独立への道
【作中の表記につきまして】
物語の内容を把握しやすくお読み頂けますように以下の単位を現代日本社会で採用されているものに準拠させて頂きました。
・距離や長さの表現はメートル法
・重量はキログラム(メートル)法
また、時間の長さも現実世界のものとしております。
・60秒=1分 60分=1時間 24時間=1日
但し、作中の舞台となる惑星の公転は1年=360日という設定にさせて頂いておりますので、作中世界の暦は以下のようになります。
・6日=1旬 5旬=1ヶ月 12カ月=1年
・4年に1回、閏年として12月31日を導入
作中世界で出回っている貨幣は三種類で
・主要通貨は銀貨
・補助貨幣として金貨と銅貨が存在
・銅貨1000枚=銀貨10枚=金貨1枚
平均的な物価の指標としては
・一般的な労働者階級の日収が銀貨2枚程度。年収換算で金貨60枚前後。
・平均的な外食での一人前の価格が銅貨20枚。屋台の売り物が銅貨10枚前後。
以上となります。また追加の設定が入ったら適宜追加させて頂きますので宜しくお願いします。
上司である監察室長に早退を命じられ、同僚達の白い視線を浴びながら顔を真っ赤にして帰宅したナトスはその翌日、全く何事も無かったかのような顔で監察室に出勤した。
同僚達は「指輪組」でプライドが高そうな印象を持っていたエリート官僚の面の皮の厚さに驚いていたが、本人は昨日の出来事をまるで憶えていないので、そういった同僚の恐々とした視線を浴びても全く気にする事無く自分の机に向かい、引出しを開けて「あぁ、あったあった。ここに忘れてたのか」と、いくつかの書類を取り出し、内容を確認した。
今回の戦時難民収容施設への監察は元々が魔法ギルドからの通報に基いたもので、更にその窓口となった渉外室が主導となり、所属のエリン・アルフォードが監察班を率いたのだが、彼女はいわば「お飾り」であり、実務は全て本職である私領調査部が受け持ち、現場部署である監察室が主力となった。
なので渉外室からのものとは別に監察室側も報告書が必要……と言うよりも実際には上層部が待っているのは監察室側から提出される報告書であり、最終的な監察判断を下すのはその報告書を読んでから……というのが実務官僚のトップである内務省次官の考えであった。
「うーん……やはりこの件を最初に打診してきた灰色の塔の真意を知りたいなぁ……」
ナトスは自分が纏めている報告書の下書きを眺めながら呟いた。彼らの監察結果……それはルゥテウスが彼ら監察班全員に刷り込んだ虚構なのだが……を鑑みるに、魔法ギルド側が最初に通報してきたと「される」内容のニュアンスとはかなりの乖離を見せていたからである。
ナトスの考えでは魔法ギルドはナトスら内務機関よりも実際の調査能力が高く、彼らが「その気になれば」キャンプの実情など簡単に調べられるはずであり、それをわざわざ「怪しい光」だの「不自然な明るさ」などと言い立てて内務省を動かしたことに寧ろ不審さを感じるのだ。
なぜこのような「焚き付ける」通報をしてきたのか。自分達で実際に得られた情報(しつこいようだが、それはルゥテウスに刷り込まれた虚像)と、魔法ギルドが煽って来た内容の「落差が大きい」というのがどうしても引っ掛かるのだ。
彼らの狙いは何なのか……
ここをしっかりと把握しないと確度の高い報告書を上に挙げることは出来無い。敏腕監察官としてのナトスはそう判断した。
彼は席を立って、監察室長の部屋をノックして入室を求めた。
「入れ」
中から声がしたのでナトスが入ると、当の監察室長は彼の顔を見て些か面食らった表情をしている。
「失礼しま……室長、どうか致しましたか?」
ナトスは室長の表情を見て不審に思い、上司に尋ねた。
「い、いや……おはようシアロン。調子はどうだ?」
「え?はい……?いえ、特に悪くはありませんが……」
ナトスは上司の質問を解しかねて、多少困惑の混じった声で応じた。
「そ、そうか……。いや……それなら良いんだ」
「は……?はい。室長。例の難民施設の件なんですが……」
昨日の今日で、またこの話題を出して来たナトスに対して室長の表情は硬くなった。
「何だ?まだ何かあるのか?」
ナトスは上司の声に突然棘が混じったように感じた事へも多少の不審を覚えながら
「はい。この報告書の原稿をご覧下さい」
と、先程机の中から取り出した書類の束を上司の机に置いた。
「私はこの件に対して、ここまで報告を纏めてみたのですが……やはりどうしても腑に落ちない点があるのです」
ナトスの置いた報告書の原稿に目を通しながら室長は上目遣いに彼を見ながら
「どうした?何か気になる所があるのか?」
「はい。内容をご覧頂ければお判りかと思いますが、既に我らの監察の結果についてはその内容の通りですが、そもそもの監察動機の所の記載が十分では無いと思われます」
ここ数日見せていた、この有能な現場監察官の豹変した態度が、それ以前のものに戻っていると感じた室長は、やや安堵しながら応える。
「と、言うと……何がどう十分では無いと?」
「はい。結論から申し上げると、我々が当初渉外室から受けていた要請内容と実際の監察結果に乖離が見られるわけです」
「渉外室……お前……まさかまだエリン・アルフォード嬢に……」
室長は安堵した途端にまたしても問題の「渉外室」という単語がナトスの口から発せられた事に対して多少声のトーンを上げた。
「は……?エリン……?……あぁ、今回の指揮を執った女性ですか?彼女が何か?」
室長はナトスのこの言い様に驚いた。昨日までのナトスは、このエリン・アルフォードという女性に対して、今までに見せた事の無いような痴情を見せて執着するような態度を示していたのだが……今、目の前で報告書に対する自分の考えを淡々と語る彼に、そのような感情は全く見られない。
「か、彼女の事では無いのか……?」
室長が尚も問い質すように聞き返すと
「え……?彼女に何かあるのですか?確か……彼女は内務卿の御令嬢でしたよね。何か不都合な事案でも……?」
まるで他人事のような応えが返って来て室長は驚愕した。
「い、いや……何でもない。話を続けたまえ」
「……?では……。当初の渉外室からの要請ではそれこそ当該施設に何か重大な問題がある……または起きつつあるというような印象を抱かせるような内容でした。
今回の件は魔法ギルドからの通報が有り、それを受けて我ら監察室へ出動要請が回って来たと聞いております」
「ふむ。それは事実だ」
「しかし、魔法ギルドという団体は室長もご承知のように局地的、短期的な情報収集能力では我ら内務省の情報機関よりも、その能力は高いと推察できます」
「まぁ……そうだろうな」
室長もナトスの推察を認めた。何しろ彼らは魔法使いの集団である。
内務省の官僚である彼らが認識している限りにおいてもその力は強大であり、いざとなれば政府当局の捜査能力を大幅に超える観察能力を有しているという事実は否定しようが無い。
「彼らがそのように通報して来た時点で、彼らなりに何か確信があって然るべきだったと思われるのです。
よって我が省の上層部はこの件を重大な事案であると認識されたわけですが……。
しかし結果はその報告書でご覧頂ける通り特段何か警戒を起こさせるような内容ではありませんでした」
「た、確かにお前の言う通りだな……」
室長も今回の要請と結果の乖離に不自然な「落差」が存在する事に気付いた。
「この件はもっと深く調べるべきだと私は判断しますが」
「それはつまり……渉外室も調査の対象にしたいと?」
室長はまたしても顔に警戒の色を浮かべたが、ナトスはその問いには直接答えず
「今回の件に対しましては三通りの可能性が考えられます」
「どういう事だ?」
「まずは我ら現場監察班の『見落とし』です。今回はわざわざ魔法ギルドから姿を消す魔術の札……えぇっと、《術符》でしたか……を提供して貰った上で、更には冒険者ギルドからその手の技術に長けた者を推薦して貰い、人員に加えました。
彼らは見事に施設内を隅々まで偵察し、その報告に基いて私自身も内部に侵入し概ね確認しております。
なので見落としは無いと自認しております」
この「自認している」という部分がルゥテウスの刷り込みなのだが、そのような自覚や認識は今現在も傀儡の呪術が入っているナトスには無い。
そしてこの刷り込みはエリンも含めた監察班全員が全く同じ内容で受けているので、班員同士の事実認定で齟齬が生じる事も無い。
「次に渉外室の『認識不足』であったというケースです。
魔法ギルドから通報を受けた時点でその内容の程度を誤認した為に『事が大袈裟になって当方への要請に繋がった』という状況です。
しかしこのケースも、魔法ギルドがその後わざわざ術符を提供している事、そして当の魔法ギルドの情報収集能力の高さから、我々に対して通報が必要との判断が有ったと推察されます。
よって、考え難いでしょう」
「そして最後に……魔法ギルドによる何らかの『欺瞞』です。
彼らが何か別の目的が有って『戦時難民収容施設を我々内務省に調べさせた』という可能性です。
この場合、更に考えられるのは渉外室の立ち位置です。この欺瞞行動が魔法ギルドだけのものなのか、『そうで無いか』という事です」
「何だと?つまりお前の言う『最後の可能性』の中には『渉外室の共謀』も有り得ると言うのか?」
「あくまでもそれは『可能性の中の可能性』という話です。これだけ不可解な事が起きているのです。あらゆる可能性を想定するという事は間違っているとは思えません」
「いや……しかしお前……それではエリン嬢は……」
「はぁ?もし渉外室がこの件に絡んでいるのであれば彼女にも当然ながらその関与が疑われます。
まぁ、私としては内務卿の御令嬢がそのような謀議に加わっていて欲しく無いとは思いますが……」
「とっ、当然だろうがっ!」
「しかし私は先程示した三つの可能性の中では最後の可能性が一番高いと考えております。
……まぁ渉外室の関与云々は別としてですが」
「なぜそう思うのだ?」
「消去法です。今回の件、そもそもが魔法ギルドと接点になっている渉外室からの情報が少な過ぎるのです。情報の独占と言ってもいい。
これまで、魔法ギルドという国家の外部機関に対して我ら内務機関からの要請は数有れど、あちらからの要請というのは少ないものでした」
「そして当方の窓口となっている渉外室は本来であるならば、外部からの要請に対する仲介までがその業務であり、その後は両者の実務者による協議によって事案が処理されるのが慣例でした」
「その結果、本来であれば情報をより多く保持するのは現場部署である我々の方であるはずなのです。
しかし本件に関しては監察実施からこれだけの時間が経っているにもかかわらず、その後の魔法ギルドの動きが全く我々に伝わってきません。
情報の流れが歪なのですよ」
「現在の王国政府と魔法ギルドの友好関係を鑑みるに、彼らへの監察結果の報告は確実に実施されていると推測されます。
本来ならば本件の監察結果は内務機関としての機密に属するものですが、術符まで提供してきた彼らに対して渉外室は『報告』を実施しているでしょう」
「但し……実際の……その内容は『怪しい光は泥棒避け』だったのです。
それ以上でも以下でも無く当方としてはこれ以上は膨らましようが無い事実です。
この程度の事実ならば、機密扱いにせず魔法ギルドに漏らしても問題無いと渉外室は判断すると思われます」
室長は内心驚いていた。この件を説明するナトスの表情、目の色は至極尋常なもので、その口調、内容も理路整然としている。
昨日まで見せていたエリンという女性に対する痴情も妄執も全く見られない。
これこそが今までのナトス・シアロン主任監察官であり、私領調査部の誇るエースの姿であった。
「う、うむ。そうだな……確かに怪しい」
室長は説明するナトスの冷徹な視線を受けてその勢いに圧倒されてしまい、思わずその言葉を肯定してしまった。
「室長。コトは内務卿の身内が絡んだ案件です。我が省の『身内の恥』……と言ってしまうのも些か躊躇われますが、この『欺瞞』という可能性について、魔法ギルドの実際の目的に対する別途調査を具申致します」
ナトスの思い切った提案を受けて室長は唸った。何しろ内務卿に繋がる案件だ。
もし誤認であれば監察室の関係者は上から下まで揃って首を飛ばされかねない。
「し、しかしそれは……少々危なくは無いか?」
室長は思わず本音を漏らしてしまった。ナトスはそれを聞いて苦笑しながら
「それでは室長の御不安を多少なりとも軽くする為に、渉外室への調査は我ら監察室では無く『監査庁』に依頼してみてはいかがでしょうか。
今回の事情を説明すればあちらは間違いなく動くでしょう。彼らは内務省の所属ではありません。
よって内務卿に忖度する事無く『クロかシロ』かだけを調べてくれるでしょう。そして我らは魔法ギルドを探ればいいのです」
「な……なるほど。しかしこれは『内部告発』にならんか?」
室長は尚も不安を口にする。もしこれが私領調査部からの内部告発と取られてしまうと、事後に報復を受ける可能性がある。室長はそれを恐れているのだ。
「いえ。現時点で渉外室の関与が確定していない以上、状況はまだ『疑い』です。その容疑に対しての捜査ですから、これは内部告発には当たりません」
ナトスは平然とした口調で室長の漏らした不安を否定した。
「とにかく。このままこの内容で報告書に署名を残す者として不本意かつ不安であります。
万が一この件の裏に『陰謀』が存在していた場合、我らは王国外部からの干渉によって『踊らされた』という事になり、後世の笑いものになります。
私としては到底看過できません」
上を目指すエリート官僚として、自身の経歴に瑕疵を残したく無いのは室長もナトスも同様である。
室長はそんなナトスの思考を考慮して
「わ、分かった……君に任せる。しかし言っておくが君自身が渉外室に関わるのは許さんぞ」
「仰る言葉の意味が理解しかねますが……」
「とっ、とにかくだっ!君はもう渉外室とは関わるなっ!いいなっ?」
ナトスは首を傾げながらも
「室長の仰り様は理解しかねますが、ご命令であるならば従います。それでは私は魔法ギルドへの調査にのみ注力させて頂きますので、監査庁への手配は室長にお任せ致します」
そう言うとナトスは一礼し、踵を返して部屋を出て行った。後に残された室長は大きく溜息をつき
「何なんだ……一晩頭を冷やして来いとは言ったが……」
と額の汗を拭いながら呟くのであった。
****
『店主様。お忙しいところを恐縮ですが……聞こえますでしょうか。ドロスです』
ルゥテウスはラロカと青の子の諜報員と自警団員を連れてサクロ村に来ており、ラロカには放置された村への襲撃跡の調査を命じ、自らは上空からの測量と周辺の捜索を行っていた。
『監督か?何か用か?』
ドロスはアッタスに設置された藍玉堂の二つ目の支店で偽装された《青の子》の活動拠点にルゥテウスから支給された出入口を隠蔽する結界導符の使用と念話網構築のための準備をしていたが、例の耳に掛けた魔装具から先程のナトスと室長の会話を受信して不安を感じ、ルゥテウスに報告したのだ。
アッタスとサクロ村の時差は5時間あり、サクロ側は既に昼下がりに差し掛かっていた。
『はい。先程あの魔装具から聞こえて来た内容によりますと、ナトスは魔法ギルドへの直接捜査を考えているようです。
このまま彼の行動を静観していて問題無いのでしょうか……?』
『何だと?灰色の塔に?どういう事だ?』
『はい……店主様が植え付けたあの調査結果から、色々と彼なりに考察を発展させた結果……どうやら偶然ではありますが、魔法ギルドへの疑念が生じたようです。
しかも彼は渉外室……もっと言えばエリンも「魔法ギルドとグルになっている」と疑っている節すらあります』
『何?エリンに対してもか……?まぁ、結局は俺達にとっては他人事だが……実際にナトスが灰色の塔に突っ込むのは危ないな』
『やはりそう思われますか?』
ドロスは更に不安を隠せない様子だ。
『いや、ナトスの生命が危ないという意味では無く、奴に掛けられた《傀儡呪》が解けてしまう恐れがある』
『え!?そうなのですか?』
『うむ……。あの塔の入口の左右に置かれた像がな……世界でも類を見ない強さの魔力探知を付与されていて、そこで引っ掛かる可能性がある』
『そ、そんな仕掛けがあるのですか?』
『まぁな……』
ルゥテウスの言う「像」とは、嘗てリューンの説明にも有った彼女自身と「漆黒の魔女」ショテルの像で、設置したのは他でもないその子孫であるヴェサリオだ。
彼は「一対の女神像」設置の際に大導師の像へ《術式感知》の付与を、漆黒の魔女像へ《術式解除》の付与を施していた。
これはあくまでも灰色の塔の中に外部からの呪術や付与を持ち込ませないという目的で施されたものだが、その後数百年ごとに《賢者の知》の発現者が出現する度に、ヴェサリオの記憶を引き継いで付与が重ね掛けされた結果……非常に強固なものになっているとされる。
この「賢者の付与の力」へ、過去におけるギルド内外の魔導師が挑んできたが……いずれも失敗している。
直近では39年前に総帥就任直後のアンディオ・ヴェムハ導師が戯れに《隠形》で挑んだが、やはり強制的に解除されて失敗している。
このように今回のナトスの行動は、皮肉な事にルゥテウスの先祖によって阻まれる可能性が生じてきたのだ。
『ど、どう致しますか……?』
『まさかここまで一直線に魔法ギルドに疑いを持つとはな……奴は意外にも優秀だったんだな……』
ルゥテウスは困惑しつつも苦笑している。
『私が聞いたところでは、ナトスは現在……渉外室との接触を禁じられております。理由は昨日までのエリンに対する行動が原因のようです』
『まぁ、流石に内務卿に伝われば上司の監督不行届にも問われると判断されたか……ちっ、それで本人は魔法ギルド側に捜査の的を絞ったのか』
『そのようですな……渉外室への接触は禁じられていても魔法ギルドへの接触は禁じられておりません故に……』
すっかり測量作業を中断させられたルゥテウスは、溜息混じりにその場から自らナトスの指輪へアクセスしてみる。
ドロスが耳に装着している魔装具が無くとも、傀儡の「主」であるルゥテウス自身は当然ながら指輪と自身の意識を直結することが可能だ。
『……どうやら今すぐにでも灰色の塔に突っ込んで行くという気は無さそうだな』
ナトスの心理状態を数千キロを隔てて感じ取ったルゥテウスが一安心と言った風情で口にすると
『左様でございますか……この後はどうされますか?』
『難しいな……奴を灰色の塔に潜入させる事は、「連中」と俺の力比べになるわけか……』
ルゥテウスの呟きにも似た念話を聞いたドロスは
『れ、連中……とは?』
『あぁ……あの灰色の塔を造った奴と、その後にそれを強化した奴等だ』
ルゥテウスの説明にとてつもないスケール感をドロスは感じた。
灰色の塔築造のあらましと、その入口に置かれた「二対の女神像」の由来を知らないドロスも、彼が珍しく何か懸念を抱いている事に不安を感じざるを得ない。
このままナトスを灰色の塔へ赴かせ、その入口を「くぐらせる」という事は取りも直さず灰色の塔を築いた《黒き福音》と、その後に延べ三代に渡って女神像に付与を重ねて与えた歴代の賢者の知を持った《黒い公爵さま》との力比べとも言える状況になることを意味する。
この力比べに負けた場合、ナトスの指輪に掛けられた「呪」は剥がされ、更にその事実がギルド側に察知される。
ナトスの存在が魔法ギルドにとって排除の対象となるのは当然として、その背後関係に対しても重大な疑念を持たれるだろう。
何しろ、相手は魔法ギルドであり……その彼らが存在を認識していない「何者か」が施した呪術の存在が明らかになるのである。
これは彼らにとって「重大事件」であることは間違い無く、魔法ギルド側は現在抱えている全ての問題や懸念を放り投げてでも、その「見えない」術者の割出しに全力を投じるだろう。
世界中に張り巡らされる魔力探知の網は厳重になり、今後ルゥテウスの行動に対して著しい制限が掛けられることは必至だ。
「魔法ギルドに存在を認識され……更にはその正体までも知られる」
という事態は、リューンにも宣言した「血脈の断絶」を目指すルゥテウスにとって最も避けたい事であると言える。
このようなナトスの「些細な行動」と引き換えにするには、あまりにも賭けに出すチップの量が多過ぎるのだ。
これまでにも何度か述べたが、ルゥテウス自身は自らの存在が原因、もしくは自らの行動が引き金になって王国……更には世界に混乱を引き起こすのは「面倒臭い」ので厳に慎むべきだと思っている。
本来ならば成り行きとは言え、戦時難民の将来を背負い込む事すら当初は面倒臭がっていた。
よりによって王国政府よりも面倒な存在とも言える魔法ギルドとの暗闘をこれ以上拡大させたく無いというのが彼の偽らざる気持ちだろう。
『やはり危ないな。ナトスを今の状態で灰色の塔に行かせるのは、その後に生じる影響が大き過ぎる。
俺の存在が魔法ギルドに認識されてしまうと、流石に後に退けなくなる』
このようにルゥテウスが自重するのはドロスが知る限り初めてある。この一事だけでも彼にとっては衝撃だった。
『しかし……ナトス自身は魔法ギルドを調べる事に大きな意欲を持っているようです……。このまま放置すれば早晩、彼が魔法ギルドに自ら足を運ぶ事は避けられないかと』
『そうだな……灰色の塔に出向く事無く魔法ギルドの捜査を行うのは不可能だろう。何か良い案は無いだろうか……』
珍しく念話の中でも伝わってくるようなルゥテウスの沈思する雰囲気を感じたドロスは
『店主様。ここは我々が工作してみます。要はナトス自身を魔法ギルドの本部に向かわせなければ宜しいのですね?』
『何だと?そんな事が出来るのか?』
思案に耽っていたルゥテウスは驚いて聞き返した。
『はい。「ナトス以外」なら構わないという条件であれば、それ程難しくはありません。
私の知る限りでは彼は監察室でも席次が高い立場にあるようなので、部下とも言える人員が結構居るようです。彼らに動いて貰えばいいのです』
『なるほど。そういう事か』
ルゥテウスは基本的に普段のナトスへの諜報はドロスに任せっぱなしである。
なので彼が監察室でどのような地位に居るのかも、それ程深く把握していない。
そして何より、先日の監察実施の際に捕えた六人の中で実際に「尋問」を行ったのはエリン、ナトスと冒険者であった(エフトの)サミエルの三人だけであり、他の者の「身元確認」を端折ってしまった。
残りの三人のうち、照明弾の使用で《青の子》が捕えたサミエルの協力者を除く残りの二人がナトスと同じく内務省私領調査部監察室に所属する職員で、ナトスよりも下の職位に居る者達であった事を知らなかったのである。
ドロスはこの一旬もの間、ルゥテウスから与えられた魔装具を装着してナトスの周辺をつぶさに調べて来た。よって前述の二人はナトスよりも席次は下位であるが同僚の内務機関員であることを把握していたのである。
ドロスからそういった事情を、今になって聞かされたルゥテウスは
『そうか。そういう事であれば……お前がその二人を直接唆すよりはナトスに命じさせる形にした方が、後々の面倒を回避出来ないかな?』
『はい。私もそれは考えなくも無かったのですが、店主様もご承知のようにナトスは現在……ここ数日に及んだエリンへの痴情によって省内でも行動が迷走した為に同僚から著しく信頼を損なっております。
そのような状況で、いくら席次が下位とは言え他の職員が彼の命に従うのか……私には些か不安があります』
ドロスの指摘は尤もな事であり、そして彼はルゥテウスとは違って魔法ギルドに対する「侮り」のようなものが一切無い。
寧ろ難民の中でもシニョル以上に極め付きの現実主義者である彼は万難を排して事に臨む傾向が強い。
ルゥテウスから灰色の塔の入口を挟む「二対の女神像」の秘密を知らされた彼は可能な限りルゥテウスによる「ナトスの操作」は軽いものにした方が良いと判断したのだ。
『そうか。監督がそこまで言うのであれば任せる。但し危なくなったらちゃんと俺を頼れよ?
俺も今回の件は監督の意思を汲んで慎重に当たるようにする』
『お聞き届け頂きありがとうございます。ひとまずナトスがギルド本部に近寄らないようにだけして頂ければ十分です。
我らはまず、渉外室と魔法ギルドの関係から探って行きます』
『分かった。気を付けろよ』
ルゥテウスはドロスとの念話を終わらせ領域の測量を終えると、サクロ村があった場所で率いて来た青の子の諜報員と自警団員を指揮して襲撃された家屋跡の調査を続けているラロカの所に戻った。
****
ラロカは襲撃によって破壊されたサクロ村の住人の家屋から、価値の有りそうな物品を探して箱に分けて整理させていた。
ルゥテウスから測量前に作成された村の上空から家屋の位置を正確に記載した住居地図を渡されていたので、地図の住居と遺品の箱には同じ番号が振られており、後で生き残った五人娘に住居の持ち主を確認させた上で「先住者の遺品」として別途保管する予定だ。
ルゥテウスはラロカに作業の進捗を確認した。
「店主様が地図に記載して頂いた合計17軒の建物のうち、住居と思われるものは14軒でした。中でも東寄りにあるこの建物が一際大きいことから、恐らくこれがシュンの言っていた『村長の家』かと思われます。
彼女達の話では物々交換で訪れる隊商が滞在する宿舎も村長邸であったとの事でしたので」
「あぁ、ここだけ二階建てだな。確か……『ソン爺』だっけ?」
「左様でしたな……運び出した遺品の大半は衣類です。但し放置期間が既に半年に及んでおりましたので、傷んでいる物が多いようですな」
「まぁ、それは仕方無いだろう。あの時の捜索で貴重品と言えるような物の搬出は山賊共の砦も含めて粗方済んでいたからな。
それらも既に持ち主と思われる者達の棺に納めているわけだし、今回の保管措置にしたって持ち主はもう永遠に現われないしな……」
それにしても一つの村が襲撃によって壊滅したという痕跡は、一隊を率いるラロカだけでは無く、寧ろこの地に初めて連れて来られた自警団と青の子の若い世代の者達に深い衝撃と怒りを与えたらしく、彼らは嘗てこの地で同じく怒りと悲しみに絶望したロダルと同じような感情を以って捜索に当たっていたようだ。
捜索開始前にラロカは村の広場に隊員を集合させ、彼にしては珍しく訓示を述べた。
「ここがお前達の先達が生まれ育ったエスターの地だ。見ての通り……この村は山賊に襲撃を受けて壊滅した。
俺はあの時……犠牲となった六十人以上もの村人を、あっちの村外れにある墓場に葬った。
それはそれで地獄のような光景であったが、今お前達が目にしている光景にも思うところがあるだろう」
半年間に渡って放置されてきた村の惨状を見た若者達は両親や近所の年長者から聞いていた自分達の「故郷の惨状」を再確認させられた事にショックを隠し切れない様子を見せていたが、ラロカは敢えて厳しく言った。
「いいかっ!こんな光景はこの大陸じゃ当たり前の事なんだ!
何しろここのバカな奴等は3000年も、大陸中で争いを繰り返しているんだからなっ!
俺の聞いたところでは更にその前までは魔物を相手にずっと同じ事を繰り返してきたらしいぞ」
ラロカはルゥテウスから聞き及んだ「第二紀の惨状」をも引き合いに出した。
そして声に力を込めて
「しかし今日からは違うっ!俺達は向うの大陸でもそれなりに苦労はしたが、今では立派な街を造ったじゃないかっ!
俺達は既に一度成し遂げているんだっ!また同じようにここも……この大陸も造り変えてやろうじゃねぇかっ!
顔を上げろっ!まずはこの大陸の『現実』をしっかりと見ろっ!
見た上で……俺達はここの蛮人とは違うところを見せてやろうじゃねぇかっ!」
「いいかっ!俺達には《青の子さま》がついているっ!
お前達の中にも何度か見た事があるだろう?夜中に勝手に道路の石が敷かれていたり……羊が突然牧場に入っていたりだ!
俺達には《神様》の御加護があるんだっ!」
当の「青の子さま」は神の類を非常に嫌っており、このような話を聞いたらさぞかし気分を害するだろうなと、ラロカは胸の内で苦笑しながら若者たちを鼓舞した。
「お前達は我ら同胞の中から名誉ある先遣隊に選ばれた。
同胞達の帰還と……今でもこの大陸で戦禍に苦しんでいる者達の安住はお前達の動きに懸かっている。
それを忘れずに心を強く持って取り組んでくれっ!以上だっ!」
強面の親方の訓示が終わると若者達は一斉に声を挙げた。
嘗てロダルはエスターの蛮状に絶望して、ルゥテウスにしがみついて泣き叫んだ。
ルゥテウスはその時、「同胞の仇を討て」と彼を叱咤した。ラロカやイモール、シニョルが恐れたのは同胞の皆が故郷であるエスターへの帰還に絶望感を抱くことであった。
「エルダの約束された破滅」によって将来、今のキャンプに戦時難民が居住出来無くなるという可能性は一般の住民達には知らされていない。
彼らが名前のみ知って崇拝している「御館様」の権威を現時点で徒に傷付ける必要も無いし、同胞住民がその事実を知った時の動揺を恐れたからだ。
同じように難民化している「北の難民」はエスターからの「戦時難民」以上に王国政府から鼻白んだ存在になっており、更に彼らの起こす犯罪によって「難民」そのものの社会的地位が一層引き下げられているのである。
ここで彼ら同様に戦時難民が絶望の余りに兇徒化すれば当然、王国政府も「滞在の黙認」という態度を変えてくるだろう。
シニョル達、キャンプ運営幹部の目指す理想としては「御館様の破滅」が訪れる前にサクロ村を中心としたオアシス周辺に新たな難民国家を建設して、徐々にキャンプの住民を故郷に帰還させて行くというものであった。
ルゥテウスのおかげでアッタスの街にも《青の子》の支部を設置すると同時に難民保護連絡員も定置する事が可能となった為に、今後は短期間でかなり纏まった人数の戦時難民がキャンプに保護されると予想される。
これに対し、現時点でキャンプ全体の長屋による居住を提供できるキャパシティは区画整理を管理担当していた頃のキッタによって約40000人と算出されており、現在の32000人強の人口からすると、それ程遠くない未来にその限界に達することも予想される。
キャンプ運営側としてはルゥテウスの「帰還準備」の提案は「渡りに舟」だったとも言えた。
このような一連の計画を実現する為の大前提として
「全ての難民同胞にエスターへの帰還という考えを受け入れて貰う」
という思想面での教化が必要となってくる。ラロカがサクロ村捜索の任を負う若者達にわざわざ訓示を垂れたのはこうした事情もあった。
「これが上空から測量した周辺図だ。今俺達が居るのがこの辺り……で、東側……正確には東南東の方向に湖があって、その更に東側に山地がある」
ルゥテウスはたった今作ってきた測量図で現在位置をラロカに説明した。
「まぁ、湖から村落の場所まで2キロ程度離れているが問題は無いだろう。元の住民も、灌漑の都合で湖周辺は農地に充てていたようだ。水源の汚染等の問題も加味すると我々の新しい町も水源から離した方が良いな」
「なるほど。では湖から水道を引くという方法を採られるわけですな?」
「まぁ、そうなるな。それと……気付いているか?この東側の山地の更に向う側に《赤の民》の皆さんが遊牧している中央山地がある」
「えっ!?そうなのですか?」
ラロカはサクロ村の意外な地勢に驚いた。
「つまり、逆に言うと……このサクロ村のある場所というのは赤の民の皆さんが暮らす中央山地の西の外れという事になるわけだ。つまり相当に大雑把だが、彼らは今後我々の『お隣さん』ということになる」
ルゥテウスが笑うと、ラロカも小さく笑ったがすぐに真面目な顔になって
「それで……今後彼らにはどう対応するのですか?私の知る限り、彼らは部族としては好戦的では無く、近隣の集落を荒らす等の蛮行は一切行いません。
寧ろ店主様も御存知の通り、周辺の部族とは距離を置いて暮らしております」
「まぁ、そうだな……。あの連中はあそこで羊を飼いながら暮らしているうちは無害な存在だ。
しかし将来の事を考えると、この場所にお前達が国家を創って定住を目指す事は知らせた方がいいぞ」
「しかし……我らは嘗て彼らから『外の大陸に《赤の民》の勢力を進出させる』という誓いを立てて市長……当時の支部長様は暗殺術と諜報術のノウハウを教わる交渉を行ったわけですから……。
それが果たせないとなると彼らの気を害する事になりませんでしょうか……」
「そうだな。親方の心配は尤もな事だが、これはもう仕方無いんじゃないかな。何しろ戦時難民側にも時限的な事情が発生してしまっている。俺はその辺の事情をしっかりと彼らに説明した上で暗殺組織の廃業についても正直に話す方が良いと思うがな」
「なるほど……。この件については統領様と市長にお考えを聞いてみます」
「そうしてくれ。もし交渉に赴くなら勿論俺は協力する。奴等に聞き分けが無いなら、それこそあの長老連中の脳味噌をいじくってもいいしな」
ルゥテウスはニヤニヤしているが、それを聞いたラロカの顔は不安でいっぱいだ。
「まぁ、とにかく……だ。奴等との事は、この場所にある程度の市街の体裁が整ってからでいいのではないか?」
「左様でございますな……」
「よし。では捜索も粗方終わったならば残骸の解体を始めてくれ。
それと……先程上空からこの地域の周囲100キロを偵察してきた」
「おぉ……!そ、それで周辺には集落があるのですか?」
「あぁ。二ヵ所発見した。まずはここから北東に60キロ程行った……こことは「道」の接続は無いのだが……地図のこの辺だ。一応書き込んではあるが、30軒くらいの集落がある。その集落からは更に北と東に向かって道が伸びていた」
「つまり、北や東とは交流があるのに南西にあるこの村とは交流が無さそうだと店主様は見ていらっしゃると?」
「道が確認できなかったからな。交流があるとなれば車を使った物資の移動の為に道はどうしても付けておく必要があるだろう?それが無いのであればシュンが言っていた物々交換の相手では無いという事じゃないのか?」
「なるほど」
「一方で、南……厳密には南南東だな……。そっちの方向にも集落があった。規模はここと大して変わらんな。
中央山地が西側に張り出している麓の辺りにある。距離は直線にして50キロくらいだな。
この前の山賊の砦を挟んだ反対側にあると思っていいが、山賊砦が在った丘……今は中で石油を採っているあの丘は道から10キロ程度西に外れていて、隊商のルートと山賊共は今までカチ合わなかった可能性が高い」
「ほぅ……ではその集落がサクロ村と物々交換をしていたと?」
「多分そうだろう。その集落からは南北に道が出ていて、北の道が山地に沿って北西に折れて最終的にこのサクロ村で行き止まりになっていた。南の道はそのままずっと続いていて、他の集落と繋がっているのだろう」
「しかしシュンの話では、このサクロ村はどうやらどこの国家にも属していなかった様子でしたよね。道で繋がっていない北側の集落は別として、多少の交流があった南の集落はどうなのでしょう」
「ふむ。ちょっと気になるな。捜索を切り上げたら《青の子》の者を五人一組で二つに分けて南北の集落を探らせるか」
「承知しました」
「実は監督は今、王都の内務省と魔法ギルドの探りに自ら乗り出しているから手一杯なんだ。
南北の捜索組のリーダーを決めたら、その二人に念話を付与した道具を渡すからお前が指揮を執ってくれ」
「承知しました。念話が使えるなら連絡が随分と楽になります」
「よし。それでは解体は村長邸から始めてくれ。その跡地に新たに役場を建てて拠点とする。そこに転送陣を設置すれば人員の行き来も楽になるだろう」
「なるほど。では本日中には解体が始められるように致します」
「分かった。それとこれを渡しておこう」
ルゥテウスは先程ラロカに渡した周辺図とは別の図面を渡した。
「こっ……これは……」
ラロカが図面を見て目を瞠る。図面にはエスター大陸全域が描かれていた。
「まぁ、元々この大陸の地形は知っていたからな。但し記憶が随分と昔のものだから、今はそれがどういう地勢になっているのかまでは解らん。但しこの場所が大陸のどの辺りにあるのかは判るんでな」
ルゥテウスの図面によればサクロ村はエスター大陸の中央山地の北西部の外れ、西のアデン海からは500キロ程内陸にあるらしい。
シュン達サクロ出身の娘達が「外の世界」を知らなかったのも、これだけ内陸にあって周辺の集落からも隔絶していたからだろう。
暮らし向きは貧しかったようだが、幸運なことにエスター大陸の代名詞とも言える戦禍とは無縁で難民化する要素も無かったと思われる。
「今後は周辺の捜索をじわじわと広げると同時に、この大陸に留まっている難民の保護も考えなければならない。
東に逃げても『死の海』しか無いから、どうしても最終的には西に逃げる可能性が高くなる。
この土地の開発と並行してアデン海側にも可能な限り連絡施設を設けるべきだろう。そうすれば西の海に漕ぎ出す前の人々を救い上げられる」
「はい……今後はそれに専従する人材も育成する必要がありますな」
ラロカの表情は明るい。その昔、暗殺術を学ぶ為に彼は初めて故郷の大陸を訪れた。
その頃は隣の大陸に逃げてきた同胞達を救う事だけしか頭に無かった。
しかし今、こうして故郷で苦労している人々の救済をも視野に入っている。
(あの頃は……そんな事すら考える余裕も無かったな……)
彼は心中で目の前の少年と出会えた事を改めて神に感謝した。
つい先年まではそんな「存在」を信じる事も出来なかったのだ……。
【登場人物紹介】※作中で名前が判明している者のみ
ルゥテウス・ランド
主人公。6歳。黒き賢者の血脈を完全発現させた賢者。
戦時難民のキャンプの魔改造と難民の帰還事業に乗り出す。
難民幹部からは《店主》と呼ばれ、シニョルには《青の子》とも呼ばれる。
ラロカ
53歳。エスター大陸から暗殺術を持ち帰った元凄腕の暗殺者で《親方》と呼ばれる。
現在は難民キャンプの実質的副市長で施設建築を担当。
誰もが認める強面だが、時折良策を主人公に提案し驚愕される。
暗殺術の修行時代から羊を飼うのが上手い。
ドロス
45歳。難民キャンプで諜報組織《青の子》を統括する真面目な男。
難民関係者からは《監督》と呼ばれている。
シニョルに対する畏怖が強い。
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ナトス・シアロン
29歳。レインズ王国の内務省私領調査部監察室に所属し、エリンの指揮の下でキャンプの調査に同行した。
初めて会ったエリンに一目惚れしてしまい、以後付き纏う。
主人公に呪術を掛けられ、傀儡にされている。