性悪
読んで頂きありがとうございます!
家に帰るともう夕方だった。ヘトヘトだ。自分で今日は濃い内容の一日だったなと思う。ただまだ悩みの種は尽きない。なんと今日から家族で一緒に飯を食べないといけないのだ。兄は会ったことがないためどんな人物か知らないが、嫌味な女が母親なのだから良い人物ではない気がする。気が重い。
「ご飯の時間です、ショウ様。食卓に向かってくださいませ。」
使用人の声が聞こえる。考える暇は無さそうだ。何もないと良いのだがそんな訳はないだろう。
「失礼します。」
部屋に入ると既に父と母達と兄がいた。俺が一番遅かったようだ。皆からの視線が痛い程に刺さる。
「出来損ないの次男は時間すらも守れないのか?恥ずかしいと思わないのか?」
早速絡んできた。思った通りだ。男は少し肥えていて背が低い。肌も荒れていて汚らしい。お世辞にもかっこいいとは言い難い。こいつが兄なのだろう。老け顔なのだろうか歳がわからない。俺は黙って席に着く。
「何か言えないざますか?せっかく息子ちゃんが出来損ないに話しかけてくれていると言うのに。まったく、母親の顔が見てみたいざます。」
俺の母は苦笑いしている。立場的に言い返せないのだろう。俺のせいで肩身が狭い思いをしていると思うと腹が立つ。
「この息子はフレイムも使えない雑魚なのだ。これからは顔を見せるな。全くこの恥さらしが!」
よかった。次回は無さそうだ。これからは一人で食べれるのだろう。今回で済むと思えばこんなの楽チンだ。
食事が次々と運ばれてくる。ステーキから旨そうなスープから食欲がそそられる。しかし俺と母上の前には黒い固いパンと水しか置かれなかった。
「出来損ないにはこれももったいないぐらいであろう。早く食って出て行ってくれ。」
「確かに出来損ないはこれで充分だな。こんなやつを弟とは思いたくないよ。」
俺は固いパンを水で流し込んで自分の部屋に戻ろうとした。すると
「出来損ないには古小屋に移ってもらう。さっさと荷物をまとめて移るんだな。」
余りにも酷くないだろうか?少し泣きたくなる。こんなの楽チンだと思っていた時期が俺にもありました。酷い。酷い。これでは前世と同じではないか。いじめられっ子体質のせいで言い返せない自分が腹立たしい。
部屋に戻るとミズキが待ってくれていた。その可愛い見た目に少し癒される。魔法剣と少しの荷物を持って小屋に向かう。俺は小屋を見て絶句した。
「倉庫じゃねえか?!」
俺には倉庫しか与えられなかったのだ。そこら中に蜘蛛の巣が張っている。こんな酷い話はない。俺はこれからどうしようか?とりあえずこの家から一刻でも早く出たい。そのためには金がいる。そうだ。この世界に学校があることは知っている。学校に行けば良いのではないだろうか?友達も出来るだろうし、家からも出られる。これも問題は金が無いことだ。あの親父が金を出してくれるとは全く思わない。強くなって魔物を倒す必要がある。強くなってこの一家を見返したい。強くなりたい。自分が弱いから自分に自信が持てない。冒険者になろう。強くなろう。この日俺に明確な夢が出来た。この日俺はコンクリートの上で涙を流しながらミズキと共に眠った。
読んで頂きありがとうございました!
下にある星から評価していただけると励みになります!
次話は登場人物紹介です!