった。ホバークラフトに走るという言葉が合っているのかは分からないが。


「あなた達は、なぜ希望を持っていられるんですか? こんな何もわからない状況で。いつ自分の世界が消滅するかもわからないのですよ」


 ブレイドさんの言う通りだ。俺は何故希望を持っていられるのだろうか。

 単純に、世界を滅ぼせるような存在に俺が挑んだところでどうにかなるわけじゃないからか。ただ世界の滅びを見ることになるだけだ。それに、ここから抜け出さなければ世界がどうなったかはわからない。

 

 そうだ。これを言えばいいんだ。


「俺達は何も分かりません。世界が滅びたかも分からないんです。せめてここから脱出するまで希望を持ちませんか?」


「そうね……ありがとう。希望を持ってみようと思えた」


 ほんとかな……。人を信じないのは良くないよな。


「じゃあ、縄は解きますよ」


「ありがとう」

 

 ブレイドさんを拘束していた縄をほどく。すると、彼女が少し元気を取り戻したことを確認したレイブがやってきて、ブレイドさんを連れて行ってしまった。


 まあ、大丈夫か。


 俺はまた、トビエイの修理の手伝いをしよう。


「手伝いますよ」


 トビエイの方へ駆け寄ると、相変わらずなんの作業をしているかわからなかった。


「じゃあ、この発信機の発電機回してて」


 取っ手のついた大きな金属の箱を渡され、言われるがままに取っ手をもって回す。


「ねえ、私の昔の話、聞いてくれない?」


「気にせず話してください」


「私は成長型のAIで、お姉ちゃんが六人と妹が一人いたんだ。鷹山さんは正規の軍人になる前、私たちの先生だったんだ。私たちは成長して、艦の制御システムになった。今はもう、四人が沈んで、二人が行方不明になった。残った妹は救命艦に改装された。もしも、行方不明になったお姉ちゃんの救難信号を受け取ったら私は間違いなくそこに行ってしまう。止めてね。あと敬語やめて。私も先生みたいな気分になるから」


「どうやって?」


「龍になってだけど?」


「わかった。任せて」


 力技かあ……。その時が来たら頑張らないとな。


 数日後、修理が終わったトビエイに俺達は乗っていた。船体が飛び上がり、空中で加速して、ワープする。


 やがて船外の景色がただの宇宙の光景に変わった。戻って来れたのか?


 しかし、一つおかしな所があった。宇宙に、絵の具をぶちまけたような星が浮かんでいる。


「トビエイさん、あの星に近づかないように気をつけてくれ」


 ノープさんがトビエイに忠告する。


「なんで?」


 レイブが言葉に疑問で返した。


「あそこは、やばい芸術家集団が住んでてな。つい最近俺達の世界守備連合から離反したばかりだが、世界守備連合は手を出せてない。近づいた船はもれなくアートの一部にされるとか言われてるんだ」


「おいノープ。あまり子供を怖がらせるものじゃない。とはいえ、奴らが危険なのは確かだ。この場からは離れよう」


 ガジャさんがトビエイに提案をした。


「もうやってる」


 トビエイの言葉とは逆に、船体はどんどん星の方へと吸い寄せられていく。


「全員近くの物に掴まれ!」


 ガジャさんがそう叫び、俺達は机だとか梯子だとかに掴まる。カラフルな地面が迫り、船内に衝撃が走る。


 誰かの悲鳴が聞こえる。この船の中からではない。この星のどこかから。


 俺は、艦橋へ梯子を登った。艦橋の窓には、カラフルな大地が一面に広がっている。そこに、金属の棒がぽつりと立っている。地面から軍服が生えてくるようにして三角柱を案山子のようにした。


 なんとなくそんな気はしていたが、やっぱり俺達を襲ったやつじゃないか。


「あいつっ! 僕を痛めつけた奴だ! 殺す!」


 レイブが艦橋の窓をぶち破って飛び出して行った。その一瞬で長くなったスカートの中が見えた。イオンエンジンのようなノズルが見えただけだった。


 割れた窓から冷気が吹き込む。俺が艦橋から飛び出すと、やはりルリム・シャイコースのような者が居た。


 ラッキー! こいつなら絶対アミラビリスの居場所しってるなぁ!


「龍なんて初めての相手だな」


「こっちも古きもののパチモンと戦うのは初めてだよ」

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