赤き双生児
【作中の表記につきまして】
物語の内容を把握しやすくお読み頂けますように以下の単位を現代日本社会で採用されているものに準拠させて頂きました。
・距離や長さの表現はメートル法
・重量はキログラム(メートル)法
また、時間の長さも現実世界のものとしております。
・60秒=1分 60分=1時間 24時間=1日
但し、作中の舞台となる惑星の公転は1年=360日という設定にさせて頂いておりますので、作中世界の暦は以下のようになります。
・6日=1旬 5旬=1ヶ月 12カ月=1年
・4年に1回、閏年として12月31日を導入
作中世界で出回っている貨幣は三種類で
・主要通貨は銀貨
・補助貨幣として金貨と銅貨が存在
・銅貨1000枚=銀貨10枚=金貨1枚
平均的な物価の指標としては
・一般的な労働者階級の日収が銀貨2枚程度。年収換算で金貨60枚前後。
・平均的な外食での一人前の価格が銅貨20枚。屋台の売り物が銅貨10枚前後。
以上となります。また追加の設定が入ったら適宜追加させて頂きますので宜しくお願いします。
ルゥテウス……マルクス・ヘンリッシュは唖然と彼を見送る同級生一同や教官達を残して校門をさっさとくぐって右に曲がり、ケイノクス通りを渡って向かい側にある軍務省の門に入って行く一団の後を追った。
「一団」は憲兵一名を先頭に二台の担架に分乗している容疑者が続き、士官学校生徒四名、背を丸めて俯きながら歩く憲兵と、その後ろから右足を引き摺るように歩く憲兵で構成されていた。
先頭の憲兵はつい先刻までその場で門衛をしていた者だったので、自分と反対側の門柱を守っていた「相方」に
「士官学校より犯罪者の移送だ」
と告げて、相手からの敬礼で応答を貰うとそのまま門の中に入って行った。
その門衛はベルガ憲兵中尉にも緊張の面持ちで敬礼をしている。
ヘンリッシュはその門衛に応礼しながら最後尾を歩く彼に追い付くと
「私も同行しますよ。公訴事由の調書が必要でしょう?」
「なるほど。そうですな。それではご足労だがお願い致そう」
ベルガは先程の「事件現場」で散々に非現実的な光景を見せられた当人が自分に追い付いて来て突然話しかけられたので多少驚きながら、それでも「たかが学生」であるはずの士官学校新入生に対して多少緊張しながら敬語口調になっている。
憲兵本部は軍務省本庁舎とは別棟に専用の玄関が設けられており、一行はその玄関から入り、「担架に乗せられた容疑者二人」はひとまず救護室に収容された。
被害者から強烈な背負い投げを受け、背中と腰に相当なダメージを受けている他に、姉は投げられた際に右腕を極められ、その後の拘束で容赦なく背後に回された事で右肘が脱臼しており、弟も投げられる前から左手の無名指と小指にかけて骨まで潰され、更には姉同様に投げられながら右腕を極められてやはり右肩と右肘を脱臼していた。
恐るべき投げの威力と冴えである。白兵戦技でも極めて好成績を修めているはずの「陸軍科三回生首席」と、他の科目はともかく、白兵戦技においてのみ学年上位の成績を誇る巨漢の「陸軍科二回生」に対して登校初日の「新入生」が、相手から見くびられていたとは言え投げ技一発で自力歩行が困難になるようなダメージを与えたのだ。
ベルガは騎兵出身だが、王国陸軍では珍しく生命のやり取りをしていた戦闘部隊に所属していた事もあり、更に憲兵に転属してからも酒に酔って規律を乱す将兵や軍属を取り締まるような現場に何度も居合わせた経験があるが、ヘンリッシュが巨漢相手に見せたあの一本背負い投げ程に強烈な……そして美しい投げを目撃したことは学生時代を含む訓練においてさえも無かった。
(投げ技は相手の行動力を一時的に奪うものだとは思っていたが……このように体格差のある相手を一発で行動不能に出来るんだな……)
と、あの瞬間の光景を思い出しながら心中で感心していた。
彼は騎馬隊での事故で右足を引き摺る後遺症を負っているとは言え、その前までは「北部軍の鬼公子」と一部の陸軍内で畏怖されていたタレン・ヴァルフェリウス中隊長の下で実戦を経験していた身である。
ちなみに、「公子」とはこの王国において公爵の子弟に対して使われる尊称で、現代の王国軍においてその尊称に該当するのは陸海軍通してタレン・マーズだけであったが、本人は元々その尊称を嫌悪していたし、今では別家の当主となったので軍所属から公子は居なくなった。
しかし王国軍……いや王国政府は昨日から士官学校生として未認知ながら新たな「公子」が軍属に加わった事実には当然ながら気付いていない。
自らも小隊長として鬼公子から怒鳴られ脅かされながら一緒になって匪賊討伐の戦場を暴れ回っていた「北部方面軍第一師団出身」という彼の経歴は、憲兵の間でも広く知られている為に、今年30歳になる彼は若手憲兵から尊敬の眼差しを受けていた。
憲兵という部署では決してそのような修羅場は体験出来ないし、そもそも現代の陸軍でそのような経験をしているのは北部方面軍の一部だけである。ベルガ中尉はその数少ない戦場から生還して憲兵に転身した稀有な存在なのである。
「私は容疑者の救護室収容と、拘置手続きを行ってきますので証人となる彼らと共にこちらの部屋でお待ち下さい」
ベルガに案内されたのは「第一大取調室」と書かれたプレートが扉に付いた部屋であった。
マーズ学年主任教官に指名された四人の証人生徒は不安そうに長身で美貌の首席入学生を見上げている。
そんな彼らと部屋に入って、中に配されていた大机を囲むように置かれた丸椅子にヘンリッシュは腰を下ろすと四人も彼と少し離れた席に固まって座った。四人の性別は男子三人と女子一人である。
普通に学生生活を送っていれば、このような憲兵本部の取調室に入れる機会はまず無い。せいぜいその憲兵隊が任官先の一つとなり得る三回生の「軍務科」が現場実習で配属される時くらいである。皮肉な事に、その軍務科の首席生徒が「容疑者」として憲兵本部に連行される事になったのだが……。
男子二人と女子は黒い制服、もう一人の男子は白い制服を着ており、それぞれ陸軍科と海軍科の制服であることから、全員二回生以上である事が解るので
「先輩方、下校を妨げてしまい申し訳ありません。ご協力に感謝します」
ヘンリッシュは落ち着いた声で頭を下げながら礼を述べた。
礼を言われた側はそれぞれ慌てた様子で、先程の大立ち回りを二度に渡って見せられた上に駆け付けた憲兵士官や巨漢のダンドー・ネルを左手一本で軽々と吊り上げたこの年下の新入生に対して
「い、いやいや……れ、礼には及びませんよっ」
「う、うん。私は気にしてないから」
「大丈夫。大丈夫だから」
等と怯えるような目で恐縮している。
「申し遅れました。私は本年度入学致しました一年一組のマルクス・ヘンリッシュと申します」
最早必要無いだろうが、席を立ってヘンリッシュは離れて座る上級生の男女に自己紹介をした。
この驚異の新入生から丁重な自己紹介を受け、四人も一斉に立ち上がって名乗ろうとしたが、一斉に名乗ってしまったので、お互い目くばせと譲り合いを繰り返した結果、向かって右側の黒い陸軍科の制服を着た男子から
「ショーン・トエルドです。陸軍歩兵科です」
「ケイラ・ハリスです。陸軍歩兵科です」
「オーヘル・アキラウドです……海軍科です」
「ネビル・マートウェル。陸軍科に所属しています」
漸く順番に名乗れた。どうやら二回生二人と三回生二人で、三回生二人は同じクラスのようだ。そう言えば、最初にフォウラから襲撃を受けた時に前方に立ってこちらを向いていた男子生徒に後方から女子生徒が追い付くように走って来た状況だった。
恐らく二人は同級生として親しい仲なのだろう。
士官学校では生徒を基本的には成人扱いしているので生徒間での恋愛は自由だ。
驚いた事に、時折女子生徒が妊娠をしてしまい……身重の身体では訓練や演習に参加出来無くなるので自主退学したり堕胎騒ぎになることがある。
この辺についても全て自己責任で、授業料も徴収される。
卒業後の五年服務で授業料の返納免除を申請していた者は、当然それが叶わなくなるので退学した時点での授業料が日割り計算されてしっかりと徴収される。
この際、当然そのような金額を支払えない女性側の実家と孕ませた側の男性の実家で「ちょっとした紛争」に発展することも多々あるようだ。
首席入学生に氏名と所属クラスを告げた四人は改めて、目撃者である自分達よりも静かに座るその「彼」の様子を窺っている。
先程来目にした一連の光景で、とにかくこの年下の新入生の「気分を損ねては危ない」という思考が本能的に回ってしまっているのだろうか。
四人と一人の士官学校生徒が会話も無く静まり返って広い大取調室で待機していると、漸く男女一名ずつ憲兵が現われて
「では目撃者の方の証言調書を採りたいと思いますので、お一人ずついらして下さい」
と、憲兵とは思えないような丁寧な言葉遣いで説明してきた。四人は先輩であるショーンとケイラから順に、それぞれの憲兵に着いて部屋から連れ出された。
すぐ後になってベルガ中尉が現われて
「ではヘンリッシュ君、別の部屋で話を聞きますよ」
と首席入学生を呼んだので、ヘンリッシュは立ち上がって残された二人の先輩に対して
「ではお先に失礼致します」
と頭を下げてから踵を返してベルガに着いて退室して行った。
部屋の扉が閉まると、残された二人は一斉に大きく息を吐き出して
「まさかあの新入生を間近に見れるとはな」
「うん……さっきの投げは凄かった」
「意外に礼儀正しかったな。あのような見た目と成績だからもっと傲慢な奴かと思ってたよ」
「でもまさか……自治会長があんな乱暴な手段を採るとはな……」
「うん……俺、あんな恐ろしい顔をした自治会長は初めて見たよ……」
「本当にこのまま放校になっちまうのかな……信じられないよ」
緊張が和らいだのか……白い制服を着た海軍科と黒い制服を着た陸軍科の生徒が、多少の笑いと共に不安が自然と言葉として口から出たが、これはまだ二回生に進級してから二旬目だからこそかもしれず、本来ならば互いの対抗心から陸軍科と海軍科の生徒はあまり口を利かないのが普通だ。
先月まで同じ一回生として陸海軍分け隔てる事無く学んでいた者同士として、まだ対抗意識は芽生えて無かったのかもしれない。
「軍務科」という科目が陸軍科に属してしまっているので、自然とその有力な任官先となる軍務省、更にはそこに直属する憲兵隊には陸軍科の士官学校卒業生だけが供給されるようになり、現役憲兵士官達の接遇も、自然と陸軍科生徒に対しては甘くなる傾向がある。
王国政府はこの「軍務科」を陸軍科から切り離して独立化させる案や、定員を割って海軍科にも軍務科を設置しようという動きが過去には何度もあったのだが、その都度学校を管轄する軍務省からの反発があって、現代においても実現していない。
こうなると海軍側も多少意固地になってしまい、現役海軍士官や一般水兵に至るまで
「戦いもせずに俸給だけは貰う穀潰し」
と陸軍将兵を侮る傾向がある。王国海軍においては現代になっても、海に潜み交易や輸送を担う民間船を襲う海棲の魔物に対する哨戒や、海賊や密輸船の取り締まりで日々生命の張り合いをしており、自然と気が荒くなる気風が醸成されるのは仕方が無い事である。
しかしそんな海軍は建国以来、腐敗する暇も無く体を張って王国の流通や海の治安を護っているせいか、過去に現われた「黒い公爵さま」からの粛清を受ける事は少ない。
彼が起こす粛清の対象となるのは、大抵の場合平和な陸上勤務で時の流れと共に腐敗を進めていく陸軍とその元締めとなる軍務省で、「賢者の武」を持つ黒い公爵さまが出現すると、それはより一層苛烈なものとなる。
但し軍務省直下とは言え王立士官学校においては、制度上では陸海軍を平等に扱っており、学校を掌握する学校長は60歳で定年となる各方面の長である陸海軍の大将から、三年任期で交代期に定年となった者の中から陸海交互に国王から直々に任命される。
現在の創立から数えて第534代学校長は前年の3047年度から、前第四艦隊司令官のロデール・エイチ海軍大将が就任している。
エイチ校長は何かと危険の伴うアデン海を管轄とする第四艦隊出身だけあって猛者が多い海軍の中でも実戦経験豊富な名提督として軍内の知名度が抜群な人物であるが、三日前に突然校長室に現われた首席合格者に「何故か直接」入学式の欠席届と、三年間の授業料と教材費、給食費を含む金貨230枚を現金で「受け取らされた」結果、当の首席入学生が入学式を欠席した事を不問とした。
本人も自分が何故欠席届を受理したのか憶えて無かったが、マルクス・ヘンリッシュが恐れ多くも首席の立場で入学式を「すっぽかした」事を教職員会議で問題視された際には欠席届を明示し、「声を荒げて」これを擁護したと言う。
教職員の筆頭である教頭ハイネル・アガサ大佐以下は、この剛毅な元提督の怒号に震え上がり、結果的に首席合格者の入学式欠席を不問とした。
今回の件は既に校長及び教頭の耳には達しているようだが、校長の判断で処分は憲兵本部に一任するという伝令がこの時間既に届いていた。
校長の深層心理には「この美貌の入学生と関わり合いになってはいけない」という防衛本能由来の精神的ブレーキが働いているのだろうか。
とにかく、新二回生が一年一組の生徒達のようにこの首席入学生の事を切っ掛けにして和気藹々と証人調書尋問待ちをしている間に、マルクス・ヘンリッシュことルゥテウスはベルガ・オーガス憲兵中尉に案内されて前を歩く三回生の男女が個別に部屋へ入って行ったのに続き、「第五取調室」とプレートに書かれた扉を開けて中へ招じ入れられた。
部屋は4メートル四方程の広さで、扉は左壁側にあって室内右手前側の隅に机と椅子が一組置かれ、既に別の憲兵が座っていた。
彼の手元には何かの用紙が置かれて手にはペンを握っているので、恐らく記録官だろう。
部屋の中央にも机が一卓と、それを奥と手前とを挟むように背もたれ付きの椅子が一脚ずつ置かれており
「ではあちらの椅子に座ってくれないか」
とベルガに促されて、ルゥテウスは奥側の椅子に腰を下ろした。彼に続いてベルガは入口手前側の椅子に座り、制服の胸ポケットから手帳を出して右手にペンを持ち
「ではちょっと、私が到着する前の状況を説明して貰えますか」
とルゥテウスに頼んで来た。
「承知しました」
ルゥテウスも特に何か突っ張る事もなくベルガの依頼に同意して
「まぁ、私からご説明出来る事は……教室で下校前の終礼が行われ、号令も掛かって担任への礼も終わり、そのまま下校しようと『あの場所』まで歩いて来たところで突然背後から姉の方ですかね……あの女性に後頭部を殴打されかけて、幸いな事にその寸前にその凶行に気付き、咄嗟の防衛行動を採った次第です」
「咄嗟に避けたと?」
「はい。前方に居た先程の……トエルド氏ですか。彼はこちらを向いて立っていたのですが、その彼が私の後方を見て驚くような表情を見せたので、咄嗟に後方へ注意を向ける事が出来たのです。いやぁ、彼は私の命の恩人ですな」
ルゥテウスが供述する態度には特に何か感情を高ぶらせるような様子は見られない。
とにかく彼の身の上に起こった事実を淡々と説明しているだけである。
「それで……姉の方の襲撃をどのように回避したのですか?」
「恐らく後頭部を殴打される寸前に辛うじて頭部を左方向に逸らすことが出来たのです。そこで頭部を掠めた彼女の腕を捕って投げました」
「あの巨漢の弟のようにかい?」
ベルガは目を瞠りながら尋ねた。
「さぁ……咄嗟の事でしたからね。あまり良く覚えておりませんが、投げた後に暴漢が再び自分に攻撃を行えないようにうつ伏せにして捕った腕を回して拘束しました。必死でしたよ」
彼の表情や、思い出されるあの時の光景から「必死だった」というような印象は受けなかった。ベルガは苦笑しながら
「なるほど。加害者の拘束を実施したのだね。そして『あの』エンダ中尉を呼んだと?」
「エンダ……?あぁ、あのポンコツ憲兵殿ですか。恐らくあの凶行に遭遇した別の生徒が警衛本部まで注進に行ったのではないでしょうか。
私がまず付近の通行者に依頼したのは校門に居るはずの警衛当番の者です」
「あぁ……もしかしてこちらの警衛を呼びに来た生徒かな?警衛当番の腕章をしていた」
「恐らくそうですね。マーズ教官殿が彼に命じていたのを憶えております。あの警衛当番の生徒もちょっと問題ですなぁ」
「何がかね?」
「彼は通報を受けて、一番最初に現場へ駆け付けた警衛要員でしたが、当初は私の言い分をまるで聞き入れずにあの暴漢を解放するようにと強要してきました」
「そうなのか?」
「はい。目撃者に聞いて頂ければ解ると思います。彼は襲撃された私の言い分を聞き入れずに、拘束しているのが『自治会長』なる者だと知ると強い口調で私に拘束者の解放を強要して参りました。
後程彼の処分も検討して頂く必要がありますな」
「しかし強要したとは……実力で解放を試みたわけでは無いのだろう?」
「当然でしょう。もしあの場で私に対して実力を行使されていたら暴漢の幇助共犯者として私も阻止に動いていたでしょうね。
私も腕が二本しかありませんから、暴漢か共犯者いずれかの生命活動を奪わざるを得なかったでしょう。
凶悪な二人を生きたまま拘束するのは面倒臭いですからね。自身の安全の為にも」
ルゥテウスが物騒な事を淡々と話すとベルガは一瞬鼻白み
「して、その後……エンダ中尉が到着してからの経過はどうだったのかね」
「はい。あの憲兵殿へ警衛当番と同様の説明を致しましたが、彼もあの暴漢を拘束する事無く傍観し始めまして。
私も流石にあの学校の警備態勢の腐敗ぶりに呆れて、容疑者の拘束を続けるのが億劫になりましてね」
「億劫になって?」
「とりあえず暴漢への拘束をやめて、もし拘束を解かれた暴漢を含むこの三者が私に再度危害を加えた場合は生命活動を奪って沈黙させるつもりでした。仮にそうなっても私の行為は多対一の襲撃に対する正当防衛と認定されるでしょうからね。目撃者もそれなりに周囲には居りましたし」
相変わらずあっさりとした口調で物騒な事を口にする「被害者」に、部屋の隅でこの供述に対して調書を作成している記録官も彼の方にチラチラと視線を送っている。
「そこまでする必要も無かろう」
ベルガが苦笑混じりに言うが
「しかしその後どうなりました?あの姉より凶悪そうな弟が私を再び襲撃してきましたが?あの場に居たどなたもそれを阻止してくれませんでしたよねぇ……」
ルゥテウスは急に半眼になった。彼が遺憾の意を示す時特有の表情だ。この表情をする時、彼の全身からは相手を圧倒するような「気」が漂い始める。
その「気」をまともに受けたベルガは急に背中から汗が吹き出し
「い、いや……すまん。言い訳になるかもしれないが私は足が上手く動かなくてな……あの巨漢の生徒を咄嗟に阻止できなかったのだ。済まなかった。詫びを言う」
ベルガは慌てて謝罪した。
「まぁ……構いませんよ。しかしあの時私があの姉弟を処分しようと思った心情はご理解頂けますでしょう?
あなたや教官殿ですら阻止できないような暴力に晒されかけたのですから」
「ま、まぁそうだな……あの弟の突進と跳躍はちょっと想像もつかなかった」
「ところで中尉殿は足の具合が悪いとか。そのような事では、あのような場合に咄嗟の行動が執れないではないですか。そんな事で憲兵としての任務が全う出来るのですかねぇ?」
ルゥテウスがわざと嫌味を効かせて言うと、記録官の憲兵が振り向いて
「貴様っ!ふざけた事を言うなっ!中尉殿の右足は名誉ある負傷によるものだっ!何も知らない小僧がいい気になるなっ!」
と突然怒鳴りつけてきた。ベルガは彼を手で制しながら
「よせっ!私が彼を暴漢から護れなかったのは事実だ。軍属たる士官学校生とは言え、まだ入学して二日目という者を危険に晒したのは私の落ち度だ」
と潔く自身の落ち度を認める発言をした。
(ふむ。やはりこの男は憲兵とは言え珍しく誠意のある男ではないか)
感心したルゥテウスは
「なるほど。あなたは私が普段想像する憲兵の姿とは少々違うようですな。失礼な事を申し上げたお詫びとして、足を診て差し上げましょう」
と申し出た。ベルガは突然向かいに座るこの……美しい士官学校新入生……今年の首席合格者だと聞いていた青年の言っている事が理解出来ないながらも
「いや……この足はもう十年近く前に馬に圧し掛かられて潰されてしまってな……。
骨は何とか接いだのだが、膝が駄目だったんだ。君の気持は忝い事だがもうどうしようも無いのだよ」
悲しそうな笑みを顔に浮かべながら答えた。
「ほほぅ……その判断を下したのは医者ですか?」
「そうだな。北部方面軍の本部があるドレフェスに居た医者だ。当時上司だったヴァルフェリウス……いやマーズ中尉が探し出して来て頂いた、『骨接ぎの名医』との評判が高い医師であった」
「ふむ……教官殿のご紹介ですか。しかし私は先程来、あなたの後ろからその歩様を見させて貰いましたが、膝関節はもう回復しているようですよ」
「なんだと!?なぜ学生である君にそんな事が解る?」
「中尉殿も私の体術をご覧頂いたと思いますが、私は幼少の頃から体術を習いながら人体の仕組みについても覚えさせられましてな。あなたの歩様を見てそれなりに解るのですよ」
ルゥテウスはベルガの警戒を解く為に、口からでまかせを言った。しかし言われた側のベルガは、ルゥテウスの見せたあのあまりにも見事過ぎる一本背負い投げを思い出して
(やはり体術を習っていたのか。それもあれほど見事な……もしや本当に私の膝が回復していると見ているのではないか……?)
と、この急に降って湧いた「申し出」に対して、何か希望のようなものが芽生えて来た。
「ほ……本当に私の……私の膝は治るのか?」
なにやら急に神妙な顔になって、公訴事由の調書作成の為に被害者の陳述を聞いているという状況を忘れ、この目の前の年齢が半分でしかない士官学校新入生に対して縋るような気持ちで語り掛けた。
「ええ。私の師は既に他界してますが私はお陰様を持ちまして師の技をほんの少しだけですが習い盗る事ができました」
口から出任せをペラペラ喋りながらルゥテウスはニヤニヤしている。
「で、では……すまんが、本当に……後で診て貰ってもいいだろうか……?」
「あぁ、別にここで診ても構いませんよ。すぐ終わりますし」
ルゥテウスの申し出にベルガだけでなく若い記録官も驚愕した。ベルガの不自由な右足は彼にとって一種の「武勇の象徴」であり、騎兵隊出身の彼が憲兵巡視の際に指揮官でありながら馬に乗れないというハンデを抱える忌まわしきものでもあった。
その右足の後遺症を気軽な調子で「治りそうだ」と言うこの士官学校生の言葉に驚くのは無理も無い。
「ではご面倒ですが、ちょっと右足を出して患部を見せて下さい」
ルゥテウスの申し出に、ベルガは一瞬躊躇したが……机の下から曲がらない右足を出して見せた。
「こっ、これで構わないかい?」
「あぁ、構いせんよ。ではちょっと診せて貰いますよ」
ルゥテウスは椅子に座りながら上半身を曲げて、わざとらしくベルガが机の下から出した右足の膝の部分を触ったり叩いたりしながら
「ここは傷みますか……?……ではここは?」
などと膝を何ヵ所か診て顔を上げ
「ふむ。やはり骨がズレているだけですね。痛みも無いのでしょう?」
「あぁ……そんなに目立って痛いわけじゃないんだ。ただもう関節が固まってしまったように動かないだけなんだ」
「ならばズレを治すだけですよ。どうしますか?この場で治しますか?」
ベルガの足は確かに馬の重量によって潰されてから、なんとか骨は接ながって自力で立ったり歩行できるようにはなっているが、三年ほど前までは杖が無いと歩けない程であった。
現在でもたまたま骨の接ぎ方が良くて神経を圧迫していないので痛みは出ないが、膝関節は完全におかしな固まり方をしてしまった為に、この時代の整形技術では回復不能になっていた。
本来、こう言った後遺症を治すには最早魔法による「治癒術」しか無く、それも四肢の関節のような細かい部位の回復には精密な回復魔法を使用する必要がある。
この高等治癒術を使用可能な魔法ギルドや救世主教の関係者は確かに存在するが、術式詠唱が何時間も伴うような「儀式級」の行為となる為、その対価となる治療費用は金貨数百枚にも上る事で知られており、ベルガも以前に治癒術の存在を耳にはしたが、費用の問題で「完治」は断念していた。
「本当なのか!?しっ……しかし……治療には大金が掛かると……大聖堂の治療術官に言われて……」
ベルガが震える声で話すのを
「ははは。魔法ギルドの能無し術師や教会の生臭坊主どもは得てしてそんなものですよ。奴らは能無しの癖に金だけは欲しがりますからね」
ルゥテウスは笑いながらとんでもない事を口にした。
「中尉殿にその気がおありならこの場で膝を矯正しますが?勿論私には教会や魔法ギルドのような強欲さはありませんので『ご寄進』は必要ありませんが」
「ほ、本当なのかい……?で、ではお願いできるか?」
「承知しました」
とルゥテウスはベルガの伸び切って曲がらない右足の膝をズボンの上から両手で「パシン」と挟み込むように叩いた。
途端にベルガの右膝は本来の機能を取り戻したように膝の下が「ポキン」とでも音がしたような感じでダラリと曲がった。
「ではちょっと立ってみて下さい」
仰天しているベルガにルゥテウスが起立を促すと、彼は信じられないと言うような顔でゆっくりと右足を地面に着けて立ち上がった。まるで怪我をする前のようにすんなりと立ち上がれる。
「なっ!な、なっ!」
自分で立ち上がっておいてベルガは口をパクパクさせて言葉を失っている。その向こう側でこの様子を見ている記録官も口を開けたまま仰天している。
「どうですかね。どこか痛みますか?」
立ち上がったベルガの膝を揉みながら、ルゥテウスが彼を見上げて言うと
「なっ……いっ、いや……何とも無い……いや……うん……何とも無い……と言うか……どうなっているんだ?」
「いや、何とも無いならこのままちょっと屈伸をしてみて下さい。膝は私が押えてますので」
ベルガは言われるがままに机に手を掛けてその場で屈伸してみた。元々健常な左膝は当たり前だが、今まで曲がる事の無かった右膝もしっかりと曲がり、苦も無く立ち上がれる。
「そっ、そっ、そんな……。治ったのか!?俺の右足は治ったのか!?」
「まぁ治ったようですな。こうして手を当ててますが何ら異常を感じるような動きもありませんし」
この不思議な士官学校新入生は、襲撃現場や先程までの物騒な陳述と同様に、何の感情の変化も無く淡々とベルガ中尉の右足の後遺症の完治を宣告した。
「そっ、そんな……こ、これは夢では無いのか……」
そう言いながら、ベルガは狭い取調室内をぐるぐると歩き始めた。十年も跛行を引いて歩いていた癖が抜けずに歩様には少しおかしな部分があるが問題無く歩けている。
速足で歩いてみてもバランスは崩れず、痛みも無い。
「まぁ、十年ですか?おかしな歩き方をしていたので慣れないでしょうが、そのうち身体の律動によって普通の歩行姿勢に戻るでしょう。毎日少しずつ走ったりしてみてはいかがでしょうかね」
ベルガは歩きながら涙を流している。それを見た記録官も貰い泣きをしており笑いながら何度も頷いている。
「さて。足が治ったところで私の調書作成の続きをお願いしても宜しいでしょうかね?」
ルゥテウスが苦笑しながら言うと、我に返ったベルガは突然ルゥテウスに駆け寄って、その両手を取って
「あ、ありがとう……恩にきる……本当に……なんと感謝したら良いか……」
「まぁ、礼には及びませんよ。これで今後は凶悪犯にも後れを取らないでしょう?それよりも調書の続きをお願いできますでしょうか」
小さく笑うルゥテウスの言葉を聞いて、手巾で涙を拭いながら
「よ、よし。では……」
と再度手帳を広げるベルガ。後ろの記録官も思い直したように鼻をかんでペンを取り机に向かう。
「私は暴漢の拘束を自ら解いて立ち上がり、あのポンコツ憲兵殿に私の代りに暴漢の身柄を拘束するように要請したのですが、彼の御仁は傍観するのを止めませんでしたね」
苦笑混じりにルゥテウスが言うと
「傍観とは?文字通り何もせず見てただけと言うのですか?何も言う事も無く?」
おかしな事だが、ベルガ中尉の言葉遣いはこの「右足の恩人」に対して完全に敬語になっていた。
「そうですな。仰る通りの傍観です。何もせず、何も話さず。ただ見ているだけ。そこら辺の野次馬と同じです。憲兵の服を着た野次馬ですな」
ルゥテウスの辛辣な言い方にベルガは苦笑した。
「私も流石に命の危険を覚えてましたからね。咄嗟に『お前は本当に憲兵なのか』と多少『手荒く』詰め寄ってしまいましたよ」
「手荒く?まさか……エンダ中尉も投げ飛ばしたのですか?」
「いやいや。私にだって一応は遵法意識がありますからね。憲兵……それも士官殿に対してそのような無茶はしませんよ。
但し、正気でいるのかを問うつもりで胸倉を掴んで吊り上げてしまった事は認めます。危険な状況下においての緊急回避行動の一つと見て頂きたい」
「エンダ中尉は抵抗しなかったのですか?」
「しませんでしたね。私はその様子を以って職務放棄と判断しましたので、彼には氏名と派遣元の所属を聞きました。後程この本部で照会した上で告発するつもりでしたので」
「な、なるほど……。確かに……軍属とは言え殺意を持つ疑いがある者から襲撃を受けた被害者の要請を聞き入れずに傍観に徹したのはやはり彼の手落ちであると言わざるを得ませんな」
「はい。その証拠に直後に現場に駆け付けたマーズ教官殿もあの憲兵士官に暴漢の確保と送致を要請しましたが聞き入れられませんでした。
なので教官殿は最前の怠慢な警衛当番に、こちらまで救援を要請するように申し付けて走らせたのです」
「なるほど。その警衛生徒が庁舎の門衛に通報している場面に私がたまたま通り掛かったのか……そうか……。そのおかげで私は今、あなたに足を治して貰えたわけですな……」
ベルガが笑いながら言うと、後ろの記録官も吹き出している。
「まぁ、その事はもういいとして……その後の展開は中尉殿もご覧になられた通りです。ただ、一つだけこの件の関連として『不幸な事故』についてお話する必要もあるでしょう」
「不幸な事故?」
ベルガは首を傾げた。
「はい。あの暴漢の襲撃前に私が所属しております一年一組の教室の出入口で起きた事故です。恐らくあの女子生徒が私を襲撃した動機となるものかと思われます」
「えっ?動機ですって?」
ベルガ憲兵中尉は、今回の件で一つだけ解らなかった事があった。
それは最初にこの士官学校新入生を襲撃したとされる三回生首席の女子生徒……それも士官学校卒業生でもある彼自身も知っている「自治会」という校内に巨大な勢力を持つ組織の頂点たる「会長職」に就いている優等生がこの暴力事件を起こした「動機」であった。
士官学校受験に一度失敗しているベルガも現役学生の頃はそれ程席次が高かったわけでも無いので自治会役員とは無縁の学生生活を送っており、タレンのようにむしろ自治会という組織の構成員に対しては良い印象を抱いていなかった事を憶えている。
しかしその「会長」ともなると成績の面で校内トップクラスの生徒が務めるのが普通で、それくらいの見識は学生時代の彼も持っていた。
そのような人物が、何の動機も無く新入生に対してその後ろから後頭部の殴打という殺意に基いた行動を採るかと言うと、当たり前だがそれは「否」である。
むしろその地位を捨ててまで殺人行為に及ばざるを得ない状況であったとその情状を鑑みるのが普通である。
「本日の終礼が終わり、級長の号令が終了した直後にあの『姉弟』が教室内に乱入してきましてな」
「えっ?あの容疑者の姉弟が?」
「はい。どうやら担任教官殿にも無許可であったようです。教室の『防衛責任者』たる担任殿へ無許可で教室内に立ち入ったわけですから当然それは非公式の訪問となります。
まぁ、そもそもが『自治会』なる組織は何の法的根拠も無い任意団体なので、私には全く関係ありませんが」
「えっ!?自治会が法的根拠無し?任意団体?」
「おやおや……中尉殿もそのような見識だったのですか?これでは他の連中と同じではないですか」
ルゥテウスは苦笑した。
「もう、これを説明するのは何度目になるか解りませんが、自治会なる団体を定義する法令や校則の記載は存在しません。あの組織はあの学校の誰だか解らない先達が勝手に組織した任意団体で、その指示に従う法的な義務は存在しません」
「そうなのですか……?」
ベルガは「それは初耳だ」とでも言いたそうな顔をしている。
「なので当然ですが、まして担任殿の許可すら取っていないその連中を相手にする必要は無いので、私は下校しようと教室の戸を開けようとしたところ……あの巨漢にそれを阻止されそうになりました。つまり私は法的根拠も無くあの部屋に『監禁』されかけたのです」
ルゥテウスの言い分を聞いてベルガは「えっ……監禁……?」と小さく呟いた。
「下校をしようとする私を、法的にその場に留める事が出来るのはあの場においては担任教官殿だけです。
それに対しあの部屋に存在する唯一の出入口の封鎖を企図した上で下校しようとする私の行動を阻害するのは明らかな『監禁行為』に当たります」
「な、なるほど」
ベルガはルゥテウスの言い分に納得する。後ろの記録官も彼の供述をそのまま調書に記述している。
「私は……力尽くであの出入口を封鎖しようと試みた巨漢に対して、自らの『下校する自由』を獲得する為に自力で戸を開け放ちました。
私は自身の自由に対する権利を行使したのですが、その過程において監禁加害者の手が戸に挟まってしまい負傷するという『不幸な事故』が発生してしまいました。残念な事です」
「なるほど……不幸な事故ですか」
そういえばあの巨漢の弟は左腕を三角巾で吊っていた。恐らく彼の主張する「不幸な事故」による負傷がそれだろうとベルガは漸く合点が行った。
「恐らく、弟の事故による負傷を見て姉であるあの暴漢は逆上したのではないでしょうか。しかしあの事故の原因は私の監禁を試みた巨漢……弟の行動が原因です。
私に過失はありませんので、その私に対してそれを動機として報復を行うのは明らかに『筋違い』です」
「まぁ、そうでしょうな」
「なので調書に付け加えて頂きたい。姉弟……特に姉が私に対しての凶行を正統化しようと弟の負傷に対する私への報復を主張するのであれば、私は遡って『不幸な事故』を私への『監禁』として改めて告発すると。
目撃者は多数居りますな。少なくとも一年一組の生徒全員と担任教官がその様子を全て目撃しているはずです」
最早あの姉弟にとって抗弁は不可能なようだとベルガは直感した。この目の前の驚くべき新入生……十年動かなかった自分の足をものの数分で完治させたこの青年の陳述には法的な穴がまるで存在しない。
このままではベルガ自身も信じられないが「自治会長の姉弟」が殺人未遂の現行犯で法廷に引き出されるのは不可避であり
「栄光ある三回生首席が突然放校処分を受ける」
などという次元の話では無い……この上で監禁未遂までもが上乗せされると放校どころか収監される事は明白だ。
「わ、解りました。仰る内容も陳述に加えておきましょう」
「お願いします。あ、そうだ」
「ま、まだ何か?」
「あぁいえ……中尉殿の足の件ですが、私が治療した事は出来るだけ内密にして頂けますでしょうか。この事が広まってあちこちから跛行を引いた者に集まられても、私は学業が忙しいので……」
ルゥテウスが苦笑すると
「なっ、なるほど。そうですな……。おい。君もこの事は内密にだぞ……」
「はっ、はい!」
ベルガは振り向いて記録官に申し渡した。記録官も先程目の前で起きた『神の恩寵』のような出来事は、誰に話しても信じてもらえまいと思っていたので、二つ返事で承諾した。
「では私からの申し立ては以上となります。中尉殿から何かご質問がございましたら可能な限り誠実にお答え致しましょう」
一時は半眼となって恐ろしい迫力をぶつけて来た美しい青年は穏やかな口調で自らの陳述を終えた事を宣言した。
「うーん……いや、この場ではもうありませんな。被疑者の言い分を聞いた上でまた何かお伺いするかもしれませんが、その際はこの完治した足で『お向かい』まで私から出向きますよ」
ベルガは笑いながら話すと、後ろの記録官もまた吹き出した。この若い憲兵もすっかりルゥテウスの人柄に魅了されていた。
「それではお手数をお掛け致しました。私は下校させて頂きますので宜しくお願いします」
ルゥテウスは立ち上がると、ベルガも立ち上がってそのまま部屋の入口まで彼を先導し、扉を開けて廊下に出た。
そのまま動くようになった右足も使って多少まだ違和感は残るが、軽やかに歩いてルゥテウスを門まで案内する憲兵中尉を見た周囲の者は
「あれっ?オーガス隊長が普通に歩いて……」
「隊長殿、足は治ったのですか?」
「いや、さっきまで足を引いていらしただろう……」
と様々に声を掛けたり、そのまま疑問を口にしていた。
門衛もベルガが自らルゥテウスを案内して来た事よりも、そのベルガがルゥテウスを見送りながら、その後ろ姿に長々と頭を下げた上で、足を引き摺る事無く軽やかに歩いて庁舎に引き返して行った事に仰天していた。
帰り道である環状一号道路を歩きながらルゥテウスは
(うーん。今日は色々あったし、ちょっと目立ち過ぎてしまったな。明日からは大人しくしておこう)
などと、今更になって殊勝な事を考えているが、彼の思考と世間一般のそれはやはり相当にかけ離れており、キャンプの中で育ってきたルゥテウスにとって王都はやはりそれまでとは違った場所であった。
一号道路の右側に王都方面軍本部と、その向かい側に灰色の塔の裏手が見えて来て
(そう言えばシニョルの話ではボンクラ公爵の夏季休暇が今日で終わってまた王都に戻って来ると言っていたな。
灰色の塔もあるし、この通りを使うのはちょっと避けて反対側から回ってくるようにするか。面倒臭いが)
と、休み明けの明後日からの登校は大聖堂側から回ることにした。
ルゥテウスがそのような事を漠然と考えながら灰色の塔の横を抜けて王城広場側に出て来ると、突然念話で呼び出しがあった。
『店主様。只今お話が出来ますでしょうか?』
どうやらソンマ店長のようだ。
『店長か?どうした?』
『あぁ、すみません。確か今日から学校に通われていると聞いていたものですから。そろそろ授業も終わってキャンプに戻られているかと思いましたので』
『そうか。実はちょっと騒ぎに巻き込まれてな。下校が少々遅れたんだ。今丁度一号通りで灰色の塔の横を通って内務省の交差点を曲がる所だ』
『あっ、まだそのような所にいらっしゃるのですか?では、ちょっと私は子供を二人連れてキャンプの藍玉堂の二階でお待ちしておりますが、どこかお寄りになられますか?』
『いや、真っ直ぐ菓子屋まで戻ってキャンプに飛ぶつもりだが……子供だと?』
『はい。ちょっと「訳アリ」でして……お戻りになられましたら改めてお話します。ちょっと重大な事になりますので直接お話できればと……』
『ん?そうか。分かった。ではすぐに帰ろう』
『恐縮でございます。私もすぐにこちらを発ちますので』
そこでソンマとの念話が終わった。ルゥテウスは歩きながら気配を窺ったが、別にどこからも尾行が付いてはいないようだ。
憲兵本部も、今回の件でルゥテウスに対して何か疑義を挟んでいるわけでは無さそうだ。
なので特に何の対策を施す必要も無く菓子屋へ戻った。
時刻は既に17時を回っており、菓子屋は既に本日の在庫を全て売り尽くして、今日も大きな利益を上げて閉店となり表の鎧戸が締められていた。
裏口から中に入って、右手を振り普段着に着替えると店の一階では販売員の御婦人方が店舗部分のショーケース等を掃除しており、ルゥテウスに気付くと笑顔で商品の完売を伝えたので、彼も労いの言葉を掛けて二階へと上がった。
彼女達は掃除が終わると売上金を持って藍玉堂経由でキャンプに帰り、今や出張所となった役場の駐在官にそれを渡して、代わりに日当を受け取る。そしてそのまま集会所に配給を食べに行くというわけだ。
役場の一階奥の食堂も開いているので利用しても良いのだが、彼女らは集会所で他の都市の店舗や製菓工場で仕事を終えた仲間達、それとやはり夕食は集会所で摂るルゥテウスやノンと食事を摂るのが好きらしい。
住まいはもうサクロに移っているので、夕食を終えた後は藍玉堂の地下か製菓工場の地下の転送陣を使って「向こうの大陸」にある家族が待つ自宅へと戻って行く。
時差の関係で向こうは夜中だが、彼女達はそれとは無関係に入浴などを自宅で済ませてそのままベッドに入る。
近頃はノンの教え子が実習で作った回復薬を貰えるので、ノンの指示に従ってそれを服用して寝る者も増えている。
この回復薬は見習い三人娘の手作りだが、処方はノンが開発した睡眠を促す成分の入った物で、睡眠前に飲むと寝付きも良く回復作用も倍増するという、最早錬金高貴薬に匹敵する効果を持つ逸品で、シニョルやイモールまで愛用している。
サクロではそのまま朝に目が覚めるが、朝のひと時をゆったりと過ごした彼女達が再び「出勤」するとキャンプはまだ早朝の時間帯で、その時間から動いている工場でまた本日の菓子を製造して各店舗に運ぶのだ。
誠に逞しい彼女達の暮らしぶりはもう何年も続いている。そしてトーンズ国に莫大な利益をもたらしている。
ルゥテウスが藍玉堂に戻ると、ノンが
「お帰りなさいませ。少し遅いように思えますが……」
「あぁ、ただいま。ちょっと騒ぎに巻き込まれてな。憲兵本部に寄っていた」
ルゥテウスの話を聞いて憲兵が何者かあまり理解の無いノンは首を傾げたが
「お帰りなさいませ……えっ!?憲兵に拘束されたのですか!?」
と、王都に詳しいソンマはもうサクロの本店から移動して来ており、「憲兵本部」という単語に反応してきた。
「いやいや、俺が捕まったのでは無く校内で俺を襲ってきたバカを二人程憲兵送りにしてやったのだ」
と笑う店主に
「まっ、また襲われたのですか!?」
ノンが驚きの声を上げて
「だっ、大丈夫なのですか?お身体は?」
と、ルゥテウスの身体をペタペタと確認するかのように触れてきた。
「あぁ、大丈夫だ。そんな奴らに俺がやられるかよ」
店主は何の気負いも無く言うので女店長もようやく一安心して
「やはり軍人の学校は危ないのでしょうか……」
と美しい顔に憂いを浮かべて言った。
「いや、バカは多いがそれ程危ないと言う事は無い。だから心配するなよ姉上」
ルゥテウスがニヤニヤしながら言うと、ノンは「もうっ!」と頬を膨らませた。
「ところで……さっき言ってた子供ってのは……その《赤の民》の子か?」
「はい」
「うーん……双子か。……ふむ。一卵性だな」
「一卵性?」
「一つの受精卵から産まれた双子ですね」
今やソンマよりも医薬の造詣に深いノンが答えると
「双子にも色んな種類が?」
「双生児……つまり双子はその……受精の際に女性側の中に何個の卵子があるかで一卵性と二卵性に分かれますね……同じ卵子を共有して産まれますので、この子達のようにそっくりな顔になる事が多いですし、ご覧の通り……頭の形は同じなのに『つむじ』の向きがほら……この子は左巻きですが、こっちの子は右巻きでしょう?」
「おぉ。本当ですねっ!」
ソンマと一緒に来ていたサナが何か新発見をしたかのように興奮した口ぶりで話す。
「しかもこの子は男の子ですよね?で、こちらは女の子。一卵性で性別が異なるのは非常に珍しい……らしいですよ」
錬金術師夫妻に双子について講釈を垂れていたノンは最後はルゥテウスの方に「そうですよね?」と言わんばかりに視線を送った。
彼女の双子への知識は言うまでも無くルゥテウスからの受け売りである。
赤褐色の肌をした黒髪の双子の子供は初めて見る「店主様」を二人して茫然と見上げていた。年齢は十歳にも満たないようだ。
「で、この双子がどうし……ん?待てよ……?」
「やはり……店主様にはお判りになりますか」
ソンマが苦笑する。
「何と……二人共か……」
ルゥテウスが珍しく驚いた口調で、しかも唸るように言葉を発する。
「この子達がどうかされたのですか……私は《赤の民》の人を初めて見ましたが」
「あ……うん。そうだな。《赤の民》の子供をそもそも何でここ……と言うかお前達が連れて来たのだ。いや、理由はもう解っているが……その、この子達とお前達の関係をだ」
ノンの質問に曖昧に答えながら、ルゥテウスはソンマ夫妻に尋ねた。
「はい。この子達は数日前ですかね……『山』からオロン様という方が連れて来られたのです。オロン様は首相と親方……市長を通して私にこの子達を見て欲しいと依頼してきましてね。店主様が学校の事でお忙しいだろうと、私へ託してきたのです」
「なるほど」
トーンズ国と《赤の民》の話し合いに関してはもう四年程前に終わっていた。《赤の民》の最長老は既にイモールやラロカ、ドロスと縁が深いレンデリ師に交代しており、北サラドスの難民の現状を伝えて、更に偶然にも山地を一つ隔てた西隣のオアシスに改めて安住の地を築き始めた旨を報告すると、レンデリは意外にも理解を示して以後の両者は赤の民側から交易の隊商を寄越すようになった。
赤の民に対してはトーンズ……サクロの人々は珍しそうに迎えたが、決して差別するわけでも無く、彼らの持って来た大量の羊毛をサクロで生産されている珍しい物品と交換するようになった。
羊毛はエスター大陸においても限られた気候でしか育たない羊からの採集品となるので、今でもキャンプに施設ごと残っている《青の子》の訓練生が規模を拡張させた羊牧場からのみ入手していたのだが、これで更に大きな仕入先を確保したことになる。
赤の民にとっても、友好的且つ山地で隔てられてはいるが、近隣とも言える距離に突然出現した先進都市から便利な生活必需品が手に入るとあって、両者は「幸福な関係」となったのである。
最近は隊商の他に、赤の民が直接出稼ぎに来るようになり、彼らは羊料理等の店を開いたり羊毛工芸品の店や工房などを開き、そこで稼いだ金で定期的にやってくるようになった隊商に仕送り品を託すようになった。
この赤の民が動かしている隊商を仕切っているのが、嘗てイモールとドロスの為にキャンプに連れて行く最初の羊の番5組を選んで……今では長老の末席に加わったオロンなのである。
ルゥテウスは彼らの為に転送陣の設置も検討したのだが、あいにくと彼らは移動しながらの遊牧生活を送っているので、転送陣の設置は難しいのだ。
なので赤の民側と話し合って貰い、隊商の移動ルートにいくつか中継地を造り、そこに転送陣を設置する事で途中までは瞬間移動が出来るようにしようと検討中なのだ。
「この双子ちゃんが何か……?」
ノンが尋ねると
「あぁ。そうか……。お前には説明する必要があるな」
ルゥテウスが笑いながら
「この二人には魔術の素質がある。嘗てのサナのようにな」
「え!?」
「うん。俺も驚いている……というのは双子のどちらにも素養が見えるというのは俺にも記憶が無い」
「そうなのですか!?」
今度はソンマが驚く。この「知恵の神」(とソンマが勝手に思っている)であれば双子の魔術師のような存在に対する前例くらいは知っているだろうと思っていたのだ。
ルゥテウスは先程からずっと彼を見上げている赤の民の幼い双子の顔の前に屈み込んで
「ちょっと手を握らせてくれるか?」
と優しく語り掛けた。
二人は少し俯きながら……彼らの肌の色では照れているのかどうかも解らない……それぞれ小さな手を差し出してきた。
どうやらこのトーンズ人であれば誰もが畏れる美貌の店主に臆しているわけでは無さそうだ。
「うーむ……」
ルゥテウスはその細い手首を交互に掴みながら更に唸る。
「ど、どうでしょう……?」
ソンマが緊張の面持ちで尋ねる。その横にいるサナも同じように黙ってこの様子を見守っている。彼ら夫婦はこの「知恵の神」が魔術の素養だけでなく、その者が持つ「投射力」の大きさまで推し量る事が出来るのを知っている。
「この……女の子か。彼女は魔術向きだな。投射力が強い……これは相当だな……。
そしてこっちの男の子……彼は錬金術向きだ。これまた……投射力が殆ど感じない……」
ルゥテウスは驚いた様子で語りながら
「双子で素養がある事すら初めて知ったが……両者がそれぞれ正反対の素養とは……うーむ……こんな事もあるんだなぁ」
と苦笑いした。
「そっ、それは本当ですか!?」
ソンマが声を上げる。この普段から鷹揚な……もっと言えば暢気な天才錬金術師が滅多に無いような声を上げる。
彼がこんな調子で声を高めるのは、初めてルゥテウスに出会って興奮していた時以来だろう。
「店長さんは珍しく興奮されていらっしゃいますね……」
ノンが驚いたように言うと、彼の妻であるサナが笑い始めた。
「ほ、本当ですね……あはは。先生が……こんなに驚いているなんて……あははは」
「いやいや。私だって驚く事はあるさ。店主様ですら驚いていらっしゃるではないか」
何をバカなと……夫が妻に言い付けると、今度はノンも一緒になって笑い出す。
双子の姉弟……兄妹なのかは判らないが、笑い出した二人の女性を見上げて目をキョロキョロしている。
「で……この子達はどうするんだ?当たり前だが魔法ギルドに送るわけにもいかんだろ?」
ルゥテウスまで笑い出しながら冗談を言い出すと、女性二人は尚も笑い続ける。
「幸いにしてこれだけ早い時期に素養が判ったのです。ここは大切に育てるべきでしょう」
一人笑わずに真顔で話すソンマへ
「しかし……二人の素養は全く逆だ。こっちの女の子は……まぁ今のところは俺しか育てられる者が居ないか。そして男の子の方は……お前らじゃないと難しいな。俺は昔も話したが、錬金術師の育て方が解らん」
「なるほど。そういう問題がありますな」
「多分、この子達は既に親元から引き離されているのだろう?その上でさらに二人を引き離すのは得策ではあるまい。恐らくその引き離された感情がマナの制御力にあまり良くない影響を与える」
「そうですね……それは十分に考えられます」
「ならば私がこの子を教えにこちらに通いますので、ひとまず二人はこちらでお引き取り頂けませんか?時差があるので、この子達をあまりサクロと行き来させるのは良くないのではないでしょうか?」
サナの提案を聞いたノンは
「そうですね。サナちゃんは元々薬の勉強でも来てますからそれでいいのではないでしょうか。地下の部屋も空いてますし」
「お前の研究はいいのか?」
ルゥテウスがサナに尋ねると
「ええ。研究はこちらでもできますし、彼の腕が上がってくれば寧ろ原料となる炭の確保が楽になります」
「あぁ、そういう見方もできるのか。なるほどな……。旦那はそれでいいのか?」
「私は特に構いません……まぁ、処方薬の製造が私だけになりますが……」
「あぁ、それならオルト先生の処方箋はこちらに回して下さい。そろそろあの子達にも実習が必要になりますから」
藍玉堂とその隣の役場の裏側で病院を経営していたオルト医師とユミノ看護婦長は既にサクロに移住しており、そこで成長した弟子と共に大病院を経営している。現在、キャンプの病院には彼の下で修行して成長した四人の子が交代で常駐しており、更に両所で多くの後進が育ちつつある。
彼らは将来のトーンズの医療を担う重要な人材である。
「あぁ、それはありがたい……ではノンさんのお言葉に甘えさせて貰いましょう」
「ふむ。ならばそれで決まりか。生憎俺は昼間は学校で忙しいが、それ以外の時間でこの子に魔術を教えてみよう。やった事が無いがな」
ルゥテウスは苦笑し、双子に改めて視線を移して
「お前達の名前を教えてくれないか?どちらが先に生まれたのだ?」
女の子の方が彼に向かって顔を上げ
「あたしが……先だって。母さんが。名前はチラ」
そう答えて、弟を左の肘で小突いた。
「あ……ぼくはアトです……」
「チラとアトか。良い名前ではないか。親はどうしてるんだ?」
「山でヒツジと暮らしてます」
二人は意外にもしっかりとした受け答えをしている。
「そうか。歳はいくつだ?」
「とし?」
「生まれてから今年で何年なのか……『親』に聞いてないか?」
二人はルゥテウスの質問に対して色々考えて
「9。9だよね?」
チラがアトに聞く。
「9かな。うーん。9です」
「そう……9歳なのね。これからここで暮らすけど大丈夫?寂しくない?」
ノンが尋ねると
「いや、もしかしたらそうでも無いかもしれん。赤の民は部族の子供達を一つの場所に集めて、大人が交代で育てるんだ。親は何だかんだで忙しいからな。寝る時も他の子と一緒だし、そうやって子供は部族全体で12歳まで平等に育てる。
12歳になったら、その子供の中から『仕事』に適性のある子供を選別する。残りは羊飼いになるのだ」
「そ、そうなのですね」
サナが驚いている。
「だから、お前の生徒や裏の病院で暮らしてる医者の卵達と遊ばせてやれ」
「わかりました」
「よし。俺は夕飯を食いに行くが……お前達は眠そうだな」
「そうですね……もう向こうは日付が変わりそうな時間ですから……」
「そうか。ではひとまず今日はそこで寝ろ」
ルゥテウスが右手を一振りすると、この藍玉堂二階の……丁度ノンの部屋の横辺りにベッドが二つ出現した。
これを見た双子はそれぞれ眠そうだった目を見開いて驚いている。
「これが魔法だ。チラはもしかしたら……今みたいな事ができるようになるかもな」
「ほんとぉ!?」
チラは眠気が吹き飛んだように鼻息を荒くしている。
「どうかな。しっかり勉強すればできるかもしれないな」
ルゥテウスがニヤニヤしながら言うと、ノンとサナがこの店主が小さな子供を言い包めている光景を見てまた笑い始めた。
こうして、色々あった9月11日の最後に藍玉堂は思いも掛けない新たな住民が加わる事となった。
【登場人物紹介】※作中で名前が判明している者のみ
ルゥテウス・ランド(マルクス・ヘンリッシュ)
主人公。15歳。黒き賢者の血脈を完全発現させた賢者。
戦時難民の国「トーンズ」の発展に力を尽くすことになる。
難民幹部からは《店主》と呼ばれ、シニョルには《青の子》とも呼ばれる。
王立士官学校入学に際し変名を使う。一年一組所属で入試順位首席。
フォウラ・ネル
17歳。王立士官学校三回生。陸軍軍務科専攻。二回生修了時点で陸軍科首席。学生自治会長。
学生の間では「自治会の女傑」として恐れられる。
主人公に他の生徒達の前で入学式の首席合格者挨拶を依頼し、にべも無く断られて敵愾心を抱く。
主人公の初登校日に自治体への懐柔を試みたが無視された上に弟の左手潰され、激高して主人公を襲撃したが撃退され、殺人未遂の現行犯で憲兵本部に連行される。
ダンドー・ネル
17歳。王立士官学校三回生。陸軍科三組。一回生修了時の席次は78位。学生自治会所属。
自治会長フォウラ・ネルの弟。身長190センチ強、体重120キロ以上と言われる巨漢。学年の席次は低いが姉の護衛役として自治会に所属している。
主人公に撃退された姉の姿を見てこれも激高し、主人公へ報復を試みたが姉同様に主人公に撃退された挙句、殺人未遂の現行犯で姉と共に憲兵本部に連行される。
ショーン・トエルド、ケイラ・ハリス、オーヘル・アキラウド、ネビル・マートウェル
王立士官学校在校生。ネル姉弟が主人公を襲撃する様子を一部始終目撃した為、その証人として憲兵本部へ同行する。
ベルガ・オーガス
30歳。軍務省憲兵本部所属の王都第三憲兵隊長。陸軍中尉。
元北部方面軍第一師団所属でタレンの元部下。騎兵隊の小隊長であったが、乗馬の転倒事故の際に右足が馬体の下敷きとなって騎乗が困難となった為、上司であったタレンの計らいで憲兵へ転属。
ネル姉弟に襲撃を受けた主人公からの告訴を受けて公訴状の作成を担当する。
ノン
25歳。キャンプに残った《藍玉堂》の女主人を務める。
主人公の偽装上の姉となる美貌の女性。
主人公から薬学を学び、現在では自分の弟子にその技術を教える。
ソンマ・リジ
35歳。サクロの《藍玉堂本店》の店長で上級錬金術師。
最近はもっぱら軽量元素について研究を重ねている。
サナ・リジ
25歳。ソンマの弟子で妻でもある。上級錬金術師。
錬金術の修養と絡めてエネルギー工学を研究している。
最近はノンに薬学を学んでいる。
チラ
9歳。《赤の民》の子でアトとは一卵性双生児で彼女が姉とされる。
不思議な力を感じた最長老の相談を受けてサクロに連れて来られる。
魔術の素養を見い出され、主人公の下で修行を始めることとなる。
アト
9歳。《赤の民》の子でチラとは一卵性双生児。彼は弟として育つ。
姉同様に術師の素養を持ち、主人公から錬金術の素養を見い出される。
キャンプに通って来るサナの下で修行を始める。