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残念!魔王を倒しても帰れませんでした!

 俺の名前は龍道真治(たつみちしんじ)こんな苗字だが、電撃稲妻熱風をどうこうしたりできるわけではないし、こんな名前だが戦わなければ生き残れないわけではなかった。それでも日本文化が好きで、そういう大学や就職先を考えていたのだが、異世界転生した。


 クラス転移が起きて、みんなはレベルが楽に上がるチート能力を貰ったが、俺だけは貰えず、ずっとゼロのままだった。それでも魔法やなんかを必死に覚えたりしてレベル80に近い力を手に入れ、レベル90という高レベルな魔王を倒すのに貢献し、元の世界に帰ることができたはずだった。


 すぐに見慣れた教室の光景が目に入ると考えたのだが、俺の目の前にあったのは、真っ白い壁と、白い丸テーブルと、三つの白い丸椅子だった。

 思わず後ずさりすると、背中が何かにぶつかった。手を後ろに回すと手に伝わるひんやりとした感覚と、握りやすい形状から、それがドアノブで、後ろにあるものはドアだと分かった。


 俺はこの状況からいち早く逃げ出すべく、後ろのドアを開けて外へと足を踏み出そうとした。もっとも、そこに踏み出せる地面はなく、ただただ暗い太虚が広がっているだけだった。


「うわあああ!」


 ある程度冷静に思案できていた俺も、この光景をみて絶叫せずにはいられなかった。たった今俺はこの場所から死刑を宣告され、それは今まさに執行中なのだ。そんな考えが頭を駆け巡り、俺はこの場に頭を抱えてうずくまった。


「おいおいどうしたんだあ? 少年」


 俺の上から女の人の声が聞こえた。さっきまで誰もいなかったはずなのに。同じようにここに飛ばされた人がいるのか……。でも人がいたところで発狂するのが遅くなるだけだ。上を向く必要はない。


「そこにいると危ないぞっと」


 俺は服をつままれて持ち上げられ、同時に扉が閉まる音が鳴った。


「もしかして少年。始めてか?」


 その人はまるで何度もこのような状況になったことがあるような口ぶりで言った。俺は思わず顔を上げてその人を見た。

 彼女は、整った顔立ちと、猫のような細長い瞳孔の薄水色な目、そして腰まで伸びている紺青と言うべきのような気がする深い色の髪、そして何より身長がすごく大きかった。


「なにじろじろ見てるんだ?もしかしておねーさんに一目惚れしちゃったか?いや……もしかしてすでに正気を失っているのか?」


 正気を失っている? まさかそんなわけがない。俺は至極冷静に考えて諦めたんだ。もう解決策なんてないに決まってる。


「正気だよ。もうどうしようもないのがわかるくらいには」


「やっぱダメそうだな」


 そう言った女の人の手が植物のように変化し、俺に向かって伸びてきてたちまち俺を包み込んだ。


「おやすみ。急にこんなところに放り込まれてつらかったよな」


 その声とともに俺は液体に包まれ、意識を失った。


 目を覚ますと俺は椅子に座っていて、左の前の椅子に女の人が座っている。不思議と俺の精神は安定していて、何とも言えない安心感に包まれていた。それと同時に今まで気になっていなかった疑問がどっと湧いてきた。


「おはよう。落ち着いたかい?」


 目の前の女の人は頬杖をついて俺に話しかける。


「ま……」


「悪いけど質問は後にしてくれ。まず自己紹介だ。それでわかることも多々あるだろ?」


 俺の言葉を遮り、女の人が話し始めた。


「私の名前はウェルウィッチ・アミラビリス。本名ではない。自由に呼んでくれ、と言いたいところだが、この前東洋人に奇想天外とあだ名をつけられたからアミラビリスと呼んで欲しい。スペース12出身の天使だ」


 いろいろ気になるな。スペース12は地名だとして、天使?俺の知ってる天使は神の仲間だが……俺の知っている天使にアミラビリスという名前の存在はいない。


「少年はレベル0か1だろう?普通そのレベルじゃここに来ないよな?……よし。おねーさんがここについて教えてやろう」


 うわ何も言ってないのにガンガン話してくる。今はありがたいな。


「少年と私がいるここは世界の谷と呼ばれるところだ。世界から世界に移動する際に稀に落ちることがある。そんでおかしな事象が良く起こるから早急に脱出すべきとされている。放浪するようなのも稀にいるけどね。私みたいな」


 なるほど。つまり俺は帰るのに失敗したのか。しかし脱出はできるようだ。


「ちなみにあなたはレベルいくつなんですか?」


「4だ」


「え?」


「4」


 れべるよん?4って低くないかな。4で放浪できるような所なら簡単に脱出できるんじゃないか?もしかしてここから上にジャンプすれば何とかなるとか。


「どうやってここから出るんですか? 真上に跳ぶとか?」


「知らないよ。ここ初めてだもん」


 どこからか取り出したかも分からない桑を食べながら余裕そうにアミラビリスは言った。ほんとにどっから出したんだろうか。というかなんでだよ! 放浪してるんじゃないのかよ! どうするんだよ……。


「どうやって……」


 訊ねようとした俺はアミラビリスがスマホを取り出して操作し、自身の耳に当てたので黙ることにした。


「もしもしー?」


 この人はどういう文明の存在なんだ? 服は……天使どころか放浪者にも見えないな。ダボダボのズボンに朱殷色のウインドブレーカーってコンビニの現代人じゃん。


「しっろい部屋でさー。心当たりある?……あるのね!サンキュー。……ごめんね家族団欒の邪魔しちゃって」


 アミラビリスは電話を切った。


「出方が分かったよ。ここは人数が揃うと条件が出てきて、それを達成すると扉の向こうが出てくるみたいだ」


 何だかゲームみたいだな。椅子の数からあと三人揃えばいいってことか。……どうやって揃えるんだ?


「ということでもう一人カモン!」


 アミラビリスの言葉とともに天井をすり抜けて女の子が落下した。その子はアニメでよく見るメイド服を着ていて、黒いショートヘアというそこまで特徴のな……ある! 足がねえよこの人! それに耳の代わりに斜め後ろ上に鋭く伸びたパーツがついてるよ!ロボットじゃん!


「あれ? ご主人様は?」


 突然変な状況に放り込まれたメイドは辺りを見渡している。


「死んだんじゃない?」


 とんでもない言葉をアミラビリスはメイドに放った。デリカシーをどこへやったこいつ。


「やった! 地獄で過ごした意味があった!」


 そう言ってメイドは部屋を飛び回った。こいつもこいつでやばい奴だったっぽい……。


「ほら人数揃ったよ!とっとと条件出せ!」


 アミラビリスはそう言いながら扉を蹴った。扉は吹っ飛び、その先には道があった。気がつくと机の上に文字が現れていた。そこには「この部屋を出るには人を一人にしろ」と書かれていた。ロボと天使を人数にカウントするのに、人間が一人ならオッケーなんだ。ガバガバじゃん。


「そういえば君はどこの誰?」


 アミラビリスはホバリングしているメイドに訊ねた。


「僕はレベル2、スペース7862の出身の特注人型ロボット。名前はレイブ」


「性別は?」


「どーっちだろうね。確認してみないとわかんないよ。シュレディンガッ……」


 アミラビリスは蔦を出して、飛び回るレイブを捕まえ、スカートの中に頭を突っ込んだ。


「へー。太ももはあるんだ。このスパッツどう洗ってるの?いい匂いするんだけど」


 うわ。この人野生の変態だった。俺は一体何を見せられててどうすればいいんだ?


「やめろ! やめて! 嗅がないで!」


 俺は逃げることにした。


「待って下さい! 待って! 助けて! ムカデ人間になっちゃう!」


 やっぱ助けようかな。


「僕そんなに君に悪いことした? してないよね? 助けてよ!」


 俺は助走を付けてアミラビリスを蹴り飛ばした。アミラビリスは吹っ飛び、壁をぶち抜いて落ちていった。


「何やってんだ俺!」


「何やってんだお前!」


 どうしよう。飛翔魔法で助けに行けるかな。


「ただいまー」


 当然のように翼を生やしたアミラビリスが床をぶち抜いて戻って来た。一体どういうことだ。


「私は天使だからこの程度は大きな問題ではないよ」


 あれ? ほとんどの魔法はレベルを上げなくても使えるけど、その分強力な魔法の使用レベルは決まっていて、体を別のものに変化させる変形魔法の使用レベルは最低でも95じゃなかったか? 確かこの人のレベルは4だったな。なぜ使えているんだろう。


「すいません。失礼ですけど、なぜ変形魔法が使えるんですか? レベルそんなに高くないですよね」


「これは魔法じゃないぞ。なんてったっておねーさんは天使だから翼くらい生やせるのさ! それに魔法をなんてよく使うのはレベル1くらいまでだろ?」


 おかしい……。まるでレベルの概念が違うように感じる。出身と同時に言ってたのも気になるし。


「レベルって何の単位なんですか?」


「文明の発展具合」


 うわまじか。どういう基準何だろう。


「レベル1ってどんくらいですか?」


「カルダシェフスケールのタイプ1と同じくらい。というかカルダシェフスケールのタイプいくつとかとと同じだよ。そこが元になったいわばスラングだからね」


 まじかよ。数千年とか先の文明の人たちかよ。スラングとかあるんだ。


「ちなみに君のレベルはいくつなの?」


「0」


「原始人じゃん」


 レイブが空中で大笑いする。


 待てよ? カルダシェフスケールって3までじゃなかったか? 4ってなんだよ。


「レベル4ってどれくらいなんですか?」


「宇宙を制御するくらいの文明だよ。そんなことも知らないの君」


 またもやレイブが笑う。


「それで、あの扉は開けるべきかね」


 アミラビリスが道の先にある扉を指さした。開けなきゃどうにもできないよな。


「僕は開けるべきだと思う」


「俺もそう思います」


「じゃあ行って来るね!」


 その言葉とともに走り出したアミラビリスは扉をドロップキックで蹴とばし、その向こうへ入った。


「安全そうだね」


 様子を見ていたレイブが俺の服の裾を掴んで部屋の中に向かって飛び始めた。


「うわえっ?」


 部屋に入った途端に俺は空中に放り出され、床を転がって何かに頭をぶつけた。立ち上がって周りを見渡すと、青い空と白い地面が広がっており、俺の足元にさっき頭をぶつけたらしい椅子があるだけで、他には何もなかった。

 アミラビリスやレイブの姿すらも、俺の目には入らなかったのだ。


「なんなんだよこれ!」


 俺は太陽のない青空に向かって叫んだ。これは世界と呼ぶには余りにも無秩序だ。

アミラビリスさんは私の小説の中で一番強いです(今の所)

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