魔法と元素
年末の忙しさで連載が開いてしまいました。年が明けて相変わらず忙しいのですが、今年も頑張って連載を続けて行こうかと思っておりますのでよろしくお願いします。
※2022年4月10追記:内容の数字を一部訂正しました。
【作中の表記につきまして】
アラビア数字と漢数字の表記揺れについて……今後は可能な限りアラビア数字による表記を優先します。但し四字熟語等に含まれる漢数字表記についてはその限りではありません。
士官学校のパートでは、主人公の表記を変名「マルクス・ヘンリッシュ」で統一します。
物語の内容を把握しやすくお読み頂けますように以下の単位を現代日本社会で採用されているものに準拠させて頂きました。
・距離や長さの表現はメートル法
・重量はキログラム(メートル)法
また、時間の長さも現実世界のものとしております。
・60秒=1分 60分=1時間 24時間=1日
但し、作中の舞台となる惑星の公転は1年=360日という設定にさせて頂いておりますので、作中世界の暦は以下のようになります。
・6日=1旬 5旬=1ヶ月 12カ月=1年
・4年に1回、閏年として12月31日を導入
作中世界で出回っている貨幣は三種類で
・主要通貨は銀貨
・補助貨幣として金貨と銅貨が存在
・銅貨1000枚=銀貨10枚=金貨1枚
平均的な物価の指標としては
・一般的な労働者階級の日収が銀貨2枚程度。年収換算で金貨60枚前後。
・平均的な外食での一人前の価格が銅貨20枚。屋台の売り物が銅貨10枚前後。
以上となります。また追加の設定が入ったら適宜追加させて頂きますので宜しくお願いします。
フレッチャー元師団長邸から帰る道すがら、ルゥテウスの脳内にノンからの念話が入った。今日は「学校の帰りに寄り道をするから夕飯は外で食べる」と朝、薬屋から出発する時に伝えてあり、過去にも何度か同様の言い付けを聞いていたので、ノン自身はルゥテウスの帰宅が遅れる事など気にしていないはずである。
『ルゥテウス様。申し訳ございません。聞こえますでしょうか』
『ん?ノンか?どうした』
『はい。シュンさんの出産がいよいよだそうなので、サナちゃんと一緒に付き添いに行きたいのですが……』
『おぉ、そうか。そういや俺が朝……薬屋を出た後から陣痛が始まったとか言ってたな?』
『はい。どうやらそろそろ……だそうです』
『分かった。俺に気にせず行ってこい。お前の生徒達は残るんだな?』
『はい。あの娘達はもう夕飯も済ませて自室に戻っていますので、ルゥテウス様のお手を煩わせる事も無いかと思います。チラちゃんとアトちゃんは地下の部屋でいつもの練習をしていますので』
『そうか。分かった』
ノンとの念話はそこで打ち切られた。昨年末から臨月に入ったにも関わらず、色々と無茶な事をやってきたロダルの妻であるシュンも、漸く「はじめての出産」に漕ぎ着けたようだ。結局、彼女は陣痛が始まる前日……昨日の夕方まで義兄のキッタに代わって藍玉堂の工場で責任者を務め、自ら産気を感じて身体が動けるうちにサクロにある総合病院に移っていたようだ。
「そろそろ産まれそうだ」という話はサナを通してルゥテウスやノンも昨夜のうちから聞いており、病院の方にも既にロダルの母であるアイサや、キッタの妻であるサビオネも付き添いで詰めていたのでルゥテウス自身はそれほど心配もしていなかった。
時刻は既に王都標準時で18時50分になっていた。ここで『王都標準時』と表記したが、実際は「北サラドス東部標準時」と言った方が正確だろうか。東西最も広い部分で3500キロある北サラドス大陸は、交通や通信連絡網がまだまだ未発達である為にその住民自身には全く意識されていないが、東部と西部では1時間の時差が存在している。
ヴァルフェリウス公爵領の領都オーデルやレインズ王国の王都レイドスは同じ東部時間帯に属するので、それ程時差に対して意識する必要は無いが、西部の大都市サイデルや大陸西海岸に位置するダイレムは、王都や領都と1時間の時差が存在する。肝心の王国政府と多くの国民には意識されていないが、学術的には「時差」という概念は既に地理学界でも認識されているし、その土地々々で「時の鐘」を鳴らして勤行に励む救世主教関係者や念話使用者が多く所属する魔法ギルドもある程度はその意識を持っている。
それよりも時差の概念について最も強い認識を持っているのは、ルゥテウスがもたらした転送陣や念話付与品などを日常的に使っているキャンプやサクロの住人で、中でも世界中の都市で菓子を売りまくりつつ……サクロの自宅から「通勤」しているご婦人方達や、《青の子》の諜報員たちには自身の生活に密着した「生活感覚」になってしまっている。……西部の町で菓子を売り切り、通常閉店時間の17時になって店を閉めてから転送陣で帰るとキャンプでは既に18時になっており、夕飯配給が始まっている……なんていう事はご婦人方にとって常識の範疇である。
ちなみに、「明日はどこの町で店員をやる」というのはシフト表のようなものが組まれており、それを決めているのは10年前の最初の出店から菓子作りと菓子売りも担当しているワーヌという難民第一世代の女性で、自分自身が隣の大陸のどの辺から逃げて来たのか判らないが、以前の実家はパン屋を営んでいたと言う。今はアイサに菓子部隊のリーダーを任されており、サクロで鍛冶工場に務める夫と……キャンプの「《青の子》訓練施設」で訓練教官をやっている娘が居る。
とにかく……キャンプの時間では既に夜になっていて、三人娘や赤の民の双子は既に夕飯を済ませてそれぞれ「自分の時間」に入ったという事だ。
ルゥテウスが藍玉堂に戻ると店舗の鎧戸は既に戸締りされていて、1階の作業場も含めた店舗スペースの照明も落とされていた。
彼がそのまま地下の錬金部屋に下りようとすると、丁度そのタイミングで地下からパテルが静かに階段を上がって来た。どうやら地下にある風呂に入っていたらしい。彼女らは隣の役場にある食堂で夕食を摂ってから、毎日風呂に入る習慣になっている。大抵の場合、3人一緒に入っているようだ。
「あっ、店主様。お帰りなさい」
夕食と入浴を済ませ、1階にある自分の部屋に戻るだけのパテルは昼間に見られる「快活さ」を失っており、まさにアトが言う「夜のアイバンバッタ」のように物静かな雰囲気で声もかなり落ちている。
「ああ。他の2人は?」
「すぐに上がって来るんじゃないでしょうか」
「そうか。今夜も中々寒いからな。頭はちゃんと乾かさないと風邪をひくぞ」
店主はパテルの頭の上で軽くひと撫でするように右手を翳すと、彼女の肩まで伸びた栗色の濡れた洗い髪はあっと言う間に乾いてしまい、パテルは驚きながら自分の髪の毛を撫でくり回す。
「あっ……ありがとうございます」
「うむ。おやすみ」
そう言って店主は階段を下りて行った。三人娘は毎朝5時前には起床して、隣の食堂で弁当を受け取ったりしながら準備をして薬材採取へ赴くのを日課にしている。この年頃の発育の為に「しっかりと眠ること」を師から言い渡されているので、彼女達は滅多に夜更かしをしない。この後も各々の部屋で今日の復習などを簡単に行ってから21時頃には就寝してしまうだろう。
店主が錬金部屋に入ると、作業台に双子が向かい合って座り……何やらお互い集中した様子で、それでいて俯いて黙ったままになっている。店主が部屋に入って来ているのに、それを全く気付く様子も見せずに「何か」に没頭している。
(ふむ……。どうやら念話の練習でもしているようだな)
折角の集中した鍛錬を中段させるのもアレと思い、店主はそのままチラの隣の椅子に座って双子の様子を見守る事にした。
そのまま30分程経過しただろうか。双子は同時に顔を上げて「はふぅ~」という感じで大きく息を吐き、チラはそのまま作業机に突っ伏した。アトは姉の隣にいつの間にか座っている店主に気付いてビクっと驚きながら
「あっ、あ、お……おかえりなさい」
と、今更ながらに挨拶を口にした。姉も「えっ!?」と顔を上げて右側に振り向き、慌てた様子で挨拶をしてくる。
「うむ。念話はどうだ?上手く出来るようになったか?」
店主が尋ねると、アトは少し考え込む顔をしながら
「声はきこえるんですけど……なにをいってるんだろう」
「わかんない……」
どうやらお互いに声は聞こえているようだが、その発音の内容まではまだ理解出来ないようだ。無理も無い……。姉弟が念話の基礎訓練を始めてからまだ1旬も経っていない。魔法ギルドで訓練を受けている者達としては、まだまだ声すら聞こえない段階だろう。ソンマ店長は訓練を始めて、相手の声が聞こえて来るようになるまで一カ月を要したと言っていた。
「もっと体内に取り込んだマナを循環させるんだ。最初の練習の時にやったように右手から左手に動かすだけで無く……他の器官……両足にも回してみろ。あとはそうだな……内臓の至る所にも……血管を通すようなイメージだ。首から下の体内の多くの器官にマナを巡らせながら練り上げる事で首から上の……頭の中がより念話制御に没入出来るはずだ」
「からだぢゅう……?」
チラが首を傾げながら尋ね返すのへ
「そうだ。臓器はまだ難しいだろうから、まずは両足に通してみろ。左手から取り込んだら右手に回すのでは無く左足……次に右足……それから右手……そこから右足に引き返してもいいし、手を合わせて左手に戻してもいいぞ。とにかくなるべく長い距離を循環させるのだ。長い距離でマナを巡らせる。そうしているうちにマナが『お前のもの』として練り研がれて行く。魔術や錬金術を使う際のマナ制御にも使える。体の外でマナをブン回すよりも、体の中に取り込んで練り上げた方が形質を整えやすいのではないかな」
「けいしつ?」
「まぁ……まだ解らんよな。意味は解らなくてもいい。とにかく体内で長いことマナを回すようにしろ。そうすればマナはお前が『つかいやすい』ものに変わっていく」
「そうなのですか。わかりました」
アトはまだよく解っていなさそうな顔で頷いた。まだ9歳の子供に理解しろというのも難しいだろう。ルゥテウスもそれ程焦ってはいない。マナを使う「本質」はこれから彼らが一生掛けて研鑽して行く事なのだから。
店主が苦笑しながら念話の練習を再び開始した双子を見守っていると、俄かに頭の中が騒がしくなり始めた。
『駄目……足から出ようとしているみたい……。一昨日まで向きはちゃんとしてたのにっ!』
どうやらサナの声だ。動顛してしまっているのか……個別念話になっておらず、彼等元難民幹部に渡されている「念話付与品」特有の、紐付けされた全体念話の形になっているようだ。
『あ、足から……?それってどういう……?』
『逆子……という事ですか?この前まで順調だと……』
サナの困惑した声に兄であり、産婦の夫であるロダルの声が重なり……ノンの声も聞こえる。恐らく、元より病院に詰めている者達だけで範囲念話を交わそうとしていて、それでも想定外の事態に遭遇して明らかに集中力が乱されているのだろう。念話の指定範囲から声が漏れて来ている……そんな感じである。
『何かあったのですか?あなた達……確か今日はロダルさんの奥さんが出産だって……』
オーデルの公爵屋敷に居るであろう……統領であるシニョルも心配そうな声で全体念話に参加してきた。
『とっ、統領様……お騒がせして申し訳ございません……分娩が始まってまだ30分しか……それなのに赤ちゃんが足から出て来てしまって……』
どうやら産婦の義妹であるサナは分娩台の横で出産に立ち会っているようだ。一方でノンとロダルは部屋の外で待っているのか……恐らく家族としてはサナとアイサが立ち合い、ノンとロダルは外で控えているのだろう。
『突然声が聞こえて来て驚いたが……大丈夫なのか?確かサクロの大病院だったな?』
イモールまで念話に入って来て、今や各人の頭の中では軽いパニック状態になっている。ルゥテウスは「やれやれ……」という感じで
『うるせぇぞお前ら。頭の中でギャンギャン騒ぐんじゃねぇ!』
と……一喝すると、頭の中は途端にシーンと静まり返ったが、やがて
『てっ、店主様っ!お助け下さいっ!』
『店主様っ!シュンがっ!シュンが大変なんですっ!』
『ルゥテウス様っ!お願いでございますっ!シュンさんを助けて下さいっ!』
「現場」に居る連中が「そういえば自分達には『最強の魔導師様』が共に居る」と俄かに思い出したようで、店主の一喝は却って次の騒ぎを呼び込んだ形だ。
『店主様っ!もう30分も足だけが出ている状態なのです!このままだと母子共に……』
サナの声は悲痛だ。いつもの冷静な錬金術師のものとは思えない。
『しょうがねぇな……俺は本来……こういう事には関わり合いたくねぇんだが……』
ルゥテウスは本来、出産は「医師の領分」と捉えている。又は助産婦やそれに類する者達によって行われるもの……という思想だ。それは「人の誕生は成り行きに任せる」という考え方であり、嘗てはサナやロダルの母であるアイサの肺病を根治させたり、今まさにシュンの胎内から赤子を取り出そうとしているオルト医師の生命を救った事もあったが、それはあくまでも「必要に駆られて」というものであり、本来は「人の運命」を軽々に変えてはならぬ……という考えを一応は持っている。
しかしその一方で、彼は「運命」という「見えない(超越した)力」で物事を片付けるという事も嫌っている。これは彼の中にある大いなる矛盾の一つで、「文明の復古」と「賢者の血脈の断絶」を同時に願っている事にも通じる。人に対して幸福や不幸を齎す行為は「神の所業」と同義である……これはルゥテウス本人が絶対に認めたく無い彼の矜持の根源に係わる事なのである。
『ノン。お前は今どこに居るんだ』
店主から伝わる声に……やや不機嫌そうな気配を感じ、ノンは先程までの切羽詰まったような感情から一気に醒めて
『は、はい……。分娩室の外にある待ち合いの椅子で……』
『ならばすぐに部屋に入って、分娩台周辺に領域を張れ。オルト先生も居るんだろうが……この際仕方ない。急げ。領域を出したら教えろ』
そのように念話でノンに命じつつ、目の前で目を閉じて念話の練習を続ける双子に対して
「ちょっと俺は出掛けてくる。すぐ戻るとは思うが……そのまま練習を続けていろ」
アトは練習を中断して机の向かいに座る店主を見上げた。彼の声に少しだけ不機嫌そうな空気を感じたのだ。
「は……はい……」
少し怯えたような顔で返事をする少年の様子を見て、店主は表情を和らげ
「すまんな。別にお前達に対して怒っているわけじゃない。気にするな」
アトの頭に手を伸ばし、軽く撫でてやると……そのタイミングでノンから念話が入って来た。
『ルゥテウス様……領域を出しました。ど、どうすれば……』
『分かった。そのままにしていろ』
「では行ってくるぞ」
双子にそう言い残して、ルゥテウスは瞬時に10000キロ以上離れているサクロ市内にある病院の一室にノンが展開した領域目掛けて瞬間移動した。サクロ総合病院は、そもそもルゥテウスが設計と施工を担当した建築物であり、病院内の隅々まで彼の脳内にマークされている。あとはノンに領域を展開して貰い、その場所を特定するだけで、それを目印に瞬時に移動が叶うのだ。
サクロ総合病院の1階奥にある分娩室の中にはオルト医師の他に看護婦が2人程詰めており、少し離れた場所でサナとアイサが分娩台に寝かされて難産の為に苦悶の表情を浮かべるシュンを見守っていたが、突然ノンが入室して来て分娩台に近付き、その場所を基点に直径5メートル程の領域を展開したので、その場に居る者達は驚いた。
特にノンの領域……薄いピンク色の光が降り注ぐ不思議な空間を初めて体験するオルト医師や看護婦達、それにアイサは突然周囲が何やら「非現実的な空間」に変貌したので声を上げて仰天する者まで居る始末だ。
「の、ノン様……どっ、どうされたのですか!?」
サナが突然の出来事にも関わらず、すぐに我に返ってノンに問い掛けるが、その相手は髪飾りを握りしめて目を閉じている。
そして……時を置かずして、その場に藍玉堂の店主が突然現れた。
「ルゥテウス様……」
ノンがやや強張った表情で問い掛けるのへ構わず、店主は分娩台の上の様子を観察して
「オルト先生。この状態で切開分娩は難しいのですか?」
サクロ総合病院を経営するオルト・ロング院長は、突然この不思議な空間に出現した藍玉堂店主の姿に驚きつつも
「てっ、店主様ですか……。そっ……そうですな……。切開を行うにも……まずはこの、出て来てしまっている足を胎内に戻す必要があるのですが……」
「なるほど。子宮口の開大が十分では無いうちに右足が出て来てしまっているのですな……だから戻そうにも戻らない。先生としても子宮口がもっと開いてくれるまで手の施しようが無いわけですか」
ルゥテウスは分娩台の様子を少し観察しただけで状況を把握した。オルト医師は驚きながら
「てっ、店主様には……そこまで判りますか。仰る通りです。足を戻そうにも戻せないのです。このままでは母子共に危ない。このまま開口を待つのも……母体が持たないかもしれない」
「分かりました。それでは……今回だけお輔けしましょう」
シュンは分娩台の上で、息む事も侭ならなくなっているようで、「うぅ……うぅ……」と小さく唸り声を出している。彼女の体力もそろそろ限界に近そうだ。
「では、これから娩出を行う。準備をしてくれ」
藍玉堂店主の言葉を聞いて、看護婦が慌ててタオルやら湯桶の位置を整える。
「いいか?一応言っておくが……これから目にする事は他言無用だ。可能であれば忘れろ」
店主は苦笑しながら右手を振る。まるでいつもの……何かしら魔導を使う彼特有の仕草である。
次の瞬間……分娩台の隣に置かれていた新生児を寝かす寝台に赤子が現れた。どうやら女の子らしい。臍帯は既に切断されているが、胎盤はどうやらまだ母体内に残っているようだ。
「よし。体を拭いてやれ。それと……すぐに胎盤が出て来るから、それはちゃんと処理してくれ。俺は帰るからな」
そう言い残して店主はその場から姿を消した。直後に寝台に寝かされた赤子が元気な声で産声を上げる。その声を聞いて人々は我に帰り……
「なっ……いっ、今のは……何が……」
オルト医師が呆然としていると、ノンが目を白黒させながらも領域を解いて
「せっ、先生……。女の子ですね。早く体を拭いてあげないと」
医師と看護婦をせっついた。
「あぁ……店主様……ありがとうございます……」
既にキャンプの薬屋に帰ってしまったルゥテウスに感謝の言葉を捧げ……そして拝むような恰好でアイサが声を上げる。本人がまだこの場に居たら「俺を拝むんじゃねぇ!」と怒られているだろう。
こうして……シュンの出産は慌しくも無事に済んだのだった。
****
ノンとサナがキャンプの藍玉堂に現れたのは、あれから小一時間程経った頃だ。2人とも疲れた様子だったが、それでもホッとしたような表情で、特にサナは義姉と彼女が産んだ「新しい姪っ子」の産後の様子に特段の異常も見られなかったので安心しているようだ。
「兄は『任務に戻る』と言い残してすぐに退出してしまったので、今夜はおっか……母が付き添うそうです。店主様……本当にありがとうございました」
改めて深々と頭を下げるサナに対して
「まぁ気にするな。ただ……俺は元々、『人の誕生』というものに魔法という『超自然技術』を介在させたくないんだ。難産の末に亡くす生命があろうと、それは……『人間の営み』の一部であると……俺は思っている」
「そうなのですね……。申し訳ございません。ルゥテウス様のお気持ちも考えずに……」
ノンも頭を下げる。主のこうした死生観のようなものを知るのは、10年彼に付き従っているノンにとっても初めての事であった。
「だからもう気にするな。そりゃ目の前であんな事になってりゃ誰だって慌てるさ」
苦笑する主の顔を見て、ノンも漸く緊張が解けた。この人は……ボヤいたり悪態を吐く事は多いが、滅多に怒る人ではないのだ。そんな主が一瞬とは言え……不機嫌な感情を露わにした事は、ノンにとって本当に久しぶりの出来事であったのだ。
「兄貴は妻と娘の顔もロクに見ないまま帰っちまったのか。どうやら相当に緊迫し始めたようだな」
ルゥテウスは、国軍を率いるロダルの身を案じてサナに尋ねた。
「はい……どうもそのようですね……。今日も慣れない馬に乗ってテトから駆け付けて来たようですし」
「南の蛮族どもも面倒臭い時期に仕掛けて来てるな。これまでに何度もやられているんだろう?懲りない奴らだな」
「そうなのですか……?私は戦争の事はよく分からないのですが」
「戦況……というか、これまでの戦いの結果としてはトーンズの圧勝だな。俺の知っている限り、これまでテトの周辺と南の境界地域で7~8回小競り合いをやっているが、トーンズ側は一人もやられていないはずだ」
「えっ……?戦争でまだ誰も死んでいないのですか?」
店主の話にノンが驚いて尋ね返す。
「俺の知っている限りはな。トーンズ軍の装備や戦術は遠距離投射に特化している。相手も弓を使う兵を一部連れて来ているようだが……射程と命中精度が桁違いだ。奴らがこちらに矢を撃ち込もうと近寄ってくる間に全員ハリネズミにされて終わるんだ。
そもそも……トーンズ側は奴らがノコノコ近付いてくるのを撃ち殺していくだけだからな。こちらから攻め込んでいるわけじゃない。奴らが懲りずに押し寄せて来るだけなんだ」
トーンズ軍によって要塞化されているテトは、工兵部隊による最先端の戦場建築技術によって南と西に対して鉄壁の防御を誇っており、更にはクロスボウの斉射戦術に特化したトーンズ軍は遮蔽物が何も無い荒野の向こうから徒士で押し寄せて来る蛮族兵を逃走不可になる距離まで引き付けた上で、次々と多段斉射していくだけの一方的な展開が続いている。
南方の大国テラキアが、何故このような稚拙な戦法を繰り返しては戦力を無駄に損失しているのかと言うと……「なんで自分達が負けているのか」が理解出来ていないからである。
トーンズ側は、テラキア軍が襲来すると……4隊に分けて装填・照準を間断無く繰り返すクロスボウ斉射によってそれを一方的に駆逐し、それに驚いて逃げるテラキア軍を徹底的に追撃して祖国に帰さないのである。
トーンズ軍には「騎馬隊」も居るのだが、その騎馬隊ですら主要武器はクロスボウだ。つまり彼等は「逃げて行く敵軍を追っかけて一人残らず撃ち殺す」為に存在しており、騎兵隊……というよりも「機動弓兵」と言った方が適切だろう。
馬という家畜の存在は非常に貴重であり……そもそも、大戦争の被害によって一度地表の植物が死滅しているこのエスター大陸おいては、天然の植物資源で畜養を賄えるような地域が非常に限定されている。
トーンズとテラキアの境界地帯に横たわる「森林地帯」と呼ばれる場所にしても、その植生は人間の背丈を少し超える程度の低木植生であり、南北サラドス大陸に繁茂するような「高さ何メートル」というような樹木は存在しない。
天然の植物資源によって家畜の保有を実現させているのは、皮肉な事に大戦争の戦禍があまり及ばなかった中央山地の中に点在する草原を巡りながら羊の遊牧を続けている赤の民くらいであろう。
故にソンマとサナの錬金術師夫婦は北サラドスのキャンプ時代に実施していた植物資源からの燃料確保を諦めて石炭錬成に力を入れたのであり、キッタとサナは更に作物の残滓からアルコールを精製する方向で燃料資源確保を目指したのである。
つまり「馬」は貴重な存在であり、前にも述べたが一般のトーンズ国民ですら馬を乗用にはしない。軍用馬として纏まった数の馬を所有しているトーンズ軍はエスター大陸においては非常に珍しい存在なのだ。
戦乱の続くエスター大陸において……牧畜を営む者も当然存在するが、その大半は限られた飼料作物を使って食肉の生産を行う者達であり、乗用を目的とした馬産を行える余裕は無い。
あくまでも車を牽かせたり、農耕に使役する目的で少数の馬が育てられるが、それらの用途ですら……本来は廃用後の食肉化を見越して牛を用いるのがエスター大陸での通念である。
よって、テラキア軍は主力……と言うよりも上級指揮官を除いてほぼ全てが歩兵で構成されており、トーンズ軍の誇る機動弓兵に追われて、何も隠れる場所の無いエスターの荒野で逃げ果せる事は非常に困難である事は想像に難くない。
テラキア側は、送り出した侵攻部隊が全く帰って来ないので敗因も解らないし、敵がどのような戦法を使っているのかも全く理解出来ていないのである。
また……情報戦においてもトーンズがテラキアを圧倒しており、テラキアが繰り出す偵察部隊も国境地帯を監視している《青の子》に残らず阻止され、更には捕えられて逆に厳しい尋問で情報を吐き出される有様だ。《青の子》はトーンズ~テラキア国境地帯をほぼ完全にコントロール下に置いている。
この状況は、近日中に《青の子》による偵察飛行船の運用が始まる事で決定的なものになるだろう。
つまり……テラキアは、「超大国」となった自分達の国力を過信しながら……「目隠し」をしているような状態で北に出現した「謎の国家」に喧嘩を売っているようなもので、当然だが一方的に「殴り返されている」と言ってもよい。
そもそも北で数年前に生まれた謎の国家の情報すら満足に得られない状態で、南方の小国を次々と併呑した自信と勢いを以ってトーンズをそれらと同一視しているのだ。
「対テラキア戦で未だにトーンズ国軍から犠牲者が出ていない」という話はノンにとっても衝撃的だったようだが……「そうなっている」要因の一つとして、藍玉堂が軍に提供している回復薬の素晴らしい効能と、その回復薬を開発した当事者であるという自覚がノンには無い。
自分が何世代目の難民なのかすら判らない彼女にとって「隣国との抗争」とは、子供の頃に聞かされた……自分達の先祖を祖国から逐いやり……海を超えた隣の大陸へ苦難の逃避行に及ばせた「恐ろしいもの」であり、10年前のあの日……店主と出会った夜に、彼の口から「難民達は故郷の大陸に還るべきだ」と聞かされた時も、彼女自身は自分達の故郷であるエスター大陸を懐かしむ感情が生まれなかった。
(なぜこの人は……あんな恐ろしい場所へ私達を帰そうとするのだろうか……)
と、寧ろ抵抗感を覚えたくらいであった。
しかし……今は違う。自分達難民同胞は故郷の大陸の片隅に街を造り……そして国を創って、大昔から愚かな抗争を繰り返す周辺の蛮族達を圧倒している……トーンズ軍は決して自国民に暴力を振るわない「同胞の守護者」として、嘗て自分達を逐いやった悪魔達を追い払っているのだ。
ノンはその感慨に浸りながら……主と出会えてよかった……と改めて自分が歩んできた10年を振り返った。
****
「よし。では今夜からは念話の練習と並行して魔術の鍛錬も始めるぞ」
向かい合いながら俯いている双子の姉弟に対して、店主は声を掛けた。2人は顔を上げて「えっ?」という表情をする。
「しかし、一概に魔術と言っても……色々とあるんでな。お前がどんな分野の魔術を得意とするのか……まずはそこから見極める必要がある」
チラの頭に手を置きながら、店主は
「そうだな……とりあえず『元素』との親和性を見てみるか」
と……右手を軽く振ると、チラの目の前に何やら彼女達には見慣れない物体が4つ出現した。
「これは……この前も見ただろう?『ヒタンタケ』という、ごく初歩的な《火》を生み出す触媒だ」
どうやら4つの物体は魔術や錬金術で必要となる「触媒」であるらしく……店主はまず並べられた4つのうち、一番右側に置かれている「干からびた傘の表面がオレンジ色のキノコ」を指差した。
「そしてこれが『オニワタゲ』だな。これも初歩的な魔術である《水》を発生させる触媒だな。そしてこっちが『カヤクモの巣』。まぁ、実際には植物繊維の一種だが蜘蛛の巣に似た形をしているだろう?こいつは《風》を起こすのに必要な触媒だ。そして最後が『トビイモ』だ。《礫》の魔術にはこの石みたいな芋を触媒とする。この4つ……というか、これによって使用出来る魔術はそれぞれ『魔法元素』というルールに影響されてだな……」
ルゥテウスはチラの前に横一列に並べられている4つの触媒を正方形の角に置かれるように並べ替えた。
「この触媒……即ち、魔法元素で言うところの《火》、《水》、《空》、《地》はこのような関係性を持っているんだ」
「ま……まほう……げんそ?」
「そうだ。お前にはちょっと難しいし、聞き慣れないかもしれないが魔法の世界には現実世界の自然科学とは別に『魔法元素』という独特の考え方がある。まぁ、お前にしてみれば自然元素すらまだ理解出来ないだろうがな」
店主は笑いながら解説を続ける。
「今も言ったが、『この世界』を魔法世界では火、水、空(気)、地という4つの元素で成り立っているとされており、この『四元素』はそれぞれが優劣を持った関係になっている」
「火は地に強く、水は火に強く、空気は水に強く、地は空気に強い。魔術の初歩では、この四元素のうちで自らが最も得意とする元素を見つけ出す事から始まる」
チラは彼女なりに店主の説明を必死になって聞いているようだが、やはりその言葉は難しいようで眉間に皺を寄せながら色々と考え込んでいるようだ。
「まぁ……今は理屈を考えるよりも実際にやってみた方がいいな。まずは《火》という元素について取り組んでみるか」
そう言うと、店主はチラの目の前に乾燥したヒタンタケを置き、その隣にロウソクを一本立てた。
「よし。これからお前はマナを目の前で纏めつつ、それを『火に変える』というイメージを描いてみろ。マナを火に変えるんだ……変えた火をこの辺り……自分の手の上に作り出すイメージだ……」
ルゥテウスがチラに言い聞かせている内容は一見すると、以前にノンに対して行った「イメージ誘導」に似ている。しかしノンの場合は彼女の体験に基いたロウソクへの直接投射を促したものであったが、魔術は投影したものを目標に向かって直接投射する事は出来ない。一度、別の場所に「火を作り出す」必要があり、作り出したものを改めて目標に向かって投射するという手順を踏まなければならない。
ノンの場合は魔素を能動的に「制御する」という手順を恐らくは必要としておらず、手近な魔素に対して「完成された結果」をイメージする事でそれを省略しているようで、ルゥテウスがノンの持つ才能に驚愕しているのは、ルゥテウス本人ですら必要としている「魔素の制御」を……元々「素養を持たない」ノンはイメージするだけで明らかに行っていない事象に対しての事なのだ。
しかしチラの持つ「魔術師としての才能」は生憎そのような、賢者ですら驚かせるものでは無く、同じように「マナを使ってイメージ投影」によるアプローチでも、そこにはしっかりと「制御」という行為が含まれており、ここがノンが操る「錬金魔導」とは決定的に違うのである。
チラはルゥテウスからの話をどこまで理解しているのか、自分自身でもよく解っていない状態で……それでも彼から言われた通りにマナの制御を開始した。彼女なりに、見えているマナを「火のかたち」にしようと何やらブツブツと独り言のようにマナに対してなのか……声を出し始めた。
「もうちょっと……もうちょっとまるく……まるくまとまって……」
この様子を5分程見守ったルゥテウスは
「ふむ。どうやら火属性では無さそうだな……」
そう呟くと、それを聞いたノンが尋ねる。
「それはどういう意味なのですか……?」
「うーん。ヒタンタケを目の前に置いた状態で、まだ形になっていないとは言え……マナ制御を試みても触媒が全く反応していないだろ?つまり『火』の属性元素に対しての親和性はそれ程高くないのだろう」
「え……?ではチラちゃんは『火』の魔法は使えないんですか?」
「いや、そういうわけじゃない。ただマナ制御の精度が低い今の段階で『火』の元素を操れないというだけだろう。自分と親和性の高い元素が見つかって、その精度を上げる鍛錬を行う事で『そうじゃない元素』に対しても制御が及ぶようになるとは……思う。まぁ、しかしまだ初日だしな。今後別の変化が現れるかもしれん」
ルゥテウスはそこまで説明してから、チラに「火」元素の制御をやめさせて、次の「水」元素の投影を試みるように指示し、「水の受け皿」としてロウソクの代わりにビーカーを置いた。
「このビーカーの真上に……これくらいの水の玉を出すイメージだ。水がもし現れたらそのままビーカーの中に落とすんだ」
「うん……」
「水の玉を作る……水の玉を作る……」
ルゥテウスが繰り返し暗示をかけるように呟き、それを耳にしながらチラは再度目の前を漂うマナに向かって「まるくなって……まるく……」と囁きかける。
チラの「詠唱」はそれからまた5分程続いたが、目の前の触媒……彼女の拳ほどの大きさがある「オニワタゲ」に、何の変化も起きなかった……と、いう事は触媒反応が起きなかったという事だ。
またしても変化が見られなかった事に、大きく溜息を吐き出した後に泣きそうな顔になったチラだが、ルゥテウスは特に気にする様子も無く
「ふむ。水もハズレか。まぁ、気にするな。次の『空』を試そう。空……というか、分かりやすく『風』と言っておこうか」
「それならばなぜ……『空』というげ、元素?の呼び方をされるのですか?」
魔法元素は当然だが、自然科学の知識にも乏しいノンが問い掛けるのへ
「お前は『なぜ風が吹く』のか考えた事があるか?」
店主がニヤニヤしながら尋ね返してきた。
「え……?風が吹く……原因ですか?」
ノンは店主から不意に浴びせられた質問を受け、眉間に皺を寄せて考え始めた。店主はその間にもチラへ指示を出す。
「よし。今度は左から右に向かって風を吹かせるように想像しながらマナを動かしてみろ。お前なりに『風よ吹け』というようなイメージだ。いいか?マナを『風に変える』ように想像するんだ」
「う、うん……」
ルゥテウスは細い紙片を折り曲げて衝立のようなものを作り、ビーカーとそれを置き換えた。風が吹けばその動きに沿って靡く仕組みだ。
「ルゥテウス様……風ってどうして吹くんですかね……?」
ノンは「風が吹く仕組み」が解らず、店主に解説を求めた。
「風が吹く……それはつまり『空気が移動している』という事なんだ」
「く……空気が……?」
「空気が『多い場所』から『少ない場所』に向かって動く……この『動いている空気』が風の正体だ」
「空気の多い場所……ですか?」
ノンは益々意味が解らず、眉間の皺は一向に消える気配が無い。
「空気はこの星の上で、様々な要因によってその『気圧』……つまり空気の量が一定では無いんだ。しかしそれでも空気は『均一な量』に戻ろうとする力が働くから今も言ったが多い場所から少ない場所に空気が流れる。それを人は『風』と呼ぶんだ」
店主の説明が終わる丁度その時……
ーーーピシッ
と、紙が鋭く叩かれる音が発ち……ノンの前髪を少しだけ揺らした。そしてチラの目の前に紙の衝立と一緒に置いてあった丸められたクモの巣もどきの網状の繊維……「カヤクモの巣」が半分程消えている。
チラが「あっ!」と声を上げ、隣に座ってサナから炭作りの説明を受けていたアトも目を丸くしている。
「ふむ……まさか初っ端から風を吹かせるとはな……」
ルゥテウスも驚きながら
「触媒の消費量はともかく……曲がりなりにも『風を吹かせる』という結果を出した。お前はどうやら『空の元素』に対して非常に高い親和性を持っているようだな。まぁ、それとお前自身の才能でもあるんだろう」
サナも驚きを隠せない様子で
「ま……まさか……今日始めてすぐに風を吹かすって……」
アトへの説明を忘れて呆然としている。
「これはそんなに凄い事なのですか……?」
魔法鍛錬についてよく判っていないノンが尋ねると
「そうだな……俺としてはチラの得意な元素が判明するのに何旬かかかると思っていた。だから今日は色々やってはいるが、どの触媒にも反応は見られないと思っていたんだ」
ルゥテウスが苦笑する。
「うーむ……始めてすぐに結果を出すか……。チラの才能は本物かもしれんな」
店主が呟くと、サナも大きく頷いていた。
【登場人物紹介】※作中で名前が判明している者のみ
ルゥテウス・ランド
主人公。15歳。黒き賢者の血脈を完全発現させた賢者。
戦時難民の国「トーンズ」の発展に力を尽くすことになる。
難民幹部からは《店主》と呼ばれ、シニョルには《青の子》とも呼ばれる。
ノン
25歳。キャンプに残った《藍玉堂》の女主人を務め、主人公の偽装上の姉となる美貌の女性。
主人公から薬学を学び極め、現在では自分の弟子にその技術を教える。
肉眼で魔素を目視する事が出来、魔導による錬成を可能とする「錬金魔導」という才能を開花させる。
サナ・リジ
25歳。ソンマの弟子で妻でもある。上級錬金術師。錬金術の修養と絡めてエネルギー工学を研究している。
最近はノンに薬学を学びながら、魔法の素養を見出された赤の民の双子の初期教育も担当する。
チラ
9歳。《赤の民》の子でアトとは一卵性双生児で彼女が姉とされる。
不思議な力を感じた最長老の相談を受けた後、サクロに連れて来られて魔術の素養を見い出されたので、弟と共に《藍玉堂》で修行を始める事となる。
アト
9歳。《赤の民》の子でチラとは一卵性双生児。彼は弟として育つ。
姉同様に術師の素養を持ち、主人公から錬金術の素養を見い出されたので姉と共にキャンプに通って来るサナの下で修行を始める。高い場所が苦手。
ロダル
39歳。トーンズ国軍を率いる将軍を務める。
アイサの次男で嘗ての暗殺組織《赤の民》にて十数年に渡って訓練を受けて新米暗殺員となっていたが、主人公に見込まれて指導を受け、キャンプの自警団、長じてトーンズ国軍の指導者となる。
シュン
31歳。ロダルの妻。旧サクロ村で生き残った5人娘の中では最年長でリーダーだった。
現在はキャンプ側に残っている藍玉堂の工場責任者だが、義兄のキッタが多忙の場合はトーンズ側の工場も管理している。ロダルとの子を妊娠しているが、臨月を迎えても色々と無茶をしている。
アイサ
60歳。キッタ、ロダル、サナの三兄妹の母。
嘗ては亡夫から感染したと思われる肺病で余命幾ばくも無かったが、少年時代の主人公に治療を受けて完治。それ以来、得意の菓子作りで難民集団に貢献する。現在はサクロの藍玉堂に住みながらトーンズ国の菓子製造販売施策を統括している。統領のシニョルとは個人的に仲が良い。