広がる波紋
コ〇ナの非常事態宣言が再び出される前に用事を片付けていたので暫く連載が空いてしまいました。すみません。
【作中の表記につきまして】
士官学校のパートでは、主人公の表記を変名「マルクス・ヘンリッシュ」で統一します。
物語の内容を把握しやすくお読み頂けますように以下の単位を現代日本社会で採用されているものに準拠させて頂きました。
・距離や長さの表現はメートル法
・重量はキログラム(メートル)法
また、時間の長さも現実世界のものとしております。
・60秒=1分 60分=1時間 24時間=1日
但し、作中の舞台となる惑星の公転は1年=360日という設定にさせて頂いておりますので、作中世界の暦は以下のようになります。
・6日=1旬 5旬=1ヶ月 12カ月=1年
・4年に1回、閏年として12月31日を導入
作中世界で出回っている貨幣は三種類で
・主要通貨は銀貨
・補助貨幣として金貨と銅貨が存在
・銅貨1000枚=銀貨10枚=金貨1枚
平均的な物価の指標としては
・一般的な労働者階級の日収が銀貨2枚程度。年収換算で金貨60枚前後。
・平均的な外食での一人前の価格が銅貨20枚。屋台の売り物が銅貨10枚前後。
以上となります。また追加の設定が入ったら適宜追加させて頂きますので宜しくお願いします。
第四師団長、アーガス・ネル少将との接見を終えた翌々日、月も替わって10月1日の下校時に、マルクス・ヘンリッシュは再びタレン・マーズ主任教官から呼び出しを受けた。
士官学校という場所柄、上官でもある教官からの呼び出しは正当な理由が無い限り拒否する事は出来ない。マルクスは表向きは特に感情を表す事無く職員室を訪れ、入口扉で落ち着いた声によって来訪を告げた。
「おぉ。何度も呼び出して済まんな。こっちで話そう」
タレンはすぐに現れて、マルクスと共にすぐ隣の十番面談室へと入った。部屋に入るといつものように机の手前の席に座るように勧め、自身もいつも通り机を挟んだ向かい側の椅子に座った。
「実はな……今日になって、今度は軍務省から要請が届いてな……」
タレンはウンザリしたような調子で話し出した。この件に関して彼は完全に「巻き込まれた」形になっている。
「憲兵本部からでは無く、軍務省からですか?」
「そうだ。軍務省の法務局法務部次長……君が先日の接見の場で名前を出してきた、ジェック・アラム大佐からだ」
「あぁ……『あの』軍法会議で検察側を担当される法務官殿ですね」
「その法務官殿が君との接見を希望されている。それも二人きりでだ……」
「ほぅ……今回は立会人も無く……という事でしょうか?」
「そういう事になるな。どうする?先方は承諾して貰えるならば日程は君に任せると言ってるが?」
「法務部次長というなかなかお忙しい役職の方が私に日時を選ばせてくれるのですか?」
マルクスは小さく笑うと
「そのようだな……どうも先方は余程切迫していると見える。接見の目的について何か思い付くかい?」
タレンはマルクスに尋ねた。最早この学年主任教官は目の前に居る一生徒の智謀に疑いを持っていないようで、その状況分析を彼に委ねている。
「和解の勧告でしょうな」
「和解?……つまりは被害者としての君と加害者側で和解させると言う事かね?」
「ええ。そう言う事でしょうなぁ」
「検察側が和解を勧めるのかい?あまり聞いた事の無い話だが……」
「まぁ、一般の公事では考えにくい事象ではありますが、軍法会議ですからな……」
「軍法会議だから?」
「つまり軍法会議の場合は開廷構成員がすべて軍部の関係者……なので軍上層部に対する忖度も当然起こるわけですよ」
「忖度とは……?誰に対してだい?」
「この場合、その相手は軍務卿……あるいは……」
「あるいは……?」
「国王陛下」
「え!?」
「恐らく最終的には国王陛下の御心情を慮っての和解措置でしょう。端的に言えば検察側として起訴を取り下げたい。今回の軍法会議の開廷を中止にしたいとの意思が軍務卿を始めとして軍上層部に働いているものと拝察します」
「し、しかし……被告側や弁護側ならばいざ知らず、検察側がそれを積極的に推し進める為に被害者である君との接見を希望していると?」
タレンは驚いている。彼も結局は一軍人であり、国王を頂点とする軍部やその司法執行機関である軍法会議の権威を尊重する身である。
従って、その司法権威を揺るがすような「これだけ証拠が固まっている司法係争案件」をひっくり返す検察側の行為は考えられない。
「検察側……つまりはアラム法務官側にも、そうせざるを得ないという事情があるのでしょう」
「しかし……検察側がそのような行為に加担するのは……軍の法秩序への否定にならんか?」
「ですから、その更なる上位者への忖度によるものなのでしょう」
「うーん……そうか……国王陛下がなぁ……」
「いや、今回の場合は国王陛下は全く関与していないでしょう。それどころか軍務卿ですらアラム法務官殿の行動を把握されていらっしゃらないかと」
「えっ!?つまり起訴の取り下げは法務官の独断で行っていると?」
「十分に考えられます。そのアラム法務官殿が軍官僚として有能であれば猶更です」
マルクスは苦笑した。
「できればその理由を聞かせて貰えないだろうか……?」
「簡単に説明しますと、アラム法務官殿……もしくは他にも『同じ思考の方』は三人の上位者に対して思案されているものと思われます」
「三人……?」
「はい。国王陛下、軍務卿閣下……そして裁判長、つまりヴァルフェリウス王都方面軍司令官閣下です」
「な……父……いや、ヴァルフェリウス司令官にもかい?」
タレンは突然彼の口から父の名が挙げられたので驚愕した。
「はい。国王陛下におかれましては、恐らく今回の一件は何もご存じ無いでしょう。法務官殿は逆にそれを恐れたのです。
もし、このまま軍法会議が開廷され、ネル姉弟の有罪判決が言い渡された場合、事はそれだけに止まらず、ネル家が軍関係各所に手を回していた事すらも明るみに出ます」
「そうだな……恐らくはその流れになるだろうな」
「こうなった場合、西部方面軍内は当然ですが王都の軍中央……この士官学校も含めてですが、そこに配されていた者達への処遇が問題になります。
特に軍士官学校への教職員及び常駐憲兵士官赴任で軍務省内の課長職が協力していた事が問題になります」
「確か……女性課長だったよな?軍人恩給の調査部署だったか……」
「そうですな。いずれにしろ『本省の課長』までが関与していた事は非常に拙い。このような疑獄の規模ならば当然軍部の外にまで事件は知れ渡ります。そして当然ですが陛下のお耳にも達するでしょう」
「ああ……!そうなるな!」
「国王陛下におかれましては、お若い頃は珍しく軍士官学校では無く官僚学校を進路とされた方で、そのような経緯から軍部に対しては疎遠なお考えを持たれていると言われているようです」
「うむ。私もそのような事を昔……この学校への受験を決意する前に聞かされた事があったような……」
タレンは苦笑した。15歳になるのを前に、官僚学校への進学を勧める外祖父のノルト伯へ士官学校進学を告げた時に
「今上陛下は文治の御方です。軍学校よりも官僚学校へ進んで文官としてお仕えされた方が、後々……公子殿の御為になりますぞ」
と説教染みた忠告を受けた記憶がある。貴族社会から脱け出したかったタレンは、その説得を振り切って士官学校受験を繰り返したのだ。
「恐らく法務官殿はこの『醜聞』が陛下のお耳に達する事によって、陛下から軍部へ何らかの制裁が下るのではないかと危惧されているのではないでしょうか」
「なっ……なるほど……」
「そして軍務卿閣下です。この御方に関してはそもそもが軍部の権威を損なうような醜聞が外に漏れるのを好まない御方だと伺っております」
「まぁ、軍務卿閣下では無くともそう思うだろうしな」
「軍務卿閣下の前職は王都防衛軍司令官であり、その頃から役務上の関係で国王陛下とも数多くお言葉を交わされた方であると推察され、陛下の御気性も弁えていらっしゃるのではないかと」
「あぁ、そう言う事か。つまり軍務卿閣下ご自身が陛下へ忖度されて、今回の事件が表沙汰になるのを嫌っていると?」
「そうなりますな。勿論ご自身の威名にも傷が付くでしょうし」
「ふむ。なるほどなぁ」
タレンはマルクスの15歳とは思えない明敏な推察に感心している。
「そして最後はヴァルフェリウス司令官です。法務官殿は公爵閣下をご警戒されていると思われます」
「ち……公爵閣下を?何故……公爵閣下を警戒しているのだ?」
「法務官殿……だけで無く、軍務省の高級官僚の方々は恐らく、公爵閣下は軍務卿の地位を狙っていると思っているのではないでしょうか」
「公爵閣下が?本当なのか?」
まるで「我が父に限ってそんなわけないだろう」とでも言いたげなタレンの言葉にマルクスは苦笑して
「公爵閣下ご自身はどう思われていらっしゃるのかは存じませんが、ヴァルフェリウス公爵家という特殊な地位にいらっしゃる方に対して、軍官僚はそのように思われるのも無理は無いかと思います」
「そ、そういうものなのか?」
「宜しいですか?これはあくまでも推測です」
「うむ」
「お畏れながら……公爵閣下は特段目立った軍歴や功績を挙げていらっしゃらない。更に士官学校を卒業されてもいらっしゃらない御身で、十年前に王都方面軍司令官という軍の重職に就かれました」
「まぁ……そうだな」
「これは申し上げるまでも無く『ヴァルフェリウス公爵家当主』だからでしょう。他の貴族家には一切そのような優遇人事を行わないはずの軍部の……国王陛下の肝入りとは言え軍中央の『三長官』の一角である王都方面軍司令官という重職にいきなり就任したのです。
これは既存の軍関係者から多少の……まぁ……不満は生じて然るべきなのでは」
「軍中央の三長官」というのは、職位としては「文民が建前」の軍務卿の下にはなるが「王都方面軍司令官」と「王都防衛軍司令官」、そして「王国軍参謀総長」の三名を指す。
この中で実際の兵力を麾下に持つのは王都方面軍司令官と王都防衛軍司令官だが、参謀総長は職位としては彼らよりも上となり、事実上の「制服組トップ」となる。
その任命も現役武官の中から行われる為、歴代のヴァルフェリウス公爵家当主でその職に就いた経験のある者は四名しか居ない。
つまりレインズ王国軍と言うのは、組織の系図上として頂点に陸海軍最高司令官の国王が居て、その下に軍務卿、その下に実質的な武官のトップである参謀総長が続いて、彼の下に各方面軍司令官や各艦隊司令官が並んでいるという形になる。
よって職位としては参謀総長の方が上ではあるが、実兵力を掌握しているのは王都方面軍と王都防衛軍の両司令官なので、この三人をまとめて「軍中央の三長官」と呼んでいるのだ。
「ヴァルフェリウス公爵閣下はこのような人事を受け入れてしまっている為に、軍官僚からは在らぬ野心を疑われているわけです。まぁ、軍歴無しでは参謀総長は難しいでしょうから、建前上は軍歴が必要では無い『軍務卿』という地位が実は王都方面軍司令官などという武官よりも、よっぽど公爵閣下にとっては都合が良い……という風に見られるわけです」
「ちっ……そう言う事か。下らん妄想をしているんだな」
タレンは多少不快な表情をした。彼自身も実父が何の実績も無く軍の重職に就いている事に対して屈託が無いと言えば嘘になる。現に、彼自身はそれを少なからず「恥」と感じているからこそ軍の中でも実父と距離を取っているのだが……流石にそこから「軍務卿の地位を狙っている」と言うのは軍務省の官僚達による「邪推」であると思わざるを得ない。
「そして、今回の事件の舞台となった士官学校に偶然なのか否かは別として公爵閣下の御子息である主任教官……あなたという存在があって被害者である私に付き添っている……というのも彼らを不安にしているのだと思います」
「なっ……!しかしそれはっ!ぐっ、偶然ではないかっ!」
タレンは思わず声を上げた。彼としてみれば、そのように思われるのも心外であるし、そもそも自分は「巻き込まれた側」であると思っている。
そのような軍官僚側の疑惑の一端を担っていると思うと理不尽さに怒りが湧いてくると言うものだ。
「ええ。偶然です。そして本件の軍法会議においてヴァルフェリウス王都方面軍司令官が裁判長に任命されたのも偶然でしょう」
マルクスは憤慨するタレンには構う事無く説明を続ける。
「しかし、このような偶然の要素も相まって……この件をより複雑にしているのですよ。つまりこの件は本来であるならば士官学校内で起きた士官学校生徒による殺人未遂事件……まぁ、被害者たる私が負傷したわけでも無いので罪状としては一番軽微な取り扱いになっていたようですがね」
「しかし、それを切っ掛けに加害者姉弟とその実家が軍部内に浸透させていた『組織』の尻尾を憲兵隊が『掴まされて』しまった」
憲兵隊にネル家の「尻尾を掴ませた」本人が、まるで他人事のように話す。
「法務官殿もこの短期間に、『士官学校内で起こった生徒同士の殺人未遂事件』が、このような軍部の統制を揺るがす事件にまで発展するとは思いもよらなかったでしょう。
ネル家が張り巡らせた軍閥組織の存在が明るみになってしまった以上は、それを放置しておくわけにはいきませんからな」
「もうここまで色々と証拠まで出揃ってしまうと、ネル姉弟だけを裁けば良いという状況では済まないでしょう。
当然ながら軍部……特に軍務省内に対してそれなりの規模で監査が入るのは必然。上層部では少なくない方々が職を逐われる可能性もあります。
特に国王陛下からのご叱責が掛かった場合……軍務卿閣下は辞職も止む無し……ではないでしょうかね」
「軍務卿閣下が……か」
「ええ。しかも陛下ご叱責による引責ともなると、辞任後の叙爵で男爵として残れるか……。
シエルグ卿は元は平民出で将官進級によって勲爵士叙任、軍務卿就任で侯爵叙任、退任後は男爵へ再叙任という形での世襲貴族家入りを逃すとなると……後任人事で揉めるでしょうなぁ」
「も、揉める……とは?」
「もしそのような事態となった場合、後任候補として有力なのはヴァルフェリウス公爵閣下ではないかと言う事ですよ」
「なっ?父上が……?」
「それはそうでしょう。何しろこのまま軍法会議が開廷されれば、裁判長としてそれを主宰するのは公爵閣下です。
そして法廷でネル家の『組織内容』が次々と証拠として提出されるわけですから、姉弟の結審が済んでも当然ながら軍務省自体への監査が入る。ここまでは先程ご説明しました」
「そして……その監査の判断を下すのは裁判長である公爵閣下です。その監査の結果として軍務卿が職を辞す事になれば、当然ながら陛下は後任に公爵閣下を任命されて、更なる綱紀粛正を指示されるのでは?
何しろシエルグ卿の御出身は王都防衛軍ですから、そこから後任は出せませんでしょうし、もう一方の候補に成り得る参謀総長であるヘルナー大将閣下は近年体調が優れないと聞いております」
「なっ……なるほど……そうなるのか」
「まぁ、そうなると前職を蹴落とす形となって就任する公爵閣下へ軍官僚達からの風当たりも強くなるでしょうが、それ以前に軍務省の権威が大きく失墜する事は避けられません。
アラム法務官は、そういう事態になるのを避ける為に検察側でありながら軍法会議の開廷を阻止する側に回らざるを得ないのです」
「き……君はそこまで……そこまで読んでいるのか……」
入学考査の最終面接試験で初めて会ってから既に二ヵ月近くが経つ。この若者には色々と驚かされて来たタレンも、改めてその知性に驚愕している。
「読んでいる……という表現は適切ではございませんね。今起きている事象を分析した結果としての推測を申し上げているだけです」
「そうか……まぁ、君のその『推測』を聞かせて貰ったところで……どうするんだね?アラム法務官との接見要請に対する返答は……あちらが和解を考えているのであるならば会うのはやめておくかい?」
タレンは決してマルクスから聞いた「和解」について反対しているわけでは無い。彼が気に食わないのは、このまま和解となってしまう事でネル家の蠢動を結果的に許してしまう事なのである。
彼の家の軍閥化は何としてでも阻止したい。それがタレンの正直な思いであった。
しかし、同じような考えを……国王の統帥を脅かす軍閥化を許さないと思われていたマルクスの返答は意外なものであった。
「いや、接見には応じましょう。法務官殿が本件の和解を求めるのであればそれに応じる事も吝かでは無いですな」
「何だと!?き、君はそれでいいのか?君はもっと……その……法秩序を枉げるような行為を許さない者だと思っていたが……」
「ええ。ですから和解に応じても構わないと思っているのです。但し、『ただ』では応じませんがね。当然ですが私からも条件を出させて頂きますよ。
その条件を受け入れて頂かない限り、むしろ絶対に和解には応じるつもりはありません」
「なるほど……条件を出すのか」
マルクスの話を聞いてタレンも漸く納得の線引きが出来たようだ。
「まぁ、いいでしょう。接見には応じましょう。本来ならば今からすぐに行ってさっさと終わらせたいですが、相手も多忙でしょうからいきなり押し掛けても迷惑でしょう。
明日の下校後……15時30分で良ければ応じるとお伝え下さい」
「そうか……相変わらず相手に時間を与えないやり方なんだな」
タレンは笑いながら
「了解した。では私はこれから軍務省に赴いて君の意向を伝えに行こう。済まなかったな。時間を取らせてしまった」
マルクスは立ち上がって
「いえいえ。主任教官殿もすっかり巻き込んでしまい恐縮です」
とてもそうは思って無さそうな様子で
「それでは失礼致します」
と、いつものように優美な動きで部屋を退出して行った。
残されたタレンは
(やれやれ……これは法務官殿も大変だぞ……)
苦笑いしながら自身も職員室へと戻って行った。
****
翌10月2日。授業が全て終わった後、マルクスは一人軍務省に向かった。一年一組の生徒は勿論、担任であるヨーグ教官もこの事を聞かされておらず……それどころか
アガサ教頭ですら今回のアラム法務官とマルクスの接見については知らされていない。
やはり軍務省……というよりもネル姉弟の軍法会議に検察側として参加するアラム法務官としては、接見目的が目的だけに必要最小限度の範囲にしかこの事実を知られる事の無いように配慮していた。
マルクスが軍務省本庁舎の受付に到着したのは自らが希望した15時30分まで十分以上早かったのだが、既に法務官からの命を受けた法務部の女性職員が待機しており、制服姿である長身痩躯の学生を認めて
「マルクス・ヘンリッシュ殿でいらっしゃいますか?」
と、彼の美貌に目を白黒させながら……随分慇懃とした態度で話し掛けてきた。マルクスがその職員を見ると少尉の階級章を身に着けている。
どうやら士官学校を卒業して間もない新任官の若手官僚のようだ。
「はい。士官学校一回生のマルクス・ヘンリッシュです」
マルクスはいつも通り、特に表情を変える事無く返答し無感動な声で応じた。
「ご、ご案内致します……」
そんなマルクスの態度に少し怯んだ様子を見せて、この女性職員はマルクスの先に立って歩き始めた。
法務局法務部次長ジェック・アラム大佐は多忙な中、マルクスの出した希望を受け入れて、本日午後の予定を全て変更又は切り上げ、自らの執務室でマルクスの到着を待っていた。
これまで憲兵課長であるサムス・エラ中佐に散々聞かされてきた「只者では無い士官学校新入生」といよいよ自らが会見する事となり、彼なりに楽しみでもあったし緊張感もあった。
彼を少なからず緊張状態にしていたのは被告の父親であり、被害者との和解を懇願してきたアーガス・ネル少将の「あの学生は魔法ギルドと関係しているかもしれない」というアラム大佐からすれば「戯言」とも思える発言が、その後も妙に彼の脳裏に突き刺さったままであった為だ。
会見開始予定時刻へまだ五分少々を余した頃、彼の執務室の扉がノックされ、法務官が入室を促すと
「失礼します。ヘンリッシュ殿をお連れ致しました」
と、来客の案内を命じた女性職員が緊張の面持ちで入室して来て報告した。彼女に促されてマルクスもその後ろから入室してきている。
(なるほど……この若者か……うーむ。確かに只者では無さそうだ……)
若者……マルクスの容姿を値踏みしながら、法務官は
「これはこれは。重ね重ね足を運んで頂き申し訳ない。私が今回の件で検察官として任を受けたジェック・アラムです。どうぞお掛け下さい」
相手を学生……それもまだ15歳の新入生とは見ていないような丁寧な物腰でマルクスにソファへの着席を勧め、自らも執務机から彼の向かい側のソファに腰を下ろした。
ソファに腰を下ろす前にマルクスは頭を下げながら名乗った。
「王立士官学校一年一組所属のマルクス・ヘンリッシュです」
「入学してからまだ一月も経たないこの時期に何度もお呼び立てし、重ねてお詫びします」
法務官の態度には尊大さがまるで見受けられない。本心はどうだかは判らないが表面上は謝罪の念を見せている。
「いえいえ。只でさえお忙しいところを今回はお骨折り頂きこちらこそ恐縮しております」
マルクスも無表情、無感情で応える。態度はともかく、礼儀を失するような様子は見られない。
ここで、先程の女性職員が二人に茶を運んで来てテーブルにカップを並べて引き下がる。これでどうやら二人だけの会談を始める環境が整ったようだ。
「ヘンリッシュ君……とお呼びしてもいいですかな?」
「はい。お好きにどうぞ」
「うむ……君も何かと忙しいようなので、この際だから単刀直入に言わせて頂きます。実は本日、君をここにお呼び立てしたのは他でも無い、今回のネル姉弟が起こした殺人未遂罪による軍法裁判の事です」
「まぁ、そうでしょう。それ以外に私もここに呼ばれる理由が思い付きませんですし」
マルクスはまだ無表情である。その表情からは一切の感情が読み取れない。法務官は多少目を眇めながら話を続けた。
「実はその……今回の件なのですが、彼ら姉弟の父親であるサー・アーガス・ネルから相談を受けましてな」
法務官は姉弟の父親の名に勲爵士としての称号「サー」を敢えて付けた上で、事情を説明し始めた。
「左様ですか」
これに対してマルクスは全く無感動に相槌を打っただけである。
「サー・アーガスは御令嬢と御子息の罪状を全て受け入れる代わりに、処罰は全て自分が引き受けると申し出られました」
「『受け入れる』とは?あの件は全て現行犯による検挙ですが。証人も五指に余る程居るわけですし、殊更父親が認めるも何も無いと思いますが?
そもそも、その父親にしても軍令違反を犯しております。姉弟への処罰を受け入れる前に自らも罰せられて然るべきだと私は考えております」
「いや……まぁ、確かに君の言う通りだと思います。君が前回のサー・アーガスとの会見の際に指摘されたと言う彼自身の軍令違反の件も確かに認められます。
この件に関しては現在当方で調査中です。幸いにして君の証言によって違反事実の認定とその詳細はある程度明らかにされていますので、捜査にはそれ程時は掛からないでしょう」
「私があの親子について思うのはその遵法意識の低さです。自身の配下の軍を私物化し、法を蔑ろにする行為に対して全く罪の意識を感じていないあの態度に憤りを感じております」
ネル親子に対する考えを述べる段になってマルクスが初めて見せた感情はまさに「軽蔑」の二文字であった。
「私はあの親子を文明国家の一員であると認められず、交渉に値する存在だと考えておりません。なので前回の会見も途中で打ち切らせて頂きました。速やかに文明国家としての制裁を与えるべきでしょう」
被害者の若者が痛烈に被告側を批判するのを聞いていた法務官は
(これはいかん……思ったよりもネル家への態度が硬化している。これでは和解どころじゃないな……)
始まったばかりの会見なのに既にゲンナリとした疲労感が自身に圧し掛かって来るのを覚えて
「勿論、彼ら『親子』の犯した違法行為は当然の事、処罰の対象となります。しかし姉弟はまだ年若く、その能力を考えるとその将来を閉ざしてしまうのは余りに惜しい……と考える者が父親以外にも確かに存在しているのですよ」
「信賞必罰という文明国家としての軍の在り方を法務官殿は否定されると?」
マルクスの表情に浮かんだネル親子への軽蔑の眼差しが、段々自分に対して移って来ているような錯覚を覚えたアラム法務官は、やや慌てた調子で
「いやいや。私が今言った事はあくまでも『建前』ですよ。ヘンリッシュ君」
「ほう?」
「率直に申し上げます。私……いや、我ら軍務省として……今回の件については和解を仲介したい。これには色々と事情がありましてね」
「和解ですか?私に彼らを赦せと?」
「勿論『タダ』でとは言わない。サー・アーガスは君からの条件を可能な限り受け入れると申し出ておられます。
そして先程も申し上げました。我ら軍務省と致しましても、君がこの和解に応じて頂けるように最大限努力するつもりです」
「『我ら軍務省』と仰っておられますが、それは真に軍務省の総意なのですか?」
「え、ええ。軍務省としてもあなた方が本件について和解に至って頂く方が利益になりますので」
「法務官殿……あまり軽々に仰らない方が宜しいかと思いますが?軍務卿閣下におかれましても、本法廷を和解案件であると思われていらっしゃると?
私の見たところ、どうもこの件は法務官殿と……左様……あとは憲兵隊辺りですかね。その範囲において独断で進めようとしていると思われますが?」
マルクスとしては最終的に和解に至る事になっても仕方が無いと思っている。何しろ今回の件はネル家がばら撒いた種が余りにも深く……根が張り過ぎていて掘り起こすと「軍部」という土壌は滅茶苦茶に荒れてしまう恐れがある。
しかし、だからと言って易々と和解に応じようとは思っていない。この際なので腐りかけている軍務省にも膿を切り取らせようと思っている。
一つの家に専横を許してしまう構造を是正しなければ、いずれ再びネル家のような「寄生虫」を抱えてしまう破目になるだろう。
しかし今回の件は国王の耳に達して譴責を受けるだけで済むならまだしも、最悪の場合軍部が二つに割れる恐れすらある。
やはり「落としどころ」としては和解によって軍法会議そのものを中止にする他無いのであろう。
「な……なぜそう思われるのですか?」
「少将閣下の『手』が思いの外長いようでしたからな。姉弟の裁判に付随してそこに捜査のメスが入れば色々と『お困りに』なられる方が大勢いらっしゃるでしょう。
勿論、最終的に今上陛下のお叱りを受ける事も含めてです」
この若者の指摘があまりにも的確であっただけに法務官も一瞬言葉を失った。
(や……やはりこの若者は……全てを読み切っているのか……)
アラム法務官は背中の汗が滴り落ちて行く感覚を味わった。この士官学校の新入生は恐ろしい程に頭が切れる……。下手に本心を取り繕って話をしても簡単に見破られてしまうだろう。
(やはり言い包めるのは難しいか)
法務官は最早抵抗は不可能と悟ったのか、態度を急に改めて
「わかりました。降参です。この上は腹を割って話しましょう」
と、ソファに背中を投げ出して笑い出した。マルクスはそれを顔色一つ変えずに凝視している。
目の前の若者の表情が全く変わっていない事に気付いた法務官は笑顔を多少引き攣らせながら
「いやいや。そのような顔をされずに……私の話を聞いて頂きたい。お願いします」
と、頭を下げた。将来の軍務省トップと目されている軍官僚の高官が、たかが士官学校の新入生に対して余人の目が無い場とは言え頭を下げたのである。
マルクスも、法務官のこの態度を見て軽く息を突いて
「まぁ、いいでしょう。お話しとやらをお伺い致しましょう」
「ありがたい。これは恥ずかしながら私自身の身上にも関わる事なのでね。君は恐らく私の考えすら読み切っているとは思うが、念のために『答え合わせ』のつもりで聞いて欲しい」
法務官は漸くと言った感じで緊張を解いて話し始めた。
「君が知っての通り、どうやらサー・アーガスは西部方面軍の中に留まらず、この王都の軍中央にも『橋頭堡』を築いていたようです。
今その裏付けを採っているところですが……君のおかげで人事局の受給審査部調査課長のアンリ・スレダ女史をその中心としているのは間違い無さそうです」
「そのようですな」
「流石に本省の課長職までが加担していたとなると、本件自体は士官学生だった姉弟が校内で起こした暴力事件だとしても、事件の背景から……とてつもない『闇』が見えてくる」
「はい」
「もしこの件でこのまま軍法会議が開廷した場合、我らは審理の公平性を宣誓する手前、自ら検察側の証拠としてこれらの醜聞を提出しなければいけない破目になってしまいます」
「宣誓事項を守ろうと言う姿勢だけは評価出来ますな。揉み消すつもりは無いご様子ですし」
「それは当然でしょう。私も一応は法務官です。軍官僚という立場よりも勅任の法務官としての立場を優先しますよ」
法務官とは国王からの勅任官であり、軍務省の組織とは別に任命されている。法務官に任命されるには別の法務官五人の推薦が必要で、推薦を受けた人物は宰相が議長を務める閣僚会議にて検討後、最終的に「閣僚からの推薦」という形で国王に上奏され、国王の判断によって夏冬の除目の際に法務官の任命も行われる。
法務官に任命された時点で、軍の将官への進級と同様に「勲爵士」の爵位が与えられて軍内各所へと分散して赴任となる。
法務官の資格を持った軍人や軍属は軍務省の人事局内で決定される人事基準とは別に配属が決定されている。
「ですから、私としては今回の軍法会議が開廷されてしまう前に事を収める方針に転換せざるを得なかったのです。ここのところをどうかご理解頂きたい」
「まぁ、そこの部分は理解しました」
「して、本題なのですが……このまま開廷してネル家の蠢動による軍組織の『闇』が露呈した場合、先程あなたが仰られたように陛下のお耳に達してしまい、その宸襟をお騒がせする事だけは何としても避けたいのです。陛下からのご叱責を賜るだけでなく……」
「公爵閣下に口実を与えてしまうと?」
マルクスの言葉にアラム法務官は驚いて
「なっ……そ、そこまでお解りになられている……」
「まぁ、軍務省の外を警戒されるならば現時点でその対象となるのは公爵閣下だけでしょうからな。今回の軍法会議にはよりによって裁判長に任じられていらっしゃいますし」
「なるほど……やはりそのように思えますか」
「そして私の通う士官学校には公爵閣下の御子息が主任教官として赴任しておられる……これは『偶然なのか』と?」
「そっ、そこです。私もその報告を聞き及んでこのような疑念を生じるようになったのです」
「まぁ、マーズ主任教官殿についてはあまりご心配しなくても宜しいかと思います。あの方は公爵閣下のご意向とは無関係ですし」
「えっ!?ど、どういう事なのですか?」
「タレン・マーズ氏は既に公爵家からは離れていると申し上げているのです。反目……とまでは行かないですが、疎遠になられているのは確かなようです」
「そっ、そうなのですか!?」
「はい。マーズ主任教官殿はむしろ私に近い考えをお持ちの方でして……特定の『家』が軍部の裁量を握ったり、特権のように実績無きまま高官に就く事を潔しとされていないご様子……。
つまり、士官学校を出られたわけでも無く、軍務において功績を立てた事も無い『実父』が王都方面軍司令官という要職に就いている事に対して良い印象を抱いていらっしゃらないご様子です」
「なんと……親子の間にそのような葛藤があるとは……」
「あの方はどうやら大貴族としての公爵家の中でも異なった価値観を持ちながらお育ちになられたようでして……公爵家からは距離を置きつつ、軍閥形成を図るネル家は勿論、軍部内に公爵家の影響が増大する事にも嫌悪感を抱いていらっしゃるようです。
その証拠に、あの方はご自身の立身出世に公爵家の威光を一切利用しておりません。35歳で大尉という地位は公子として余りにも寂し過ぎませんか?」
漸く表情を変えて苦笑するマルクスの言葉に
「そっ、そう言えば……確かに……」
アラム法務官も妙に納得してしまい、何度も頷く。
「で、では……あのマーズ主任教官殿は……公爵閣下とは無関係であると思って宜しいのですか?」
「ええ。そう考えて差支え無いと思います」
マルクスが肯定したのでアラム法務官は大きく溜息をついた。
「そうですか……安心しました……」
「しかし、主任教官殿がネル家の『やり方』に反感を抱いている事には変わりありません。あの方も色々と鋭い御方です。既に今回の件で必要以上に巻き込まれてしまっておりますので事情にも随分明るくなってしまっております」
「そっ、そうですな……」
「まぁ、率直に申し上げましょう。私自身はあの親子の所業を許せませんが、あなた方軍務省と憲兵本部が今回の件で苦境に立たされるのであるならば、それをお助けするために和解に応じる事も吝かではありません」
突然、この被害者の若者が和解に対して肯定的な意見を述べたのでアラム法務官は驚いて
「ほっ、本当ですか!?和解に応じて頂けると?」
思わず声を高めてしまった。
「もしお望みであるならば、『今回の』親子の所業については一切目を瞑りましょう」
マルクスはまた表情から感情を消して淡々と述べた。
「つまり姉弟が希望するならば復学についても文句は言いませんし、逆に私からマーズ主任教官殿を通して学校側を説得するお役目も引き受けましょう」
「なっ……そ、そこまで……」
法務官は更に驚いている。この会見が始まった直後にこの若者からネル家の非を徹底的に鳴らされた時は、和解に対して絶望感すら抱いていたのだ。
「但し……当然ですが当方からの条件は全て呑んで貰います。一切の妥協は致しません」
マルクスの顔が急に厳しくなり、法務官はまたしても緊張感が漲って来るのを感じた。
「まず、ネル家に協力した全ての者を軍から追放して頂きます。これは後程私から該当者を指名させて頂きます。一切の温情は認めません。全ての者を軍籍から除いて貰います。ネル少将閣下とその子女である姉弟を除くと、私が把握しているだけで74名存在します」
「そっ、そんなに……そんなに居るのですか!?ネル家の『関係者』と言うのはっ!」
この数字を聞いて法務官は仰天した。彼はせいぜい十人程度だと思っていたからだ。
「ちなみに……軍務省内部だけで六名居ますよ。法務官殿はどれほど把握されているのかは存じませんが、全て少将閣下の士官学校同期生と在学中に後輩だった面々です。
なので残念ですが、本省の中でも比較的地位の高い方々が多いですよ」
「何と……」
この話を聞いて法務官は既に呆然としている。
「後は既に名前も出てますが憲兵本部内に数名。そして士官学校にも数名。王都防衛軍内に二名。内務省にも護民局に一名。
これは他省との折衝が必要でしょうな。残りは全て西部方面軍の将校です」
「き……君は……その者達の名を全て……全て、把握しているのですか?」
「お望みとあらば法務官殿。紙とペンをお貸し願えますか?」
マルクスの要求を受けて、アラム法務官は自らの執務机の上に置いてあった上質の罫線紙とペンを手に取って応接机の上に置いた。
「ありがとうございます」
一言礼を述べて、マルクスは罫線紙に美しい書体で対象者の所属部署と肩書、フルネームを次々と記し始めた。
凄まじい速度で書き上げて行くその姿を法務官は引き続き呆然と見守るばかりだ。
やがて一枚の紙面に小さな文字でびっしりと74人分の記述を終えたマルクスは、紙面の向きをクルリと変えて法務官が読みやすいように示し
「この者達をいきなり証拠も無く処分しろとは流石に言いません。監査庁にでも調査させた上で一人ずつ時間を掛けて潰して下さい。
この条件を少将閣下にお伝えするか否かは法務官殿のご判断にお任せします」
「そ、そうですか……」
罫線紙を受け取り、隠しから取り出した老眼鏡を掛けてその内容を確認している法務官は目を白黒させている。74名の記述の中には、各々ネル家……或いはアーガス・ネル本人との「繋がり」についても詳細に記されている。
とてもこのような短時間で一人の人間が記憶頼みで書き記せる文量では無いのだが、事実この若者は自分の目の前で紙面に書き記していた。凄まじい速度で。
「さて。次の『条件』を申し上げて宜しいでしょうか?」
マルクスの問いに法務官は我に帰り、「あ、ああ……」と曖昧に応えた。
「では次の条件として現在、サイデル及びその周辺の地域に住まうネル家の構成員、少将閣下のお父上であられる元西部方面軍参謀長のメルサド・ネル退役中将も含めて一族全員を王都へ移住させる事です」
「あの西部方面軍の管轄地域からネル家を全て排除して頂きます。勿論、アーガス・ネル少将閣下も第四師団長の任を辞して頂きます。
何しろ彼は交通省管轄の駅逓制度と伝令設備を私的利用した軍令違反者ですからな」
「あっ……な、なるほど……」
「別に少将閣下の退役を求めるものではありません。彼自身もその家族同様に西部方面軍から引き剥がして頂ければ結構です」
「そ、そうですか……。はい。軍令違反については確かに当方も把握しております。本人も恐らくは処分を受け入れるでしょう」
「肝心なのは、『彼ら』ネル家が西部方面軍を軍閥化させる野望を完全に頓挫させる事です。そして軍務省によるそれらの行為は他にも軍部内でつまらぬ派閥を作り出そうとしている愚かな者達に対する牽制にもなります」
「なっ!?他にもそのような兆しがあるのですか?」
アラム法務官はそのような軍機に関わるような質問を一学生に過ぎないマルクスに行ってしまった事に自ら気付いてバツの悪い顔をした。
「さぁ……どうでしょうなぁ」
マルクスはいつものようにとぼけた回答をしておき
「最後の条件……それはこの件が全て片付いた後、軍務省及び憲兵本部におかれましては、私に対して一切干渉しない。余計な詮索をしない。と言う事を宣誓して頂きます」
「えっ?」
「今回の件で私に対して何らかの危害が及ぶ可能性がありますが、特に護衛等は必要ありません。
そのような愚かな行為に対しては私も『それなりに』対応させて頂きますので、それに対して一切介入や干渉をされないで下さいと言う事です」
「よ、宜しいのですか?最初の条件によって職や地位を失う者達があなたに対して何らかの報復に出る可能性だってあるのですよ?」
「構いません。そのような愚かな輩には『消えて頂く』だけです。勿論『あなた方』がこの条件を反故にされた場合も……同様です」
マルクスは半眼になってアラム法務官を見つめた。この刺すような視線とその身体から発する凄まじい気迫に法務官は身動きが出来なくなった。
相手はたかが士官学校の新入生……報告書の内容が正しければまだ15歳であるはずの「ヒヨっ子」である。しかし彼の放つ「気」は今年で51歳になる軍高官をまるで金縛りにでもしたかのように硬直させてしまった。
「宜しいでしょうか?以上の条件を受け入れて頂けるのであれば、私個人からの被害に対する訴えを全て取り下げましょう」
マルクスが応接机を右手の食指で「トン」と叩くと、その拍子に硬直していたアラム法務官の身体がビクっ反応して、彼は我に帰った。
気付くと目の前の若者は僅かに笑みを浮かべている。法務官は先程とは比べ物にならない程に全身にべったりと脂汗が流れている事に気付いた。
手巾を取り出して顔を拭う法務官は
「わっ、分かりました……。わっ、私の権限が許す限りその条件に添えられるようにどっ、努力させて……頂きましょう……」
そのように返答するのが精一杯であった。
「では、これにて私から今回の件……『和解』に応じる事にさせて頂きましょう」
マルクスは今度ははっきりとした笑顔を浮かべて法務官に和解承諾を告げた。
「あっ、ありがとうございます……これで我らの『恥』を外に晒す事を避けることが出来ます……ご協力感謝致します……」
最早法務官は目の前の若者に対する畏怖から言葉遣いがすっかりと敬語になっている事に自分も気付かないでいる。
「あっ!……あの……それで……実は私の個人的なその……疑問を一つ申し上げても宜しいでしょうか?」
何かを思い出したかのように法務官はおずおずと言うのへ
「何でしょうか?」
笑顔を消して再び無表情になったマルクスが応える。
「実は今回の件……あなたはどうしてここまでネル家についての情報を掴まれていらっしゃるのでしょうか?とても……とても尋常なものとは思えないのです」
法務官は先程マルクスから受け取った「ネル家の関係者」がビッシリと記述された罫線紙を示しながら恐る恐るといった態で尋ねた。
「その事ですか。まぁ、何か特別な事をしているわけではありませんよ」
「し、しかし……お持ちである情報の量が多過ぎませんか……一体どういった方法で?」
「別に法を犯すような事はしておりませんので。情報提供者の方々との信頼関係もありますので具体的な話はご容赦下さい」
「そ……そうですか……」
アラム法務官としてはマルクスの情報源の詳細を聞かせて欲しかったのだが、本人から拒絶されたので一応は引き下がった。
この時点でまだアーガス・ネルが言っていた「あの若者は魔法ギルドと繋がっている」という指摘が頭の中に残っていたが、まさか本人にいきなりそれを聞くわけにもいかず、この件は後日こちらで調査するしかないと思っていた。
しかし問題はこの若者が提示した「三つ目の条件」によって「余計な詮索をしない」という誓約を承諾してしまった手前、その実施は相当に怪しくなってきている。
何しろ、ここで彼との誓約を違えて彼の情報源に対する詮索を行った場合、それを気取られる事無く行えるのかと言えば、かなり難しいのではないかと思えてくる。
相手は憲兵本部を含めた軍務省の捜査能力を明らかに凌駕しているのだ。下手に動いて悟られた場合、どのような「制裁」を受けるか知れたものでは無い。
特に「魔法ギルドと繋がっている」という話が事実だった場合、只でさえ混乱が予想されるこの先数ヵ月の軍務省に余計な「敵」を作る事になってしまう。
(本人も干渉や詮索を望まないのであるなら、この件に関してこれ以上彼とは関わらない方が良いかもしれない。折角の和解ムードを損なってしまうしな)
「ではこの後の手続きは法務官殿にお任せして宜しいでしょうか?」
「ええ。勿論です。ヘンリッシュ殿のお手を煩わせる事はございませんので……ご安心下さい。
被告人側の者達にもあなたには以後近付かないように私からよく言い聞かせますので……」
法務官としては、これ以上加害者側がこの被害者学生に絡んで騒動が蒸し返されるのを恐れ、後に彼の親子には釘を刺すつもりでいたが、その被害者が
「いや、そのようなお気遣いは無用に願います。あの姉弟は憲兵本部で拘留中なのですか?」
「ええ。事件当初は両者共に負傷していたようなので軍病院に収容されたそうですが、現在は憲兵本部の地下で拘留されているようです」
「では、私に両者への面会許可を頂けますでしょうか?私自身で彼らに今後の事について言い伝えたい事もありますので」
「え!?あの姉弟にお会いになられるのですか?」
「はい。どうせ和解が成立すれば彼女らも復学するでしょうから、結局は校内で会う事もあるでしょうし、不自然にお互いが避けるのも他の生徒達の手前、変に思われるでしょう」
「なるほど、言われてみれば……。宜しい。ご本人でお会いになって頂けるのであれば我々も手間が省けると言うもの。二人との面会を許可致しましょう」
「ではこの後、帰るついでに会って行こうと思いますが宜しいでしょうか?」
「この後すぐにですか?それでは念の為に私も同行致しましょう」
「左様ですか。却ってご足労頂く事になってしまい恐縮です」
「いえいえ。それでは参りましょう」
アラム法務官はソファから立ち上がり扉に向かい、マルクスが後に続いているのを確認しながら廊下に出た。
そのまま渡り廊下を通って憲兵本部に入り、憲兵課長の部屋を訪れた。どうやら憲兵課長に拘留室への立入許可を貰おうと思ったようだ。
幸いにも憲兵課長サムス・エラ課長は在室しており、ノックの後に入室して来た法務官を見て仰天した。
「こっ、これは……次長殿……わざわざお越し頂くとは……何かございましたか?……そちらの方は……?」
「課長殿。こちらはネル姉弟による殺人未遂事件の被害者の方で士官学校生徒のマルクス・ヘンリッシュ殿です」
「あっ!あなたが……ヘンリッシュ殿ですか……この度は色々とご足労をお掛け致しました。私は憲兵課長を拝命しておりますエラ中佐でございます」
自分の執務室に本省の法務部次長であるアラム法務官が直接やって来たことにも驚いたが、まさか「あの」被害者である士官学生を連れて来るとは……。
エラ課長も今回の件には散々と付き合わされたが、騒動の中心人物であるマルクスとはこの時が初対面であった。
(こっ、この若者……一見して随分と優男に見えるが……彼が噂に聞いていた被害者の生徒か……)
エラ課長は暫くマルクスに見入ってしまい、アラム法務官から再度声を掛けられ慌てて我に帰った。
「実は課長。ヘンリッシュ殿が和解に応じて頂ける事になりましてね」
「あっ!左様でございますか!これは真に忝い……。私も漸く肩の荷が下りる思いです」
「それでですね。彼が加害者である姉弟との面会を希望されているのでね。出来ればあなたにご案内頂ければ思いまして」
「えっ!?あの二人にお会いになるのですか?」
エラ課長も流石に驚いている。
「はい。どうせなら直接会って今後の事について話をしておこうと思いまして」
「そ、そうなのですか……」
「課長殿がお忙しいのならば、どなたか別の方にでも……」
法務官の言葉にエラ課長が慌てて
「いえいえ!私がご案内させて頂きます」
椅子から立ち上がって
「では参りましょう」
と、今度は課長が先頭に立って二人を地下に案内する事となった。軍務省本庁舎と憲兵本部庁舎は地下一階にある地下道でも繋がっているのだが、三人は地下一階まで下りてから、その地下道とは反対側にある通路を進むと、廊下が鉄格子によって区画が分けられていた。
どうやらこの鉄格子から先の区画が拘留室であるらしく、鉄格子の前に憲兵が二人で警衛として立っていた。エラ課長の姿を認めた二人の憲兵が挙手礼をするのへ
「緊急の面会だ。フォウラ・ネルとダンドー・ネルの二名を面会室に連れて来てくれ」
と命じた。憲兵の一人が「はっ!」と応じてもう一人の憲兵に鉄格子に設けられた大人が一人通れるくらいの出入口を開けて貰い、その先の廊下の奥に消えて行った。
すかさず出入口は閉ざされて、残された憲兵が三ヵ所の錠を掛け直す。
「ではこちらへ」
廊下の鉄格子手前の左側に扉が付いており、中に入ると……部屋の中はどうやら4メートル四方程あるようだが、丁度真ん中辺りで壁によって仕切られており、壁の中央部に70センチ四方程度の開口が設けられて、鉄格子が嵌められていた。
開口部には机となる板が渡されており、椅子も置かれているので、どうやらこの鉄格子の嵌った開口部越しに面会が行われるのだろう。
本来であれば開口部の前にある一脚の椅子だけがこの部屋唯一の備品なのだが、エラ課長が室内に居た別の憲兵に言い付けて、更に二脚の椅子を持ち込ませた。
課長もそのままこの面会に立ち会う事を希望したので、正直一人で付き添う事に不安のあったアラム法務官はマルクスに許可を求め、マルクスもこれに応じたので椅子を二脚置かせて法務官と憲兵課長はマルクスの後ろ側に座る事となった。
面会席の椅子に座ってマルクスが待っていると、やがて反対側……つまり留置室側にも椅子が一脚持ち込まれる。
留置中の者が二名で面会を行う事は珍しいようで、壁の向う側の憲兵も追加で持ち込んだ椅子をどこに置けばいいのか悩んでいたようだが、結局は開口部前に二脚並べて置く事にしたようだ。
数分程待つと、先に弟であるダンドー・ネルが連れて来られた。事件直後の取り調べの後に一旦軍病院に移送され、一旬の療養を経てこの拘置室に戻されてから既に半月が経過しており、拘留が続いている彼の巨体も幾分縮んでしまったかのような印象を受ける。
その表情からは生気が失われており、未だ骨の付かない左手を三角巾で吊るされたまま部屋に連れてこられたダンドーは開口部の向う側に何時か見た顔……自分達がこのような境遇に落とされた元凶になった美貌の新入生の顔を認めて、一気に表情が険しくなった。
「きっ、貴様ァァァ!」
ダンドーは左手を負傷していたので手鎖には繋がれておらず、右手も脱臼した際に筋を痛めていたので後ろ手で腰縄に固定されてもいなかった。
しかし忘れもしない仇敵のような相手を認めて、今の自分が置かれた状況を忘れて開口部分に突進しようとしたが、すぐに彼を連れて来た憲兵と、拘留側の室内に居た別の憲兵の二人掛かりで、開口部手前の机部分に突っ伏す形で抑え付けられた。
この様子を見てマルクスの後ろに座っていた法務官と憲兵課長が立ち上がったが、当のマルクスは特に驚くようでも無く、右手を軽く上げて挙げて二人を制し
「おい。折角わざわざ会いに来てやったんだ。大人しく座っていろ」
と、鉄格子越しに挙げた右手をそのまま差し込んで、抑え付けられていたダンドーの頭を食指で突いた。
途端にその場で抑えられながらもがいていたダンドーは大人しくなった。
「もう大丈夫です。手を離してあげて下さい」
マルクスに開口部越しに言われた二人の憲兵はダンドーの頭を机に抑え付けていた手を離す。二人は言葉を掛けて来た開口部の向う側に居る若者の背後に憲兵課長の姿があることを知っていたので、この若者の指図に従ったのだ。
抑え付けられていた頭部が自由になったダンドーは、ゆっくりとその顔を上げた。不思議なことに少し前まで激昂していた表情はかなり落ち着いたものになっている。
この様子を見た二人の憲兵は元より、マルクスの背後で見守っていた法務官と憲兵課長も驚いた。
「何をしに来た……?」
落ち着いた態度を見せたダンドーであったが、その口から出た言葉はかなり弱々しいものとなった。服装は差し入れがあるのか、垢じみて無くしっかりと洗濯された普通の白いシャツに黒いズボン……陸軍科の制服をそのまま穿いているのだろうか。
「今、姉上も来るからそのまま待っていろ。今日はお前達姉弟に言っておきたい事があったので連れて来て貰ったのだ」
「あ、姉上……姉さんも……?ここにいらっしゃるのか?」
「ああ。二人揃ってから話をしよう」
「姉さんが……ここに……」
ダンドーはこの憲兵本部に連行されて来た時は意識を失っていた。彼が覚えているのは救護室で左手の応急処置を受けてから姉が取り押さえられた現場に駆け付けた際に、地面に横たわる姉の姿を見て……そこから先は憶えていなかった。
ただ、目が覚めると全身に激痛が走り、更に加えて両腕が機能しなくなっていた。左の掌半分が骨折していたのは憶えていたが、右腕が全く動かなくなっており、動かすとこれも激痛が走った。
その痛みで呻くと、彼の寝かされていた寝台の近くで警護の為に立っていた憲兵に自分が憲兵本部で拘束中である事を知らされた。
ダンドー自身は何故自分が拘束されているのかサッパリ意味が解らず、姉の姿も見えないので心細く思っていたところ、軍医から一旦療養措置の判断が下され軍病院に移送されてしまった。
そして再び憲兵本部へ戻されてから一旬程、よく解らないままに取り調べなどを受けていた彼に、何と父親であるアーガス・ネル第四師団長が疲れ果てた顔で面会に訪れた。
この面会室で鉄格子の向こうから父親に色々と尋ねられたが、取り調べの時と同様に当時の状況を殆ど憶えていないダンドーの説明は全く要領を得られず、父の精神的疲労を更に高めるだけの結果となってしまった。
父はあれからほぼ毎日会いに来てくれるが、15分と定められた面会時間では話が噛み合わないまま終わってしまい、未だに父が何を聞きたいのか、そもそも自分はどういう境遇に置かれているのかすら理解出来ないままに今度は自分の左手を潰し、倒れた姉のそばに立っていたあの新入生……が目の前の鉄格子越しに座っている。
先程はその姿を見て、それが「あの新入生」であると判った途端に頭の中が怒りで満ちて見境が付かない程に激昂してしまったが、今は不思議と落ち着いている。
一体どうした事だろうとダンドーが捕り抑えられた際に痛みを感じた右肘を気にしていると……彼が連れて来られた扉が開き、誰かがが室内に入って来た。
「ねっ、姉さん!」
ダンドーが振り向くとそれは……憔悴し切った顔で目の焦点も合っていないような……変わり果てた姿の姉が女性の憲兵に連れられて、虚ろに視線を落としたまま彼の隣の椅子に座らされた。
鉄格子の向う側で座らされたフォウラ・ネルの様子を見て、マルクスの後ろに座っていたエラ課長が
「やはり……姉は相変わらずですな。こちらに送致した時は弟と違って意識はありましたが、あのような様子で取り調べにも一切応じられない状態が続いております。
面会に訪れた父親に対しても泣き喚くばかりでして……」
マルクスに聞こえるような声の大きさでアラム法務官にも説明している。フォウラは長い黒髪に紙のような顔色で、濃い茶色の瞳を持つ目も虚ろな状態であったが、その視線の焦点が鉄格子の向う側に合った途端に
「へ……ヘンリッシュゥゥゥゥゥ」
と、表情を険しくして絞り出すような声が口から洩れた。姉の方は弟と違って左手だけは無事なようで、その左手で鉄格子を掴んで揺すっている。
先程まで魂が抜けたように見えたその表情は、今や何か力を取り戻し……戻し過ぎたかのように怒りに満ち溢れ、両手を負傷して身動きも侭ならない弟ですら隣でたじろぐような状態になっている。
彼女を連れて来た女性の憲兵が慌てて彼女を捕り抑えようと、鉄格子に懸かっている彼女の左手をそこから剥がそうと掴み掛けたその時
「そのままで結構。無理に抑えないで下さい」
鉄格子の向う側から、面会席に座っている美しい若者から声が掛けられて女性憲兵も黙ってその言葉に従った。
抑える者が居なくなったフォウラは尚、左手だけで鉄格子を掴んで揺すっていたが、その手に反対側からマルクスが触れると、フォウラは弾かれたように鉄格子から左手を離して自分の椅子に腰を落とした。
そして突然意識を取り戻したかのように……ここがどこだか確かめるかのように辺りを見回す仕草を見せ、自分の置かれた状況が把握できずに困惑した顔を浮かべた。
まるで今まで何か朦朧としていた態度から一変して「正気を取り戻した」かのような彼女の様子を見てマルクスの後ろに居た二人は勿論、フォウラを連れて来た女性憲兵、更にはダンドーの背後で彼の挙動を見張っていた二人の憲兵も驚いている。
「さて。二人共揃ったな。面倒臭いが、今後も色々と絡まれるのはもっと煩わしいのでな。お前らと話すことにした」
マルクスは鉄格子の向うで並んで座らされている姉弟に向かって話し始めた。
【登場人物紹介】※作中で名前が判明している者のみ
ルゥテウス・ランド(マルクス・ヘンリッシュ)
主人公。15歳。黒き賢者の血脈を完全発現させた賢者。
戦時難民の国「トーンズ」の発展に力を尽くすことになる。
難民幹部からは《店主》と呼ばれ、シニョルには《青の子》とも呼ばれる。
王立士官学校入学に際し変名を使う。一年一組所属で入試順位首席。
タレン・マーズ
35歳。マーズ子爵家当主で王国陸軍大尉。ジヨーム・ヴァルフェリウスの次男。母はエルダ。
士官学校卒業後、マーズ子爵家の一人娘と結婚して子爵家に養子入りし、後に家督を相続して子爵となる。
北部方面軍第一師団所属から王立士官学校一回生主任教官へと抜擢されて赴任する。
ジェック・アラム
51歳。軍務省(法務局)法務部次長。陸軍大佐。法務官。勲爵士。
軍務省に所属する法務官のうちの一人でネル姉弟の軍法会議の際には検察官を担当する予定であった。
エラからの進言を受けて主人公にネル家との和解を勧告する。
サムス・エラ
45歳。軍務省憲兵本部憲兵課長。陸軍中佐。
王都において実質的に憲兵の実働を采配する軍務官僚でベルガの直接の上司に当たる。アラムに士官学校殺人未遂事件について当事者の和解を進言する。
フォウラ・ネル
17歳。王立士官学校三回生。陸軍軍務科専攻。二回生修了時点で陸軍科首席。学生自治会長。
学生の間では「自治会の女傑」として恐れられる。
主人公の初登校日に自治体への懐柔を試みたが無視された上に弟の左手潰され、激高して主人公を襲撃したが返り討ちに遭い、殺人未遂の現行犯で憲兵本部に連行される。
ダンドー・ネル
17歳。王立士官学校三回生。陸軍科三組。一回生修了時の席次は78位。学生自治会所属。
自治会長フォウラ・ネルの弟。身長190センチ強、体重120キロ以上と言われる巨漢。学年の席次は低いが姉の護衛役として自治会に所属している。
主人公に撃退された姉の姿を見てこれも激高し、主人公へ報復を試みたが姉同様に主人公に撃退された挙句、殺人未遂の現行犯で姉と共に憲兵本部に連行される。