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1 カジ、ウルフになる

初投稿です。

よろしくお願いします。

「……ちゃん。ウルフちゃん」

 女の子の声が聞こえる。体を動かそうとするが、うまく動かない。今の状況に頭が追い付かない。俺、何をしてたんだっけ?


…………


 そうだ!! たしか車に轢かれそうになって……

 そこから記憶がない。

「ウルフちゃん動かないな……

大丈夫かな?」

 また、女の子の声が聞こえる。力が入らず目も開けないけど、すぐ近くにいるみたいだ。俺のことを心配しているように聞こえる。

 でも、もちろん俺の名前はウルフではない。

カズヤというごく普通の名前だ。なんでウルフと呼ばれているのか検討もつかない。


 少しづつ体に力が入るようになり、やっと目が開けられた。目の前に高校生くらいの歳の赤毛の女の子が座っている。

 赤毛って珍しいな。服も漫画やゲームで冒険者が着るようなマントを羽織っている。この子なんでこんな格好してるんだろう? コスプレか?


「あ! ウルフちゃん起きた!

 よかった、びっくりしたよ〜」

 いや、びっくりしてるのは見たこともない変わった格好の女の子にウルフと呼ばれている俺の方なんだけど……

 体が動かないので見える範囲で状況確認しようと思って周りを見たんだけど、ここ明らかに森の中なんだけど……

 なんでこんなところにいるんだ?


 数分後……

 なんとか起き上がれそうだ。そう思って力を込めた腕が視界に入ったんだけど……

 俺の腕ってこんなに毛深かったっけ?

 ……そんなわけあるか!!

 灰色の毛で覆われてるし、爪がすごく鋭い。

ようやくわかった。俺、狼になってる。


…………


 ようやく頭の整理が出来た。

 俺は大学に行く途中に車に轢かれた。そして、死んで異世界に転生したと思われる。よく見ると目の前の女の子は腰に短剣を下げているし、背中には弓も背負っている。ここが現代日本なら銃刀法違反で捕まっているだろう。

 いや、まだ異世界と判断するのは早いか? 狩りで生計を立てている国の大きい犬に転生した可能性も……ないな。


 わからないことが多すぎるけど、この女の子の言葉が理解出来るのは助かる。どうやら俺はこの子のお供(ペット?)のようだ。とりあえず、この子に付いていって情報を集めるとしよう。


 森の中を歩きながら、ウルフの体に慣れるために耳やしっぽを動かしてみる。最初はうまく動かせなかったけど、だんだんと慣れてきた。

 それからウルフの嗅覚を確かめてみた。想像どおりすごいな。匂いだけであっちにウルフがいるのがわかる。あっちにはウサギがいるな。何の匂いなのかまでわかるのはなぜなんだろう? ウルフの記憶が俺に引き継がれてるのか?


 森の中をしばらく歩いていると、一匹のウルフがこっちに気付いたようで近寄ってきている。女の子に知らせたいけど、喋れないしどうすればいいんだ?

 えっと、ウルフは進行方向から来ているから、女の子の前に出てウルフの方に向かって吠えればいいかな?

 そう思って、女の子の前に出ようとすると、

「大丈夫、わかってるよ」

そう言って、すぐに弓を構えて矢を放った。

 匂いでウルフを確認すると動きが止まっている。距離と方向的に、多分あの灰色の塊みたいなやつがウルフだよな。ここからだと俺の視力じゃギリギリわかる程度だ。感覚的には今の俺の視力は人間だったころと変わらないから、2.0くらいだろう。かなり視力いいな。


 女の子はウルフに近づくと解体を始めた。毛皮だけを剥ぐと立ち上がって歩き出す。異世界物の話ではウルフの肉を食べるものもあるけど、この世界ではどうなんだろう? 単に荷物にならないように肉は取らなかった可能性もある。俺はウルフは食べたくないかな……犬を食べるようなものだし……というか共食いだし……まあ、この世界の食料事情次第かな。


 森の中を歩いて数時間。何度かニ、三匹のウルフと遭遇したが俺の出る幕はなかった。接近される前に女の子が弓で倒して終わった。

 だけど、今度は十匹ほどのウルフの群れが前から来ている。まだ、女の子の視界にも入っていないと思う。あの数だとさすがにきついかな? 接近される前に倒すのは無理だろう。


 自分はどう動けばいいだろう? 俺は爪や牙で戦うことになるから接近戦になるな。でも、下手に前に出ると矢を射るときに邪魔になるよな……

 悩んでいるうちにウルフが視界内に入り、女の子が弓で戦い始める。それとほぼ同時にあることに気付く。

 あれ? 後ろからも来てる!?

 気付くのが遅れてしまった。群れの何匹かが回り込んでいたようだ。囲まれたらやばい! 俺は後ろから来ているウルフの相手をしよう。


 吠えながらウルフに向かって走り出す。一番近くにいたウルフに爪で襲いかかる。数回の攻撃でウルフは動かなくなる。爪の跡が酷いし、血で赤く染まっていて毛皮としては価値が下がりそうだけど今はそんなことを言っている場合じゃない。

残りのウルフも女の子に近いやつを優先的に、牙や爪を使って一匹づつ順調に倒していく。匂いで他のウルフと女の子の位置を把握することも忘れない。


 後ろの方にいたウルフを倒し終わり、女の子のところに駆けつける。ウルフは残り五匹まで減っていたけど、女の子はウルフに囲まれている。左手を前にかざして風の刃のようなもので牽制しつつ、右手の短剣で近くのウルフを斬り付けている。

 魔法だと思うけど、直接攻撃しないってことは命中精度か良くないとか何か問題があるのかもしれない。余裕だから冷静に一匹づつ処理している可能性もあるけど、わからないから早めに決着を付けよう。


 女の子の後ろにいるウルフに噛みついて一撃で倒す。前の三匹は問題ないだろうから、残りのウルフと戦うことにした。少し時間はかかったけどなんとか倒すと、女の子の方も戦い終わったところだった。ふぅ、どうにかなったな……


 安心して女の子の方に歩いて行こうとしたときだった。すぐそばに倒れていたウルフが起き上がって、口を大きく開けて噛みついてきた。

 しまった油断してた!! 匂いで位置はわかっても、トドメをさせているかまではわからない。動かなくなったから死んだと思っていた。

 このままだと首に噛みつかれる!! 頭ではわかっているけど、すぐには反応できない。


「させないよ」

 死を覚悟して目を瞑り身構えると、女の子の声とすぐ近くを風が通り過ぎる音が聞こえた。

 恐る恐る目を開けて見ると、目の前に首が切り落とされたウルフがいた。女の子が助けてくれたみたいだ。

 この様子だと女の子はこれくらいの戦いには慣れているのだろう。ゲームなら倒した敵のことは気にする必要はないけど、実戦では何があるかわからないな。少しずつ慣れていかないと……


「大丈夫? 怪我はない?」

 女の子が心配そうに駆け寄ってくる。俺がしっぽを振りながら元気そうに小走りしていくと、嬉しそうな顔をして頭を撫でてきた。最初は子供扱いされてるようで恥ずかしかったけど、いまはウルフなんだから何もおかしくないことに気付いた。


 日が暮れるまでに森を抜けた俺たちは、街道沿いで夜を明かすことになった。テントなどはなく、女の子は毛布を掛けて横になった。

 さて、これからどうしようか? せっかく転生したんだから異世界を楽しみたいところだ。でも、身体がウルフだから一人で行動してたらモンスターとして狩られるよな? この女の子に付いていくしかないか……


 そんなことを考えていると、女の子が寝返りをうって、俺を枕がわりにした。いつの間にか寝ていたようだ。改めて女の子を見てみると、かなりかわいい。

 ……よし、しばらくはこの女の子について行こう。この世界のことよくわからないし。まずは情報が必要だし。女の子の寝顔がかわいいから思考停止して、安易な選択をしたわけじゃないよ。 

 ……ホントダヨ。


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