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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

愛に堕ちる

作者: マグロ

BL・GL描写がガッツリあります。

ほぼ初投稿ですのでお手柔らかにお願いします。




その日私は、世にも美しい若公爵様に嫁いでいた。


急に決まったことだったので結婚式も何もないが、婚姻届の紙を書きに一度我が伯爵家へおいでなさったその公爵様は、女性も男性も関係なく、もう人間の美!と言っていいほどに美しかった。

美の女神の愛し子という二つ名を持つだけあるわ。

と、過去への回想をしながら過ぎていく景色を見つめる。


さすが公爵家の馬車。全然揺れない車内で私は侍女と一緒に最低限の荷物を持って公爵家へ向かっていた。

ソワソワしてしまうので前に座っている彼女へ話しかける。


「はぁ〜ドキドキするわ。」


「何ですかお嬢様、まさかもう恋してしまったのですか」


「違うわよ!そんなわけないじゃない。ただこの後のことを思うとちょっと心臓が早く動くと言うか、冷や汗が出ると言うか。」


本当か?このお嬢様、みたいな顔で見てくる10年来の付き合いの侍女に、やましいところは何もないのについつい言い訳のように言ってしまう。


「だってあの顔よ!あの美貌よ!

 貴族男性といえば顔は美しくても体はなまっちろい人がデフォルトなのに服の上からでもわかるあの肉体よ!

 別に好みではないけれど憧れるじゃない!

 私もあの肉体美が欲しいって!」


呆れたように私を見つめる侍女-ベニーは、もう何も言わなかった。


ちょっと気まずくなってきた所で丁度公爵邸に着いたようだ。ナイスタイミング!


馬車を出ると、華美ではないが荘厳な美しさを持つ城といってもいいほどの豪邸がまず目に入った。


「ようこそおいでくださいました。」

と、これまた大きな玄関から真ん中を開けて左右にズラーっと使用人の列が並ぶ中、馬車までわざわざ出迎えてくれたのは、私の夫となる美しき公爵様、カイル=フォン=ジッケンシュタイン様だった。


もうその後の私はその麗しさにびっくりドッキリ緊張しすぎていて、何を話したのか覚えていない。


一緒に夕食を食べて、食べ終わった所で正気に戻ると、この後のしょ、しょ、初夜のことを考えてしまって正気ではあるし外面は落ち着いているように見せかけたけれど内心ドッキドキだ。


「では、お互いシャワーを浴びたら、侍女長に部屋を案内してもらうと良い。それと、部屋で少し話をしたいんだ。」


「はい。」


「ではまた。」


「ええ。」


空返事で頷いていた私は、それでもベニーを連れて行くことを忘れずにシャワー室でささっと体を綺麗にする。

だっていきなり知らない侍女たちにシャワーの手伝いをしてもらうなんて緊張するじゃない?

ただでさえここの侍女たちはうちの伯爵家と比べても更に質の良い教育を施したんだろうな、奉公に来ている令嬢たちが半分以上をしめているんだろうなって言うのがわかるから。

まあ、ベニーが一番だけどね。


つらつらと考えることで正常な思考を保とうとしていたらあっという間にリラックスタイムは終わってしまった。


最高級のシルクを使ったのであろう夜着を着て、侍女長に連れられて部屋へと向かう。ここでベニーとはお別れ。また明日まで会うことはない。

ベニーはじっと私のことを安心させるように見つめながら見送ってくれたので、さっきよりも落ち着いてきた。

けれど、部屋に入ってすぐに公爵様がいらっしゃったものだからまたもや落ち着かなくなってきた。


動悸が治らないわね!ドキドキうるさいわよ私の心臓!

私の心中御構い無しに無言でベッドに向かって二人で座った。

公爵様の話したいことって何だろなぁーと考えながら待っていると、彼は深く息を吸って、蒼く美しい強い瞳で私を見ながら言う。


「実は、私には愛する人がいる。その人とは先月別れたが、私はその人以外を愛することなどできない。

初夜の夜に話すことではないと重々承知している。

だが、私が君とこの後過ごした後にその事実を知ってしまうよりも、今話した方が良いと言う私のエゴで話した。」


本当に申し訳ない、でも君のことは妻として尊重する、どうか許して欲しい、と公爵様はベッドのシーツに頭をくっつける勢いで下げながら言った。


驚いた、驚いたけれど手間が省けて安心した。

これならあのことを切り出しても問題ないなと内心ほっとしながら言う。


「私も実は愛する人がいるんですよ!今日こちらにきた時に一緒にいたベニーっていう侍女なんですけど、彼女のことを愛しているんです。」


驚いたような公爵様の顔を見ながら、私は頭をフル回転させる。公爵様の様子から、多分この人は私と同類なのではないかという仮説を立てて、先日ベニーと話したことをどう言うふうにいうのか、どうやったら私と言う存在を認めてもらえるかという最大のテーマを掲げて話し出した。



★★★


「ほら、”恋は落ちるもの、愛は育むもの”ってよく言うじゃないですか。」


「…ああ」


「でも私、愛だって落ちるものだと思うんです。

 私はベニーのことずーっと親しい侍女兼親友みたいに思ってたんですけど、3年前、ベニーが私に向ける笑顔を見て唐突にわかったんです」


ーあぁ、愛している


「って。」


「……。」


「突然すぎると思いますか?でも3年前のその日私がベニーへの想いに気づかなくても、近いうちに絶対に落ちていたと思うんですよね、愛に。公爵様も恋じゃなく愛に落ちた人でしょう?

まるで魔法にかけられたように。」


その言葉は的を得ていた。

そして私があの人への想いを語る時のような表情で彼女は言った。


「この想いは優しいものではないと私たちは知っている。そして私たちはこの愛がなければ生きていけない。

ですから私、公爵様に愛する人がいても良いと思うんです。

 むしろ良かった!愛を育もうなんて言われてたら拒否してましたもの。



 ……でも、その代わりに私たち、愛しか知らない者同士恋をしてみませんか?」



・・・は?



「恋です。恋。魚の鯉でも、わざとって言う意味の故意でもないですよ。」


いやそれはわかるが。


「多分、いや確信を持って言うんですが私たち愛し合うことは絶対できないと思うんです。お互いの愛する人たちを愛さなくなることもない。

それなら、自分たちが感じたことがない恋という感情ならばこの先うむことができるかもしれないでしょう?

どっちみち結婚するということは変えられないのですし。

貴方のような好条件な男性、逃したくないですし。

まあもし無理なら親しい人止まりでも良いですが。」


「お互いに頑張って恋を生む努力をしませんか?」


多分この時私はどうかしていたのだと思う。

こんなヘンテコな提案を特に何も考えずに、


「…してみる。」

なんて。

そんなほぼほぼ空返事のような私の言葉に彼女は元気よく頷いて言う。


「よしっ!そうと決まれば、私はベニーの方にこのお話はもう相談して了承されているので、公爵様も改めて愛する方にご相談ください。あ、その前にきちんと復縁して、仲直りしておくんですよ?その上でお相手の方に了承を得られなかった場合は勿論このお話はなかったことに。」


「わかった。」


「そうだ、お相手のことを紹介しろとは言いませんので、お名前と見た目だけ教えてはくださいませんか?

もし私の顔なぞ見なくない!って言うのだったら館ですれ違わないように頑張って避けるので!」


「……。


 ロイド・リアーズ。美しい襟足までの黒髪に赤い瞳、白い肌に銀色の騎士服を着た189センチの大柄な男だ。」


「まあ!私たち、こんな所でも同士でしたのね!

ああでもどうしましょう。騎士の方ならこんなおかしな提案をしてくる女なぞ認められないと思われてしまわないかしら。」


おかしいとわかっていたのか。

しかし、聞き捨てならないな。


「確かに驚くだろうが、私のロイドはそんな度量の小さな男ではない。」


「あらごめんなさい。貶したつもりなどもうとうありませんわ!」


「わかっている。」


「ありがとうございます。それではまた明日、お話いたしましょう。おやすみなさいませ。」


「ああ」


就寝の挨拶をした後彼女はすぐに寝てしまった。

さっきも思ったがなかなかに図太い性格をしているな。

私は気まずくてあと1時間は寝れそうにない。


こうして、私と彼女の初夜は終わった。


☆☆☆


いつの間に寝ていたのか、もう朝になっていた。

隣ではすやすやと眠ったままの彼女-エマ嬢がいる。

「うぅんベニー……」

ふわり微笑みながら寝言を呟く。


これは邪魔してはいけないなと寝台を抜け出そうとしたら、

コンコンッ

「旦那様、奥様、朝の時間でございます。」

とノックと侍女の声が聞こえた。

すぐに入室の許可を出し、ワゴンを引きながら入ってくるのをみていると昨日彼女を迎えた時にそばに居た侍女が私を鋭い瞳で見つめていた。


「君は…もしかしてベニーかな。」


「公爵閣下に拝謁することができ幸甚のいたりであります。お初にお目にかかります。

    ベニーと申します。」


「ああ……、どうかしたのか。怖い顔をしているようだが」


 しばらく黙った後、覚悟を決めた顔で彼女は言った。

「恐れながら申し上げます。よろしいでしょうか。」

 私は鷹揚に頷いた。

「許可しよう。」


「それでは。

 

 公爵閣下は何をお考えなのでしょうか。

昨晩、奥様が大変失礼な提案をしたにも関わらず閣下は咎めずしかも認められた、と聞いておりました。」

「普通の方であれば、まして愛する人がいるのならばそのようなお嬢様の提案は受け入れるはずがございません。」

「もしもお嬢様を弄ぶ為に受け入れたのであれば…わたくしは、」


「貴方様を許すことはできません。」


そう言い放つとさっきよりもさらに殺気を込めて私を見つめてくる。

その顔があまりにも必死で、その瞳には隣で眠る少女への愛が轟々と燃えていて、思わず笑ってしまった。

さらにベニーの発する冷気と殺気が増えた。


「何を笑っていらっしゃるのですか!」


「ふふっ、すまないね。

だって、

 君たち全く同じような瞳をしているから。」


「!」


「君が危惧するようなことは私は考えてはいないよ。

 むしろ、提案してくれたことに感謝している。

 彼女と私は立場は違えど似たような感情を互いの愛する人に向ける、いわば同志のような者なんだ。

 これからロイドに昨日の提案についての相談をしてみる。もしそれで彼に受け入れられなかったとしても、君たちを悪いようにはしないし、この館の女主人として尊重するよ。」

「それから言葉では納得できないだろうから、これからの私の行動を見て判断してくれないだろうか。」


彼女はフーっ…。と深く息を吐いた後に、

「承知いたしました。

 そして、こちらから提案をしておきながら大変失礼な態度を取り、誠に申し訳ありません。

 このことはわたくしの一存で行いましたので、どうか処罰はわたくしだけにしてもらえないでしょうか。」


「いや、処罰はしないよ。その代わりに君がこの件を自分の中でどう言う立ち位置にするかもっとエマ嬢と話し合うといい。

 エマ嬢はああ言っていたが、納得していなかったんだろう?さっきも言ったが、私もこの後愛しい人にこの件を相談してどうなるか決めたいと思う。もし彼が受け入れなかったら全てなかった話になるがね。」


昨日エマ嬢が言っていた言葉をそのまま目の前の彼女に言う。

「……はい」


「それと、【聞こえてしまった】ならともかく、【聞いていた】というのはニュアンス的によくないからね。

例え盗聴していたとしてもあまり言わない方がいい。」


この部屋は盗聴防止の為に特別に加工した部屋だったのにどうやったのやら。


渋い顔をして頷いたベニーに、

「じゃあ私は一人で支度できるから、そこの眠り姫の支度をやっておくれ。女性の支度は長いと言うのは知っているからね。あと3時間は待っておくよ。」


その間に十分話し合うと良い。

「!!ありがとうございます。そのようにいたします。」


それに頷いてさっさと部屋を出てシャワーを浴びに行く。

何もしていないとはいえ彼の元へ行くんだ。綺麗にした方がいいだろう。


ああ、早く会いたい、ロイド。


★★★


「…お嬢様、起きていらっしゃるのでしょう?」


 その言葉にガバッと身を起こして、

「あらバレてた?」

 ニカッと笑いながら言う。


「はぁ…何年の付き合いだと思っているのですか。公爵閣下にはバレなかったようですが、まだまだ狸寝入りが下手ですよ。」


「違うわよ!私は下手なんかじゃないわ。

 ベニーが察しが良すぎるのよ。


……それに私たち、ベッドの中でいつも、お互いが目覚める瞬間に目が覚めるでしょう…?」

そう言ってベニーににじり寄ると、ボンッ!と顔と耳を真っ赤にして後ろに後ずさる。

そんなベニーにトトトっと小走りで近づいて彼女にちゅっと軽いキスをする。

「お嬢様っっ!」

ふふっと笑ったあとに、ベニーを抱きしめる。


「ごめんなさい、ベニー…。貴女ともっと話をしていれば良かった。貴女を堂々と愛せることに歓喜して、一番大事な貴女の感情を蔑ろにしていたわ。」


 ぎゅっと抱きしめられた手に力が入ったのがわかった。


 そのあと3時間みっちりベニーとイチャイチャしながら話し合った結果。

「わたくしだけを愛しているのでしょう?それならば他は何でもいいです。」

 とろとろになった体でふわりと微笑みながらベニーは言った。


☆☆☆


ロイド、ロイド、ロイド


 シャワーを入念に浴びた後、急いで服を着て愛しい彼を探す。



 彼は思い悩んでいる時必ずあの場所にいたなと、ある場所へと向かう。


 思った通り、

「ああ、見つけた。」


 鍛錬場で一人ロイドは一心不乱に素振りをしていた。


 まだ私に気づいてないようなので少し近づいて

「ロイド!」と呼ぶ。


 驚いたロイドが咄嗟に当たりそうになった剣をもう片方の剣で弾き飛ばした。ロイドは二刀流の騎士なのだ。


「旦那様!危ないじゃないですか!」


「すまないな。だがおまえが私を傷つけることなんてないだろう?」


「っ!……その絶対的な信頼は嬉しいですが、もう少し危機感を持ってください旦那様。」


「ああわかったよ。それでロイド、二人きりなのだからいつものように名前で呼んでおくれ」


「…、何を仰っているのですか」


「だからいつものように”カイル”と…」


「……ッアンタと別れたってのにか!そもそも先月主従の関係に戻ろうと言ったのは何処のどなたでしたかねぇ!!」


心が苦しい。それでも目の前の愛しい男の方が悲しい顔をしていることも、思い悩んでいたことも知っているから。ここで諦めることはできない。


「ロイド……。」


「近づくな!」


「お願いだロイド…。話を聞いてくれ。」


「来るなって言って……!」


 ガバリと自分よりも背の高い男に抱きつく。


 グゥッと唸る男は条件反射的に私を抱きしめた。

「アンタは…何をしたいんだ…。」

「すまない」

「別れた日から毎日毎日頭がおかしくなりそうで、いっそのこと何の罪もないあの女を殺そうか、なんて思ったりして」

「……すまない」

「しかも昨日嫁いだ女を放り出して何故別れた俺のところに来たんだ。

これじゃあもう。…… 手放せなくなるじゃねぇか。」

「それでいい。どうか手放さないでくれ。」


驚き私を見つめる顔に懇願する。

「愛してる。ロイド、愛しているんだ。」

「俺も愛している。だが、アンタはもう別の女のモノになったんだろう?それで俺たちは別れたんだ。」


「ああ、だが昨日思い知った。どれだけ心を偽ろうとしても、彼女を愛さなくてはいけないと言うことはわかっていても、お前以外を愛することなど出来ない。」


「……。」

「そしてロイド。このことは彼女にももう伝えてある。」


「は?!」 


 そうして私は昨夜の彼女からの提案を伝え、ロイドが受け入れられない場合はその話は一切これからしないこと。どんな結果になっても自分の愛がロイドから変わることはないということを伝えた。


「つまり…、お相手方も愛する侍女さんとやらがいて?俺たちが愛し合っていていいけど、今後の夫婦関係の為に恋をしないか、って言っていると?しかも俺の一存で破棄もできると。」


「ああ。」

「言っちゃ悪いがそのお嬢さん、頭おかしいんじゃねえか?」

「私もそう思ったし彼女も一応おかしな提案だとは自覚しているらしい。」


はぁぁあああ と大きなため息をつき、彼はしばらく考えてからその提案を受け入れる、と言った。


「本当にいいのか?」

「アンタ自分で俺に伝えてきたくせに何でそんな不満そうな顔してるんだよ。いいって言ってるだろ?

こんな変なこと言ってくる人なんて居ないんだから、逃すなよ」

「それに、」


 カイルは俺だけしか愛せないんだろ?それならば他のことはどうだっていい。


 そういってロイドはニヤリと笑って私の唇に深く吸い付いてきた。


 この鍛錬場はほぼロイド専用と言ってもいいが、別の人間に見られると厄介なので、防音部屋へ移ってしっかり3時間、ロイドとイチャイチャしながら話し合った。

 ふふと私は幸せそうに笑って、ロイドにしがみつきながら言った。



「愛してるよ、ロイド」



☆★☆




 この後顔合わせをしたときに実はロイドとエマが昔知り合っていたということにみんなでびっくりしたり、昔のことを話し合う二人の様子にカイルとベニーが嫉妬したり、そんな嫉妬した二人をロイドとエマがニヤニヤしながら宥めたり、と色々あったけれど。

 案外幸せに四人で暮らしていきましたとさ。



おしまい









































「ああ、上手くいったな」


 月明かりが差し込む部屋の中、静謐の麗人がワイングラスを手にしてうっそりと微笑んでいた。

 あたりはシーンと静まっており、男以外は虫の気配さえない。



「だがやはり、3年もかかってしまった。」

 男にはある壮大な計画があった。

 自分の愛しい恋人を更に繋ぎ止めるために、一生涯自分だけにその愛も執着心も独占欲も向けるようにするために、都合の良い女を用意して自分と政略結婚をするように仕向けたのだ。



「『まるで魔法にかけられたように』か、……。ククッ、…はははっ!!それはそうだろう。私がわざわざ辺境まで行って魔女の【愛の妙薬】を買ってきたのだ。秘密裏に茶菓子にまぜてな。

あんなに手間をかけたんだ。

 私の財力(まほう)が効かないなど、あってはならないだろう?」


 男は自分に言い聞かせるように呟く。


 3年前、愛しい男と幸せな生活を送っていた男はある日気がついた。

 このままでは愛しい恋人が自分から離れてしまう、と。

 恋人が自分との身分差、そして同性であるということに不安と苦しみを抱いていることは知っていた。だが、長い間そんなことを気にする暇もなく愛を与えることでその心は消えていたはずだった。

 しかし、男にはあるもう一つの問題が浮かび上がったのだ。


 それは、結婚と子孫を残すということ。


 貴族であり当主である男には、その義務が課せられていた。

この義務から逃れるすべを男は持っていなかった。そして、この国で同性婚は法律で認められていなかった。



 そして男は決意した。『例えどんなことがあったとしても、自分はこの男から離れられない』と、愛しい男に自覚させる為に、罪なき2人の女を罠に嵌めることを。


 そこからの男の行動は早かった。


 まず、天然で個性的な性格をしている、あまり爵位が高くない女を全て探し、その中から最もお人好しな都合の良い人間を選んだ。

 次に、視察と銘打って辺境に住む魔女に突然特定の人物を愛するようになる妙薬を造らせ、その女の家に暗部の人間を送って女達が妙薬を体に取り込むようにした。

 ここまでで最初の1年を使った。


 あとの2年はその女達の仲を深めたり、愛しい恋人が自分に依存するように仕向けたりなどに費やした。


 その結果、3年という月日がかかってしまったが、無事計画を遂行することができた。これで彼は自分から離れることはできない。

「やっと、、やっと私だけのものだ…っ!!」

ああアぁ

「愛してるよロイドッ!!!」


 狂気に染まった顔を愛で溶かしながら、男はグイッと真っ赤なワインを飲み干した。


 しばらくの間、あまりの喜悦に体を震わせていた男はいきなりスッと姿勢を正すと、この館で一番防音にたけているその部屋から出て鍵を閉め、愛しい男の眠る寝室へと戻っていった。


 翌日、男は何もなかったような顔をして、恋人と女2人と過ごし始めた。



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