7 カジ、トラサーモン狩りを手伝う
準備が終わった俺たちは川に向かって歩き出す。
「河原の石はものによって素材として売れるから、狩りの成果次第では帰りに拾うのもありだな」
マスオがそんなことを言うので足元の石を見てみるが、そこらへんに転がってそうな石ばかりだ。特徴を聞いたうえで意識して探さないと見つからない気がする。
川がよく見える距離まで近づくと、ところどころ水飛沫が上がっている。どうやらあれがトラサーモンのようだ。
「よし、今年もたくさんいるな。じゃあ、狩りの開始だ!」
マスオは嬉しそうに笑いながら、軽く肩を回す。槍を構えると近場にいるやつを突いた。見事に一発で仕留めてマスオは満足そうだ。
トラサーモンは聞いていたとおり綺麗な虎柄をしている。冷凍するための魔道具で冷やしてえいたに載せると、すぐに狩りを再開する。
ヴェルはトラサーモンが近くに来るのを待ち、タイミングを見て短剣で斬り付けるが致命傷を与えることは出来ず逃げられてしまう。
「思ってたより硬い……」
何度か試したが上手くいかなかったので、弓に持ち替えた。仕留めても回収出来ないと意味がないので、岸に近いやつを狙う。矢は見事に命中し、トラサーモンに突き刺さる。だけど、やはり一撃では仕留められず逃げられてしまう。
頑張ること十数回、弓で一撃を喰らわせた後に俺が追撃、ヴェルも短剣に持ち替えさらに追撃してやっと一匹倒せた。トラサーモンは傷だらけなので、素材としては価値が低そうだ。ヴェルは既に疲れ切った様子で、座り込んで肩で息をしている。俺たちが一匹狩る間にマスオは三匹も狩っていた。
「自分で狩るのは諦めて、マスオさんのサポートをしよう……」
小休憩を取ったヴェルはトボトボとマスオの方に歩いて行った。
俺は周りの警戒をしつつ、狩りの様子を眺める。うなこが電撃でトラサーモンをマスオがいる川岸に誘導し、マスオが槍で突く。仕留め損ねて逃げられたときは出来る範囲でヴェルが追撃する。いい連携が出来ていると思う。
……ピーコが魔法で追撃したところトラサーモンが細切れになったので、俺と一緒に警戒を担当することになった。一応細切れになったやつも骨や皮は出来るだけ回収した。身の部分は俺が美味しくいただいた。
狩りを始めて三時間くらい経った。時計がないのであくまで体感だ。これまでに十五匹ほど狩りに成功した。中には卵を持ったやつもいてイクラが手に入った。イクラは高く売れるそうで、今の時点でもかなりの金額になるらしい。
先程からミニベアが数匹こちらに向かって歩いて来ている。まだ遠いが要注意だ。
「よし、一旦狩りを中断してテイムをするぞ!」
マスオがみんなに聞こえるように大きな声で知らせてきた。
「俺とうなこでやるから、邪魔が入らないようにサポートしてくれ!」
マスオは大きめのやつに狙いを定めて向かって行く。テイム目的だとさっきまでと違い生かしておかないといけないし、相手は川の中を泳ぎ回る。逃げられないように川に入って進行方向に立ち塞がるようにしているけど、川の中ではトラサーモンの方が動きは速いので苦戦しているようだ。
『ピーコ、ミニベアが一匹こっちに歩いてきてるから倒しに行こうか』
『いや、戦っているうちに他のミニベアが来たら困るから、私はここで警戒を続けよう。ヴェルを連れて行くといい』
ヴェルの方を見るとマスオとうなこの戦いっぷりを見ている。ヴェルの実力では川に入るのはやめたほうがいいとマスオに言われたため、手伝えることがなくて手持ち無沙汰に見える。
俺はヴェルに近付き一声鳴く。
「カジどうしたの? ミニベアが来た?」
俺が鳴いて返事をすると、ヴェルはキョロキョロとあたりを見回す。俺は一番近いミニベアがいる方向に歩き出す。
ミニベアを見つけると吠えて威嚇しながら近づいていく。今回の目的はあくまでトラサーモンなので追い払えれば充分だ。ヴェルも魔法で牽制するとミニベアは一目散に逃げていった。
次に近いやつは……だいぶ近くまで来てるな。あまりマスオたちから離れるのもよくないので、そのまま待つことにした。
……
ミニベアが見える距離まで近付いて来たんだけど……
何か違和感がある。
匂いが同じだからミニベアなのは間違いない。ヴェルの方を見ると、眉間に皺を寄せていた。やはり普通のミニベアではないのかもしれない。違和感の正体を確認するため、ゆっくりと慎重に近付いていく。
近付いてみてわかった。今までのミニベアより大きい。三メートルくらいある。
「……オオミニベアだね」
『……は?』
ヴェルが口にした名前を聞いて思わず間抜けな声が出てしまった。小さいのか、大きいのかはっきりしてくれ……
「見ての通りミニベアの大きいやつ。つまりほぼ普通のベア。動きはベアより俊敏だから気をつけて」
ヴェルはそう言うけど、比較対象のベアに遭遇したことがないし……。まあ、油断するなってことか。
既に弓を使うには近すぎるので、ヴェルは短剣を抜いた。弓で先制攻撃できればよかったけど、種類を特定する前に攻撃をすると、勝ち目がないモンスターだった場合に逃げても怒って追いかけてくることがあるので避けた方がいいらしい。
俺は少しだけオオミニベアの左側に、ヴェルは逆側に回り込む。俺がオオミニベアの注意を引くと、右腕を振り上げ爪で攻撃しようとしてくる。そこをすかさずヴェルが風魔法で攻撃する。ヴェルに注意がいったら俺が噛みついたり、引っ掻いたりする。オオミニベアの強力な一撃を喰らわないように、注意が逸れている方が攻撃する作戦だ。
「……やっと倒せた」
……俺たちは無事にオオミニベアを倒すことに成功した。だが、オオミニベアの丈夫な毛皮になかなか攻撃が通らず、かなり時間がかかった。なんとか倒したころには俺もヴェルも汗だくで、起き上がる気力もなかった。
「カジ、よく頑張ったね。他に近くにミニベアがいないなら、一回みんなのところに戻ろうか? オオミニベアは私たちで運ぶのは大変だから、えいたに来てもらって直接載せよう」
匂いでミニベアの位置を確認したけど、遠くに一匹いるだけだった。俺は起き上がり、マスオたちの方に歩き出した。
マスオは戻ってきた俺たちに気付くと、笑顔で手を振った。
「テイム成功したぜ!」
マスオのそばには二メートルくらいのトラサーモンがいた。うなこと同じ魔道具を付けられ、空中に浮かんでいる。
「本当はもう少し大きいやつがよかったんだけどな。今年はこれでよしとしよう」
予定より少し早いけど、狩りはもう切り上げて帰ることになった。オオミニベアの回収も済ませて帰り支度を始める。
初仕事は無事に終了……
いや、帰るまで気を抜いちゃいけないよな。
引き続き周囲の警戒をしていると、川沿いを一匹のミニベアが歩いてきた。追い払うために駆け出そうとしたが、ある異変に気付いた。
トラサーモンを狩って食べ始めたミニベアに向かって、川の中から何かが近付いていく。背びれしか見えないけど、サメやイルカ、もしかするとクジラくらいの大きさかもしれない。
次の瞬間、その生き物はミニベアを……食べた。それも一飲みで。皮の虎柄はトラサーモンと同じだが、体長は五メートル近い。つい呆然としてしまったが、コイツは絶対ヤバイ。俺は我に帰るとみんなに危険を知らせるため吠えた。
「エンペラーサーモン!?」
マスオはコイツのことを知っているようだ。驚いた様子からするとコイツは珍しいモンスター、もしくはヤバイモンスターなのだろう。
「カジ!! 全速力で川から離れろ!!」
珍しくマスオが動揺している。
エンペラーサーモンはゆっくりと頭を俺の方に向けてきた。
……え?
もしかして俺、餌だと思われてる!?