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3 カジ、ねこ集会に参加する

 店員さんがブレンドと言っていたのと、俺がねこまたになっていて、さっきまで台に乗っていたねこまたがいなくなっていることから何が起こったか何となくわかった。どうやらこの装置は二匹のモンスターを混ぜて、一匹にするためのものらしい。


「使えることも確認できましたし、予定どおりお買い上げになりますか?」

「はい。前にお伝えしたとおり、宿の方に運搬をお願いします」

「わかりました、お買い上げありがとうございます」

 店員さんはやけにニコニコしている。支払いのときにわかったんだけど、さっきのブレンド器という装置、めっちゃ高かった。肉代、宿代などから日本円に換算してみると、だいたい五十万円くらい? この街のかなり限られた店の値段しか知らないから正確ではないけど、高額な買い物なことは確かだ。ウルフの毛皮を売るだけで稼げるような金額ではない。ヴェルはなんでこんなにお金を持っているんだ? 謎だ。


 翌朝、宿のベッドの上で丸くなっていると、ヴェルが俺の朝食の準備を始めた。鶏肉なんだけど、何故か三つの皿に分けていれている。用意ができて呼ばれたので皿の方に行くと、皿の下には文字が書かれた紙が敷いてあり、ヴェルがワクワクを抑えきれない様子でこちらをじっと見ている。紙にはそれぞれ、セニョール、ブラボー、ポレポレと書いてある。俺は思わず固まってしまった。


 ……これ、名前か!!

 ブレンドでウルフじゃなくなったから、もうウルフちゃんと呼ぶのはおかしい。モンスター名で呼ぶのはやめて、いっそのこと名前を付けてしまおうと考えてるんじゃないか!?

 それにしても、これは酷い! ダサすぎる! これから先こんな名前で呼ばれ続けるのは嫌だ!!


 俺は頭をフル回転させて、解決策を模索する。喋ることも、文字を書くことも出来ないから、手段はかなり限られてくる。名前が書かれたものがあれば、それを見せるという手があるけど……

 そこまで考えて、良いものがあることを思い出した。俺はテーブルの上に乗ると新聞を落とし、連載小説のところに手(前足)を置いた。


「どうしたの? あ、その連載小説人気みたいだね」

 そう、その小説の主人公の名前はカジ。前世で名前のカズヤをもじって、あだ名でカジと呼ばれていたことがあった。この名前だと違和感もなくちょうどいい。

 俺はねこまたの目で訴える。この名前がいいと。頼む! 伝わってくれ!!


「へぇ、主人公の名前はカジっていうんだ? この名前でいいか。よし、今日から君の名前はカジだよ」

 そう言いながらヴェルは俺に目線を合わせて、頭を撫でてくる。

 いよっしゃ〜!! クソださネーム回避〜!!


 それから約一週間、ブレンドでウルフに戻った俺はヴェルと街の周りで実戦練習を繰り返した。相手にしたのは主にウルフ、アカガラス、モリイグアナの三種類だ。アカガラスは羽根が赤いカラスで、空を飛べるから厄介だったけど、強くはなかった。モリイグアナは植物に擬態していたから人間には見つけにくそうだったけど、匂いでバレバレだから問題なかった。ウルフの嗅覚、身体能力、爪や牙を使った戦い方にもだいぶ慣れてきた気がする。


 次の日はお休みだからと、ねこまたに変えられた俺は数日前から考えていたあることを実行することにした。それは、ねこ集会への参加だ。

 テイマーズヒルでは、モンスターは飼い主と一緒でなくても出歩くことが許されている。もちろん、トラブルを起こした場合は飼い主の責任だけど。この前なんてモンスターが一匹で買い物をする光景を見かけた。


 昨日の夜に数人の話し声が聞こえたので声のする方に行ってみたところ、そこにいたのはねこまただった。そのときに気付いたんだけど、俺はモンスターの言っていることがわかるらしい。どうやら、情報交換をしているようだった。ウルフの姿だと警戒されそうなのでその場は諦めたけど、ねこまたになっている今なら問題ないだろう。


 夕食後、ヴェルに捕まり、頭やお腹を撫で回されたり、肉球をプニプニされていた。昨日と同じ時間帯になると声が聞こえてきたので、ヴェルの腕から抜け出し宿を出る。声は昨日と同じ、宿の近くの小さな公園から聞こえてきた。


『ん? 新入りか?』

ねこまたたちに近づいていくと、黒いねこまたが俺に気付いて声を掛けてきた。すらっとしていて、普通のねこだったら強くなさそうな見た目だけど、何だか強者の風格みたいなものを感じる。

『はじめまして、カジです。集会に混ぜて欲しいんですけど、いいでしょうか?』

『うむ、いいぞ。それから、そんなに畏る必要はないぞ。楽にしなさい』

 俺は他のねこまたたちと同じように適当に座り込む。

『わしは一番の古株なので、皆からは長老と呼ばれている。聞きたいことがあれば何でも聞きなさい』

『はい、ありがとうございます』


 数分後、情報交換が始まった。

 まあ、俺はほとんど情報なんて持っていないので、自分のことを話した。つい最近この街にきたとか、ブレンドのこととか。さすがに転生のことは話さなかったけど。

 驚いたことにブレンドのことをみんな知っていた。長老によると、数十年前に起きた錬金術の復興が世界を変えたらしい。素材から新しいものを作り上げる合成術、物にさまざまな効果を付与するエンチャント、それから二匹のモンスターを混ぜ合わせ強化するブレンド。


『特にインパクトが大きかったのが、ミスリルが作れるようになったことじゃ。以前は採掘でしか手に入らなかったから、あまり流通しておらず高価で、ミスリルの装備を買えるようになったら一人前と言われていた。だが、今では初心者が最初に買う装備となった。時代も変わったのう』

 長老の話を興味津々に聞いていたのだが、周りを見るとげんなりした顔をしている。多分、もう何度も聞かされていて、またか……と思っているんだろう。

 その後も長老の講義が続いたが、みんなが帰りはじめたのでお開きになった。長老はまだ話し足りなさそうで、知っていることなら何でも教えてやるから、また来いと言われた。


 宿の部屋に戻ると明かりが消えていた。ヴェルはベッドで横になっていたが、まだ起きていたらしく、近づいたらギュッと抱きしめられた。しばらくすると寝たようだったけど、目から涙が溢れていた。

 この歳で冒険者をしているんだから訳ありなんだろうな。この世界のことだけじゃなくて、ヴェルのことも少しずつ知っていかないとな。そう思いながら、俺は眠りに落ちていった。

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