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黒き賢者の血脈  作者: うずめ
第三章 王立士官学校
66/129

後始末

【作中の表記につきまして】


士官学校のパートでは、主人公の表記を変名「マルクス・ヘンリッシュ」で統一します。


物語の内容を把握しやすくお読み頂けますように以下の単位を現代日本社会で採用されているものに準拠させて頂きました。

・距離や長さの表現はメートル法

・重量はキログラム(メートル)法


また、時間の長さも現実世界のものとしております。

・60秒=1分 60分=1時間 24時間=1日 


但し、作中の舞台となる惑星の公転は1年=360日という設定にさせて頂いておりますので、作中世界の暦は以下のようになります。

・6日=1旬 5旬=1ヶ月 12カ月=1年

・4年に1回、閏年として12月31日を導入


作中世界で出回っている貨幣は三種類で

・主要通貨は銀貨

・補助貨幣として金貨と銅貨が存在

・銅貨1000枚=銀貨10枚=金貨1枚


平均的な物価の指標としては

・一般的な労働者階級の日収が銀貨2枚程度。年収換算で金貨60枚前後。

・平均的な外食での一人前の価格が銅貨20枚。屋台の売り物が銅貨10枚前後。


以上となります。また追加の設定が入ったら適宜追加させて頂きますので宜しくお願いします。

 マルクスはアラム法務官とエラ憲兵課長に見送られ、釈放されたネル姉弟とも別れて士官学校に戻った。

ネル姉弟はマルクスの「治療」によって体調もすっかり元に戻っており、別れ際にも


「ヘンリッシュ君。今日は色々とありがとうございました」


「この恩は忘れないです」


既に下校時間から大分経過しており、軍務省の門前のケイノクス通りに士官学校生の姿は殆ど見受けられなかったが、そんな事にはお構い無しに姉弟共々深々と頭を下げた。


「いや。先程も言ったが、お前達とは既に和解済みだ。最早礼を言われる筋合いも無いし、そのように頭を下げる事も無い。

明日からはまた単なる士官学校生徒同士……新入生と上級生の間柄になるだけだ」


「ううん。これは私の気持ちなのです。気にしないで下さい」


フォウラは何故か顔を赤らめてモジモジしている。マルクスは更に


「俺はこれから学校に戻ってマーズ主任教官に報告をしなければならない。その席でお前達の復学についても伝えるので、そうだな……今日と明日はゆっくり休んで明後日から登校すればいいのではないだろうか。

恐らく、主任教官から教頭殿……教頭殿から校長閣下に伝わって、最終的には校長閣下から復学許可が下りる形になると思うのでな。

許可の通知がお前達の住所に届くのは早くても明日になるのではないだろうか」


「そ、そうですか……。では父に挨拶をしてから自分の部屋に戻って通知を待つ事にしますわ」


「俺もそのようにします」


「ではな。ダンドーは左手の指をよく動かすようにな。半月以上も動かして無かったから筋力が衰えているだろう」


「分かりました。では失礼します」


 姉弟は再度頭を下げて灰色の塔の方向へ去って行った。恐らく父であるアーガス・ネルが滞在していると教えられた老舗高級旅館「ホテル・ド・ノイタル」に向かったのだろう。


彼らは現在、実家を離れて王都に賃貸で部屋を借りているのだが、マルクスがアラム法務官に誓約させた和解条件の内容が執行された場合、ネル家が本邸を構えている王国領西部の中心都市であるサイデルから、既に引退・退役している今年72歳のメルサド・ネル元西部方面軍参謀長を含めた一族全てが王都への移住を命じられるはずだ。


彼らの移住に対しては軍務卿の名において「勧告」という形で行われるのだが、これに応じない場合は軍務省の権限においてメルサドに対する「軍人年金」が停止される事になるだろう。


しかし皮肉な事に、その軍人年金を管理するはずの軍務省人事局受給審査部の中にも「ネル家の協力者」である調査課長のアンリ・スレダ中佐が含まれており、彼女に対してもマルクスの提示した和解条件によって近々に更迭……というよりも辞職に追い込まれるはずなので、暫くは混乱が起きそうである。


 マルクスは校内に戻って本校舎二階東側の総合職員室に赴き、出入口の扉を開けて付近の職員に


「一年一組所属のマルクス・ヘンリッシュです。一回生主任教官殿にお取次ぎを願います」


と申告した。総合職員室は「一般廊下」側から一回生、二回生、三回生という順に机の島が並んでいるのだが、この職員室を日常利用しているのは一回生教官だけで、理由は一回生の教室だけがこの本校舎にあるからだ。


 二回生……陸軍科は東校舎、海軍科は更衣室も併設されている西校舎に教室もあるので二回生教官は一日の大半を各々の校舎に併設されている職員室を利用している。


三回生になると海軍科……海軍航海科と海軍戦闘科は10月になるとチュークスにある海軍本部の中にある「分校」に移ってしまうのでほぼ不在になるのだが、北校舎の西側……剣技台に隣接している区画に教室があり、その他の区画を陸軍科三回生の軍務科、陸軍歩兵科、陸軍騎兵科の教室が占める。各校舎には食堂もあるので本校舎に教室が無い上級生や、教官も登校出勤の後はそれぞれの校舎を利用するので本校舎の職員室には不在である事が多い。


但し、普段は授業を持っていない主任教官は別で、二回生、三回生の主任教官はこの総合職員室に常駐している。

マルクスが訪れた時も大部屋の東側奥……校長室の入口手前の席には三回生主任教官で、今回の事件で図らずも「ネル家の息が掛かった」事が発覚してしまったヴィレン・ボレグ大尉の姿も見える。


彼は今回の件で自分の「身上」がマルクスによってアラム法務部次長に報告されてしまっている事を当然ながらまだ知らない。


 彼の実家はサイデルの豪商ボレグ商会で、彼はボレグ家の三男であった為に士官学校に入って軍人を志すようになり……更にネル家に嫁いだ伯母の夫、当時の西部方面軍参謀長であったメルサド・ネルの庇護を受けて王都方面軍に任官。


五年前に今度はメルサドの長男で彼にとっては従兄に中るアーガスによる「手配」を受けて士官学校教官として赴任し、二年前にアーガスの長女フォウラが考査首席で入学すると大尉進級と共に一回生主任教官に昇進。


その後はフォウラの進級に合わせて二回生主任教官、そして今年になって三回生主任教官へと異例の昇格を受けてきた。

アーガスの目論見では、ダンドーが卒業する再来年まで現職に留まり、彼の卒業……西部方面軍への任官と同時にボレグ大尉も「少佐」に進級した上で西部方面軍へと転任して、将来のダンドーを補佐する役割を担う予定であったと思われる。


 余談だが、ネル家から送り込まれた常駐憲兵士官二人もこれと似たような計画の下に配されていた。二人の憲兵士官はダンドーの卒業後、前職が憲兵本部所属第二憲兵隊副隊長であったダフ・ネルガイズは本部に戻った上で隊長職を飛び越えて憲兵課主任へと昇進する予定であった。


今一人の憲兵士官であったボレス・エンダも憲兵大尉進級と共に西部方面軍付の憲兵隊長へと復帰して、軍司法官としてダンドーを支えるという想定であったようだ。


このようにして、メルサドから始まる「ネル家閥」を三代で完成させる為の企みはフォウラ、ダンドー姉弟の起こした士官学校殺人未遂事件によって頓挫する事となる。


 タレンは一回生主任教官の席で職員からの呼び出しを受け、出入口に立っているマルクスの姿を認めると、慌てて席を立って彼の元に速足でやって来た。


「こっちで話そう」


いつものようにマルクスを誘って、タレンは職員室の隣室である第十面談室に入り、いつも通り彼に椅子を勧めて自分もいつもの席に座った。


「お疲れさん。それで……和解の話になったのかね?」


タレンが早速と言った感じで尋ねると


「ええ。やはり和解を勧告されました。それでまぁ……和解にはなりましたな」


「条件は呑んで貰えたのかい?」


「ええ。全て呑ませた上で誓約もさせました」


「誓約……?少将閣下にかい?」


「いえ。アラム法務官にです」


「法務官に誓約させたのか!?……よくもまぁ、そんな軍高官に……」


「向こうも追い詰められてましたからな」


「ということは……やはり君が言っていた通りだったってことか?」


「ええ。今上陛下のご叱責が怖かったのでしょうな」


「その部分を指摘したのかい?」


「まぁ、指摘という程では無いですが……それを『匂わせた』という感じでしょうか」


いつものように感情を面に出すようでも無く語る相手を見てタレンは苦笑した。


「なるほどな……。もしよければその『条件』とやらを私にも教えて貰えないかな?」


「あぁ、構いませんよ。主任教官殿は最早今回の件には両足まで突っ込んでいらっしゃいますからな。事の顛末を知らないままでは気持ちが悪いでしょう」


 マルクスも笑いながらタレンに「三つの条件」を説明した。それを聞いたタレンは自分が予想していた以上の内容に驚いて


「かっ……関係者を全員……」


と、絶句してしまった。


「ええ、全員です。そこまでしないと他の『愚か者に対する警告』にならないでしょうからな」


「他の愚か者……?他が居るのかね?」


「さぁ……どうでしょうかねぇ」


いつものすっとぼけた態度で躱されたタレンは再び苦笑して


「まぁ、いいだろう。軍閥化を防げただけでも良しとしないとな」


「ご納得頂けましたでしょうか」


「そうだな……。君が和解に応じると聞いた時は正直失望したが……なるほど。これだけの条件を呑ませたのであれば、私だってそれを望むだろうさ」


 タレンとしては複雑な心境だ。これ程の条件を呑ませて和解に応じた事でネル家の野望を根本から挫く事が叶うわけだし、軍務省の上層部にも良い薬になるだろう。


しかし、この条件によって士官学校の中にも小さく無い粛清が入る事だけが彼にとって残念な思いが残った。


彼はまだ赴任してから二ヵ月足らずという短さである為に、学校内の「粛清対象者」ともそれほど親しくなってはいないが、やはり職場の同僚……「士官学校教職員」という職に就いている者が生徒達にその理由を知られる事無く学校を逐われるという場面を見るのは成り行きで教育者の端くれになってしまった自分にとっても辛い状況であった。


「和解条件に関するご報告は以上です」


「そうか。入学早々、お互い厄介な事に巻き込まれてしまったな」


「まぁ……そうですな。それと主任教官殿にお願いがございまして」


「うん?まだ何かあるのか?」


「ネル姉弟の復学についてです」


「あぁ、その事か。で……復学するのかい?」


「ええ。本日既に和解を受けて両名は憲兵本部から釈放されております」


「何!?もう釈放されているのか?」


「はい。先程私と一緒に憲兵本部から出まして、父親の滞在する旅館に向かっていると思います」


「随分と展開が早いな……。一緒に出て来たって事は……君はあの二人とも面会したのかい?」


「ええ。法務官殿と和解について取り決めた後に面会を求めましてね」


「何と……。君から面会を求めたのか」


「そうですね。和解するに当たって、あの二人に今回の件における反省を促す必要を感じましたので」


「反省って……あの姉弟……特に姉の方はそんな反省などするようなタイプには見えなかったがな……」


 タレンは苦笑した。あのフォウラ・ネルはタレンの正体が「ヴァルフェリウス公爵家次男」というネル家の威勢を以ってしても太刀打ち出来ない相手である事を知らなかったとは言え、学年主任教官という立場である彼に対して随分と「上からの目線」で挨拶に来た事を記憶しており、それが彼女に対しての印象を悪くしていた。


恐らく当時の彼女はタレンよりも先任扱いとなるボレグ三回生主任教官の後ろ盾があった為に、彼に対してそのような振る舞いが出来たのだろう。


更に言えば、彼自身の学生時代の経験から……「自治会」という組織についても良くない印象を持っていた為、目の前に居る首席生徒から「復学の目がある」と知らされた上で、教頭や学校長に対して処分を急がないように手を打つ際にも、それほど乗り気では無かったのだ。


「一応は彼女達も反省の色を見せたので、お手数ですが両者の復学手続きを執って頂けますでしょうか」


「そうか……分かった。ではまだ教頭殿もいらっしゃるだろうから、事情を説明して復学許可を頂いてこよう」


「お願い致します。彼女達も学生として復学する以上は一日でも早くそれが実現した方が良いでしょうから」


「君はどうなんだ?彼女達の復学については何の異存も無いのかね?」


「私ですか?特にありませんな」


タレンの問いに対してマルクスはあっさりとした態度で答えた。


「ほぅ……私はてっきり、君自身はあの姉弟に対して良い印象を抱いていないと思っていたのだが……」


「いえ。私が彼女達に対して厳しい態度で臨んだのは彼女ら……まぁ、『あの家』の者達の遵法意識の低さによるものであって、彼女達個人に対しては別段何か悪い感情を持っていたわけではございません」


「そうか……そう言うものなのか。君は若いのにしっかりしているな」


タレンはまた苦笑した。つまり若者の言葉を「罪を憎んで人を憎まず」という事なのだろうと彼なりに解釈したからだ。

15歳という年齢でそこまで割り切って考えられる、成熟した精神に対して今更ながらに感心したのだ。


「よし。それでは今回の件はこれでひとまず解決だな。私は早速教頭殿に復学の件を話してくるよ。改めてご苦労だったな」


「いえいえ。主任教官殿にも多大なるご迷惑をお掛けしました事を最後になりますがお詫び申し上げます」


マルクスは立ち上がって深々と頭を下げた。


「そんな真似をしないでくれ。君は被害者なんだ。しかも入学二日目という状況だったんだ。謝る必要は無いさ」


「そのように仰って頂き恐縮でございます。それでは失礼致します」


 マルクスは面談室を後にして、昇降階段へと去って行った。


(しかしまぁ……入学二日目だったんだよな。入学二日目であんな騒ぎに遭遇して……それでも彼は冷静に……そして最善の「やり方」で乗り切ってしまった。

今回の件でどれだけの大人が彼によって肝を冷やされた事か……)


その「肝を冷やされた大人」の一人であるタレンは突然おかしくなってきて、残った面談室の中で大笑いしてしまった。


****


 タレンは職員室に戻り、そのまま自身の席の後方にある教頭室への扉をノックした。時刻は16時40分。よっぽどの事が無い限り教頭は在室しているだろうし、タレン自身は自席の後方にあるこの教頭室からその主が出たところを見て居ない。


「どうぞ」


案の定、部屋の主はまだ退勤していなかったようだ。


「失礼致します」


タレンは部屋の中に入り、後ろ手で扉を閉めた。先日の白兵戦技改革において意見を交わして以来、タレンはこのハイネル・アガサという人物について、ある程度の「見切り」をつけている。


 目の前の教頭職を務める軍官僚は、非常に頭の固い保守的な人物であり……しかも「事勿れ主義」をそのまま体現したような印象しか持てない。

このような人物に今回の事件の詳細な情報を与えてしまうと、当然のように自らの保身に走ってしまい、(いたずら)に士官学校の立場を悪くしかねないという個人的な判断によって、手続き上の話しかしていなかった。


アガサ教頭自身は前職が軍務省情報局情報部情報課長というまさしく軍部の情報部の中心に居たので独自に何か情報を掴んでいるかもしれないが、今のところはその後の彼と姉弟の校則違反……校内における他の生徒への暴行という行為に対する処分に関係する事のみ、やり取りをしただけだ。


「おや。マーズ主任ですか。どうされました?」


まるで先日の白兵戦技改革についてこの部屋を訪ねた時と同じような教頭の反応にタレンは思わず胸の内で笑ってしまったのだが、(おもて)には全くそれを見せずに


「このような時間に失礼申し上げます。先日のフォウラ・ネルとダンドー・ネルの姉弟による校内暴力事件に関する事でご報告がございまして」


 タレンの言葉を聞いて、アガサ教頭の顔色が一瞬変わった。

彼にしてみれば「三回生首席生徒が校内で暴力事件を起こして憲兵隊に連行された」この事件は、自身が教頭として赴任している間に起こった最大の事件とも言えるもので、更にその父親の地位を考えると自身に降り掛かる火の粉の大きさをどうしても懸念してしまう出来事であった。


「あの姉弟の……?」


途端に渋い表情になって応える教頭に対してタレンは


「はい。実は先程、被害者である例の首席入学生と姉弟との間に和解が成立したようです」


と、事務的に報告した。


「なっ!?和解ですって!?たっ、確か……軍法会議になると聞いてましたが……?」


「教頭殿はその後の経過について何かお聞き及びになられていらっしゃるのでは?」


「え、ええ……起訴となって軍法会議が開かれる予定だったのが……マーズ主任が姉弟の父君であらせられる第四師団長閣下と接見した事で開廷が先延ばしになったと……」


「はい。その通りです。但し軍法会議で結審されるまでは当校からの処分も保留されるようにとの具申をお聞き届け頂きまして」


「ええ。その件については私から校長閣下へお伝えしてあります。なので処分は保留されたままになっておりましたが……」


「はい。結果的にそのような対応を採って正解だったようです。姉弟は先程、和解を受けて釈放されたとの事です」


「そ、そうなのですか……」


「今回の検察側である法務官殿からも釈放許可が下りており、正式にはまだ父君を含めて和解合意書への署名が済んで無いとの事ですが、これが裁判長に提出されれば本件は『姉弟へのお咎め無し』で終結するようです」


「しかしよく和解が成立しましたね……まぁ、相手は所詮新入生だったと言う事なのでしょうね……。師団長閣下のご威光が働いたとか?」


あくまでもマルクス・ヘンリッシュを「ただの新入生」として見ているアガサ教頭に対してタレンは笑い出しそうになるのを堪えながら


「姉弟から学校長閣下へ復学許可を頂けるよう要請が入っております。お手数ではございますが閣下にお取次ぎ願えますでしょうか」


「あ、あぁ……そういう事ですか。分かりました。恐らくまだ……閣下はご在室になられていると思いますので……」


どうやらアガサ教頭は「復学許可の要請」がアーガス・ネル少将から出されていると勘違いしているようで、腰の重い彼としては珍しく……学校長への取次を取り急ぎ実施してくれるようだ。


 教頭は席を立って「では伺ってみましょう」と言いながら部屋を出て隣の学校長室へと向かう。タレンもその後に続き、二人は校長室の扉の前に立った。


「私はここでお待ちしております」


と言うタレンに教頭は


「いや、君も一緒に来なさい」


扉をノックしながら声を掛け、中から「どうぞ」という声を聞いて「失礼致します」と型通りの挨拶をしながら扉を開けて中に入った。タレンもそれに続く。


タレンはアガサ教頭と揃って挙手礼を行い、部屋の中の様子を窺うと、教頭室よりも二回り程大きな校長室の奥には幅2メートル近い大きな机が置かれており、その向こう側の立派な椅子に学校長であるロデール・エイチ海軍大将が座っていた。


 ロデール・エイチ校長は今年で61歳。前第四艦隊司令官で学校長への就任は前年の3047年である。彼自身は海軍航海科出身で3006年卒業の金時計授受者だ。


陸軍科優位であるこの王立士官学校において海軍科生徒が卒業生首席、それも成績抜群による金時計を授与されるのは極めて珍しく、その後はアデン海に面した港湾都市ドンに本拠を置く第四艦隊に任官して、同艦隊一筋で進級と昇進を繰り返して最終的に艦隊司令官まで上り詰めた。


第四艦隊は、同じくドンに拠点を置く第七艦隊、更に南方のチュークスに拠点を置く第一、第五、第六艦隊と並んで魔物が多く生息するアデン海側を任地とするだけに、生命をかけた実戦を多く経験したエイチ大将は近年稀に見る剛毅な学校長としてアガサ教頭を始めとする教職員に恐れられている。


先日、この校長に対して今年の首席入学生が直接なのかは不明だが入学式の欠席許可を取り付けたようで、「ついでのように」学費まで納入するという珍事が発生した。


学校側もこの件をどう取り扱っていいのか判らず、ひとまず学校長が不機嫌な顔で持って来た金貨の入った革袋を受け取った会計職員を震え上がらせ、入学式を欠席した首席入学生を糾弾する声を一喝して不問にしたのは記憶に新しい。


「閣下。お忙しいところを申し訳ございません」


「ふむ。何かね」


 ロデール・エイチ提督はこの「士官学校長」という職責に対しては特に不満を抱いていないが、士官学校そのものに対してはあまり良い印象を抱いていないようであった。

理由としてはこの高等教育機関が相変わらずの「陸軍優遇」であり、この本校において海軍からの教員が極めて僅かしか採用されていない事が気に食わないらしい。


その「気に食わない陸軍連中」の最たる者が、この目の前にやってきた軍務官僚出身の教頭であったのだ。


「先日……構内で暴力事件を起こしたフォウラ・ネルとダンドー・ネル姉弟の復学許可を頂きたく参りました」


「フォウラ……?ああ……確か三回生の首席である女子生徒だったか」


「左様でございます。下校中の新入生……首席新入生のマルクス・ヘンリッシュを襲撃した一件でございます」


「マルクス・ヘンリッシュ」という名前を聞いたエイチ校長は一瞬、両目を大きく見開いた。どうやら彼の脳裏には、彼の記憶が「何かしら」の状態で残っているのだろう。


「憲兵の介入があったと聞いているが……現行犯で連行されたのだろう?」


「その通りでございます。ただ、その後色々とあったようでして……どうやら被害生徒と姉弟の和解が成立したそうでございます」


「和解とな?確か……あの女子生徒の親は陸軍の師団長だったな」


「はい。西部方面軍第四師団長のアーガス・ネル少将閣下でございます。恐らくは今月中に中将への進級があるかと……聞いております」


「フン……師団長という立場で被害生徒を恫喝でもしたか。娘と息子が不祥事を起こしたのに進級があるのか?」


海軍の元提督として、やはり校長は陸軍の高官に対しては良い印象を持っていないらしい。


「その辺りの内情につきましては……私も把握しかねておりますが……こちらのマーズ主任がご説明致します」


 教頭は愛想笑いを浮かべながら、後ろに控えるタレンに対して校長への説明を丸投げしてきた。

タレンは苦笑を浮かべながら、相手が歴戦の名提督であるにも関わらず落ち着いた口調で


「申し訳ございません。私も両者の和解内容の詳細までは把握しておりませんが、ともかく両者の和解が本日の話し合いによって成立し、加害者であったネル姉弟は拘留されていた憲兵本部から釈放されたそうでございます」


「そうか。もう釈放されておるのか。それで?復学を希望していると?」


「そのようです。本人達も十分に反省しているそうでして」


「なるほどな」


「但し、和解と言ってもあくまでそれは憲兵を通して軍務省側の取り扱い……つまりは軍法会議に対する『起訴取り下げ』を指す事でして、復学に関しては本校の校則違反に対するご判断が必要となります」


「そういう事か。分かった。それで?被害者の学生は何と言っているのかね。和解したと言っても復学させて校内でまた顔を合せる事に対して何か不満があるのではないか?何も罰則が摘要されないとなると校内の統治に対して問題があるのではないか?」


「仰る通りです。一応、私が被害者本人の考えを聞いたところでは、それほど拘りを持っているわけでは無さそうでした。和解も成立する事だし、加害者の復学にも特に異存は無いと申しておりました」


「そうか。では復学自体には特に被害者からの抗議も無いわけだな?ならば復学は認めても良いが、それでも何かしらの罰は与えないといかんな」


 信賞必罰を旨とする軍隊において、エイチ校長の言い分は尤もな意見であった。ネル姉弟は実際に校則の違反を犯しているのである。

その行為に対して罰則が摘要されないと、校則と罰則規定の空文化を招いてしまう。


「閣下の仰り様はご尤もではございますが、姉弟は憲兵から拘束を受け……既に20日を超える拘留によって大幅に学業に対して支障を来しております。

この長期に及ぶ拘留を本校における『停学』として算定出来ませんでしょうか」


タレンは校長の意見に臆する事無く姉弟の憲兵本部拘留による処分相殺を具申した。


「なるほどな。そういう考え方もあるのか」


「はい。報告によれば姉弟は今回の件について反省の態度を見せており、本省の法務官殿もその辺りを汲み取って釈放の許可を出したそうです」


「分かった。では復学の許可を出そう。但し……加害者の姉弟は年末までの観察処分とする。観察はマーズ主任。君に一任しよう」


「寛大なるご判断に感謝致します」


 タレンは頭を下げると、アガサ教頭も一応それに倣い


「それでは復学への手続きを実施致します。お忙しいところをお時間を頂きまして誠にありがとうございました。これにて失礼致します」


二人は改めて挙手礼を実施して校長室を後にした。


「では主任。復学許可は出たので姉弟への通知を任せてもいいですか?」


アガサ教頭からの丸投げに対して


「では後程書類をお持ちしますので、校長閣下と教頭殿の署名を頂けますでしょうか」


「分かりました。署名の方は書類を頂ければ私が校長閣下の署名も頂いてきましょう」


「お手数をお掛けします。では取り急ぎ書類を作成致します」


 タレンは自席に戻って復学許可書のひな形を作成し始めた。どうやら本日中に正式な復学許可を通知出来そうだ。


(ふむ。何とかヘンリッシュとの約束は果たせそうだな)


彼は漸く決着がつきそうなこの騒動に、大きく息を突くのであった。


****


『監督、ちょっといいか?』


士官学校の門を出て漸く本日の下校に至ったルゥテウスはドロスに念話を送った。


『店主様。どうかなされましたか?』


すぐに返答があった。


『忙しいところを済まんな。憲兵本部について、聞きたい事があるのだが……』


『王都の憲兵本部ですか?何かございましたか?』


『いや、憲兵本部と言うよりも……憲兵課長のサムス・エラという人物を知っているか?』


『サムス……サムス・エラ……ですか……。おぉ……。確か、内務省から転籍した者でしたな』


ここ十年近く、内務省を中心として王都の情報収集に深く携わってきたドロスは、今や世界で一番王都の内情に詳しい人物であろう。


 《青の子》の諜報員で、現在王都で活動しているのは28名に上る。嘗てまだ活動範囲を広げていなかった時期には、諜報活動の中心は公爵領の領都オーデル市内とその周辺に人員配置を厚くしていたのだが、暗殺員の転換訓練も終わり……更にはキャンプの施設が充実するに従って《青の子》の構成員数も飛躍的に増え、現在トーンズ国側で活動している者も含めて、その総数は1000人を超えている。


内務省と魔法ギルドの間に入って双方を煽る工作に従事している、ルゥテウスから与えられた魔術遮断付与の指輪を装着している五名の他にも、23名の諜報員が王都全体を隈なく嗅ぎ回っている事になる。


 二年前からは、何と王城の中に入り込んでいる者まで居るのだ。他にも大聖堂の下働きに姿を変えている者まで居る。

そう言った者達から集まる情報をドロスは一元的に管理しており、彼の中で吟味された情報を基に新たな指令を飛ばしている。


当初は四号道路とネイラー通りの交差点に建つ菓子屋だけしか無かった彼らの活動拠点も今では四ヵ所に増えていて、連絡も密に行われている。


 王都レイドスは世界の超大国たるレインズ王国のまさに心臓部であるが故に、公的私的様々な情報機関、諜報組織が活動している。勿論、外国の組織すらその中には含まれている。


公的機関としては内務省や軍務省、憲兵本部の他にも監査庁を抱える宰相府や王室直属の情報組織の存在も知られている。


民間のものとして、最も大きな組織は世界中に支部を持つ冒険者ギルドが抱えている情報部隊だが、彼らの場合は、個々の冒険者の持つ情報収集能力に依存しているという性格を持っており、何らかの理由で特定の情報が「必要となる」場合に、その都度対象となる情報を「依頼人」が対価を支払って求めるという形を採るので常時の情報力という意味ではそれ程高くないと思われる。


そして忘れてならないのが、公的機関を大きく凌駕する能力を持つ魔法ギルドの存在だ。


 また、貴族の中には私財を投入して独自に情報網を築いている家も存在するが、所詮は一個人の財力では大した規模では無い。勿論、この中には「ネル家」も含まれる。


その他にも大商会が商況や商機を計る為の情報網を持っている場合や、逆にそのような需要を狙った情報を「商品」として扱う変わった商会も存在する。旧《赤の民》もそのような商会を通じて諜報力を金銭に変えていた時代があった。


ナトス・シアロンが率いる「シアロン派」も多少特殊ではあるが、内務省が正規に抱える情報組織とは異なった「有志による情報網」と言える。


大袈裟では無く、王都市中で情報組織に何らかの形で関わっている者は延べ人数で数千人は存在していると思われる。

しかしなぜ……この人数を「延べ」という表現にするのかと言えば、複数の情報組織に足を突っ込んでいる……場合によっては「スパイ」や「二重スパイ」と呼ばれる者が存在するからだ。


しかしその中でも、《青の子》の組織力、人員の質は王都の情報・諜報組織の中でも突出しているだろう。


従事している人数は28名。そのうち五名を対魔法ギルド専門に割いているので人員の数という意味ではそれほど大した事は無い。

人員規模で言えば、一部の貴族……特に商会の経営もやっているような家が抱えている情報部門のそれと変わらないのだが、何しろその設備・装備と人員自体の質が桁違いなのだ。


 ルゥテウスがキャンプに現われる前から、諜報員の養成について独特のノウハウを持っていた彼らは、不思議な幼児から様々な力を借りながら組織編制や制度を洗練させて行き、ルゥテウスやシニョルから薫陶を受けたドロスのカリスマ性と指導力によって規模と質を急速に発展させた。


レインズ王国では差別の対象とされてきた「難民」という境遇が彼らの団結力を強固にしている面もある。


それに加えてやはり他の諜報機関と決定的な差を生んでいるのは「念話」による連絡網と「転送陣」による移動力だろう。


他の組織が王都とドレフェスとの間を通常の駅馬車で五日から六日、全力で馬を乗り継いでも三日は優に掛かる距離を青の子の諜報員は一瞬で往来してしまう。

この世界では遠距離の連絡手段ですら魔法使いでも無い限りは、実際の移動を伴ったものになり、人員や物資の移動ともなれば魔法ギルドですら術使用に制限があることから、そのアドバンテージは計り知れない。


そして彼ら《青の子》を率いるドロスはその巨大な優位性を早くから認識していた為、それを最大限に生かすような組織作りをこの十年に渡って進めてきた。

この恐るべき組織は、情報世界を圧倒しているのだ。


 憲兵課長の事についても、この諜報の達人は知っていた。


『何だと?内務省からの転籍?』


店主の珍しい反応に、ドロス自身も驚いて


『ど、どうかされましたか?その憲兵課長が何か……?』


『ふむ。実はその憲兵課長が、「魔法ギルド」という名詞に対して特別な反応を見せたのでな』


『なるほど……。少しお時間を頂ければ彼に対する情報を記録から取り出して来ますが』


『すぐに分かるものなのか?』


『ええ。私の記憶にその名がありましたので、身辺調査は行われていると思われます』


『そうか。では俺もこれからキャンプに帰るので薬屋で待っててもいいか?』


『承知しました。取り急ぎお調べした上でお伺いします』


『うむ。済まんな。忙しいだろうに』


『いえいえ』


ルゥテウスは念話を終わらせて近衛師団本部の前から王城前広場を突っ切るようにネイラー通りの入口……内務省の本庁舎のある交差点に足を向けた。


****


 ルゥテウスが藍玉堂に戻ると、既にドロスは二階で待っていた。帰りが遅くなったルゥテウスを心配していたノンに事情を説明してから二階に上がった彼は


「相変わらず早いな……」


と笑いながら大机の椅子に座る。


「お帰りなさいませ」


 50も半ばになって両鬢に白い物が目立つようになっても、ドロスの物腰には全く隙が見受けられず、その顔つきも変わらずに鋭い。

彼に比べれば、軍務省の中でも切れ者と名高いアラム法務官や、今回の調査対象になったエラ憲兵課長ですら普通の小役人に見えてしまう。


彼が心の底から畏れるのは、目の前の青年と凄まじい知謀の持ち主であるトーンズ国の大統領だけであった。


「それで……サムス・エラについて、何か記録は残っていたのか?」


「はい。やはり私の記憶にあった通り……彼は嘗て内務省に勤務しておりました」


「ほう……そうなのか。して……『どっち側』だったのだ?」


「はい。店主様のご想像通り……『シアロン派』でございます」


「なるほどな……それで魔法ギルドの名前に敏感な反応を示したのか」


「一応、彼の経歴についてお知らせ致しますと3021年度の王立官僚学校卒業で当時の席次は三位。『指輪組』と呼ばれる席次上位者であり、青玉(サファイア)の指輪を授与されたようです」


「指輪……そういえば……うむ。確かに右手に指輪をしていたな。なるほど指輪組……あのナトスやエリン……だったか。奴らと同じエリート官僚だったと言うわけだな?」


「そのような認識で間違いないと思います。内務省時代は警保局警務部に所属していたようです」


「ほう……警保局か。ナトスとは部署が違うな。それに年齢で言っても奴よりも上だろう?」


「左様ですな。ナトス・シアロンは今年で38歳。一方のサムス・エラは45歳です。但し、省内ではナトスの方が出世は早かったようですな。ナトスは同年代の中では『出世頭』と呼ばれているようですから」


 ナトスは3048年現在、既に内務省貴族局私領調査部次長という地位に居る。38歳で中央省庁の次長クラスに居るのは相当な出世速度で、しかも門閥でもない立場でその地位ともなれば驚異的とも言える。


特にナトスの場合、対立派閥の側に内務省の人事権を握られている事を考えれば、その出世スピードは近年に無いものであった。

しかし、「対立」している側の者達に……その意識があるのかと言えば相当に怪しくなる。それだけ彼らの動きは巧妙を極めていた。


「年少のナトスの活動に共鳴したのも、どうやらこの『警保局』という部署が理由だったようでして、この部署で内務省全体の人事査定に関わっていた事で、『省内の人事格差』に気付いたものと思われます」


「なるほどな。アルフォードだっけか。あの貴族家の専横に対して少なからず不満を持ったと言うわけか」


「そのようですな。そしてナトスからの勧誘に乗って『シアロン派』に加わり……主に内務省の内部への探索に関わっていたようです。

しかし、その活動を通じて同志から上層部と魔法ギルドの繋がり……まぁ、これは店主様が植え付けた筋書き(シナリオ)ですが……それを聞き及んでいたのでないでしょうか」


「くくく……つまり俺は、俺自身で撒いた種によって『魔法ギルドとの繋がり』を疑われたのか……あはははは」


ルゥテウスは皮肉な結果におかしくなって笑い出してしまった。


「え……?そのような事が?」


ドロスはルゥテウスが笑いながら話した内容に驚いて尋ね返してきた。


「まぁな。どうやらアラム法務官という者が、どこからか吹き込まれた話を思わず口に出してしまった事によって憲兵課長殿は昔の記憶が甦ったのではないだろうか」


 相変わらず笑っている店主の言葉にドロスは考え込んで


「彼の経歴について説明を続けさせて頂きますと……どうやら省内での動きが相手側に不審感を与えてしまったようで、内務次官から警保局長や警務部長を飛び越えて直接の訓告を受けたようです」


「そりゃ相当なもんだな。よっぽど何か露骨な真似をしたのか?」


「どうやら内務卿の秘書官だった女性に『ちょっかい』を出したようですな」


「おいおい……凄ぇな。憲兵課長様は」


ルゥテウスはまた大声で笑い始めた。


「内務卿側からの風当たりが強くなった為に、3041年……内務省を辞して軍務省に転籍したようです。どうやらその時期に上手い具合に『引き抜きの誘い』があったようですな」


「ほぅ……。実務能力自体は高かったのだろうな。何しろ指輪組だ。内務省での立場がマズくなっても他の省庁で引く手数多だろう」


「そのようですな。3041年に憲兵課主任……大尉待遇での転籍だったようです。それから7年で現在は憲兵課長……憲兵中佐にまで昇進しております。やはり元々は官僚として有能なのでしょう」


「なるほどな。中途採用でそこまで出世が早いのであればそれなりに優秀なのだろう。色々とな」


「それにしても魔法ギルドとの繋がりを疑われているのは、あまり宜しくないのでは?」


監督の心配を余所に、店主は尚も小さく笑いながら


「いや、そこまで解れば問題無い。つまり彼の魔法ギルド……魔法に対する認識も『シアロン派』のレベルだってことだろう?」


「まぁ、そういう事になるでしょう。憲兵隊であれば内務省以上に魔法ギルドとの関わりも薄いでしょうし……」


「そうだろうな。そもそもサムス・エラ自身は内務省時代だって『対魔法ギルド側』に配されていたわけでは無いのだろう?」


「はい。それは確かなようです。彼が担当していたのは内務卿……現在は『前内務卿』ですか……本人の周辺とその娘……エリン・アルフォードが所属していた『渉外室』周辺の情報収集だったようですから」


「あぁ、ナトスが恋い焦がれたエリン嬢か」


店主はずっと笑いっぱなしである。


「今では彼女も渉外室長です。父が残した省内勢力の庇護下でこちらも驚異的な出世を遂げておりますな。職位だけで言うならばナトスよりも上になります」


 エリン・アルフォードは今夏の除目にて渉外室長に昇進していた。


内務卿直下の部署である渉外室を束ねる渉外室長ともなれば、本省の中でも部長級の職位となり、資料調査部次長であるナトスよりも上席となる。しかも彼女はナトスよりも8歳年少である30歳だ。


30歳……それも女性という身で本省の部長クラスの職位に居るのは通常考えられない。これはもう内務省が確実にアルフォード家によって「私物化」されているという証左であると言える。


エリン自身は既に夫であるワイマル・アヴェルとの間に男子を一人儲けている。夫であるワイマルは33歳の若さで既に海軍中佐にまで出世しており、これもまた驚異的な出世速度だ。


辺境伯家である名門アヴェル家の次男であるとは言え、周知の通り特定の貴族家……ヴァルフェリウス公爵家以外の貴族には忖度をしないとされる王国軍の中でワイマルの経歴は突出しており、24歳で少佐、29歳で中佐、そして今月の通達で大佐への進級が内定している。


 自領において海軍を私有しているアヴェル家にとって、次男のワイマルが将来の自家海軍の指揮官となるのは既定路線であり、将官進級後に恐らくは男爵家として別家を立てる事が許されるであろう彼は、そのまま軍に残って海軍司令官……場合によっては軍務卿を目指すのか、あっさりと退役して自家海軍を領導するのか、次の世代の中で最も注目を受ける人物の一人でもあった。


その妻は内務省の中で地位を固めており、その影響を考えると「次のネル家」になってもおかしくない組合せであった。


実はルゥテウス……マルクスがタレンやアラム法務官に対して仄めかした「他の者達」とは、このアヴェル家とアルフォード家の紐帯を指していたのである。


「実は店主様……これはまだ確かな事では無いので報告を控えておりましたが……」


 ドロスが急に態度を改めたのでルゥテウスも笑いを引っ込めて


「ん?何だ?」


「ナトスの……エリンに対する『恋情』についてです……」


「おぉ。あれからもう八年くらいになるよな?」


「左様でございます。店主様の暗示によってナトスはエリンへの想いを断ち切って『工作』に励むようになったと思っておりましたが……」


「ん……?まさか……ナトスへの暗示が解けているのか?」


「あ、いえ。そう言うわけでは無いと思います。ただ、私はここ数ヵ月……この件についてずっと探りを入れているのですが……」


「ほぅ……監督自身でか?」


「はい。実は……店主様にこの機会ですから率直にお尋ね致しますが、八年前のあの時……このキャンプにエリン嬢とナトスが率いる監察班がやって来た時の事です……」


「うん」


「店主様がナトスを尋問した際に、彼の口からエリン嬢への懸想についての供述を得ましたな」


「そうだな。あの当時、奴はエリンに夢中だったようだな」


ルゥテウスは小さく笑った。しかしドロスは真剣な表情のまま


「あの尋問によってナトスが吐き出したエリン嬢への恋情……その後傀儡の暗示に掛けた後に私が店主様からお預かりしているこの魔装具を通した彼の心情……あれは本当に彼の『意思』だったのでしょうか?」


「うん……?どういう事だ?」


「つまり、あの尋問の時点でナトスは……先に何者かによってエリン嬢を懸想するように洗脳されていたのではないかと……」


「何だって!?」


珍しくルゥテウスが驚愕する様子を見せた。


「つまり俺の『傀儡呪』が入る前に奴には別の暗示が入っていて、それによってあのようなドロっドロの恋情を抱いていたと言うのか?」


「はい……仰る通りでございます」


ドロスも自分の言っている事にそれほど自信を持っていないようだ。


「うーん……俺があの時……奴を尋問した際にはそのような気配は感じなかったな。何か魔法による暗示や『(しゅ)』が入っていれば確実に俺の結界……『領域』内では探知できたはずだ。

例えば灰色の塔(魔法ギルド本部)の入口に置かれている『一対の女神像』のようにな」


「なるほど……では魔法的な細工は見受けられなかったと……」


「監督はそこまで考える何か根拠でもあるのか?」


「いえ……これは私がこの耳に装着する魔装具を通して八年もの間、ナトスの心情を推し量って来た結果として行き着いた考えなのですが……彼はそもそも、エリン嬢を恋愛の対象とは見ていなかったのではないかと」


「何!?」


「いや、これはナトス本人の心情とは別に、彼の周辺……彼をあの事件よりも前から知る者達の彼に対する印象や評価を集めてみて思った事なのです」


「しかし、あれだろ?ナトスは『一目惚れ』だったのではないか?あの監察班を編成する際に初めて彼女の事を知って一発で『やられた』のだと思ったのだが?」


ルゥテウスは苦笑する。


「はい。私も最初はそのように思っていたのです。お恥ずかしながら、私もこのような人生を歩んできておりますので、『男女の機微』についてそれ程自信を持って断言出来るわけではありませんが……」


ドロスも苦笑いを浮かべる。諜報一筋の人生を送ってきている彼には『女性の影』が全く見受けられない。

あのノンですら、「監督様はあのままずっとお独りで過ごされるのでしょうか……」と心配しているくらいなのだ。


シニョルやイモールなど、トーンズ国首脳には独り者であることを貫いている者が多い。シニョルは自身の容姿に対する自覚から異性に対する興味を若い頃にスッパリと捨てていたし、イモールも嘗て難民としてエスター大陸から逃亡する前に最愛の女性を略奪によって喪っている。


ラロカも若い頃ならいざ知らず、暗殺者としての道に入ってからはその職務の妨げになるとの思いから女性を断っていた。

そしてドロスもそれと似たような考えを持っているようで、余計な感情を抜きにして情報判断を行いたいという彼の思想によって、人生の伴侶を持たない生き方を続けているのだ。


「ナトスもある意味で私と『同類』なのです。彼は自分の行動判断に対して足を引っ張られるのを嫌う為か、普段から全く女性を近付けません。そして彼を知る者達からもそのように見られているようです。

店主様は彼に対して『女性を忌避する』というような類の暗示を掛けたわけではありませんよね?」


「勿論だ。俺がナトスに入れた暗示は『エリンを追うのは諦めろ』という内容で、エリンという特定の女性に対する恋情を断ち切るように仕向けている。

むしろ『エリン以外の素晴らしい女性との出会い』を惹起するように誘導したつもりだがな……」


「なるほど。そのような暗示が入っているにもかからわず、あれからナトスは特定の女性と交際した事は一切ありません。それどころか周囲の者達との会話の内容から、従来の彼は女性に対して、全くそのような行動を採るような人物では無かったようです」


「しかも皮肉な事に、ナトス・シアロンという人物は容姿もそこそこ優れており、能力においても非常に優秀で、人を惹き付ける素養も相当に高いと言えます。現在の『シアロン派』という存在を見ればそれも頷けるでしょう」


「確かにそうだな。俺から見ても奴は『女にモテる』ように感じる。しかもそれでいて同性愛に目覚めているわけでも無さそうだしな」


 店主はまたしても軽く笑っている。


「その通りです。彼は男女問わずそのような感情や行動を採ることはありません。ですから尚更に、あの一時期……本当に一時期なのです。エリンという女性に対して異常とも言える恋情を抱いた……。

現在、彼の右腕となっている私領調査部監察室主任調査官であるクリル・シガンという者は、あの時期のナトスの変貌が余りにも異常だった為に陰謀の気配を感じ取ったようでした。

思えば私もあの時点で彼の言い様を聞き分けて分析に掛けていればよかったのですが……」


「ほぅ……」


「シガンは、あの時……『ナトスは一服盛られた』と認識していたようです」


「何だと?薬を使われたって事か?」


「はい。暗示や傀儡と言った魔法由来のものでは無く単純に何か『惚れ薬』のような薬物の使用を疑ったようでした」


「惚れ薬って……」


「どうなのですか?薬物による精神作用だった場合、その……それでも店主様はあの場で見破る事は出来たのでしょうか?申し訳ございません。随分と不躾な質問になってしまうのですが……」


ドロスは申し訳無さそうな顔をしている。


「いやいや。気にしないでくれ。そうだな……薬物か……うーん……言われてみれば確かに……まさか薬物を使ってエリンに惚れさせているとは……思って無かったな」


 ルゥテウスは苦笑した。自身の「領域結界」に入った時点で魔法由来の呪術や暗示が入っていたら、それは彼の力によって感知出来たはずだ。事実、その後に彼自身からナトスに傀儡呪を仕込む時には彼の「青い領域」にまで高めた上で施術している。


しかし、その際に「薬物を使われている」という先入観が無ければ、それを感知する事は出来なかっただろう。

実際、傀儡呪を仕込まれた後もナトスはエリンへの恋情を示しており、呪術でもそれを「上書き」出来なかったのだ。


「そうか……薬物か……うーん。それは盲点だったな。俺とした事が……」


ルゥテウスは腕を組んで尚も苦笑している。彼にしてみればこのように「出し抜かれる」という経験は初めての事だろう。


「あの……そもそもが、そのような精神状態に……それもあれだけ長期間その状態を保てるような薬物……薬品など存在するのでしょうか?」


「ある」


ドロスの問いにルゥテウスは即答した。


「えっ!?存在するのですか?」


「うむ。但し、いわゆる薬学によるものでは無く……錬金術による高貴薬になるな。特定の人物……これは性別に関わらず対象の人物へ魅了させるという効果を持たせる薬は錬金術で作成可能だ」


「えっ……錬金術……ソンマ店長殿のような……?」


「まぁ、そうだが……店長は薬学には興味が無いから、むしろサナが得意な分野だろうな。それとノン……最近であればノンも作れる……いや、ノンは無理か。あいつは恋愛経験が無さそうだ。ははははは」


 一変して笑い出した店主を見てドロスも苦笑を浮かべる。ノンの場合は高貴薬の作成も恐らくは本人の経験によるイメージ投影が必要となる為、本人の資質に対しての評価でルゥテウスは「あいつには無理だ」という失礼な結論を下したのである。


「なるほど……ま、まぁ……錬金術であれば可能だと言う事なのですね?」


「そうだな。薬学に精通している錬金術師であれば、まぁ……恋愛経験は無くとも作成は可能だろうな。対象を『魅了』させればいいわけだからな」


「そのような薬物が……」


「言っておくが『惚れ薬』とは違うぞ?『惚れる』と『魅了される』は別物だからな?」


 店主はまだ笑いが収まらないようだ。恐らくはこの大きな笑い声は一階にまで届いており、階下の者達は監督との会談で店主が再三に渡って大声で笑っている事を不審に思っているかもしれない。


階下の者達からすれば、監督に店主を大笑いさせるようなユーモア・センスがあるとは到底思えないからだ。


「店主様は何か楽しそうですね」


三人娘と一緒に菓子屋のオバちゃん達に配る回復薬を造っていたサナが二階の様子について感想を述べると


「そうね。監督さんとお話ししていてルゥテウス様があれだけお笑いになるのは珍しいわね」


 ノンもチラやアトに文字を教えながら応える。12歳で暗殺者への選別が行われるまで、初等教育にそれほど熱心では無い《赤の民》では文字の読めないまま羊飼いになる者達も多い。


暗殺者としての技能を習得する中で読み書きは教わるのだが、選別もされていない年頃であった双子には、文字の読み書きを含めた初等教育は施されていなかった。


アトが薬学に興味を示すようになったので、この機会に姉も含めてノンは双子に教育を施そうと思ったのである。

そもそも、将来は二人共術師として研鑽を重ねる事になるので文字知識の習得は必須であった。


ルゥテウスは腕を組みながら、笑いを引っ込めて


「しかし監督の考えた通りであるとなれば……奴に薬を飲ませた者が居ると言う事だよな……?」


「はい。しかし店主様からそのようなお答えを頂いたので、薬物使用の時期と犯人に関してはかなり対象を絞れます」


「ほう?」


「先程も申し上げました、ナトスの右腕となっているクリル・シガンがナトス本人に語った話……少々お待ち下さい」


ドロスはそう言い残し、階段を降りて行った。どうやら別の場所に保管しているメモか何かを探しに行ったようだ。


 数分後、再びドロスは二階に戻って来た。手にはラロカが常に持ち歩いているような手帳が数冊抱えられている。


「お待たせ致しました」


ドロスは手帳の束を大机の上に置き、一冊ずつ丹念に中身を確認し始めた。ルゥテウスが覗いてみると、手帳の中にはビッシリと小さな文字で日付と時間、そして恐らくだがナトスの指輪を通して得られた情報で、ドロス自身が引っかかった事を書き留めていたのだろう。


 彼はこのような作業を八年にも渡って続けているのだ。手帳の数もきっと膨大なものになっていると思われる。


「あっ、ございました。かなり初期の頃の話ですな。3040年の1月10日。どうやらこの日にナトスは監察室長の部屋で初めてエリンと引き合わされたようです。

シガンの証言によれば、この直前……監察室長に呼び出される前までナトスはシガンと二人で、キャンプへの監察に関する資料を吟味していたようで、その際の彼はまだ尋常な様子であったと語っております」


「ほう。そこまで特定出来るのか」


「はい。店主様からお預かりしているこの魔装具のおかげです」


「ははは……監督の役に立ったのはいいが、その後却ってこれだけの記録を付けさせる破目になってしまって、何だか申し訳無いな……」


「いえいえ。この作業のおかげで私もこの王国の制度や歴史に対して様々な新知識を得ることが出来たのです。私の諜報術に対する幅を広げて頂いてむしろ感謝しております」


「そうか……それならばいいのだが……」


ルゥテウスは苦笑する。


「この監察室長の部屋での初対面の場にはナトス、エリン、そして監察室長の三名だけが居合わせたようですな。そうなると薬を盛った犯人はエリンか当時の監察室長という事になります」


「なるほど……。その監察室長ってのはどんな奴なんだ?」


「はい。少々お待ちを」


 ドロスは別の手帳を開いて中身を指で追い始めた。すぐに回答に辿り着いたようだ。


「オダス・カミノフ……当時50歳。なので現在は58歳ですか。現職は貴族局の副局長だそうです」


「ふむ。結構大物だな……年齢は行ってるが。歳相応の地位には居るようだ」


「はい。当時のナトスと……シガン、まぁ特にナトスからは『典型的な小役人』というような評価を受けていたようです。あの一件の後に渉外室方面からナトスのエリンに対する行状について苦情を受けた際にはかなり動揺して、ナトスに対する叱責を加えていた模様でして……現在までナトスが直接渉外室、特にエリンに対して接触調査を行えない原因は、当時のこの監察室長からエリンどころか渉外室への接触を禁じられた事によります」


「ふむ……つまり結果的にはナトスのエリンへの恋情を阻む形になったわけだな?」


「そうなりますな。小役人気質のせいか、ナトスが渉外室……ひいてはエリンの父親であるアルフォード卿からの叱責に自分が巻き込まれる事を極度に恐れていたようです」


「なるほどな。そうなるとナトスに『そのような薬』を盛ったとは思えないな……」


「しかしそうなると、犯人はエリン・アルフォード自身という事になりますが?」


「そうなるな」


「しかし、店主様はあの監察事件の際にエリンにも尋問を行っております。その際に彼女はナトスとの関係をきっぱり否定しておりました」


「そういやそうだな。婚約者の存在も仄めかしていたしな……」


沈思する店主に対してドロスは


「店主様……いずれにしても、一つだけ分かった事がありますな」


「うん……?」


「店主様の仰る……『魅了薬』なる物によるのであれば……少なくとも錬金術師が関わっていると言う事です。つまり……本当に魔法ギルドが仕掛けていたのではないかと……」


 ドロスの指摘を受けてルゥテウスは


「まぁ……そういう事になるな……」


殊更考え込むような表情になった。


「この件……やはりもう一度調べ直した方が……これまで『シアロン派』の活動を『キャンプから目を逸らせる為』としていたのですが、もし本当に魔法ギルドが何か企んでいたとすると……」


「うむ……そうだな。これはちょっと真面目に調べた方がいいな」


店主がいつの間にか半眼になっている事に気付いたドロスは久しぶりに緊張するのであった。

【登場人物紹介】※作中で名前が判明している者のみ


ルゥテウス・ランド(マルクス・ヘンリッシュ)

主人公。15歳。黒き賢者の血脈を完全発現させた賢者。

戦時難民の国「トーンズ」の発展に力を尽くすことになる。

難民幹部からは《店主》と呼ばれ、シニョルには《青の子》とも呼ばれる。

王立士官学校入学に際し変名を使う。一年一組所属で入試順位首席。


タレン・マーズ

35歳。マーズ子爵家当主で王国陸軍大尉。ジヨーム・ヴァルフェリウスの次男。母はエルダ。

士官学校卒業後、マーズ子爵家の一人娘と結婚して子爵家に養子入りし、後に家督を相続して子爵となる。

北部方面軍第一師団所属から王立士官学校一回生主任教官へと抜擢されて赴任する。


フォウラ・ネル

17歳。王立士官学校三回生。陸軍軍務科専攻。二回生修了時点で陸軍科首席。学生自治会長。

学生の間では「自治会の女傑」として恐れられる。

主人公の初登校日に自治体への懐柔を試みたが無視された上に弟の左手潰され、激高して主人公を襲撃したが返り討ちに遭い、殺人未遂の現行犯で憲兵本部に連行される。


ダンドー・ネル

17歳。王立士官学校三回生。陸軍科三組。一回生修了時の席次は78位。学生自治会所属。

自治会長フォウラ・ネルの弟。身長190センチ強、体重120キロ以上と言われる巨漢。学年の席次は低いが姉の護衛役として自治会に所属している。

主人公に撃退された姉の姿を見てこれも激高し、主人公へ報復を試みたが姉同様に主人公に撃退された挙句、殺人未遂の現行犯で姉と共に憲兵本部に連行される。


ハイネル・アガサ

55歳。陸軍大佐。王立士官学校教頭。前職は軍務省情報課長。

軍務官僚出身であるせいか、非常に保守的な「事勿れ主義」の発言が目立つ。

タレンの白兵戦技授業改革に反対の意を示す。


ロデール・エイチ

61歳。前第四艦隊司令官。海軍大将。第534代王立士官学校長。勲爵士。3006年度士官学校海軍航海科卒業。首席。金時計授受者。

剛毅な性格として有名。


****


ドロス

54歳。難民キャンプで諜報組織《青の子》を統括する真面目な男。

難民関係者からは《監督》と呼ばれている。シニョルに対する畏怖が強い。

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