呉越同舟
俺は、傾いた街の中を見回した。アミラビリスのおかげで、知らない言語のはずなのに店の看板が読める。呉服屋、携帯ショップ、ファミレス。レイブはロクとナナを掴んですごいスピードで飛んで行ってしまったし、何かいいものを見つけないとな。
「キャー!」
トビエイの方で叫び声が響いた。俺はすぐにそちらへ駆けつけた。トビエイの艦内に大人の人間ほどの体積の黒いねばついた化け物がいるのが見えた。それによって逃げ場なく追い詰められているトビエイとブレイドさんの姿も見える。
俺は、瓦礫を化け物の方へ投げつけた。
「こっちだ! 化け物!」
瓦礫の音と俺の声に反応してか、化け物がこちらにはいずり出てくる。あいつが何かは分からないが、トビエイ達を襲っている。倒さなければ。どうすればいい? 龍の力の一部は人の姿でも使える。熱して、ぶっ飛ばしてやる。
「そうだ。こっちに来い!」
化け物は素早く俺の前にやってきて広がる。今だ! 全身に力を入れて、俺を包み込もうとする化け物を熱した。
水分を含んだものが焼ける音と共に化け物が俺の体から離れ、地面に落ちる。そのままそれは塩をかけたナメクジのように小さくなっていった。
やった。でもなんだかトビエイとブレイドさんは顔を赤くしている。
なんとなく下を向くと、そこには焦げ落ちた俺の服があった。俺、今、全裸だ。
「「「……」」」
「「「ギャー!」」」
「ちょっとレイブ? 服さがしてきて服。真治が着れるやつ」
しばらくの大慌ての後、俺は寒い中放置されることになった。そして、やってきたレイブは俺に、メイド服を投げた。
「他になかったの?」
「僕、これ以外の服知らないから」
「うん、わかった」
それなら仕方がない。俺はメイド服を着た。
「なんか見つかった?」
トビエイがレイブに聞く。
「街がずっと続いてるだけだった。人も誰も居なかったよ」
「じゃあ、やっぱり私を修理してワープするしかないか」
なるほど、それで脱出できるのか。
「でも、町中にある物をつかうと何年もかかるんじゃないの? 私の現実改変も複雑なものは出せないし」
「せめてもっと物資があれば……」
大変だな。それに急にワープした理由もわからない。もし、他の船が同じようにワープしてきたら大惨事だ。
この前の星で見た敵の宇宙空母が、空に現れ、艦載機を吐き出しながら遠くへ落ちていく。しかし、たった二機のみが空を飛び、ほかの機体はぶつかったりエンジンから火を吹いたりして落ちていった。
「大惨事だあ」
俺はそう言うしかなかった。しかし、発進した航空機がこちらに向かってくる。どうするか迷っている内に、二機の航空機のパイロットは脱出して、パラシュートを開いた。
「我々に攻撃の意志はない!」
パイロットの一人がそう叫ぶ。こんなことを言われた以上、降りてくる彼らを迎撃するわけにはいかなかった。
「俺はナナグトト公国軍のガジャ・ニー大尉。見たところ我々と同じように迷い込んだようだ。脱出するまで協力しよう」
断る理由はないけどこの人、なんで母艦が沈んでこんなに冷静で居られるんだ?
「そうしよう」
トビエイが応えた。
パイロットスーツのせいで見分けがつかないなこの人達。
「……同じくノープ・シュンラン少尉。よろしく」
俺達は、まさに呉越同舟という状況になったみたいだ。