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無為流転 ~どうということもない日々を綴る~  作者: 紫蘭
令和二年(二〇二〇年)九月
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九月五日 猫じゃらし

九月五日 土曜日 曇のち雷雨 猫じゃらし


 今日は妻は近くの駅ビルに用事があるということで、私は息子のお稽古ごとに付いていくことはせずに駅ビルでおとなしく待つことにした。痛風の後遺症とも呼べる症状はまだ続いていたからだ。


 別れてから一時間あまり経つ。そろそろ妻から連絡があるはずだが一切ない。どうしたのだろうかと心配になるころに返事が来た。どうやら保育園時代のママ友と話し込んでいたそうだ。内容はママ友の揉め事。聞くと卒園式のことで園と父母と揉めているという話だそうだ。まだ早いんじゃないか、というのが第一印象だった。


 園長先生は感情的な対応をし、前年の息子の年よりもひどくなっている気がするが、それを受けて一部の父母も園長への不信感を隠せないようなのだ。何よりこれから半年もあるのに揉めるというのは精神的に辛くないかとも心配もしてしまう。下手すると園だけでなく親同士でもギクシャクするようになる。楽しいはずの子どもたちとの保育園時代の思い出が揉め事とストレスで上書きされかねない。


 そんな話に熱中しているうちに妻の用事は済み食料品売場への移動となった。移動中の息子の様子がおかしいと思っていたら、どうやら手にしていた猫じゃらしをエスカレーターから落としてしまったというのだ。


 一旦上階に上り、下の階を見渡す。上階から下りエスカレーターで落ちた場所の()()()をつける。これを何度か繰り返す。エスカレーターの上り出口と下り入口の間を往復するのが地味に辛い。


 エスカレーターそばのお店もくまなく探す。息子よ、遠慮もせずに入っていくがそこは婦人用品売場だ。婦人用品の売り場は流石に入りづらいぞ。店員さんもこちらを見ている。話せばわかるとはいえ買い物目的でもないので気恥ずかしいぞ。


 猫じゃらしはエスカレーター横にある人一人通るのもやっとな細い隙間で無事発見された。息子は落ち着きを取り戻し一連の騒動は幕を閉じた。その後、食料品売り場へと向かい買い物を済ませ帰宅した。息子の手には既に猫じゃらしはなく、かわりに買ってもらったお菓子を入れた袋が握りしめられていた。

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