美少女ロボ。ロボ? ロボでいいの?
「鎖骨の下に書いてある製造番号ですか……」
見るからに高級なホテルの高層階。広い部屋。でかいベッド。やたらと多いルームサービスのパンフレットが全部机から下ろされて、出来た場所にレイブが寝かされている。部屋の鍵も備え付けられた電話も使い方が分からないほどハイテクだ。
「レイブお姉ちゃんを助けて……」
鷹山さんに泣きつくロクとナナ。何か俺にしてやれることはないのか?
「確認したんですけどSPと書いてあって……えっ特注品だから市販の部品じゃどうにもならないってそんな……はい。はい」
鷹山さんが電話を切って携帯を床に投げようとして躊躇い、ポケットにしまった。
「真二くん。ロクちゃん達と遊んでいてくれ。俺はレイブちゃんの事をなんとかする」
鷹山さんはそう言って机に向かった。
「直也さん。レイブお姉ちゃんは……」
「二人を止めといて!」
俺は鷹山さんの方へ走りだすロクとナナを両手で捕まえた。
「待って。本当に待って」
たぶんこれにはレイブの命が掛かっている。この子たちはきっと利用されてただけの子供なんだ。なぜ今近づいてはダメなのかも分からないんだ。
「ほんとに止めといてくれよ!」
鷹山さん!?
「わかりました!」
十数分後、俺の目の前でロクとナナはボードゲームで遊んでいた。そしてレイブは、勝手に機能を追加した鷹山さんに対して全力で連続の蹴りを浴びせている。
「足がないことが! 僕の! アイデンティティだったんだよ!」
「ちゃんと外れるから!」
必死に謎のバリアでレイブの猛攻を防いでいた御堂が叫んだ。レイブは足を止め、右太ももの辺りをいじり始める。
「これかあ」
レイブの太ももに切れ目が入り、そこから右の足が外れた。続いて左の足も外す。レイブは静かに姿勢を保って浮き始めた。
「あと、なんか物騒な機能が増えてるんだけど……波紋重力シード? 小型対人ミサイル? スマニウムフレア……金属バルーンチャフ……量子ビーム……ビームネイルカノン……現実保護バリア……ズダエッテ防壁……僕をどうしたいの? これ軍艦に着けるような装備だよ?」
うわ知らねえ言葉がガンガン出てくる。まあでも元気そうだしいいか……。
「死んでほしくない。君のような少女に」
鷹山さんは、捨てられたペットを見ているような目をして言った。
「ともかく。俺はアミラビリスを助けに行かなければならない」
そんな話を鷹山さんが始める。そうだよな。早く助けに行かないと……。
「助けに行くよって人」
鷹山さんが右手を上げる。俺も右手を上げた。ロクとナナも手を上げている。レイブは少しためらった後に小さく手を上げた。
「よし。まず状況を説明しよう。どっちみち世界守備連合が原因だから潰すが、アミラビリスをさらったのはそいつらじゃない。あの配線のガキどもは雇われただけの壊れかけを愛する異常者の集団だ。ずっと前から彼女に目を付けていたらしい。半殺しにして弄ぶために」
そんで俺は助けに行くために何をすればいいんだろうか。
「俺たちは何をすればいいんですか?」
「鍛えろ」
は?
「まず真二くんは、龍の力を持っている。鍛えていけば伸びるはずだ。レイブちゃんには装備を使いこなせるようになってもらう。そんで二人は、体力を付けよう。場所はある」
鷹山さんの刀がひとりでに動いて空間を切り裂く。空間の切れ目の向こう側には青い海と砂浜が広がっている。綺麗だな。
「俺はチェックアウトしてくるから、先に砂浜に行っててくれ」
どこまでも続く海。どこまでも続く砂浜。真上に位置する太陽。地球上を探せばあるんだろうが人生で一度も見たことのない光景だ。ロクとナナは楽しそうに砂で遊んでいるし、レイブはそれを眺めて嬉しそうにしている。ここにアミラビリスも居たらな。まだ少しの間の付き合いだけど、どうせこれから世界を守るために四苦八苦するんだろうな。わけのわからない世界もたくさんあるだろうか。きっと1984みたいな世界とかデイアフタートゥモローみたいな世界も……考え事をしているとなんだか眠くなってきたな。俺は砂の上に寝そべって目を閉じた。
まあ5分くらい寝よう。
「おい。おい起きろ」
眠っていた時間は体感としては一瞬だが、鷹山さんに体を揺さぶられて目を覚ました。太陽がまぶしい。本当に一瞬だったようだ。
体を起こすと、空中を飛び回るレイブや、砂浜を駆け回るロクとナナ、そして海を眺めながら体育座りをしているブレイドさんだ。
「……エリック?」
「ブレイドです」
「ちょっと真二くんと戦ってあげて」
「わかりました」
ブレイドさんは刀を抜いてすぐさま俺の方へ切りかかって来た。俺はすぐに剣を抜いてその斬撃を受け止めようとすると、刀によって俺の剣はあっさりと切られてしまう。やば、これ死んだ……。刀の当たった胸の辺りが異常に熱くなったように感じる。その熱はあっという間に全身を包み込み、思わず目を閉じた。
目を開けると、目の前にブレイドさんと鷹山さんがいるが、なんだか視点が高い。俺、でかくなってるのか?手を伸ばしてみるが、視界に自分の手は映らない。それに体の感覚もなんだか変だ。
「体が龍になってるんだよ」
その言葉を受け取って、俺は思わず飛び上がった。普通にジャンプした時の足の感覚もなく、落ちることもない。下を向くと長く伸びた赤い自分の体と豆粒のように見える鷹山さん達。日本一高いって聞いたジェットコースターに乗った時もこんな高さだったから俺は今100mくらいかな。
「その体に慣れてもらうために相手を用意した」
水中から大きな音とともになんというか……アニメで見るような宇宙戦艦? のような物が現れた。大量の砲塔と、ミサイルを発射するためらしい穴。どう飛んでいるかも分からない滑らかな上昇をしている。
海上に移動して横から見ると俺の全長よりも大きそうだ。
「よし。シロワニ型航宙巡洋艦トビエイとちょっと戦ってみてくれないか?」
当然のようにトビエイの砲門は俺の方を向き始める。
「AI制御だ。手加減はするようにやっといたからがんばれ」
トビエイの砲門からレーザーが放たれて回避する間もなく俺の体に着弾する。痛みに身構えるが、ふしぎと痛くも痒くもない。ほんのり温かい感覚があるだけだ。
「ちょっと待った!」
鷹山さんが大声で叫ぶ。いや俺はなにもやってないけど……。いや、トビエイの砲門が前を向いている。あっちを制止したんだな。
俺も人の姿に戻るか……戻れるのか? 服とか大丈夫なのか?
目を閉じて、元に戻れと念じる。本当に戻れるかは分からないけど……。手足の感覚が戻り、全身に風を感じる。風を感じる?
目を見開き、凄い速度で変化していく情景が目に入り、落ちている事がわかる。背中に強い衝撃が走って落ちるのが止まる。しかし沈まない。俺はトビエイに受け止められていたのだった。
「大丈夫ですか?」
長く、山吹色をした髪で黒い瞳、もふもふとした防寒着を着た少女が俺の顔を覗き込んでいる。誰だろう。
「大丈夫でないと困るんですよ」
そのままその子に顔を踏みつけられる。やめてほしい。というかこいつは誰なんだ?俺はすぐさま起き上がってそれを言葉にする。
「誰なんだあんた一体」
少女は自慢げな顔をする。
「私はトビエイ本人よ!」
なんかそういうのが一時期流行ったよな。パクリか?
「最近流行ったスマホゲーで見ましたよそれ」
「別にいいでしょ。ア〇〇〇〇〇ンも許されてたんだから」
なんかそういうことに言及するのは良くない気がするな。いや、良くないな。
「大体そんなスマホゲーなんて21世紀の物を引き合いに出さないでよ」
どういうこと? この人は未来の地球の人なのかな。船か。
「とりあえず収縮衝撃熱線が効いてなかったから、熱を吸収できるみたいだな」
うわ、また唐突に現れたよ鷹山さん。全く気付かなかった。こわ〜。
「生身でも平気?」
トビエイがライターを取り出して火を点け、俺の方へ差し出してくる。その炎に恐る恐る俺は指先で触れる。人差し指にほんのり温かい感触がある。
「熱くないです。これ、何度ですか?」
ライターだから普通の温度だろうな、たしか中学の理科で習ったのは1000度が最大だったような。それでもすごいよな。
「これは今えっと、1万度くらいだよ。すごいね」
太陽の表面が6000度とかだから、それくらいは平気ってことか。龍の力はすごいな。
空を見上げると、眩しい太陽が目に映る。あれに触れることも出来るんだろうか。
「あと3日で、世界守備連合が侵入したサンシュウ宇宙団でおそらく戦闘が始まる。それまでにその龍の力を自由に使えるようにしてくれ」
なんだか随分と規模が大きくなるな。でも、世界が懸かっているから頑張らないと。