軍務省の変
【作中の表記につきまして】
アラビア数字と漢数字の表記揺れについて……今後は可能な限りアラビア数字による表記を優先します。但し四字熟語等に含まれる漢数字表記についてはその限りではありません。
士官学校のパートでは、主人公の表記を変名「マルクス・ヘンリッシュ」で統一します。
物語の内容を把握しやすくお読み頂けますように以下の単位を現代日本社会で採用されているものに準拠させて頂きました。
・距離や長さの表現はメートル法
・重量はキログラム(メートル)法
また、時間の長さも現実世界のものとしております。
・60秒=1分 60分=1時間 24時間=1日
但し、作中の舞台となる惑星の公転は1年=360日という設定にさせて頂いておりますので、作中世界の暦は以下のようになります。
・6日=1旬 5旬=1ヶ月 12カ月=1年
・4年に1回、閏年として12月31日を導入
作中世界で出回っている貨幣は三種類で
・主要通貨は銀貨
・補助貨幣として金貨と銅貨が存在
・銅貨1000枚=銀貨10枚=金貨1枚
平均的な物価の指標としては
・一般的な労働者階級の日収が銀貨2枚程度。年収換算で金貨60枚前後。
・平均的な外食での一人前の価格が銅貨20枚。屋台の売り物が銅貨10枚前後。
以上となります。また追加の設定が入ったら適宜追加させて頂きますので宜しくお願いします。
軍務卿ヨハン・シエルグ侯爵は、予てより懸案となっていた「教育族の一掃」という「白兵戦技授業改革派」からの要求に対して、その「入口」にして「最も高い壁」であった……「歴代の教育部長」の処分更迭を終え、漸くにしてその「要求」を満たせる目途が付いたと……自らの執務室の椅子に身体を沈ませながら天井を仰ぎ大きく息を吐き出した。
士官学校の一部関係者からの要求に「屈した」のではなく、これはあくまでも軍務卿自身の「矜持」の問題でもあり、実際彼自身はこれを「我が戦い」としていた。そしてその「緒戦にして最大の戦い」に勝利したのである。
しかし……「戦い」はまだまだ終わらない。まずは……たった今実施した軍務省次官、人事局長、人事副局長そして……人事局教育部長の4名を更迭した事実を「公示」しなくてはならない。当たり前ではあるが、4人は軍務省における最高幹部とも言える職位に就いていた者達であり……彼らに直属していた職員数だけでも4桁の数字になるのだ。
その職員達にとって……いや、軍務省全体にとって「次官が本日突然、罷免された」という出来事は相当な衝撃を省の内外に与える事は必定であり、更には来月に実施される「3049年冬の除目」に向かって唯でさえ忙しい……王国政府にとっては、この政事が「一年の最初の節目」という認識をされており、つまりは現在の王国政府の各政治機構においては「年度末」に中る時期なのに……いきなりそれを主導するはずの「軍務次官閣下」が更迭されたのである。
そして、よりにもよって次官主導の除目実施を「実務的」に担当する事になる人事局長と副局長までが一斉に軍務省……いや王国軍から去る……。これが如何に、この時期の軍務省にとって大きな困難を伴う一事であろうか。
更迭された当事者の「前」軍務次官ポール・エルダイスが「軍務卿が自分達の放逐を画策している」という事前情報を得ていながら、「まだ時間があるだろう」と構えていたのは……こうした政府機構としての「軍務省の時期的事情」があった事も大きい。
「こんなクソ忙しい時期に、事務方のトップである自分や……除目の実務を司る人事局長を軍務省から放逐するのは、自分で自分の両手を食い千切るようなものだ」
そのように「高を括って」いたのである。しかしあの「全てを部下に丸投げしている……図体と声だけは大きい粗暴な無能者」と思っていたシエルグ卿は、そのような「事情」にはお構いなく、自分達をいきなり切って来た。これは自他共に「切れ者」とされていたエルダイスの予想を大きく裏切る出来事であった。
(さて……あ奴らには引導を渡したが……大変なのはこれからだな……)
尚も椅子から立ち上る気力が起きない程に精神的に消耗してしまった軍務卿閣下は身体を預ける巨大な椅子の背もたれに包まれながら天井の一点を見つめていた。
****
――― 告 3049年1月28日10時を以って、以下の者の職位及び階級、軍籍を剥奪するものとする ―――
と文頭に大書された掲示物が軍務省の1階受付横の大掲示板に貼り出されたのは10時30分の事であった。つまり3階の軍務卿執務室にて「教育族」のトップ4人が軍務卿から処分を言い渡されていた、まさに時をほぼ同じくして、彼らの更迭は一般職員向けに公表されていたのである。
公示には、本日付を以って罷免、更には軍籍剥奪となった者達の名が高位の者から順に記載されており……その最初に記されていた軍務次官の職位と氏名を見た職員達からはどよめきが起きていた。もちろんそれに続く人事局長や副局長、そして教育部長の名前に対しても同様の反応が起きていた事は言うまでも無い。
更には彼らの名前の下に、親補官に該当しない地位の者達……教育部次長を筆頭に教育課長、そして何人かの係長級の者達の職位階級氏名が表記されていた。これらの者達は人事部長に人事権があるので、上奏を必要としない。なので軍務卿直々の罷免言い渡しから外されたのである。
「そ、そんな……なっ、何故私が……!」
掲示板の前で呆然としているのは、この「告示」を見ている時点で……既にその肩書に「前」が付いてしまった教育課長のシモン・ユーリカー「元中佐」であった。
時間は約30分程遡る……。ユーリカーはこの日普段通りに出勤して、教育部室内に設けられている自らの執務室で、ありきたりな決裁文書の確認作業をしていたのだが、10時になった頃に突然……教育部の部屋に人事部次長のロウ大佐が入室して来た。
同じ人事局内である人事部の次長を務める彼を知る職員は多かったので、皆一様に会釈を交えながら挨拶をしたのだが、彼は入ってすぐの受付係の前で立ち止まり
「今から読み上げる者は速やかにこの場に参集しろ」
と、無表情で次々と管理職の氏名を読み上げ始めた。教育部次長、教育課長、教育方針策定係長、考査統括係長……最終的に4名の官僚士官の名前が読み上げられ
「次長と課長を自室から呼んで来い!」
人事部次長はやや顔を厳しくして声を張った。近くでこれを聞いていた教育部職員が急いで次長と課長の部屋に走る。ユーリカーも含めて呼び出された4人がロウ大佐の前に並んだ。教育部次長は職位こそ人事部次長と同格ではあるが、ロウ大佐はこの地位で15年も「足止め」を食らっている、人事局の次長職では最先任の人物であり……更には法務官という立場でもあった。
そもそも今の人事部次長職に就くまでは士官学校同期の中でも圧倒的な「出世頭」であり、制服組武官の士官に階級でこそ抜かれてはいるが、本省内においては一時期2階級の差を付けていたモンテ・デヴォンに抜かれるまではやはり同期出世競争ではトップを独走していた。
40代の前半で法務官に勅任されている彼は、同期の中でも抜きん出たエリートとして将来を嘱望されていたのだが、彼が15年も同階級に留められている間に12年で2階級の進級昇進を果たしたデヴォンに抜かれてしまった事になる。
現教育部次長はロウよりも3期後輩だが、現職への昇格は3年前……デヴォンが昇格する際に順送りされた者で、やはり「教育族」の一員であると目されていた。
一番最後にやって来たユーリカー課長が他に呼び出されたと言う3人と並んで人事部次長に相対しながら……
(メルツ次長殿まで……一体これはどうした事なのだ……?部長殿は、部長殿はどちらへ……?)
彼は落ち着かない態度でキョロキョロと周囲を眺め回した。既に目の前で無表情で立っている人事部次長がこの部屋に入って来て管理職の参集を命じてから10分近くが経過しており、それに伴って室内はちょっとした騒ぎになっている。この部屋の長である教育部長が、この騒ぎを聞きつけて……または別の職員から通報を受けて、この場に出て来てもおかしくないのだが……
「呼び出された者は全員揃ったな。それでは申し渡す」
人事部次長の表情は全く変わっていない。一体どのような感情なのかも、その表情からは計り知れない。その彼から次の瞬間に出て来た言葉は……
「以上4名。本日10時を以ってその職位を解き、軍籍を剥奪する。これは軍務卿シエルグ侯爵の承認において人事部長テュール・オトネル少将の名で申し渡す事である。貴官らに対しては1旬の猶予を与える故、それまでに身辺の整理を行い、2月4日までに庁舎より立ち退く事。以上。解散!」
最後の解散指示以外は特に抑揚を付ける事も無く、人事部次長は務めて事務的に人事告知を言い渡し、部屋の出入口に向かって回れ右をした。
「ちょ、ちょっとお待ち下さいっ!しょ、職を解くとは……軍籍を剥奪するとは……い、一体!一体どう言う事でございますかっ!」
そのまま部屋から退出しようとするロウ大佐に向かって大声で慌てながら引き止めの言葉を投げ掛けたのは……今の告示の対象とされた士官の中でやはり一番高位であるオッテン・メルツ大佐……教育部次長であった。
「お待ちくださいっ!こっ、これは……これはデヴォン部長殿はご存知の事なのでしょうかっ!?」
呼び止められて、立ち止まった人事部次長は振り返り
「私からこれ以上、諸君らに話し聞かせる事は無い。10時30分を以って正面玄関の掲示板にも公示が出る。詳細が知りたければそれを見るんだな」
そう言い残して、彼はそのまま教育部室から立ち去ってしまった。
2階の北廊下を、そのまま歩き続けながらロウ大佐は心中で
(漸くか……これで漸く我が省から旧弊が一掃されるのか……長かった……。そして……何百年もの間に……無駄死にさせてしまった若者達への『償い』が……これから始まるのだな……)
彼の脳裏には様々な想念が巡っている。15年もこの地位に留められ、進級も昇格も無く過ごした遣る瀬無さ。その間に不浄とも言えるような情実人事によって「無能な同期卒業生」に追い越された無念の思い……。そして……何百年もの長きに渡って、自らも学生時代に夢中になって打ち込んでいた「役に立たない戦技」によって想像するのも恐ろしい数の若者達が任官直後に命を落としていた事実……。昨年末に見せ付けられた、「あの士官学生」の圧倒的な「業」と彼らの提唱する「本来の戦技授業」……。
ロウは何時の間にか立ち止まって俯いていた。周囲は「掲示板に重要な公示が貼り出されるらしい」という話を聞きつけた他の職員……特に北廊下側には今回処分を受けた者達が所属する人事局が占めている区画である為に、教育部関係者も含めた一般職員達が慌てて東階段から1階東側の正面玄関に向かう流れによって俄かに慌しい雰囲気となっていた。
(終わった……。そして変わるのだ……。)
ロウ大佐の目からは涙が溢れ出していた。彼もまた……士官学校時代に親しくしていた同期の友人を「北」で喪っていた。もう30年以上前の話だ……。あの時はまだ、「士官学校で受けていた授業」がそれほど酷いものとは思えなかったのだ。しかし今思えば彼も……そうなのだろう。
(ティム……君は……君もやはり驚きながら逝ってしまったのかい……?)
彼はついに嗚咽を漏らし始めた。
****
ユーリカー「元」中佐は、他の3人と共に正面玄関横の掲示板の下に向かう。何故自分は今日いきなり「王国軍人」としての地位を失ったのか……。頭の中はまだパニックが続いている。人事部次長は言う事だけ言って、事情を一切話す事無く立ち去ってしまった。まるで何か、出来の悪い白昼夢を見ているようだ。
「何故……何故私が……」
掲示板には、今回の人事に関する公示以外の掲示物が全て撤去されており、しかも告題が大書されているのでこの正面玄関を通る者の目には否が応にも止まってしまう。
そしてその大きな序文の下には
「軍務省次官ポール・エルダイス大将」を始めとして省首脳の職位、氏名、階級が羅列されており、全8人の氏名が並ぶ下から3番目に自分の名が記されていた。
「そっ、そんな……!じっ、次官閣下……!いや……ぶ、部長閣下まで……!」
ユーリカーが目を見開いてその記されている名を読み上げると、隣で同じくそれを呆然と眺めていたメルツが
「どっ、どういう事なのだ……何が……何が起こっているのだ……」
「次長殿……わっ、我々は……何故このような処分を受ける事に……?」
「分からん……!そんな事分からんよっ!部長っ!部長はいらっしゃらないのか!?デヴォン閣下っ!」
掲示板の前は職員達……特に2階の人事局関係者でごった返す様相を見せているのだが、掲示板に名が記された教育部の管理職2人は周囲を見渡しながら自分達の上官の姿を探した……が、その姿は見付けられなかった。何故なら……。その上官……教育部長は、その時……3階の軍務卿執務室で軍務卿本人から直接凄まじい糾弾を受けていたからである。
「どうしたら……どうしたらいいのだ……」
ユーリカーは唇をわなわなと震わせながら、再び掲示板へと振り返り……自身や彼の上官、そして部下の名が並ぶ告示文を目で追い……
「処分の主たる理由:軍教育行政における重大な職務怠慢」
という、末文を目に留めて
(しょ、職務怠慢……私が何を怠ったというのだっ!?)
余りにも理不尽とも思える処分に対して、どういう感情を示せばいいのかすら分からなくなっていた。
****
「まっ、マーズ主任教官殿はご在室でしょうかっ!?」
士官学校の本校舎2階にある総合職員室に急き込んで駆け付けて来た者が居た。本校の常駐憲兵士官であるベルガ・オーガス憲兵中尉である。
職員室の中に居た者が一斉に入口で息を切らしている憲兵士官に目を向けた。その中には職員室の一番奥の席に座っていたタレン・マーズ三回生主任教官の姿もあった。
現在の時刻は11時20分。この総合職員室を普段使用している主に一回生を担当する教官は授業に出ている者が多いので、室内に居た者は意外に少なく、一番奥の席に居たタレンにもベルガの声が届いたのだ。
「どうしたベルガ。随分と慌てた様子だな」
タレンが穏やかな表情で笑いを堪えつつ入口まで歩み寄ると
「たいちょ……い、いや主任殿。ちょ、ちょっと……お話が……警衛室へ……」
ベルガは咄嗟にタレンの左手を牽いて廊下に出た。
「なっ、何だ?どうした?」
流石にタレンも驚いたが……
「とっ、とにかく!お話がっ!早くっ!」
ベルガの尋常では無い様子にタレンも変事を察して
「分かった。行こう」
そのまま彼の後に付いて行く。本来であれば「白兵戦技授業改革派」としての会談であれば「教頭一派」の監視の目もある為、構内での接触は極力控えていたし……最初期に会談場所に使用していた職員室に隣接する10ある面談室の使用も今では避けていた。ベルガが、これだけ大騒ぎしながら職員室を訪れた時点で、相手方にはこれが筒抜けになってしまっただろうが、この憲兵士官の態度が尋常では無いように思えるのだ。
2人は早足で1階に下りて、ベルガの居室となっている東側の「警衛本部」に入った。部屋の中にはベルガの配下である一般憲兵が1人居て、敬愛する上官が、更に三回生の主任教官……上官がその昔お仕えしていたという元北部方面軍の「凄い指揮官殿」と一緒に飛び込んで来たので慌てて立ち上がって挙手礼を実施した。
「済まんな。ちょっと邪魔するぞ」
タレンはその憲兵に笑いかけて、部屋の隅にある……彼がいつも昼食を食べる際に使用する椅子に座った。
「勤務中に申し訳ございません……たった今……本部から火急の報せが参りました……」
「ん……?本部?憲兵の本部かい?」
「そうです……。憲兵本部……いや、憲兵本部の話じゃなくてですね……」
ベルガは興奮しているのか、慌てて話そうとして支離滅裂になっている。
「落ち着けベルガ。憲兵本部じゃないのか?本省の話か?」
「そっ、そうです!本省です。本省で異変が!」
「何!?本省で異変?何かあったのか?」
タレンから問われたベルガは漸く落ち着きを取り戻し、突然声のトーンを落とした。
「『教育族』のお歴々が……次官殿や人事局長殿を始めとするあの方々が……本日突然、罷免されました。罷免……と言うのですかね。軍籍も剥奪すると……つまりその……軍から追放されたと言いますか……」
「何だと!?」
普段から胆が据わっているタレンも、流石にこの一報には驚いて思わず立ち上がってしまった。
「どっ、どういう事だ?」
「いや、私も……私もまだ伝令から第一報を聞いただけですので何とも言えないのですが……」
「『教育族』の連中が……今日になっていきなり軍から追放?……軍部から逐われたのか?軍務省からどこかの地方に飛ばされるとかでは無く……えっとつまり……そうだ。軍籍、軍籍から外されたと……そう言う事なのか?」
「あ、はい。そのような解釈で宜しいのではないでしょうか。人事局長や副局長、そして現職の教育部長や、その下の人達まで一斉に処分を受けているようですよ。処分の内容は皆同じで……その、軍籍の剥奪だそうです」
「まぁ……軍籍の剥奪って事なら当たり前だが階級も職位も全て失うという事だよな……分かった。私は校長閣下にこの話を報告して来る」
「では私は……ちょっと一走りして自分の目で確かめてきます。昼食時にまたここでお会いしましょう」
「分かった。頼む」
2人は椅子から立ち上がり、そのまま再び部屋の外に出た。ベルガは本省庁舎へ。そしてタレンは……職員室の最奥、自分の席の真後ろにある校長室へと急いだ。
「これは……またいきなりだなぁ……」
タレンは階段を駆け上がりながら……ボヤくように漏らした。
****
タレンは学校長の部屋の扉をノックした。最近の彼ならば滅多にやらない行動である。何故なら……この職員室の中にも教頭の息が掛かっている教職員が居り、いつか聞いた話では4人居ると言う……。4人のうち、2人は二回生と三回生の担当教官なので普段よりこの部屋を使用していないようだが、それでも一回生を担当する教官1人と、用務職員1人が「教頭の耳目」として活動しているらしい。
しかし……今はもうそのような些事に構っている場合では無い。場合によってはその教頭の身上にも関わる話なのだ。最早彼の目を気にする必要も感じなかったのだ。
「どうぞ」
という返事が聞こえて来たのでタレンは素早く「失礼致します」という言葉と共に校長室の中に滑り込んで素早く扉を閉めた。
「お忙しいところ、突然お騒がせ致します」
「お。なんだ。マーズ君か……。何かあったのか?」
ロデール・エイチ学校長も、この主任教官とは「構内での会談は避ける」という決め事をしていたので、それを破って直接自室に訪れた彼を見て驚いている。タレンは早足で学校長の机の前まで移動して、挙手礼を実施した。
「はい。緊急事態です。……と、言いましても我らにとっての凶報ではございません。実際の事はまだ判りませんが、少なくとも『悪い報せ』では無さそうです」
「ほう?どう言う事かね?」
「たった今……オーガス中尉からの報告によりますと、軍務省内で人事的な変事が生じたらしく……」
「何……?変事じゃと?」
「はい。我々が『教育族』と呼んでいた方々……軍務次官閣下を始めとする本省の高級幹部が軍籍を剥奪されたとの事です」
「なっ……!?」
流石にこの剛毅な前第四艦隊司令官も、この報を耳にして仰天した。
「只今オーガス中尉から聞かされました速報では、あの教育部長閣下も同様に軍人資格を剥奪されたと……」
「あの……あの『太っちょ』もか……?」
自分で言ってから学校長は思わず失笑仕掛けた。何しろ、話題が話題だけに笑っている場合では無い。
「ふぅむ……。しかしまた突然じゃな」
「そうですね……。全く何の前触れも無くですね……どういう事なのでしょうか」
「やはりこれはあれか。軍務卿閣下が思い切って強権を振るわれたのじゃろうな」
「しかし……私もその……軍の幹部人事についてはあまり詳しくありませんが……確か将官職については国王陛下による親補によって任命されるのですよね?つまり……いくら軍務卿閣下とは言え、陛下の御承認無く罷免や軍籍剥奪は叶わないのではないでしょうか?」
「うーむ。そうじゃな。確かに君の言う通りだ。つまりは陛下も承認済だという事かね?」
「しかし……ヘンリッシュの申し様では『陛下にあの数字』を提出されたら軍務省自体が色々と都合が悪くなる……という事でした」
「そうじゃな。軍務卿閣下にとっても『陛下に知られる』というのは非常に具合の悪いはずじゃ。しかし『教育族』の連中を更迭するには……陛下の御承認が必要になる。これはもう……」
「私の認識では、ヘンリッシュはそもそも『どのように転んでも軍務卿閣下自身も只では済まない状況になる』と言う展開になる事を見越していたと思われます。彼はどうも軍務卿閣下に対する印象があまり芳しく無いようですから……」
タレンは苦笑した。
「とにかくじゃ。今はちと情報が少な過ぎるの」
「如何致しましょうか?本日は『予定日』ではございませんが……『例の場所』で今後の対応を話し合いますか?」
「そうじゃな。了解した。それではいつもの時間でな」
「承知致しました。ヘンリッシュやシーガ君にも伝えておきます。それとオーガス中尉には、集合までに引き続き情報を集めるように申し伝えておきます」
「頼む。では後程な」
「はっ!」
タレンは挙手礼を行い校長室から退出した。その足で一回生教官の「島」まで歩いて行き、主任席に座るイメル・シーガ一回生主任教官へ声を掛けた。
「シーガ君。昼食はどうするのだ?」
タレンは一瞬、目くばせをした。
「あぁ、はい。今日は『1組の机』で頂こうと思っております」
シーガ主任も軽く頷く素振りを見せて応えたが、先程から部屋を出たり入ったり、はたまた校長室に入ったりしていて……いつも冷静且つ温厚な三回生主任教官の顔がやや上気しているようにも見え、彼女は何か変事を察したのか、戸惑いを覚えた。
「そうか。ならばヘンリッシュによろしくと伝えて貰えないかな。次の考査まで、また彼らと飯が食えなくなるのが残念だけどね」
「はい。分かりました」
このやり取りは前以って決められている事であり、その内容は
「緊急でフレッチャー邸に集まりたいのでヘンリッシュに伝えてくれ」
という事である。殊更どちらかが「1組の机で食べる」と言う場合は彼らと一緒に昼食を摂る側が首席生徒に「集合依頼を出す」という事になっている。
タレンはベルガと昼食を共にしたいので、マルクスへの「繋ぎ」をシーガ主任に任せたのだ。
(マーズ主任殿の様子が……何か緊急事態なのかしら……?)
このような会話を交わしているうちに、大聖堂の方向から三点鍾……「昼の鐘」が聞こえてきた。
****
「シエルグ卿。待たせたな」
伺候の間に姿を見せた国王陛下を迎え、軍務卿は立ち上がって胸に手を当てながら頭を下げる……略礼の姿勢を取った。
「このような急な上奏をお許し頂きまして感謝致します。陛下」
「うむ。して……上奏とな?随分と慌しいようだの。近衛の者に聞いたぞ。なにやら軍務省が朝から騒がしいとな」
王城から軍務省は1号道路を1本隔てているだけである。恐らくは「今朝の公示」によって、様々な場所……王都方面軍本部や王都防衛軍本部、もしかすると近衛師団駐屯地にも伝令が飛んでいるのかもしれない。
「はっ。宸襟を騒がせ奉り、誠に恐縮の極みでございます」
軍務卿は頭を下げたまま謝罪した。
「うむ。頭を上げよ。其の方の上奏を聞こうではないか」
「はっ!」
ロムロス王はいつも通りの落ち着きぶりである。その背後に立つ親衛隊長のシュテーデル近衛大佐の態度も至って尋常だ。つまり近衛大佐にはまだ軍務省における「騒ぎ」の詳細は伝わっていないようである。
「それでは申し上げます。本日10時を以って、勿体なくも陛下御自ら御親補なされました我が省所属の臣を4名……是を罷免せしめる事をお許し頂きたく……」
「罷免……?それも4人もか?」
「はっ。実に恐懼の至りではございますが……」
「親補職4名を罷免」と言うのは、実際只事では無い。何しろ親補職とは各省庁部長級以上の重臣であり、軍部で言うならば将官級にある者を一度に4人「クビにします」と言っているようなものである。場合によっては「政変」だと思われてもおかしくない状況だ。
国王陛下よりも、背後のシュテーデル大佐の顔色が変わった。彼は当然だが将校として上記の意味を即座に理解したからである。思わず驚きの声が出そうになったが彼は辛うじてそれを自重した。
「座るがよい。訳を聞こうか」
「はっ。先日御召しの際に御聞かせ頂きました件でございます……」
「先日の件……?」
「はい。陛下が先日行幸賜り、士官学校にて御観覧下されました『本来の戦技教育』の件でございます」
「おお!思い出したぞ!マーズ卿とあの生徒……」
「ヘンリッシュでございます。陛下」
「おお。そうだ。ヘンリッシュ……あの一回生の若者。素晴らしき能力を示しておったな」
「はっ。臣もかの若者を見分致しました。非常に優れた才能を持った学生でございます」
「そうだろう。余にとっても将来非常に楽しみにしておる。軍人にしておくのが惜しい程にな。はっはっは」
「こ、これはどうも……」
返す言葉が見つからず……軍務卿は口籠りながら顔を伏せた。あの若者……奇跡のような才能を持つあの首席生徒は……「卒業後に任官するつもりが無い」と言う……あの日、学校長が口にしていた衝撃の話を思い出し、軍務卿は早くも冷や汗が背中に吹き出した。
(よりによって……陛下があの若者を嘱しておいでとは……彼が任官を望んでいないと知ったら……)
「と、ところで……先程、臣が申し上げました『本来の戦技教育』に関する事でございまして……」
「おお。そうか。其の方も目にしたのか?」
「はっ。臣もかの若者が操る『槍技』を観覧致しまして……その類稀なる才能、確かに目を瞠るものがございました」
「うん……?槍だと……?余が観覧したのは『剣技』であったぞ?のう、シュテーデル」
国王は後ろに控える近衛大佐の方へ少し振り返った。
「はっ。小官が……かの若者に打ち負かされたのは、その素晴らしき剣技の冴えでございました」
「陛下……聞くところによりますと……かの若者の業前においては『得物』を選ばないのだそうです」
「何……!?つまり彼は剣においても槍においても同様の業前を発揮すると……?」
「はっ。仰せの通りでございます。かの若者は武芸において……恐らくは神に入っているかと。臣も多少は槍を嗜んでおりましたが……到底及ぶものではございませぬ」
「其の方がそこまで……そこまで言うのも珍しいの……」
陛下は驚いている。勿論、それは「あの若者」が剣ではなく……槍においてさえ、達人として名高いこの目の前に座る「巨躯の豪将」と呼ばれていたヨハン・シエルグに「そこまで言わせる」という彼の才能に対してである。
「かの若者は、現代に……古来より我が国の士官学校にて培われていた白兵戦技教育……。陛下が仰られた『本来の戦技授業』を復活させる為に出現したのかもしれませぬな……」
「その戦技授業でございますが……臣が改めて調べましたところ、約400年もの昔から現代に至るまでの間……軍務省において教育を司っていた不逞なる官僚共の怠慢により変質させられ続け、今日に至っていたと判明致しました」
「何……?」
「恐れながらも王国軍におかれましては古の建国時代、そして建軍以降……この大陸において敵する者は全てが反乱者や領土を荒らす匪賊など……『非正規軍』を相手に戦闘を重ねておりました。そのような境遇の中で『指揮官を先んじて狙う』という卑怯極まる戦法を繰り返す敵に対し、その対処に重きを置いた『士官戦技』というものが研究され、発展・洗練された上で士官学校教育に組み込まれて来た歴史があったようです」
国王は軍務卿の説明を聞き……あの観覧の日、「北部軍の鬼公子」が強い目で訴えかけて来た姿を思い出したようだ。
「おぉ!それはまさしく……マーズ卿が申していた事であるな。マーズ卿も其の方と同じ事を申しておったぞ」
「さ、左様でございましたか……。やはりマーズ卿……それに気付かれておりましたか……なるほど……」
軍務卿は国王の御言葉を聞いて肩を落とした。彼はマーズ卿にも面談を拒絶された事を思い出したようで
「臣は……マーズ卿に顔向けが出来ませぬ……。マーズ卿という勇者が士官学校の教官として現れたのも天恵の機会であったにも関わらず……」
「どうした?シエルグ卿。其の方はマーズ卿と何ぞ諍いでも起こしたのか?」
「とっ、とんでもございません!マーズ卿もまた……陛下も御承知の通り、『本来の白兵戦技』を知る者であったのです。マーズ卿と、かの若者……ヘンリッシュは400年に渡って、怠惰な教育行政を担当していた官僚が歪めた士官教育を正そうと、エイチ学校長殿に意見を具申し……賢明なる学校長殿によって我が省の現代における教育官僚……教育部の長に対し、士官戦技教育の是正を申し入れたそうですが……」
「うぅむ……。観覧の際にも学校長とマーズ卿は余に、軍士官の戦技教育について意見を聞かせてくれておったぞ」
「さ、左様でございましたか……。誠に汗顔の至りにございます。愚かにも教育官僚共は、その訴えを『自らの専権であると』いう理由で棄却致したそうにございます」
「なっ、何だと!?あの素晴らしい……マーズ卿と若者が余に披露した戦技か?それを教育官僚が……?しっ、しかし……現在の教育部の長というのは、確かデヴォン卿であるな?」
「はっ。教育行政の責任者はデヴォン少将でございました」
「あの日……あの場にはデヴォン卿も同席しておったがな……」
「陛下が御臨席あそばされたという……戦技教育の授業の場でございますか……?」
「そうだ。あの場にデヴォン卿も立ち会っておったぞ」
ここで、国王の背後に立っていた近衛大佐が遠慮気味に口添えをした。
「陛下。あの場において……学校長閣下、それにマーズ卿共々……ご発言を慎重になされておいでだったのを御記憶されておりますでしょうか。お二方共……ご発言の際には随分と教育部長殿に対して気遣っていたご様子でしたが……」
「うん……?おぉ!そう言えば……そうであった。両者共、余が発言を許した故に戦技教育について語り出しておったな」
「はっ。小官もあの折は……少々違和感がございました。なので記憶に残っていたのであります」
「うむ……そうであったな。よくぞ憶えておったな。ははは」
「恐縮でございます」
近衛大佐は頭を下げた。彼は既にこの王城内で「本来の白兵戦技」の信奉者になりつつあった。
「左様でございましたか……私の調べたところでは、学校長殿は昨年の11月……その時期に先程申し上げました『本来の白兵戦技教育』に関する意見具申を行い……そして棄却されたようです。陛下の御前において教育部長を憚ったのは恐らく……その一件があったからではないかと、臣は愚考致します」
「なっ……!そうであったのか……そのような出来事が……。つまりデヴォン卿は、あの素晴らしい戦技の復活の芽を摘んでいたのだな。その……『専権』などというものによって」
「御賢察の通りでございます陛下……。そして本日申し上げたき4人の罷免でございますが……」
「その戦技教育の歪曲をこれまで見逃し続けて来た、歴代の教育部長が対象でございます。即ち……軍務次官ポール・エルダイス。人事局長イエイジ・オランド。人事副局長ゲイリー・アミン。そして先程から名が挙がっております、現教育部長のモンテ・デヴォン。この4名にございます」
軍務卿の口から出た4人の名を聞き、国王は少しだけ驚いた顔をした。それに比べ……彼の背後に立つ近衛大佐は相当に衝撃を受けた表情をしている。
無理も無い……。いくら軍務省の人事体系から外れている近衛師団の将校であるとは言え、シュテーデル大佐にとっても軍務次官は徒や疎かには出来ない存在である。軍務官僚の頂点に立つその名は……「近年稀に見る切れ者」という評価が軍務省内外に広がっているのだ。
「今申し上げました4名は、現職のデヴォンは兎も角……エルダイス、オランド、アミンと、悉く教育部長の職責を歴任しているにも関わらず……士官教育の『歪み』を放置しておりました事、実に責任重大であります」
「ふむ……先程其の方から聞いたデヴォン卿の学校長の具申に対する態度については致し方無いとして……その教育部長の経験者か?聞くに其の者達は軍務省の最高幹部では無いのか?」
「左様にございます。彼らは全員が陛下からの御親補を受けた者達でございます。本来であれば臣にとっても股肱の存在となる者達ではございますが……」
「然もあろう。聞くに軍務省を支える重臣ばかりではないか。そのような者共を……『過去の事』で厳しく裁くのは……如何なものか?」
やはりそのように思われるか……軍務卿は額に汗が滲み出て来た。やはり陛下を説得するには……。
(しかしこれは……余りにも「効き目」が強過ぎる……。これを……陛下に御見せする事は……)
軍務卿は目を閉じた。彼の脳裏で「見せるか、見せざるか」の葛藤が続いているのだ。
「どうしたシエルグ卿。体の具合でも悪いのか?顔色が良くないぞ」
陛下から声が掛かった。勿体無くも我の身体を御心配あそばされている。彼は……決心がついた。
「おっ、陛下に……御照覧頂きたい……書がございます」
(最早これまで……。所詮……これを知ってしまったからには……陛下に対して隠蔽する事は余りに不忠。ここは「真実」をお伝えすべきだ……)
軍務卿は大きく息を吐き出して、国王の目に届かぬように隣の椅子に載せていた、立派な造りの文箱を机に置き……箱紐を解いた。蓋を開けて中から出て来たのは……自らの執務室においてエルダイスに投げ付けたあの……「数字」の書かれた文書。クリップでは無く……上奏文書として表紙に挟まれ、糸で綴じられた6枚組の文書であった。
震える手でそれを国王の方に向きを変え、静かに机上に滑らせるように差し出した。
「何だこれは?」
「そっ、それこそが……彼ら教育官僚が数百年に渡って犯して来た『罪』でございます……」
軍務卿は手だけでなく、その巨躯全体が震えている。まるで大いなる恐怖……彼程の巨躯を持つ豪将が何に対して震えているのか……。国王は不審を覚えながらも、その「数字」が並ぶ文書の表紙を捲った。
「うん……?新任官……?初年度……?戦死……?初年度で戦死……?つまりは……士官学校を卒業して軍に正式に入った年……と言う事か?」
「は、ははっ……!さっ、左様で……左様で、ございます……。士官学校を……卒業した若者が……」
軍務卿は思わず目を閉じた。恐ろしくて陛下の御顔を拝する事が出来ないのである。向かい側から紙が擦れ合う音……。そして捲る音……。そして……震える音……。
永遠とも思える数分間が……目を閉じた世界で流れていた。
****
「で……どうだった?何か新しい情報は入ったのか?」
士官学校本校舎1階の東側……大食堂の手前隣にある警衛本部では、軍隊飯を囲んでタレンとベルガが顔を突き合わせていた。
既に一緒にこの部屋に詰めている憲兵隊員には「本日の授業終了まで」と時限を設けて緘口令を布いている。このような「大事件」が校内に漏れ出したら大騒ぎになって授業どころではなくなるし……何より上階奥の部屋に居る教頭がどのような反応を示すか判らないからだ。
それだけ……今日になっていきなり入って来たこの情報は軍部とその関係者にとって「とんでもない事態」なのである。
「本省の庁舎玄関は凄い人でした。そこを通り抜ける事は最早困難でありまして……。仕方無く憲兵本部から入って2階の渡り廊下を使いましたよ」
ベルガはそう言って笑った。どうやら彼には笑う余裕があるようだ。
「そんな騒ぎになっているのか……。これはちょっと拙いな。通り一本隔てたこっちの構内にも聞こえてきそうではないか」
「門衛は落ち着いた様子でした。幸いにして玄関周辺の様子は目で見ないと分からんのではないでしょうかね」
「憲兵課長殿にはお会いしたのか?」
「いえ……課長殿はどうやら本庁舎側のどこかに出掛けられておりまして……お話を伺う事が叶いませんでした」
ベルガが笑顔から一転、少し悔しそうな顔になった。恐らく今回の件……彼の上司であるエラ憲兵課長は詳細な情報を持っていると思われる。ベルガも彼を通して、軍務省内の水面下で暗闘していた「面子の顔ぶれ」について薄々気が付いている。先日の面談申し入れの件もあり、「憲兵課長は軍務卿側」という認識になっていた。
「しかしそもそも……先程の第一報を私に持って来た伝令は課長殿によるものでした。課長殿は私を通して、『この件』を主任殿や校長閣下、それにヘンリッシュ殿にお伝えしたかったのではないでしょうか」
「なるほどな。そもそも『教育族の更迭』を要求したのは我々と言う事になっているんだったな……。いや、実際はヘンリッシュの独断によって行われたのだが……フフっ」
タレンは思わず吹き出してしまった。今回の事件……いや騒動は、あの首席生徒による「法務官への申し入れ」から始まっていた事を今更ながらに思い出したのだ。
「しかし本当に……現実になってしまいましたなぁ……やはりヘンリッシュ殿は凄い……」
ベルガは「右脚の恩人」に対して感心している。それを見てタレンはまた笑い出した。
「彼には……本当に驚かされるばかりだ。あの智謀、それでいて大胆な発想と行動力。そして……それを可能とする能力。どれも私が今まで見た事も聞いた事も無いくらいに桁外れだ。しかも……彼の行動は、この国にとって一時的に大きな痛みを伴うかもしれないが、どれも将来を考えると有益な結果ばかりを生んでいるんだ」
「なっ、なるほど……。確かにそうですね……」
目の前でパンを齧っている「北部軍の鬼公子」と呼ばれた驍将……先日は国王陛下にもその凄まじい戦闘力を披露して観ていた者を瞠目させた元上官。今や構内に居る者全てが、彼に対する態度を改めている。特に白兵戦技授業を担当している教官達からは絶大な畏敬を集めている。
そしてそれは恐らく……今も騒ぎが治まらない隣の軍務省庁舎においても同様なのであろう。
その敬愛する元上官が最大限の賛辞を贈る人物。自分の恩人、マルクス・ヘンリッシュはまだ一回生なのだ。
「一応、今日は緊急で『例の場所』に集まる手筈は整えてある。今頃隣の部屋でシーガ君がヘンリッシュに伝えているはずだ」
タレンがベルガに顔を寄せて低い声で囁いた。近くでやはり軍隊飯を平らげている憲兵隊員に聞かれるのを憚ったのだ。
「なるほど。それでは『あの方』に、是非今後の展望をお伺いしたいですね」
「そうだな。今回の件は彼が言い出した事だ」
「そっ、そう言えば……『あの件』はどうするのです?課長殿から私が仲介を頼まれた件は……」
「そうだな……。その件があるんだよな……『向こう』が約束を果たしたとは言え、まだ安易にお会いするのは、ちょっと考えものだな……何しろ、我らの『目的』がまだ果たされていない。そこのところがまだ不安なんだ」
「なるほど。そう言うものですか」
「だからそうだな……君は明日、課長殿と会うのだろう?」
「ええ。週例の報告がありますからね。しかも月末ですから」
「もしその際に……その話を持ち出されたら、すっ惚けて時間を稼いでくれ」
「えっ……。そ、それはちょっと……いや、課長殿は何とかなりますがね……。課長殿の『背後に居る方』が出てきたら、流石に私もどうなるか……」
「そこを何とか頑張ってくれよ。今日で『教育族』も居なくなっちまったんだろ?だとすると、本省側から直接この士官学校……と言うか我々に対して何かやって来るとしたら、もう君だけが『残された糸』なんだからな。少なくともあの方々はそう思っているはずだぞ?」
「そ、そんな……」
実際、かなり「他人事の野次馬気分」になっていたベルガは、タレンからの言葉を聞いて顔色が変わったのであった。
****
「こっ、この内容は……どう言う事なんだ?」
国王陛下の動揺を隠せない声を聞いた軍務卿は瞼を開いた。正面に座する国王陛下がこちらを睨んでいる。そう……眉間に皺を寄せて厳しい視線を向けているのだ。
「は……ははっ。その文書は……」
軍務卿は急激に喉が渇いた感覚に襲われ、慌てて卓上に置かれたカップを取り上げて茶を口から流し込んだ。
「その文書……数字は、表題の通りでございます。士官学校を卒業した者が……任官、そして配属された部隊にて1年以内に戦死……又は戦力に適わない程の重傷を負った者の数を100年単位で集計したもの……でございます」
「100年単位……?ではこの上の数字が……」
「はい。最上段を現代として……上段に続く赤の数字が現代から400年前を100年毎に4つの年代分……更に100年間飛びますが、下段の黒い数字が500年前から1000年前までの5つの年代分を記しております。赤字の年代と黒字の年代をそれぞれ100年単位で御比べ頂けますでしょうか……」
マルクスが以前に、アラム法務官に突き付けたのは800年前から700年前までの100年間と、100年前から現代までの100年間を比較したものであったが、ヘダレス情報部長は地下の資料保管庫にある統計資料を並べて数字の精査を実施した際に、比較統計年代を独自に拡大させたようだ。
「あ、赤い数字が……400年前までのものなのか……余には赤い数字が概ね黒の3倍以上に見えるが……」
国王陛下は、説明を受ける前から書類に纏められている数字を見て落ち着かなくなっていたが、その説明を聞いて息を飲んだ……。何故なら……「死者数」や「重傷者数」と項目の見出しの下に書かれている数字が赤と黒で約3倍の違いがあり……更にそれぞれの項目の一番下に記されている「その年代の戦闘発生回数」では逆に黒い数字が赤の約3倍で推移しているのだ……。
この数字資料を見た者が、例外無くその内容を理解した瞬間に恐怖さえ感じるのは……「戦場が約3分の1に減っている現代の方が700年前までの各年代に対して約3倍もの犠牲を出している」という事実……その後に、この数字自体の意味を考え直した時に「この数字が新任官初年度の士官だけを対象としている」という更なる事実で……頭を2回ぶん殴られるような衝撃を受ける事なのである。
余談ではあるが、この文書の内容を精査編纂したマグダル・へダレス情報部長は震える手で必死に末文の考察を書き上げ、その内容の凄惨さに……この問題を数百年放置して来た軍上層部に対する不信と、自らもその一翼を担う高級官僚であると言う葛藤が生じて、辞職を考えた程であった。
「これはどういう事なんだっ!」
陛下が再び同じ御言葉を……激した声で発した。背後に立つ近衛大佐が驚いて「ビクっ」とする程に……滅多に感情的にならないと言われるロムロス王が……怒鳴り声を上げて震えているのだ。
(や、やはり……やはりこうなるか……)
「謹んでお詫び申し上げます……本来であればこのような『凄惨な数字』を……陛下の御目に触れさせる事に対して臣と致しましても些か逡巡致しましたが……」
軍務卿は顔を上げ、言葉を続けた。
「臣にはやはり……陛下を欺く事は出来ませぬ。申し上げました4名の外……歴代の教育官僚の『怠慢による失政』を糺す為には、この数字を御照覧頂くしかございませんでした……」
「歴代の教育官僚だと……?」
国王陛下は落ち着きを取り戻したようだ。
「御覧頂きました通り、この数字の対象となっておりますのは任官したばかりの士官学校卒業生……その殆どが20歳にも満たぬ若者ばかりであります。士官学校にて実施されている白兵戦技授業の内容が……劣悪なものへと変容した事が……原因であると思われます」
「授業内容が……そうか。例の……『本来の戦技授業』であったか……?」
「はい……。御賢察の通りでございます。その黒い数字……500年程前までは仰せの『本来の戦技授業』が実施されていたのです。授業の内容に変容が起こったのは赤の数字と黒の数字、何れにも属していない約450年前……ケイノクス陛下の御世に北東地方の問題が解消された事で、国内で発生する戦の数が減少し……平和な時代が訪れたのであります」
ロムロス王は、為政者の教養として「王国の歴史」は修めていたので「中興王ケイノクスの英断」については知っていたし、それに伴って国内の戦乱も劇的に減少した事も認識している。
「平和な世が訪れると同じくして……士官学校教育の変容が始まり……授業が劣悪化した結果……そのような赤い数字となったのでございます。つまり現代の王国軍は……士官教育が原因で大幅に弱体化しているのでございます……」
「何と……そのような……」
「白兵戦技の教育内容が古来の……「本来の戦技教育」に保たれていれば、赤い数字がそのようなものになる事は無く……」
軍務卿はすっかりと憔悴した様子になっている。
「これは……臣も身を置いておりました陸軍の恥となるのですが……士官学校の海軍科は分校にて『古の形』に近い内容で戦技教育が独自に行われているそうなのです。御覧下さい……赤文字の中でも海軍に関係する数字は陸軍に比べ、被害が少ないのです。……陸軍よりも実戦機会が多い海軍は、辛うじて弱体化を抑えております。これは明らかに……『教育内容の差』であると断じざるを得ません」
国王は改めて数字を見直した。確かに軍務卿の指摘通り……国土を囲む海において年中戦闘が起きているにも関わらず、海軍の新士官は損耗率が陸軍と比べ驚く程少ない。
背後のシュテーデル近衛大佐は、今の軍務卿の説明を聞き……先日の観覧式において学校長が国王に対して説いていた「分校との授業内容の違い」を思い出してハッとしたような表情になった。
『分校のものは、古来より本校において実施されておりました「本来の戦技授業」を継承しているものと愚考致します』
あの時……歴戦の名提督として名高いロデール・エイチ学校長はそのように陛下に御説明申し上げていた……。そして、タレン・マーズ少佐……。ヴァルフェリウス公爵家の次男にして「北部軍の鬼公子」との威名を持つ驍将……あの士官学生と繰り広げられた一騎打ちも凄まじかったが、その直前にも見せていた「集団戦技術」は、「王都の達人」と呼ばれていた自分のプライドを完全に打ち砕き、武人としての新たな見識を与えてくれた……彼にとっては得難い体験であった。
「歴代の教育官僚達は……劣悪化していく士官学校教育を放置し、賢臣の意見具申を『専権』の一言で退け……国軍を弱体化させてきた罪がございます……。彼らには自ら犯し続けた『怠慢の罪』を償わせなければ……この赤い数字……最初の年で命を散らした若者達に……臣は……申し訳が立ちませぬ……」
何時の間にか軍務卿の目から大粒の涙が零れていた。自分も嘗て……士官学校において槍技教官として『役に立たない戦技』を若者達に教え込み、戦場に送り出した……一体何人の若者が、自分の『教え』によって生命を磨り潰したのか……。
「シエルグ卿……」
「取り乱してしまい申し訳ございません。陛下。かの4名。彼らだけに罪を負わせるつもりはございません。この処分が済んだ後……臣も退身の上で、臣……いや、私自身が戦場に送り出した若者達に対しての責任を負う所存であります」
「何!?其の方は退身するつもりなのか!?」
軍務卿の口から突然の辞意が飛び出したので、ロムロス王はまたしても驚愕の声を上げた。
「私はその昔……白兵戦技の教官として士官学校に赴任しておりました……あの頃、それが『役に立たず』と知らずに学生達に槍技を教え……一体何人の若い命を散らした事か……。私は彼らの魂を慰める為に残りの人生を使わせて頂きたいのです……。陛下……どうか臣の願いをお聞き届け頂けませんでしょうか……」
軍務卿は立ち上がり、国王陛下に深々と頭を下げた。
国王陛下は無言でそれを見つめている。近衛大佐は軍務卿の申し出に対してまだ驚いて慄いたままだ。彼が今の地位である国王親衛隊長に就任したのは8年前だが、当時のヨハン・シエルグは既に王都防衛軍司令官であった為、彼は国王の護衛を務める関係でシエルグ司令官とも顔を合わせる機会も多く、シエルグからも彼に対して「剣術の達人」として高い評価を与えていた。
一方、シュテーデルが士官学校の陸軍歩兵科を席次2位、学年総合3位という好成績で卒業し……それと同時に男爵家嫡男として近衛師団入りした際、当時の王都防衛軍第九師団第一連隊長であったヨハン・シエルグ少将は、既に「槍術の達人」として、その巨躯もあって王都では有名になっていた。
シュテーデルがその後、3040年の闘技大会で個人及び団体戦の優勝者に対して模擬戦で3連勝を飾り、「王都の達人」の名を不動のものにするまで……王都において「達人」と言えば「王都防衛軍の巨人」の事を指す称号であった。シュテーデルは言わば、シエルグとは「世代の後継者」とも言うべき間柄であり、両人は互いに相手の事を世代は違えど「武の達人」として認め合っていたのだ。
そんな王都武術界の「先輩」であるヨハン・シエルグが国王陛下の前で涙を流しながら引退を申し出ている……。シュテーデルにとっては衝撃を受けるのも無理は無い光景であった。
「頭を上げろ。シエルグ卿。委細相分かった。其の方の申し出通り4人の更迭を認める。そして……其の方の引退も認めよう……」
国王陛下はフッと鼻から息を吐き出しながら穏やかな口調で告げた。軍務卿は涙で濡れた顔を上げ
「忝く……忝く存じます……。臣は武人として幸福な人生を送らせて頂きました」
「良かろう。其の方の引退を認める代わりに……誰ぞ後任に推す者はおらんか?」
「臣に名を挙げさせて頂けるのであれば……現在の士官学校長、ロデール・エイチ提督を推薦致しまする」
シエルグ卿は自らの後任に、第四艦隊を率いて数々の戦いに勝利した「海の守護神」、ロデール・エイチ士官学校長の名を上げた。
「但し、陛下も御存じとは思いますが……エイチ提督は今年で学校長就任2年目でございます。学校長の任期は3年。エイチ提督を来月の除目にて次期軍務卿として用いるのであれば、あの者に中途退職を求める必要がございます」
「なるほど。エイチ提督か。余も適任と思う」
コベルタ王による「参議制」が導入され、諸卿会議体制が確立して以来約2000年。シエルグを含め377人の軍務卿が存在したが、海軍出身でこの地位まで上り詰めたのは僅か9人であった。エイチ提督が就任すれば晴れて10人目の海軍出身の軍務卿が誕生する事になる。
「それではエイチ提督に後事を託したいのですが……もしやすると彼は、この就任を辞退する可能性も考えられます」
「ほぅ……余の勅命を以ってしてもか?」
「左様でございます。何故なら……彼は恐らく『本来の白兵戦技授業』の復活に意欲を示しております。任期途中での学校長退任を由としない可能性がございます」
「おぉ……それは十分に考えられるな」
陛下は苦笑いを浮かべた。先日の観覧式における学校長の「戦技授業への想い」に対する熱の入り方は相当なものと国王自身も感じたのである。増してや今回の件で「愚かなる教育官僚」が根こそぎ放逐されるのだ。そうなれば彼と、彼の部下である「北部軍の鬼公子」が目指す「白兵戦技授業改革」の前進を阻む者は居なくなる。
今回の罷免によって当然ながら後任が充てられるだろうが、今回の経緯を知れば迂闊に「改革」に対して掣肘を加える事は出来なくなるだろう。何しろ、「あの」軍務次官がこの件に関係して「軍を逐われる」という、軍人軍属としては最も過酷な処分を受けているのだ。恐らく今後、士官教育を「専権事項である!」等とぬかす頑迷な教育官僚は暫く現れないと思われる。
「もしもエイチ提督が除目を辞退するのであれば、彼の退任までの『繋ぎ』として今年定年を迎えるヘルナー参謀総長を起用されるが宜しいかと存じます」
「ほぅ。ヘルナーをか?エイチ提督の任期は残り1年なのだろう?で、あれば結果的にヘルナーの在任も1年だけとなってしまうではないか」
「ヘルナーは元々身体がそれ程強くありません。本人は本年6月で満60歳を迎えて現職で定年を迎えるのを心待ちにしていると思われます。そこを1年だけ我慢させるつもりで任命すれば彼も引き受けてくれるかと……」
「フフっ……軍務卿を1年だけ引き受けさせる……か」
国王は笑い出した。「早く定年退職して楽になりたい」と思っている参謀総長が、「1年だけ軍務卿をやれ」と命じられてどのような顔をするのか……考えるだけで愉快に思えたのだ。
「宜しい。シエルグ卿の上奏を受け入れ、4名の罷免を認める。並びにシエルグ卿の退身も許可し、後任としてヘルナーを1年間務めさせ、其の後にエイチ提督へ引き継がせる事を承認する」
「感謝致します……我が国王陛下……」
再び深々と頭を下げたシエルグ卿の頬から涙は消えていた。
(これで……これであの者達は私と会って……話を聞かせてくれるだろうか……)
彼は、これで漸く自らが抱えていた「心の負債」を返し終え……心の安寧を取り戻したのだった。
【登場人物紹介】※作中で名前が判明している者のみ
ヨハン・シエルグ
65歳。第377代軍務卿(軍務卿就任に伴って侯爵叙任)。元陸軍大将。元王都防衛軍司令官。
軍務省の頂点に居る人物であるが、軍務省を動かしている軍官僚達を嫌悪している。
タレン一派の提唱する「白兵戦技授業改革」を耳にし、主人公の持つ技量を目にした事で「歪められてきた白兵戦技」の責任を教育族に取らす決意を固める。
若い頃に士官学校の白兵戦技(歩兵槍技)教官の経験があり、その頃から生徒に恐れられていた。
ロムロス・レイドス
47歳。第132代レインズ国王。(在位3025~)
名君の誉高い現国王。近代王室では珍しくの王立官僚学校を卒業しているせいか、軍部に対して疎遠であると言われている。
タレン・マーズ
35歳。王立士官学校三回生主任教官。陸軍少佐。
ヴァルフェリウス家の次男。母はエルダ。士官学校卒業後、マーズ子爵家の一人娘と結婚して子爵家に婿入りし、家督を相続して子爵となる。
主人公によって「本来の白兵戦技」を知り、白兵戦技授業の改革に乗り出す。
ロデール・エイチ
61歳。前第四艦隊司令官。海軍大将。第534代王立士官学校長。勲爵士。
剛毅な性格として有名。タレンの戦技授業改革に賛同して協力者となる。
ベルガ・オーガス
30歳。軍務省憲兵本部所属の王都第三憲兵隊長。陸軍中尉。独身。
タレンの元部下で北部方面軍第一師団第二騎兵大隊第一中隊第三小隊長を務めていたが戦闘中の事故で右足に重傷を負い憲兵隊に転属。
主人公によって右足を完治した後は士官学校常駐士官に就任。
イメル・シーガ
31歳。陸軍大尉。王立士官学校一回生主任教官。担当科目は白兵戦技で専門は短剣術と格闘技。既婚。
猛獣のような目と短く刈り込まれた黒髪が特徴の、厳つい体格を持つ女性教官。
タレンが三回生主任教官へ昇格したのに伴い、後任の一回生主任教官に就任。
夫は財務省主計局司計部に勤務する財務官僚。
エリオ・シュテーデル
43歳。近衛師団国王親衛隊長。近衛大佐。男爵。
国王の身辺警護を務める親衛隊の隊長で随行責任者。国王の信頼篤く、剣術の腕前に関して全国区で名声を得ている。
新任官時当時の上官がジヨーム・ヴァルフェリウス公爵であった過去を持つ。
ゼダス・ロウ
54歳。軍務省人事局人事部次長。陸軍大佐。法務官。男爵。
軍務省に所属する法務官。武芸に対して造詣が深いが、自らの腕前はそれ程でもない。
軍務卿や同僚法務官達と協力して「教育族」の放逐に力を貸す。
****
ポール・エルダイス
62歳。軍務省次官。陸軍大将。勲爵士。
軍務官僚のトップ。強大な政治力を発揮して現職まで上り詰め、同時に子飼いの部下をも高位に引き上げて軍務省上層部に「教育族」と呼ばれる派閥を形成している。
教育部長時代の怠慢を軍務卿に糾弾され、軍籍剥奪の処分を受ける。
イエイジ・オランド
59歳。軍務省人事局人事局長。勲爵士。
エルダイス次官が嘗て情報部次長から教育部長に転出昇進した際に順送りを見送られたとされる当時の教育部次長。後に「教育族」の一員として懐柔人事を受ける。
軍務卿からの密命によってタレンを北部方面軍から士官学校入学考査の面接試験官へと抜擢し、そのまま一回生主任教官へと転入させる人事を行った。
エルダイスと同じく過去の職責で糾弾され、軍籍剥奪の処分を受ける。
ゲイリー・アミン
57歳。軍務省人事局副局長。陸軍中将。勲爵士。
デヴォンの前任者。「教育族」の一員。
オトネル人事部長を差し置き、「教育族人事」によって現職に昇進する。
エルダイスと同じく過去の職責で糾弾され、軍籍剥奪の処分を受ける。
モンテ・デヴォン
54歳。軍務省人事局教育部部長。陸軍少将。男爵。
王立士官学校を管轄する部署の責任者である軍務官僚。「教育族」の一員。
エイチ学校長による「士官学校戦技授業改革」を不誠実な態度で握り潰してしまった。
上気の行動が原因で軍務卿から軍籍剥奪の処分をうけて軍を逐われる事に。
シモン・ユーリカー
50歳。軍務省人事局教育部教育課長。陸軍中佐。
デヴォン教育部長の意を受けて、士官学校を訪れてアガサ教頭に「白兵戦技授業改革」への加担を確認した。「教育族」の末端に位置する人物。
「教育族」が犯した教育行政における不備に連座して軍籍剥奪の処分を受ける。