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無為流転 ~どうということもない日々を綴る~  作者: 紫蘭
令和二年(二〇二〇年)八月
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八月二十五日 伸びた髪

八月二十五日 火曜日 晴


 その日の夕方、停留所にはバスが出で間もないのか一人しかベンチに座っていなかった。私は足の痛みが出てきていたので腰を下ろしスマホをいじっていた。


 日差しは弱まってきているとはいえ、まだまだ暑い。汗が髪にまとわりついて頬にへばりつく。ああ、鬱陶しいと髪をかきあげるが、落ちてくる髪が頬に再びへばり付く。汗を拭っても、頬に髪が触れるだけで気持ちが悪い。


 そういえば痛風を患ってから散髪に行けていない。前回がいつだったかは覚えてないが、発作が出たのが七月の一日だったので最低二ヶ月以上は髪の毛を切っていない。おかげで頬に髪の毛が垂れてくるようになり、とても鬱陶しく感じている。


 なじみの美容院は元町の駅から坂道を登って十分くらい歩かなければならない。痛風発作が出てからは長距離を歩くと必ず足が腫れる。無理をしたときは翌日には痛風発作が出ているような腫れ方もした。痛風と思うような痛みはないが発作が出たのではないかというのが医者の見解である。ともかく、痛風発作が怖くて散髪に行けていない。


 何度も汗を拭っていたときにふと風を感じた。秋を感じる風だ。これまでずっと吹く風すらも暑くて気持ち悪かったのに、この風はまとわりつく髪の不快感を吹き飛ばしてくれた。吹く方角に顔を向ければ髪は自然とかきあげられて気持ちいい。


 しかし、風の吹く方角には先にベンチに座っていた女性がいる。風の力を借りるには女性の方へ顔を向けなければならない。自意識過剰かもしれないが女性をジロジロ見ていると思われるかもしれないと思うと、風でへばりつく髪の不快感を飛ばそうとする勇気は出なかった。


 そうこうしているうちにバスが到着する時間が近づいてきたので立って待つことにした。立てば女性に気にせずとも風の吹く方角を向くことができる。なぜ早く気づかなかったのか後悔するまもなく、バスが来た。

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