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無為流転 ~どうということもない日々を綴る~  作者: 紫蘭
令和二年(二〇二〇年)九月
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九月四日 はまぐりうどん

九月四日 金曜日 曇時々雨


 この日は曇っていた。どんよりとした雲に包まれて、風もなく蒸し暑い。食欲もあまりなく昼食に何を食べるか迷っていた。どこか近くの飲食店をと探す。うどん屋のぶっかけうどん、イタリアンの冷製パスタ、創作中華でさっぱり中華そばあたりが候補として上がっていた。


 時刻は十一時少し前、多くのお店は十一時半開店だった。飲食店の多くはまだ開店準備中だ。そんな中、うどん屋だけが開いていた。湿気が辛いので速やかにうどん屋へと向かうが、候補のお店の前を通ると当然のように開店準備をしてた。「十一時開店さえしてくれいれば……」と未練を残しつつも足を進めた。


 うどん屋には一番のりした。入り口で見かけたおすすめの季節限定のうどんが美味しそうなのでどちらかにしようとは考えていた。はまぐりの冷やしうどんと鯛と海苔の冷やしうどん。入店してからはまぐりの出汁の塩気がなぜか口に広がっていたので前者を選ぶ。また、メニューで見かけたとうもろこしの唐揚げも魅力的だったので注文した。


 待つこと数分。お客さんも増えて結構な席が埋まったが、これも十一時効果なのだろう。そう思っていると店員さんがやってきた。どうもはまぐりを切らしてしまっていてはまぐりの冷やしうどんが出来ないというのだ。開店直後に入ったうどん屋にも関わらずおすすめ商品が切れてるというのだ。口はもうはまぐりになっている。


 しかし、納得はしてないが受け入れるしか無いだろう。無いものは無いのだ。仕方なくもう一つのおすすめ商品の鯛と海苔の冷やしうどんを注文する。それにしても残念だ。発注ミスなのか理由はわからない。そう思っているとうもろこしの唐揚げが届いた。とうもろこしの唐揚げは塩味の中に素材の甘味があり、さらに醤油の香ばしさもあるので手が止まらなかった。


 とうもろこしに舌鼓を打っていると外から大きな荷物を持った業者と思われる人が入ってきた。箱には「はまぐり」と書いてあるのが見えた。とうもろこしを食べる手が止まる。もしかしたら口も半開きになっていたのかもしれない。その日は一日中敗北感を引きずったまま過ごすこととなった。


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