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称えるべき偉業。喜べぬ心情。

「貴様ら、何の用だ」

 転移者がつい最近建国し、すでにピピルアの中でも三番目の領土を持ち、最も経済力のあるトレイド王国。その国の領土がどこまでかを示す簡易的な有刺鉄線と、防具を付けた一人の赤髪赤目の女騎士。そいつが、トレイドの議会に行きたがっているレイブ、ロク、ナナ、真治に対して怒っている。

「世界守備連合がすでに攻撃を仕掛けてきているんです」

「またそれか……いいか? トレイドは防衛のための充分な戦力を保有しているんだ。なぜ貴様らの指示に従わねばならん! それに、貴様らは所詮一兵卒だろう? 交渉がしたいのなら外交官を呼べ」

 女騎士は、四人を入れるつもりは一切ないという怒りの表情を四人に向けている。それに、真治は食って掛かる。

「あんたの所の国王は、地球ってとこから来た奴なんだろ? そいつなら分かるはずだ。星規模の文明の恐ろしさが! 俺は来たばっかだけどこの星が好きだ。故郷と似ているんだ。こんな星を無くさせたくない」

 星間文明も、ファンタジーな王国も彼にとってつい最近まで創作だったもの。比べるべきではないものだと分かっているのだ。そして、様々な存在の生命が懸かっているからこそ、必死になっている。

「通してくれ」

「駄目だ!」

 押し問答となっている二人を傍目に、レイブとトビエイの通信が始まる。

「もうすでに亜光速ミサイルが近づいている。あと三時間で着弾するよ。帰ってこい」

「でも、僕たちが逃げたらこの星の人に何も伝えられない……」

 ミサイルに対して同航戦を仕掛け、全砲門での斉射をするも、そのレーザーは、弾頭の向きを数度ずらすことしか出来ていない。その火力不足を見て、トビエイは残酷な判断を下す。

「知るか。 そんな奴らが死んだところで私たちは困らない。……」

 トビエイはトレイドの上空に転移し、ゆったりと真治達のいる領土の境界に向けて飛び始める。世界守備連合の艦船だと誤認したトレイドの兵から、空中も地上も関係ないような火力に見える攻撃が浴びせられ、ズダエッテ防壁の発展形のズダグラム防壁に無力化される。

「攻撃を辞めさせろ!」

 国の王の少女の鶴の一声でぴたりと攻撃が止む。黒い目に黒い髪の少女は、赤い輝きを周囲に出して精一杯、上空のトビエイにその存在を伝える。

「船の主よ。部下が酷い粗相をしましたが、どうか話し合いの場を設けていただけないでしょうか。我々にあなた方と争う理由はないです。世界の裏側の国と違い、来るものに全て攻撃を加えるような粗相は行いません」

 テレパシーのような力で、王はトビエイに語りかける。それに応えるようにトビエイは高度を落としていき、地面から十数メートルの高さで静止してマイクの機能を使用した。

「分かりました。正式に同盟などを結ぶ権限は私たちにはありません。本国からの使節が到着するまでにこの国がなくなってはいけませんから、その間は協力しましょう。もしも可能であれば、この国の領海に着水の許可を頂けないでしょうか」

「陸から20海里がこの国の領海となっています。どうぞ着水を……」

「ありがとうございます」

 トビエイが着水し、十数分後には眺め以外の全てが快適ではない艦橋でトビエイと王が正式に話し合いを始めるのだ。

「そういえば、レイブ達はどうしたんですか?」

「あの少年少女は街を散歩しています。ところで、あなたの後ろの倒れている白い髪の女性は大丈夫なのですか?」

「船酔いです」

 街を見ている真治の目に僅かな涙が浮かぶ。滅びうる場所にいる彼の脳裏には僅かな人生の記憶が浮かんでいた。

 真治の前で、兄弟らしき少年二人が、父親にパンを買って貰っている。

 家族とショッピングモールに行き、「なにか一つ好きな本を買おう」と休日しか家にいない父に言われてはしゃぎ、妹と一緒に笑いながら、花の図鑑と星の図鑑を持って父に駆け寄る。そんな家族との幸せな日々。その家族から転移で無理やり引き離されるも、クラスメートを心の支えにして何とかやってきた。

 それもまた、世界が滅びるのを止めるためという理由で、戻れたはずの日常を失う。

 そして、そんな真治に関係なく時間は進んでいくのだ。

「あなた方に非はない。ただ、この星の他の国が交渉に来た守備連合の非武装艦に攻撃を行い、その結果星全体に奴らは敵対した」

「やはりガフォルゴ帝国国境付近で戦闘があったことはそちらも認識しているようですね。しかし、我々はどうしたら……」

「大丈夫です。我々がお守りします」

 トビエイは自信に満ちた笑みで答えた。話し合いが終わり、真治達を回収して大気圏外へと飛び去った後も表情はそのままだった。

「ほんとに何もしなくていいんですか?」

 トビエイの様子に不安になった真治が、彼女に質問をした。

「いいんだよ。あのミサイルはもう数度向きがずれている。そのまま落ちると、丁度トレイドの反対の位置に落ちる。そこらへんの国は滅びるが、トレイドは無事だ」

 彼らに友好的な国家ではないが大量の命が失われる。それを淡々と言った。

「そんな。見捨てられません!」

 真治は憤慨し、エアロック室に入って宇宙服を着た。

「どうせお前は爆発じゃしなない。好きにしろ」

「わかったよ」

 宇宙に飛び出した真治は龍になり、トレイドの裏側へ飛び始めた。

「ねえ、本当に助けに行かないの?」

 レイブがトビエイに問う。

「なんで助けるの? あいつらを見捨てたら私の機関に負担をかけずにトレイドを助けられるんだから。……いざという時に転移できなくて困るのは誰?」

「……わかった」

 大気圏内にミサイルが突入する寸前に、真治はミサイルの目の前に到着した。

「止めてやる……止めてやるさ…………相手がいるわけじゃないが叫ばせてもらう! 俺はずっと実感なんてなかったんだ! でも、これは誰かの日常だ! 守らなきゃいけないんだ!」

 真治は、全力で体当たりを敢行した。唐突で巨大な衝撃によりミサイルは直径十数キロメートルの火球となり、地上で起きれば大陸を焦土にするであろう爆発を起こす。爆発の中で、真治はそのエネルギーを受け取って巨大化していった。


 少し遅れて、地上を宇宙からの爆炎が襲う。いくつかの街が跡形もなく吹き飛ぶ。破片が大陸中に降り注ぐ。しかしそれは紛れもなく本来よりも小さな被害であった。

 

 爆発が晴れ、数キロメートルにも巨大化した龍は、溶けた地面の赤い斑点を見て、悲鳴をあげた。

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