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黒き賢者の血脈  作者: うずめ
第三章 王立士官学校
51/129

自治会という団体

大人になったルゥテウス君の初アクション回。元々そういうプロットを書いていたので今後もどんどん入れたいです。


【作中の表記につきまして】


物語の内容を把握しやすくお読み頂けますように以下の単位を現代日本社会で採用されているものに準拠させて頂きました。

・距離や長さの表現はメートル法

・重量はキログラム(メートル)法


また、時間の長さも現実世界のものとしております。

・60秒=1分 60分=1時間 24時間=1日 


但し、作中の舞台となる惑星の公転は1年=360日という設定にさせて頂いておりますので、作中世界の暦は以下のようになります。

・6日=1旬 5旬=1ヶ月 12カ月=1年

・4年に1回、閏年として12月31日を導入


作中世界で出回っている貨幣は三種類で

・主要通貨は銀貨

・補助貨幣として金貨と銅貨が存在

・銅貨1000枚=銀貨10枚=金貨1枚


平均的な物価の指標としては

・一般的な労働者階級の日収が銀貨2枚程度。年収換算で金貨60枚前後。

・平均的な外食での一人前の価格が銅貨20枚。屋台の売り物が銅貨10枚前後。


以上となります。また追加の設定が入ったら適宜追加させて頂きますので宜しくお願いします。

 入室の挨拶もそこそこに突然教室に入ってきた二人組……そのうちの一人は、ある意味でこのクラスに居る今年の首席入学生よりも有名な人物であった。


フォウラ・ネル……三回生で自治会長。陸軍科に属する軍務科の専攻で二回生修了時に陸軍科首席……つまりそのまま現在の軍務科で首席ということで、彼女の左襟には今日の一限目が始まる前に我らが首席入学生がゴミ箱に弾いて捨てた赤い縁取りがされた金の星が付いた「首席章」が輝いていた。


彼女の実家は軍人の家系らしく、父は現役の陸軍少将で西部方面軍第四師団長を務めており、先年に彼女の家ではこれまた陸軍中将まで出世した祖父に続いて二人目の勲爵士に叙任されている。

つまり彼女が任官後に首尾良く将官まで進級すれば三代続けての勲爵士叙任となり、慣例に従えば彼女の代で世襲が可能となる准男爵へと陞爵されるはずだ。


そして彼女は任官後の道として軍務官僚を目指しており、最終的には史上初の女性による軍務卿就任を目標にしていると普段から豪語していた。

もし本当にそれが叶った場合は任期中は貴族法の規定で一時的に侯爵へ上る事となる。そして任期終了後は男爵として再叙任されることが確定するわけだ。


それを豪語する彼女は全校生徒から「自治会の女傑」と呼ばれて女子生徒ながら畏怖の対象となっている。


 どうやら意外な事に担任のヨーグ教官は彼女の来訪を聞いていなかったらしく


「ネル君はウチのクラスに何か用かなっ?」


と暑苦しい感じの尋ね方をしていた。実際、今や一年一組の教壇周辺はずんぐりした体格のヨーグ教官と、更にそれを上回るような体格の男子生徒……彼も自治会関係者なのか……の二人が並び立って相当に暑苦しい状況になっていたが、その二人の間に立つフォウラはそのような事は全く意に介していない様子だった。


「下校時に申し訳ございません。ヨーグ教官。実は本日は自治会の業務でこちらの教室にお伺いさせて頂きました」


「ほぅ……何かね?」


「はい。こちらのクラスの席次上位の二人を自治会の役員として是非参加して頂きたく思いまして。

いらっしゃいますよね……?コレ……着けている人が……」


と彼女は自らの左襟に並んでいる徽章の更に左側の物を指さした。そこには「泣く子も黙る」首席章が金色に輝く。ちなみに、その隣に着けられているのは金色の短刀の形に作られた自治会長の徽章である。

勿論右側の襟……一般的に全ての生徒がいずれかの級章を着ける場所には赤地に金色の文字で「軍務」と書かれた軍務科級長の徽章が輝いており、彼女の襟はまさに徽章の博物館である。


 彼女はまず、自分の斜め右前の席に座っているリイナに目を付けた。


「あなたが上位者のうちの一人ね。……あら?あなたがこのクラスの級長なの?」


リイナの級長章に気付いたフォウラが不審そうな表情を見せる。彼女はこのクラスの最上位者の事を知っており、当然その者がこのクラスの級長を務めていると思っていたからだ。


「リイナ・ロイツェルです……」


リイナは若干硬い表情で挨拶をした。感情を滅多に顔に出さない彼女でも、「自治会の女傑」に睨まれれば多少内心はどうあれ緊張した顔は見せるだろう。


「ならば……もう一人の『彼』は……!ちょっ!ちょっと!」


 フォウラは突然声を上げた。その声を聴いた教室内の者達は次の瞬間、自分の目を疑った。

彼女が「わざとらしく」探そうとしていたその『彼』は既にこの自治会一行を無視した上で、その右側を擦り抜けて引き戸の取っ手に手を掛け、今にも戸を開けて廊下に出ようとしていたからである。


彼女が連れて来ていた巨漢の男子生徒は意外にも敏捷だった。彼は素早く引き戸の位置まで戻って二枚ある引き戸のうち、ルゥテウスが開けようとしていた戸の反対側の縁を左手で抑えて「開かないように」した。

この巨漢が見た目通りの腕力を持っているならば、とてもじゃないが首席入学生は教室の外に出ることは不可能だろう……と誰もが……ヨーグ教官ですらそう思った。


 しかし次の瞬間、一同は更に信じられない光景を目にした。


「おい。そんな位置に手を置いたら危ないぞ」


首席入学生は軽い感じで言葉を放つと、指を掛けていた引き戸の取っ手をそのまま開ける方向に引っ張った。


グシャ


鈍い音のすぐ後に


「ギィィヤァァァァァ」


という凄まじい大音声の絶叫が聞こえた。

言うまでもなくルゥテウスが開け放った引き戸が、勢い良く巨漢の左手を反対側の縦枠に挟み込んだのだ。鈍い音は勢いよく挟まれた巨漢の左手が潰される音だろう。

更に惨いのは、ルゥテウスは戸を開け放って巨漢の左手を挟み込んだまま、それでも取っ手に指を掛けたまま戸板を抑え付けていることだろう。


「アーッ!アーッ!アーッ!」


巨漢はまだ喚き散らしている。勿論まだ彼の左手は縦枠と戸板の縁に挟まれたままで、彼は必死になってルゥテウスが抑えつけている戸の隙間に反対側の右手を掛けながら左手を引き抜こうとしているが、どうやっても戸は動かず左手は抜けない。


「おやおや。だから言っただろう?人が戸を開けようとしているのにそんな場所を抑えちゃいかんよ。解らんのかね」


「アーッ!アーッ!アーッ!」


巨漢は尚も喚き散らしている……と言うか、泣き喚いている。


「おいっ!ヘンリッシュ君っ!てっ、手を放してやれっ!」


我に返って状況を確認したヨーグ教官が慌ててルゥテウスに命じる。


「おっとっと。これは失礼」


 ルゥテウスが漸く手を離すと巨漢は即座に左手を引き抜き、その左手を右手で抑えながら蹲って尚も泣き声を上げている。


「おやおや。骨までいっちゃったかな?ほら。救護室は四部屋先のな、昇降階段の向こう側だ。足は付いてるんだろうから、一人で行けるだろ?」


わざとらしくそこまで言うと、ルゥテウスはヨーグ教官の方へ振り向いて


「なんか『不幸な事故』が起きたようですね。それでは失礼します」


と何事も無かったかのようにそのまま廊下に出て玄関に向かって歩き始めた。

廊下には、巨漢の喚き声を聞いて彼方の五組からも見物人……各組の担任教官も含めて駆けつけて来て蹲る巨漢を遠巻きにして見ていた。


彼らは一様に何が起きたのか分かっておらず、蹲る巨漢を見下ろしながら救護室へ行く事を軽い感じで提案した噂の首席入学生が、涼しい顔でそのままその人だかりを不思議な歩様で縫うようにあっさりと反対側に出て玄関に向かって行った。


美貌の首席入学生が見せる何事も無かったかのような涼しい表情とその足元で蹲った巨漢の首筋や耳まで真っ赤に変わっている後頭部しか見えないその様子が何とも対照的、そして非現実的な印象を周囲に与えた。


巨漢に負けないくらい、これまた巨漢のヨーグ教官がひとまず蹲って泣き喚いている巨漢に駆け寄って


「おいっ!大丈夫かっ!?手っ!手を見せてみろっ!」


と巨漢が自分の右手で抑えているその左手の様子を確認する。流石に彼は現役の陸軍軍人であり、その患部を確認して


「こっ、これは……多分骨までやってるな……ほらっ!立てっ!救護室に行くぞっ!おいそこっ!道を開けろっ!」


 流石に軍人として手早い動作で負傷者を抱えつつ立たせて……先をさっさと行ってしまった首席入学生の後を追うように巨漢を支えながら、本校舎一階の廊下を東に向かって歩き始めた。目指す救護室までは約70メートル程である。


ここまで来て漸く軽いパニックで硬直していたフォウラが我に返り


「待てぇぇぇぇぇぇ!ヘンリッシュゥゥゥゥゥゥ!」


と普段の彼女なら有り得ないような喚き声を上げながら首席入学生を追って行った。

残された一年一組の生徒達はそのフォウラの恐ろしい吶喊の雄たけびを耳にしてこちらも漸く我に返り


「え!?今どうなった?」

「ちょっ!?」

「何!?何!?」


と各々わけが解らず大混乱になっていた。


この一連の出来事についてケーナ・イクルの視覚から入ってきた情報を纏めると……。


すぐ前の席のロイツェルさんが指揮する終礼の号令が終わり、皆帰ろうとしていた。


そのタイミングを待っていたかのように突然、大きな人を連れた自治会長が引き戸を開けて入って来た。


自治会長は何か席次上位者を自治会に勧誘するような話をしながら、自分の前の席に座る級長のロイツェルさんを見下ろして何か言葉を掛けていた。


その時既にカバンも持たずに手ぶらのヘンリッシュ君は自分の席を立って前方に一ヵ所しか無い出口である引き戸に向かって歩いて行くのが見えた。ヘンリッシュ君は自治会長を全く無視しているように見えた。


自治会長がヘンリッシュ君の動きに気付き声を上げたが、既にヘンリッシュ君は引き戸の取っ手に左手を掛けており、戸を開けようとしていた。

戸の隙間から廊下の窓に差し込んでいる光が少し見えたので恐らく数センチは開いていたのではないかと思う。


開きかけた戸の反対側の縁を大きな人が素早く左手で抑えたように見えた。


しかしヘンリッシュ君はそのまま何の抵抗も無さそうな調子で戸を勢い良く開け放った。


そして大きな人が絶叫した。


ヨーグ教官がヘンリッシュ君に戸から手を放すように指示し、それに従うヘンリッシュ君は即座に手を離した。


戸に挟まれた手が外れてそのまま大きな人が蹲り、それを見下ろすようにヘンリッシュ君は救護室へ行く事をいつもの調子で提案して、そのまま自分は下校する為に玄関に向かって行ってしまった。


ヨーグ教官が大きな人を抱えてそれに続き、更にそれを追うように聞いた事も無いような喚き声を上げながら自治会長……「自治会の女傑」が廊下に走り出た。


彼女がその位置から確認出来たのはここまでである。そして今はまだ廊下に自治会長の喚き声が響いている最中だ。


 このような事態に遭遇し、流石にいつもは冷静沈着……に見えるリイナもパニックとなり


「一体……何が起こったの!?」


実際は彼女も一部始終を目撃しているので、それ以上でもそれ以下でも無いのだが、フォウラに睨みつけられていたところに突然その女傑が教室の出入口に向かって声を上げてから時間にして十秒も無かっただろう。


もの凄い叫び声に唖然としていたら、「彼」はそのまま帰ってしまった。そしてそれを追うように次々と人が出て行く……目の前の現実が受け入れられなくても当然だ。


 あの巨漢はリイナが見たところでも120キロくらいはありそうな体格だった。それも士官学校生として鍛えに鍛えているだろう。身長も190センチ以上はあったように見えた。

何しろ、巨漢が戸に手を挟まれて喚いている時に、その反対側に居た「彼」が小さく見えた程だ。それくらい両者の体格差があったのだ。


それなのに手を挟まれて喚いていたのは巨漢の方であった。

何か特殊な力加減が作用したのか?それとも巨漢の抑え方が甘かったのか?

リイナのように「あの瞬間」について思い出している者には


「ヘンリッシュが持つ常人離れした腕力が巨漢の抑える力を軽く上回った」


という「真実」には気付けなかった。それ程に両者の体格差は圧倒的だったのだ。


 廊下に木霊していたフォウラの凄まじい喚き声はいつの間にか聞こえなくなっていたが、暫くすると玄関方向でまた違う怒号のようなものが聞こえ始めたので、我に返った者は次々とそちらの方に向かって行った。


ケーナもリイナと一緒にその後を追ったが、彼女は自分が他の同級生達より自分が落ち着いている事に気付いていない。


(ヘンリッシュ君の事だから、あぁなるのも不思議では無い)


という心理が本人の無意識下で働いているのかもしれない。


****


 ルゥテウスは一年一組の教室前で起きている騒ぎを後目に、さっさと野次馬の間を抜けて玄関から外に出た。

そのまま校門を出てしまえば適当に建物の影にでも隠れて結界を張り、瞬間移動でそのままキャンプに帰ろうと思っていた。


あの騒ぎからして、明日は少し面倒臭いことになるが……既に成り行きとは言え今日の彼は十分にクラスの中で目立ってしまった。

いざとなったら、この学校関係者全員の記憶を片っ端から改竄してしまえばいいやと一度は思ったが、この学校はよりによって王城の裏門前……つまりその西側にある灰色の塔からも至近の距離にある事を思い出して心の中で舌打ちしながら断念した。


 そもそもルゥテウスは、あのフォウラという女子生徒に対しては悪印象しか持っていなかった。

そして更に言うと、彼女が在校生全体を支配する源泉ともなっている「自治会」という組織は何の法的根拠も無い、言わば「任意団体」であり……つまり彼女の増長も法的な後盾が存在しないのだ。


恐らく彼女は現役将官である父親の影響も多分に行使している。「黒い公爵さま」であらば問答無用で族滅の対象にするであろう女性だった。

「その気に」なったルゥテウスの力を以ってすればそれも簡単に実行できるのだが、彼にとってフォウラという女性は公爵夫人エルダみたいなもので、抹殺するとそれなりに後々面倒な存在……である。


 ルゥテウスがそうして明日以降の決着の付け方を思案しながら校門に向かって歩いていると、背後から


「待ァァァてェェェェ!ヘンリッシュゥゥゥゥ!」


というどうも尋常では無い精神状態の者が放つような喚き声が聞こえた。

面倒臭い事は嫌いなルゥテウスはそのまま歩き続けようと思ったが……


(あ……。ヘンリッシュって、俺か)


と喚き声の主が自分の変名を呼んでいる……つまり標的は自分かと気が付いた瞬間、後方から凄まじい殺気の塊が飛んできた。

最近では入試の筆記試験の時に同じような状況になったが、あの時とは殺気の質が桁違いだ。

最初はあの時のように体全体で左右どちらかに避けてやり過ごそうとしたが、その後でまた同じように相手が立ちはだかる事になったら面倒だと思い、今は下校時刻で校門前からこの辺りにもそれなりに通行人が居る……既に前方に居てこちらを向いている通行人がこちら、というか自分の後方を驚いた顔で凝視している事から


(目撃者はいくらでも作れるな)


と判断したルゥテウスは頭を軽く左に倒した。その瞬間……それまで彼の頭があった場所から「腕」が生えて来た……ように見えた。


実際は後方から拳で後頭部を殴りつけようと勢い込んで来た加害者の腕が空を切っただけなのだが……ルゥテウスはすかさずその「生えて来た腕」を左手で掴み、同時に右肘を畳みながら上に撥ね上げ、その身長差によって腕を瞬時に「極め」て相手を背負い込みつつ前方に向かって強烈な「一本背負い投げ」を食らわせた。


タイミングといい、極めと引き腕の速さといい……まさしく軍隊格闘術のお手本のような投げは完璧に決まって、襲撃者の「女性」はルゥテウスの前方の石畳に叩き付けられた。


まさしく……「ビッタァァァン」と形容してもいい程に背中を石畳に叩き付けられた相手は


「グハァッ!」


というような声を上げて気を失った。叩き付ける瞬間に掴んでいた腕を放してそのまま頭から落としても良かったのだが、相手に死なれてしまっては今度はこっちの立場が面倒になるので手加減して腕は捕ったままにしてやったのだ。


ルゥテウスは仰向けになって気絶したフォウラの体を容赦無く裏返して捕ったままの彼女の右腕を背中で極めてから


「おい。暴漢に襲われたぞ。警衛を呼んでくれ」


と近くの通行人に落ち着いた声で依頼した。あれだけの大立ち回りをしたのに彼の息は一切乱れていない。


下校する通行人の通報を受けて校門側から棒を持った学生が……恐らく今日の警衛当番の者だろうか……走って来る。


「どうしたっ!?」


「暴漢だ。たった今、ここで背後から襲われた。咄嗟に防がなければ後頭部を割られていたかもしれない」


ルゥテウスは気絶しているフォウラを尚うつ伏せに保持して右手を背中で極めながら、全く普段の口調で警衛当番の学生に訴える。


「何……!?……女ではないか……」


「判らん。突然こやつが背後から襲い掛かってきたので止むを得ず迎撃させて貰った。危なかった」


そう述べる本人の様子にはまるで危なかったという気配が無い。そして腕を極めたまま、空いた右手で女性の髪を掴み上げると警衛に女性の顔が見えたようだ。


「なっ!なっ、じ、じっ!自治会長っ!」


ルゥテウスが髪を掴み上げて上体を反らされるように晒されたのは確かに「自治会の女傑」の顔で、その表情には生気が感じられない。


「きっ、き、貴様っ!会長をお離ししろっ!」


「断る。こいつは俺を背後から襲ってきた暴漢だ。その辺に居る者達に聞いてみろ。この女が俺に襲い掛かって来た瞬間を見ているはずだ。

早くこいつを拘束しろ。いつ息を吹き返すか判らんぞ」


「ばっ、馬鹿者!いいから会長を離せっ!」


「何だ?お前も共犯か?お前は本当に警衛か?」


ルゥテウスは落ち着き払った様子で警衛を問い詰めた。


「そっそんなわけ無いだろっ!」


「では身柄を拘束しろ。そうでない場合は警衛義務違反としてお前を告発するが?」


ここでルゥテウスは、敢えて自治会長の背中の一点を強く圧迫して彼女の息を吹き返させた。


「グェーッホッ ヒューゥ」


息を吹き返し、肺に呼気を一杯に吸い込んだ自治会長は背中を強打した痛みが走って「ウフゥウッ」と一度むせた。

意識を取り戻した彼女は、自分がうつ伏せのまま右腕を背中で極められて拘束されており、おまけに自慢の長い黒髪を掴まれて顔を起こされているという状況が解らず


「ヘンリッシュっ!どこっ!?どこに居るのっ!」


と興奮気味に喚き散らす。それを見た警衛当番の者はオロオロするばかりだ。


「そこのお前っ!ヘンリッシュだっ!奴はどこに居るっ!教えろっ!」


血走った目で警衛当番に怒鳴りつける彼女の背後から


「俺か?俺は『お前』と言う暴漢を拘束中だ。そこの警衛が全く役に立たなくてな。こいつもお前の共犯か?」


まるで揶揄するかのように言う声を聞いた自治会長……フォウラは


「ヘンリッシュっ!貴様っ!よくもっ!よくもダンをっ!ダンをやってくれたねっ!よくもォォォ!」


「ダン……?さっき「不幸な事故」に遭遇したあのバカの事か?」


明らかにフォウラを挑発するかのような口ぶりでルゥテウスは尋ねる。


「貴様はダンをっ!ダンの手をっ!」


フォウラは狂ったように喚き続ける。ここで本校舎側から憲兵の恰好をした男が近付いて来た。恐らくは警衛本部に詰めている憲兵士官だろう。


本来はこの憲兵が法令で定められた司法官であり、当番制で警衛任務に就いている学生や、先日の入試の際の案内係のような者達には司法権が依属しない為に容疑者を拘束(逮捕)出来ないのだが、今回の場合は現行犯であるのでルゥテウス……ヘンリッシュでもこのように「暴漢」を拘束しておく事が可能なのだ。


駆けつけて来た憲兵士官はルゥテウスにうつ伏せで拘束されて髪を掴み上げられ、それでも喚き散らしているフォウラの姿を見て


「お、お嬢様……」


と言葉を発したきり、その場に立ち尽くしている。


「おい。お前は憲兵だろう?さっさとこの暴漢を拘束しろ。容疑は殺人未遂だ」


「何だとっ!?」


今度は我に返った憲兵が驚いて尋ね返す。


「背後から拳で俺の後頭部を狙って来たんだ。危うく俺はこいつに撲殺されるところだった。なぁ?お前はそれを見ているな?」


ルゥテウスは今もその場に立ち竦んでいる「目撃者」の男子生徒に視線を向けて尋ねた。


「は……はい……。たっ、確かに……この人が普通に歩いている所を……突然後ろから自治会長が走って来て……」


「お前も。お前も、お前も見ていたな?俺は普通に下校しようと歩いていただけだ」


「はっ……はい。後ろから自治会長がこの人を……普通に歩いていたように思えます。この人の後頭部を殴ろうとしてました……」


「こっ、この人はギリギリで……本当にギリギリに見えました……気が付いたみたいで……咄嗟に避けて、そのまま投げ飛ばしてました」


この「凶行」を目撃した周囲の通行人だった生徒達がポツリポツリとルゥテウスの言い分を補強し始めると


「聞いたか?俺の言った通りだろう?早くこの暴漢を拘束しろ。俺もいい加減抑えているのが面倒臭くなってきた。また暴れ始めたら、今度こそ息の根を止めさせて貰うぞ?正当防衛だからな」


ルゥテウスが物騒な事を言い始めたので憲兵士官も慌て始めて


「しっ……しかし……」


「お前……本当に憲兵か?……その徽章だと中尉だな。所属と名前を言え。確認させて貰う」


 こうしてフォウラを拘束したままのルゥテウスと憲兵が問答しているうちに、本校舎側から一年一組の生徒を含む大勢の人々が集まって来た。三階の自治会本部に居たイント・ティアロンも降りて来ていて、この様子を見て皆一様に仰天していた。


「ヘンリッシュ君!こっ、これ……どうなっているの!?何であなたが会長を抑え付けているの?」


「こいつがっ!こいつがアッ!ダンをやったんだよっ!ダンの手を潰したんだよっ!」


「えっ!ダンドー君を!?ヘンリッシュ君が!?」


今までに見た事の無い自治会長の兇悪な顔と、その後ろ髪を掴み上げている首席入学生、その前で立ち尽くしている、いつもは横柄な態度で威張りきった憲兵士官。イントはもうわけが解らなくて言葉もまともに出て来ない。


「おい。ダンというのはあのデブか?一体奴は何者なんだ?何か不幸な事故を起こしていたようだが……」


ヘンリッシュ君の言い様は無慈悲な他人事だ。


「おい。聞こえるか?このポンコツ憲兵もちっとも働こうとしないし、面倒臭いから放してやるが、ちょっとでもまた俺に危害を加えようとしてみろ。次は確実に息の根を止めるからな」


ルゥテウスは穏やかな口調で物騒な事を話しながらフォウラの拘束を解いて立ち上がった。


フォウラはルゥテウスに投げられて背中を強く打った痛みと右腕も投げる時に極められていたので動けなくなっていた。自力で立ち上がれずにそのままうつ伏せで呻いている。


立ち上がったルゥテウスは、憲兵の方に向き直り


「さて。お前の所属と名前を言え。今から憲兵本部に赴いてお前の身分を照会する。その上でこの有様を一部始終報告させて貰う」


ルゥテウスの声音は相変わらず冷静そのものだ。それが却って凄まじい迫力を感じさせる。


「わっ私は……私はっ……」


「ふむ……階級はやはり中尉で間違い無いな。誰かこのポンコツ憲兵の名前を知っている者は居ないか?」


 ルゥテウスの顔は段々と険しくなって来ている。それなのに声音だけは平静そのものなのだ。


周囲からは誰も彼の質問に反応する者がいないのでルゥテウスはついに業を煮やして震え続けている憲兵の胸倉を掴んでそのまま左手一本で持ち上げた。


「おい。ふざけんなよ。お前は与えられている義務も果たさず、名前も所属も名乗らないのか?お前は本当に憲兵なのか?偽物じゃないのか?それとも、この『自治会』なる法的根拠も何も無い非合法組織を庇うつもりで芝居でもしているのか?」


憲兵の身長はルゥテウス程では無いが横幅はそこそこあり……身長は175センチ前後、体重は80キロくらいあるように見える。

それを軽々と左手一本で胸倉を掴み上げている彼を見て周囲の者達は皆再び仰天した。


「へ、ヘンリッシュ君!自治会を『非合法』だなんて……どういうつもりよっ!」


イントが声を上げる。彼女もフォウラを叩き伏せて憲兵を片手で掴み上げているルゥテウスを見て驚愕しているが、それでも自分が所属している「名誉ある組織」を非合法呼ばわりされた事に怒りが湧いたようだ。


「ん?自治会とかいう『団体』の事か?勿論非合法だ。そのような組織の存在について定義している法律はこの国には存在しないし、この学校の校則にも記載が無い。自治会というのはお前達ような一部の生徒が何の法的根拠も無く勝手に運営している『任意団体』だ」


「そっ、そんなわけないでしょ!」


「お前……そんな事も知らずに所属してるのか?ちゃんと調べてみろ。全く……呆れる奴らばかりだな」


ルゥテウスは苦笑している。相変わらず憲兵士官は吊るされたままだ。

ここで漸く二階の職員室から学年主任がやって来た。


「お前……ヘンリッシュか?一体これはどうした?何をしているのだ?」


 今年度から学年主任として入試面接官からそのまま赴任することになったタレン・マーズは本校舎の玄関と校門の丁度中間地点辺りで起きているこの騒動の現場を見て唖然としている。


何しろ地面には自治会長で三回生首席のフォウラ・ネルがうつ伏せで転がされており、その横で彼が面接試験を担当した首席入学者がこの学校に常駐している憲兵士官の胸倉を掴んで持ち上げているのだ。


ルゥテウスはタレンの姿を見て驚いた。当然だが、入試はもう終わっており……タレンがこの構内に居る理由が無いからだ。


「おや?面接官殿ですか?なぜあなたが?」


「私か?私はそのままこの学校で勤務することになったのだ」


「なるほど。そうなのですか。栄転ですかな。おめでとうございます」


ルゥテウスは相変わらず憲兵を吊り上げたままでタレンへの祝福を述べた。


「ふむ。ありがとう。ところで、いい加減その『中尉殿』を下に降ろしてこの件の事情を説明してくれんか?」


「それは構いませんが、私からも要望がありますな」


「要望?何だ?」


「はい。まずはこの地面に這い蹲っている『暴漢』を拘束して、可能であれば拘留して下さい。

但し、現時点でこの構内に居る司法官は、このポンコツ憲兵だけですよね。

そうなるとこの構内での拘束実施は難しいでしょうから、校門の外まで引っ張って行ってから、改めて護民兵を呼んで下さい。

そこまで片付いたら、私はこの暴漢を殺人未遂で告訴します」


「なっ!?自治会長をか?」


「その……「自治会長」というのは別に関係ありません。そんな任意団体の会長だろうが何だろうが暴漢は暴漢です」


「それと、このポンコツ憲兵の所属と名前を教えて下さい。後程憲兵本部で身分照会を行った上で今回の職務怠慢について告発します」


憲兵本部はこの士官学校とケイノクス通りを挟んだ向かい側にある軍務省庁舎の一階にある。校門から徒歩30秒という至近距離だ。


ルゥテウスはそこまで言うと、吊り上げていた左手で憲兵を放り投げた。職務を全うせずに震えるだけの憲兵は地面を転がり、そのまま蹲ったまま動かなくなった。


「それとこの暴漢が再三喚いている『ダン』というのは何者なんだ?さっきのデブだろ?」


「ダン……ダンドー君は二回生の自治会役員で会長の弟よ。ダンドー・ネルが本名だわ」


怒りから多少は落ち着いたイントが応えた。


「ふぅん。そうか。面接官……いや教官殿。ダンドー・ネルという名の生徒が、先程我が一年一組の出入口で左手を負傷する『不幸な事故』を起こしておりました」


「ん?そうなのか?」


 タレンは赴任してきたばかりなので、ダンドーの事は良く知らない。それでも一応はこの学校の卒業生でもあるので「自治会」という組織の名は勿論知っており、それを束ねる会長という役職に就いているのがヘンリッシュの足下でうつ伏せになって呻き声を上げながらもがいている女子生徒である事も知っていた。


何しろ呼んでも居ないのに数日前に彼の元へこの「会長様」が自分を見下すような態度で挨拶に来たからだ。

タレン自身は二年浪人の末に入学した「二浪組」なので、組織としての自治会とは無縁であったし、在学中も何かにつけて威勢を張る「エリート小僧ども」に対して悪印象しか持っていなかった。


しかし目の前のヘンリッシュが主張している「自治体は非合法組織」という観点には初めて気付かされた。

そう言われてみると、学年主任教官として赴任が決まってから今一度校則に対して詳細に目を通した自分の知っている限り、その中には「自治会」という単語は一つも記されていない事に気付き、タレンは多少驚いたくらいだ。


 タレン・マーズは元々、士官学校卒業後の少尉任官時代から北部方面軍という「国境」の向う側から略奪に来る匪賊集団を相手にする、現代の王国陸軍の中でも戦闘行為が発生する数少ない部隊に配属されていた。


これはどうやら、彼の「ヴァルフェリウス公爵家出身」という出自が考慮されて、その領地と近い北部方面軍が配属先として適当だろうと言う軍務省人事官僚の「お節介な判断」が下されたのかもしれない。

その後任官三年目で士官学校教官として抜擢され、一度王都に呼び戻される。そこで三年間だけだが騎兵科の担当教官を務めた。

貴族出身の彼は平民よりも乗馬に親しむ環境にあった為か、彼は後述のように王都の育ちであるが騎乗が得意だったのだ。


そもそも公爵家の次男として、王都にある公爵家屋敷で育った身である。

理由としては「顔だけ似ている」兄とはお互いに反目していた為で、公爵領へは生まれてからの数年と、その後に数度帰省した時くらいしか滞在していない。


 士官学校教官在職中にマーズ子爵家との縁談が持ち上がり、結局彼は「婿入り」して姓をマーズに変えた。

「公爵家から早く出たい」と言うのが養子入りを決めた理由である事は想像に難くない。


新婚期間が終わると再び北部方面軍に戻されるが、年金貴族であったマーズ子爵家は居を王都四層目、偶然にも《青の子》の偽装菓子店の近所である中層貴族の屋敷が固まっている地域に屋敷を持っており、タレンはそこに妻と女子、そして生まれたばかりの男子を置いて単身赴任をしていた。


去年の年末に養父となるトリエン・マーズ子爵が61歳で急死した為に家督を放棄した妻に代わって子爵位を継ぎ、「マーズ姓」を名乗り始めた彼は、精神的にも漸く実家であるヴァルフェリウス公爵家からの独立を果たした。


 今年に入って、今度はそんな子爵家当主としてのタレンに配慮してくれたのか異例の北部方面軍からの士官学校入学考査面接試験官として指名があって王都に帰還。

その後はそのまま士官学校一回生学年主任教官へ転属となった。こうしてタレンは士官学校主任教官、子爵家当主として落ち着いた暮らしが送れるようになっていたのである。


北部方面軍時代の任地では相手が匪賊とは言え戦闘経験も何度かあり、実際に討伐部隊を率いる小隊長や中隊長として自身の手で北方の蛮族を何人か殺害したり、処刑を実施している。


海棲の魔物や海賊等を相手に実戦がある海軍とは違い、北部での匪賊討伐くらいしか実戦の無い現代の王国陸軍の軍人として、タレンはこの士官学校の陸軍教官の中では恐らく一番肝の据わった人物であると言える。


「まぁ、いいだろう。証人も居るようだしな。自治会の事は記載が無くても校内における暴力行為に関して禁則事項に明記されている。この女性徒っ!……えーっと……何て名前だったっけ?」


着任間もないタレンは挨拶として訪問を受けていたにも関わらず自治会長の本名を失念していた。


「フォウラ・ネルです。主任教官殿……」


イントが小声で自治会長の名を告げる。


「うん……おぉ。ありがとう。えーっと……フォウラ・ネルを拘束してもらおう。中尉殿」


タレンはとりあえず手続きを踏む為なのか、一旦は地面に蹲ったままの「構内に居る唯一の司法官」である憲兵士官に要請する。


「聞こえているのかね?中尉殿」


階級は大尉であるタレンの方が上なので、本来はもっと高圧的に言っても問題にはならないのだが、この男はどうやら生来温和な性格らしい。


「ふむ。どうやら中尉殿は任に堪えないようだな。ではそこの君、警衛当番だな?」


 タレンは通報を受けて最初に現場に駆け付けてから任務を放棄した警衛当番の生徒に声を掛けた。


「はっ!」


ルゥテウスから静かなる恫喝を浴びてその場に立ち尽くしていた警衛当番は主任教官から指名されて直立した。普段の訓練の賜物である。


「ちょっと、一走りして通りの向うの軍務省で警衛をしている者を呼んで来てくれ。あれも一応は憲兵だ」


「はぁっ!」


警衛当番の男子生徒は命令を受け、「回れ右」をして駆け去った。ルゥテウスは門外まで運んで護民兵に引き渡そうかと思っていたが、なるほど……向かいにある軍務省から憲兵を呼んだ方が早いのかとタレンの機転に感心した。


「どうだヘンリッシュ。こんなものでいいのか?」


一応はこの場を裁いたタレンがルゥテウスに確認をしてきた。


「まだこのポンコツ憲兵中尉殿に対する告発が終わっておりません」


ルゥテウスは苦笑しながら応える。


「うーん。今彼の同僚がおいでになるから、その者に任せてはどうだ?」


 この二人のやり取りを頭上で聞いていたフォウラは少しずつ落ち着きを取り戻していた。

まだ体中が痛いが、どうやらこの二人の会話からして自分はこれから憲兵に連行されるという事を理解したらしい。


「うっ。へ、ヘンリッシュ……。わっ……私を……私を、憲兵に引き渡す……と言っているの?」


身体の痛みに顔を顰めながら、漸く喚く事をせずに発言をしてきた自治会長に対して


「そうだ。お前は犯罪者だからな。憲兵に引き渡した後に殺人未遂罪で告訴する。当たり前だがお前は本日を以ってこの学校を放校となる」


特に何の感情の起伏も無く無慈悲に言い渡す首席入学生の言葉を聞いて、本人以上に周囲の見物者達が驚きの声を上げる。


「目撃者も大勢居るんでな。あいにくだがこの国の司法機関がまともであるなら、お前は犯罪者として服役する事になるな」


「そっ、そんなっ!会長が犯罪者って!」


イントが声を高める。


「あぁ。こいつは俺が歩いているところを後方から後頭部を殴打しようとしたからな。

後頭部は急所だ。軍士官学校で訓練を受けている者が、そこを狙って来たと言う事は殺意があったと認定されるのは確実だ。

被害者たる俺が無傷だから傷害罪は適用されないが殺人未遂罪だけで量刑は禁固三年以下だな」


「流石に諸法科が満点だっただけの事はあるな。罪状と量刑がスラスラ出て来るのは感心する」


タレンが苦笑しながら言うと周囲が再びザワめいた。特に一年一組の生徒達の辺りがである。


「ヘンリッシュ君は諸法科も満点だったのか……」

「確か数理科も満点だったわよね……」

「そりゃ首席になるよ……一体どんな頭をしてるんだ……」


「教官殿。私の成績などどうでもよろしい。そんな事よりも先程来、どうもこの自治会長や自治会なる法的根拠の無い任意団体に対する認識がおかしいですな。

今走って行った警衛当番もそうですし、そこの女子生徒もそうですが、たかだか任意団体程度の組織が他の校則や法令に対して優越するような言動が目立ちます。

学校側はこの団体についてどういう扱いにしているのですか?」


「いや、私もよく解らんよ。何しろ現役学生の頃は二浪の落ちこぼれだったから相手にもされなかったしな」


タレンの声は何となく自治会への面当ての如く大きい。やはり彼自身は今でもあまり良く思っていないようだ。


 ルゥテウスとタレンが軍務省からの憲兵派遣を待ちながら何となく手持無沙汰な感じで話すのを今ではかなりの人数の野次馬が囲んでいる。


「ほら。もう校内に用が無い者は帰れ。下校時間はとっくに過ぎてるぞ。ほらほら。ただ、君達はちょっと残って貰えるかな?」


タレンが右手を振りながら生徒に下校を促すと彼に「証人」として残るように命じられた四人の生徒以外はザワつきながらも校門に向かって移動し始めた。

一年一組の生徒は一度教室に戻って自分の荷物を取って来ようと、他教室からも見に来ていた生徒達と共に本校舎側に引き上げ始めた。


すると、校門側からそれら下校する生徒を掻き分けるように先程の警衛当番の生徒が憲兵服を着た二人を連れて来た。

この憲兵の姿を見て、また現場に野次馬が増え始めた。


 二人の憲兵が近付いて来るのを見たタレンが


「ん?おや……?」


と呟いた。すると二人の憲兵のうち、先立って歩いている方の憲兵も、どうやらタレンに気付いたようで「あっ!」と声を上げながら右足を引き摺り駆け寄って来て


「やはりヴァルフェリウスちゅう……おぉ。今は大尉殿でございますか。ご無沙汰しておりますっ!」


と直立不動になって敬礼した。

一度散ったにも関わらずまた増えて来ていた野次馬達は、この士官らしき憲兵のタレンに対する挨拶を聞いてまたザワつき始めた。


「ヴァルフェリウスって……」

「今、ヴァルフェリウス大尉って言ってなかった?」

「公爵様だよね……?」


ヴァルフェリウス公爵家は普段ルゥテウスが小馬鹿にしているが、当然ながら貴族世界の頂点にして武門の家柄である。

軍人の世界では雲の上の存在で、現当主はこの学校と同じ環状一号通り沿いに本部がある王都方面軍の司令官で陸軍大将だ。


「今はもうその名前じゃないんだ。私はマーズ家に婿入りしたんでな」


タレンが苦笑を浮かべる。「ヴァルフェリウス家の次男」という華名は彼にとって「呪い」のような存在で、これはルゥテウスに対する《賢者の血脈》みたいなものだろうか。


「左様でございましたか。失礼致しました」


憲兵士官が頭を下げる。ルゥテウスが彼の階級章を見ると、どうやらそこで肩を落としているポンコツ憲兵と同じく中尉のようだ。


「まぁいい。君が来てくれたのなら話は早い。この女子生徒を連行してくれ。殺人未遂の現行犯だ。それとそこの……彼も中尉殿だが、職務を全う出来ないようでな。被害者の『彼』がお怒りだ。本部に送致して代わりの者を寄越してくれ」


 学年主任教官の口からはっきりと「殺人未遂の現行犯」という言葉が出たので野次馬は再び騒ぎ始めた。そして……


「ねっ、姉さんっ!いやっ、会長!」


本校舎側の方から何やら巨大な体格をして左腕を三角巾で吊っている男子生徒が速足で近付いて来る。

言うまでも無く、先程「不幸な事故」に遭った巨漢……ダンドー・ネルである。そしてその後ろには彼に付き添うように一年一組の担任であるドライト・ヨーグ教官と教室から荷物を取って来た一年一組の生徒達も続いていた。


ダンドーはどうやら救護室で左手を処置して貰い、痛み止めを打って貰ったところで首席入学生への怒りが戻って来たのか、ヨーグ教官の制止を振り切って廊下へ飛び出したところに、下校の支度を整えて現場に戻ろうとしていた一年一組の一行と遭遇し、級長から担任への報告によって姉の現状を知って駆けつけて来たようだ。


「会長っ!会長ぉっ!」


現場に近付くにつれて、自分の左手を潰した(と思っている)首席入学生の足下に姉がうつ伏せになって苦しそうにもがいている。これを見ると明らかに姉に危害を加えたのは自分の左手を潰した「あの男」だろうと直感した。


「きっ貴様っ!よくもっ!よくも姉さんをォォォォッ!」


患部に痛み止めを打たれて吊るされているとは言え、激しい動きなど出来る状態では無いだろうが、敬愛する……あのように地面に這い蹲ってもがくような姿など想像すら出来ない姉の変わり果てた姿を見て巨漢……ダンドーは無事な利き腕で憎っくき美貌の首席入学生に掴み掛かろうとした。


彼のような巨漢の男子生徒が怒りの咆哮を上げながら向かって来るのをタレンは制止することが出来ず、阻止動作が一歩遅れた。それはダンドーの後ろに着いて来ていたヨーグも同様であった。


ダンドーは10メートル程の距離を一息で躍動してルゥテウスに掴み掛かろうとしている。


(やれやれ……)


ルゥテウス……ヘンリッシュは自分の襟元に伸びて来たダンドーの右手首を左手で掴み、そのまま身を沈めて右手で上腕の下側を掴み両手でタオルを捻るようにダンドーの右腕を極めながら、姉と同様に強烈な一本背負い投げを食らわせた。


190センチ、120キロ超の巨体が宙を舞って姉同様に「ビッタァァァァン」と形容したくなるような勢いで背中から叩きつけられ、やはり姉同様に

「ブフォアッ」というような声を上げてダンドーは仰向けで気を失った。


首席入学生のヘンリッシュ君が見せた余りにも見事な一本背負いにその場に居た一同は仰天し、この美技を至近距離で見たタレンは思わず「お美事っ!」と言いそうになって慌てて口を噤んだ。それはヨーグも同様である。


「すげェ……」

「とっ、飛んだ……あれが……」

「あんな綺麗に投げられるのか……」


しかし、投げた本人はそれどころでは無かった。


「おいおい。お前達姉弟はケダモノかね」


次の瞬間、その場に居たタレンもヨーグも……そしてその周囲で見ていた同級生や憲兵すらも息を飲んだ。


ルゥテウスは仰向けで伸びたダンドーの顎の下に左手を差し入れて、そのまま直接首を掴み上げたのだ。


ダンドーはルゥテウスよりも身長にして十センチ強高いが、それでも掴み上げられてつま先が地面から離れた。


「お前らは親にどんな躾を受けて来たんだ?それともお前らの親も、知性の無いケダモノなのか?」


 首席入学者マルクス・ヘンリッシュの声はどこまでも平静なのだが、その言葉には怒りと嘲りが多分に含まれている。


今度はダンドーを吊り上げたまま、ルゥテウスは唖然としている二人の憲兵に向き直り


「憲兵殿。この連中は知性を感じないケダモノですので後顧の憂いを除く為にこの場で息を止めて良いでしょうか?

許可を頂けるなら二人共殺処分したいのですが。もう面倒臭いのですよ。

私は下校しようとしていただけなのに通り魔のように襲い掛かって来たと思ったら、今度はその弟ですよ。

もうお連れにならずとも結構ですから、こやつらの死体だけ処理して下さい」


その口調はあくまでも平静で、当人は全く息を乱している様子が無い。表情も全く無表情で、むしろ笑って貰っていた方が救いがあるくらいだ。


 提案された憲兵は目の前の非現実的な光景に頭が付いていかず、茫然としている。後ろに居るもう一人の憲兵も同様だ。


この状況にタレンが一番早く反応し、ルゥテウスを嗜めるように


「おいおい。それは拙い。流石にこの場で殺してはいかん。ひとまず『それ』を下ろしてやれ」


感心な事に彼はこの場でルゥテウスと同じくらいに落ち着いている。


「そうですか。しかしまた向かって来たら今度は容赦無く仕留めますよ?」


ルゥテウスは左手で吊り上げていたダンドーの身体を放り投げた。そして横で這いつくばって茫然としている「姉」も含めて周囲を見渡すように


「自治会だったか?どうやら暴力でも何でもアリな非合法組織のようだな。今後……俺に対して『力』で何かしてくるなら俺もこのように『力』で対処させて貰うぞ。勿論その際に生命の保証は出来かねるがな」


淡々と言い放って、憲兵の方に改めて向き直り


「憲兵殿。申し訳無いが殺人未遂が一人追加です。ご面倒ではありますが連行して頂けますでしょうか。教官殿が死体では拙い……と言うのでね」


と要請した。


「オーガス中尉。済まんがそういう事だ。対処して貰えるかな?」


 タレンが肩を竦めるような仕草で元後輩の憲兵に依頼する。彼……ベルガ・オーガス憲兵中尉はタレンの北部方面軍時代の元部下で、騎兵部隊から憲兵に転属という変わった経歴を持つ。


北部方面軍第一師団第二騎兵大隊第一中隊というやたらと呼称が長い騎兵中隊に第三小隊長として初任官した際にその中隊を率いていた中隊長が武門の世襲公爵家次男である「タレン・ヴァルフェリウス中尉」だったのだ。


 普段は穏やかで部下にも優しいのだが、匪賊相手には部下の制止を聞かずに先頭切って騎馬で突撃して行く、まさに武門の名に恥じぬ武人だった中隊長殿はベルガ隊長にとって神話に出て来る「鬼より怖い」存在だったのである。


死を恐れずに匪賊の群れに騎馬で吶喊するこの新任士官の若き大貴族の御曹司を戦場で散らせるのは拙いと軍務省人事課が一度は士官学校教官という後方職に動かした。


しかし当時の彼を気に入った第一師団長が再び彼を欲した為に、軍務省側は「中隊長としてなら危ない事はしないだろう」と昇進の上で再度戻してみたら、やはり同じように先頭で敵集団に吶喊するという……やり方を変えない彼の驍名は大北東地方との境界で鳴り響いた。


 やがて王国領土側の国境の治安が回復した事と前述した()()()同様に彼を可愛がっていた(さき)の第一師団長が定年で引退したので、進級していた「タレン・マーズ大尉」は北部方面軍から異例の士官学校入学考査面接試験官に抜擢されたのだ。


ベルガが騎兵小隊の隊長から師団付きの憲兵隊長に転属となったのは当時転倒した乗馬の下敷きになった右足の後遺症のせいで、馬に乗れなくなってしまった彼に対してタレン中隊長が師団長に上申して実現したのだ。


そのおかげで、彼は右足のハンデで中尉昇進は遅れたが憲兵士官として今では王都の軍務省内にある憲兵本部付属の直衛憲兵隊長に任じられている。


 普段は右足の後遺症のせいかデスクワークが多いのだが、今日はたまたま軍務省の門を通ろうとした際に士官学校の警衛当番の生徒が門の警衛に事情を説明していたのを聞いて、その門衛と一緒に司法官として現場に訪れたのだ。


「はっ!」


ベルガは目の前の非現実的だった光景から我に返って応答した。しかし右足が不自由な彼は容疑者二名のうち細身の姉の方ですら連行する事は難しい。

何しろ、この姉弟は「被害者」の防衛行動によって自力では立てない程に消耗しているからである。


その「事情」に気付いたタレンは


「おいっ!担架を二台だ。一台は大きいのにしろよ」


と周囲の生徒に命じた。彼ら野次馬の生徒も「士官学校生徒」であり、このような場面では上官である教官の命令には逆らえない。数人の生徒が本校舎側に走って行った。救護室から担架を借りて来るのだろう。


「お手数をお掛けします。大尉殿」


「いや、構わんよ。それに私はここでは主任教官なんだ。階級で呼ぶのはやめてくれ」


タレンが笑うとベルガも


「なるほど。そういえばここは士官学校でしたな。失礼しました」


と苦笑いを浮かべた。どうも目の前で遭遇した出来事が現実離れし過ぎていて、ここが教育機関の構内である事を失念してしまっていたようだ。


「き……貴様らっ!私達にこのような事してタダで済むとお……思うなよっ!」


体格自慢の弟が目の前で宙に舞って自身の意識までぶっ飛びそうになっていた姉がまたぞろ興奮し始めて何やら恫喝を始めて来た。


「タダで済むなとは?」


ルゥテウスが尋ねると


「私達姉弟にこのような事をして……父が黙って……」


「おやおや。言っておくが不肖の娘と息子が同時に犯罪を起こしてお父上こそタダで済むと思っているのかね。おめでたいご自慢の娘だな。

まぁ俺はお前のお父上がどんな者なのかは知らんがな」


ルゥテウスはここに来て初めてニヤリと相好を崩しながら


「そんなお前に昔話をしてやる。この国の今の国王陛下……132代ロムロス陛下が御即位されるまでこの国には大王から数えて131人の国王が居たが、歴史上で在位が一年未満だった国王が三人居る。

そのうち大っぴらに記録が残っているのは王国歴2772年の3月に即位して、僅か三ヵ月後の同年6月に流行り病で崩御された119代ドライトン・レイドス国王と、2944年の2月に即位して、半年後の8月に狩りに行った際に落馬した傷が原因で崩御された127代アルスレイダ・レイドス国王の二人だけだ」


「しかしもう一人の記録はその後の文献から削除されていてな……。何故だか解るか?」


「どうせお前程度の浅い教養じゃ知らないだろうから教えてやる。王国歴1900年に71代リターク・レイドス王は、その32年という長い治世の中、長男で王太子だったベック王子に先立たれた直後にその心労が祟られて御身も薨じられたのだ。

王太子と国王を相次いで亡くした王室はな、急遽次男であったメッヘル王子を即位させることになった。第72代メッヘル・レイドス王、『隠された王』だ」


 ルゥテウスが語り出した昔話にその場に居た者達は耳を傾けている。

王統についての記録は勿論しっかりと残されており、宰相府の記録書庫で許可を貰えば誰でも閲覧可能である。

しかしルゥテウスの語る72代メッヘル王の記録は確かに残されておらず、当時の文献にも何かの理由があるのか名前だけは載っているが、業績や退位の理由が崩御なのか譲位なのかも記載されていない。


「メッヘル王は1900年に即位された時にはもう50歳というご高齢であった。王には息子が二人居てな。シンロ王子とアタル王子という者達でシンロは当時19歳、アタルは18歳という若さだった。父メッヘル王が元は第二王子であり、母の身分が低かった。

先代のリターク王は30年を超える長い治世の間に正妻である王妃陛下の他に愛妾を4人も抱えて、結局男子ばかり五人も王子を遺した。

王妃陛下がお産みになられた嫡出子は早世されたベック王子だけで、他は皆愛妾から産まれた非嫡出だったから王位なんて回って来ないと思われていた」


「それが俄かに王太子と王が立て続けに薨去されたから、残された四人の中で一番年長だった50歳のメッヘル王子が即位したってわけだ」


「この王が即位した当時、二人の王子は共にこの士官学校生だったんだ。シンロは二浪して三回生、アタルも二浪して二回生。

王族でも入試に落ちれば浪人する。この士官学校は当時も王侯貴族に忖度しない気合いの入った運営がなされていたわけだな」


ルゥテウスは小さく笑い、話を続けた。


「父が思いもかけず国王として即位したものだから、この二人もすっかり舞い上がってしまってな。王子である事を嵩に着て、学校内で色々とやり出し始めてしまったのだ。今のお前らのようにな。

終いには『黒套団』なんていう非合法団体まで作ってな。勝手に他の学生達の素行を取締り始めた。言っておくが、その頃この学校には「自治会」なんて団体は存在して無かったし、入学式で成績上位の新入生が挨拶するなんていうバカバカしい慣習なんかも存在して無かったからな」


「黒套団はな。最後には「団長」のシンロが校則で禁止された決闘騒ぎを起こして、更にこの決闘に卑怯にも複数の手下を連れて助勢したアタル諸共放校処分を受けた。二王子は王室の威光を使って処分を撤回させようとしたが、士官学校側は応じなかった。当時の学校長は前年まで海軍第一艦隊を率いていたランブル提督だったが、メッヘル王の恫喝にも屈せずに二王子の放校を実行した」


「その後どうなったと思うか?国王はな、即位8ヵ月目にして息子二人の不祥事の責任をとって退位したんだよ。

結局、71代の32年に対して72代は8ヵ月だ。その後を継いだ『異母弟』の73代オリゲル王は1925年までの25年の治世を保った。まぁ、即位したのが47歳だったからな。72歳まで生きられたのならそこそこだろう。8ヵ月に比べればな」


 ルゥテウスはついに笑い出した。この日初めてこの美貌の首席入学生が大笑いする様子を見て昔話に聞き入っていた周囲の人々はその話の中から突然現実に引き戻されたように驚いた。


「解るか?この国では例え国王でも子供の不祥事で退位に追い込まれるんだよ。増してや気骨ある伝統を遺すこの士官学校だ。

お前らの親ってのは国王よりも偉いのか?バカ娘とバカ息子の不祥事があってもビクともしない程の権威でもあるのか?」


「結局このバカ王子兄弟のせいで父親は8ヵ月で退位に追い込まれただけでなく、王室の正史からも抹消されてしまったのだ。バカな子供を持つとお偉い親も大変だわなぁ」


「しかし君はどうしてその抹消された国王の話なんて知っているのだ?」


「さて……何故でしょうなぁ」


「お前達の親も首を洗って待って頂こうか。憶えておけ。俺は法を守ることすら出来無い未開な蛮族を恐れることは無い。

そして法による裏付けの無い個人や団体に従うことは無い。お前らが勝手に自称している自治会なんていう団体にもな」


最後は半眼になった視線を向けて来た首席入学生の表情から圧倒的な恐怖を感じてフォウラは歯をガチガチと鳴らして震え始めた。


 担架が到着し、タレンは警衛当番の者を集めてネル姉弟を殺人未遂の現行犯として憲兵本部に搬送させる事にした。一番大きなサイズの担架を持って来たにも関わらず、ルゥテウスが一人で吊り上げたダンドーを運ぶのに四人がそれぞれ持ち手一本を持って運ばれて行った。


内申点を稼ぐ為に三回生にしてようやく執行役員としてメンバーに加われたイントは、新年度二日目にして大黒柱の「自治会の女傑」を失うことになり茫然としていた。


「私は……私達はこれからどうしたらいいのか……」


「エンダ殿、参られよ」


ベルガは、同階級だが相手の方が先任であることから座り込んで怯えるように震えている校内派遣の憲兵士官の腕を取って引き上げ、拘束はせずに自分の前を歩かせるようにして担架の列に続いて行った。


「さて。これで君も満足かね。そして君は一体何者なんだ?」


タレンはルゥテウス……ヘンリッシュに向き直って真顔で尋ねた。


「教官殿も御存知のはずでしょう?私はダイレムの下町にあるレストランの息子ですよ。では失礼、ポンコツ憲兵の処分もどうやらやってくれそうなので私は下校させて頂きますよ」


そう言うと、首席入学生は踵を返して今日が登校初日の士官学校から今度は下校する為に校門に向かって歩き始めた。

その歩く後ろ姿は優雅そのもので、それでいて驚く程の速度で校門の外に消えて行った。


「彼は一体……凄い奴だとは思っていたが……」


肝の据わった学年主任の横に立った彼の担任教官は


「彼は何者なんですかね……あんな生徒、見た事無いですよ……」


「私にも解らない。しかし初日からこれだ。彼によってこの学校は色々と『変われる』かもしれないな。これは楽しそうだ……」


 学年主任は再び穏やかな表情となり本校舎に向かって引き返して行った。

【登場人物紹介】※作中で名前が判明している者のみ


ルゥテウス・ランド(マルクス・ヘンリッシュ)

主人公。15歳。黒き賢者の血脈を完全発現させた賢者。

戦時難民の国「トーンズ」の発展に力を尽くすことになる。

難民幹部からは《店主》と呼ばれ、シニョルには《青の子》とも呼ばれる。

王立士官学校入学に際し変名を使う。一年一組所属で入試順位首席。


リイナ・ロイツェル

15歳。王立士官学校一年一組の生徒で主人公の同級生。入学考査順位6位。

《賢者の黒》程ではないが黒髪を持つ女性。身長はやや低め。瞳の色は紫。

貴族の出身かと思われる外見に冷静沈着な性格。主人公が辞退した一年一組の級長を拝命する。数学が苦手。


ケーナ・イクル

15歳。王立士官学校一年一組の生徒で主人公の同級生。入学考査順位は21位。

濃い茶色の短い髪にクリっとした目が特徴だが、ちょっと目立たない女子生徒。

主人公とは筆記試験でイント率いる案内係に連行されそうになったところに彼が無実であるという証人となった事で顔見知りとなる。面接試験でも主人公の後に同じ部屋での受験となった。


フォウラ・ネル

17歳。王立士官学校三回生。陸軍軍務科専攻。二回生修了時点で陸軍科首席。学生自治会長。

学生の間では「自治会の女傑」として恐れられる。

主人公に他の生徒達の前で入学式の首席合格者挨拶を依頼し、にべも無く断られて敵愾心を抱く。


イント・ティアロン

17歳。王立士官学校三回生。陸軍騎兵科専攻。二回生修了時の席次は陸軍科6位。学生自治会執行役員。

主人公が士官学校の入試を受ける際に案内係を務めた女性で、後に入試合格発表会場でも案内係を務める。

自らの成績向上の目的で三回生進級と同時に自治会入りをする。


ダンドー・ネル

17歳。王立士官学校二回生。陸軍科三組。一回生修了時の席次は78位。学生自治会所属。

自治会長フォウラ・ネルの弟。身長190センチ強、体重120キロ以上と言われる巨漢。学年の席次は低いが姉の護衛役として自治会に所属している。


タレン・マーズ

35歳。マーズ子爵家当主で王国陸軍大尉。ジヨーム・ヴァルフェリウスの次男。母はエルダ。

士官学校卒業後、マーズ子爵家の一人娘と結婚して子爵家に養子入りし、後に家督を相続して子爵となる。

王国士官学校入試考査の面接試験において北部方面軍から異例の抜擢で面接官を勤め、そのまま一回生主任教官として士官学校へ赴任となる。


ドライト・ヨーグ

28歳。王立士官学校教官。担当科目は白兵戦技。一年一組担任。

若き熱血系教官。階級は中尉。新学期二日目から主人公の態度に辟易する。

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