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9 カジ、ショッピング

 トラサーモン狩りの二日後。

 俺はヴェルと一緒に冒険者向けのアイテムショップに来た。店内はとても広く、戦闘用や探索用、素材採取用などいくつかのコーナーに分かれている。まるでホームセンターみたいで全部見ようとしたら日が暮れそうだ。


 トラサーモン狩りの報酬はかなり高くて、ランクEの依頼で稼ごうと思ったら数ヶ月かかる額だった。報酬とは別に切り身を結構貰い、壺のような冷凍用の魔道具で保存しているので、しばらくは食費も抑えられそうだ。


 今日の目的はマスオに指摘された武器の新調だ。武器の専門店に行ってもよかったんだけど、息抜きを兼ねていろいろ見て回ることになった。

 ……というか、元気がない俺にヴェルが気を遣ってくれた。


 適当に目についたものを見ながら歩いていく。

最初に立ち止まったのは探索用の道具のコーナーだ。ナイフやロープ、ランタンなどの照明器具などが並んでいる。他には野宿のための道具として、テントや魔物除けの魔道具なんかもあるみたいだ。

「今のところ要らないかな。行き先によって必要になったものを買い足す方が良いよね。置き場に困るし」

確かに宿の部屋にあまり溜め込むのはよくないだろう。


 再びぶらぶらと歩いていると、見たことない用途不明なものがたくさん並んでいるコーナーに来た。どうやら戦闘用の魔道具みたいだ。

 ヴェルは魔道具の説明文を読んで、気になったものは実際に手に取って見ている。


「自動でモンスターを追尾する爆弾か……

モンスターの動きによっては巻き添えになりそうだからやめておこう」

 これ、爆弾なのか。導火線がないからわからなかった。魔力で起動するのか。


「モンスターが踏むと檻で囲んで捕まえてくれる魔道具だって。よくない? テイムするときに便利そう。一つ買ってみよう」

 コンパクトで使い捨てタイプの罠がいろいろある。試してみてよかったら他のものも使ってみてもいいかもしれない。


「強力匂い袋。嗅覚を麻痺させることで、鼻が効くモンスターから逃走するのに役立ちます。……カジが一緒だと使えないね」

 悪臭がしそうだ。頼むから使わないでくれ。逃走用の魔道具自体はありかもしれないけど。


「あっ!」

 ヴェルが何か良いものを見つけたようだ。さっきまでは興味本位で見ている感じだったけど、真剣な目つきをしている。筒状の何かなんだけど俺からはよく見えない。ヴェルは何も言わずに、にこにこ顔でそれを買い物カゴに入れた。



 その後、併設されている飲食コーナーで軽く昼食を食べてからショッピングを再開した。午後は先に目的の武器を見てから、時間があれば他のコーナーを見ることにした。


 まずは弓を見にきたんだけど、いくつか手に取ってみたヴェルは渋い顔をしている。

「……私にはどれも大きい。ちょうどいいサイズのないかな?」

 ヴェルはそんなに背は低くない。でも、冒険者としてはかなり低い方だろう。ヴェルに合うサイズが見つからないみたいで、店員さんに小さめのものがないか聞いている。


 探して貰ったところ何点かいいサイズのものがあったんだけど、持ってみるとしっくりこないみたいだ。今使っている弓は年季が入っている感じだったから、だいぶ使い込んでいて手に馴染んでいるんだろう。

「慣れるまでは違和感がありそうだけど買おうかな?」

 ヴェルは弓の感触を確かめながら長いこと悩んでいたが、そっと弓を元の場所に戻した。

「短剣は買い替えたいから、弓はそのままにしよう。どっちも買い替えたら、戦いにくそう」

 確かに、違和感のある装備と初めて使う魔道具で戦うのは不安だ。一つでも使い慣れたものがあると気分的に楽だ。


 剣のコーナーに来ると、今度は早速店員さんに話しかける。

「すみません。これくらいの長さでオリハルコン製の剣が欲しいんですけどありますか?」

 店員さんが案内してくれた先には、オレンジっぽい色の刀身をした剣が陳列されていた。ヴェルは剣を持つと軽く素振りをして、剣の長さや重さを確かめていく。

 今までヴェルが使っていた剣は青みがかった刀身だった。さっき同じような色合いの剣があり、ミスリル製と書かれていた。ねこまたの長老によると、ミスリルもオリハルコンもどちらも魔法金属で、使うときに魔力を流すことで切れ味や強度が増すらしい。オリハルコンの方が魔力の影響を強く受けるので、強い装備になる。その分値段が高いので、仕事に慣れてきた冒険者が買うことが多いそうだ。


 ヴェルは短剣についてはあまり悩まずに買うものを決めた。目的のものは買えたし、いつもならそろそろ夕食を食べる時間なので帰るのかと思ったんだけど、最後に書籍のコーナーだけ見るらしい。

 錬金術の復興により生活が豊かになり余裕が生まれたことと、本が簡単に作れるようになったこともあって、各国は識字率を上げるための教育に力を入れたそうだ。ちゃんと統計を取ったわけではないだろうけど、この世界の識字率は7〜8割らしい。


 書籍のコーナーにはずらりと本が並んでいるが、写真の技術はないようで表紙にはタイトルが書かれているだけだ。ぱっと見ただけだと詳しい内容がわからない。

 ヴェルは月間売り上げトップ10の紹介を見ている。タイトルからするとほとんど娯楽本だと思う。でも、一位は明らかに違う。

 一位の本のタイトルは、【モンスター全集 テイマーズヒル編】だ。本を開いてみると、この街の周辺に生息しているモンスターが挿絵付きで、生息場所や特徴、注意点がきれいにまとめられている。この本は討伐依頼にもテイムにも役立ちそうだ。宣伝文句にはテイマーズヒルに住むなら絶対に買っておきたいロングセラーと書かれているけど納得だ。


 ヴェルの目当てはこの本だったらしい。他の本は見ずに会計を済ませて店を後にする。

「カジ、しばらくはこの本を見ていろいろブレンドするね。一緒に強くなろうね」

 どうやらヴェルも俺をどうやって強くするか考えていたみたいだ。せっかくブレンド器を買ったんだから使わない手はない。


 ヴェルが新しい武器に慣れるまでは、ブレンドをいろいろ試しながらランクE向けの依頼をこなして、ランクDを目指すことになった。やはりランクEのままでは選べる仕事が少ないから、ランク上げを優先することにしたのだ。


 店からの帰り道、俺の気分はだいぶ晴れていた。まだどうなるかわからないけど、ウルフのまま強くなろうとするよりは、ブレンドで別のモンスターになる方が強くなれる可能性が感じられる。

 このとき俺はまだ知らなかった。動物型以外のモンスターになることの大変さを。

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