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黒き賢者の血脈  作者: うずめ
プロローグ
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プロローグ

初めての投稿になります。

誤字・脱字が多いかもしれません。ご容赦下さい。

まだ文字レイアウトが上手く調整できていない可能性があります。

使い方を覚え次第、徐々に直しますの御勘弁願います。


【作中の表記につきまして】


物語の内容を把握しやすくお読み頂けますように以下の単位を現代日本社会で採用されているものに準拠させて頂きました。

・距離や長さの表現はメートル法

・重量はキログラム法


また、時間の長さも現実世界のものとしております。

・60秒=1分 60分=1時間 24時間=1日 


但し、作中の舞台となる惑星の公転は1年=360日弱という設定にさせて頂いておりますので、作中世界の暦は以下のようになります

・6日=1週間(1旬) 5週間(5旬)=1ヶ月 12カ月=1年

・4年に1回、閏年として12月31日を導入


以上となります。また追加の設定が入ったら適宜追加させて頂きますので宜しくおねがいします。



 ―――さまへお願い申し上げます

 

 どうか―――をお護りください

 

 あらゆる悪意から

 

 あらゆる嫉妬から

 

 あらゆる災厄から

 

 ―――の魂を以って成就いたしますように



(この目の前に居る小童はどうしたか……)


 ジヨーム・ヴァルフェリウスは今初めて対面した我が子として紹介された幼児を見て明らかに狼狽していた。


自身の目論見ではこの幼児を現国王の一人娘であるシーナ王女へ婿入りさせて、将来の王配とさせるはずであった。


実現すれば建国以来唯一の世襲公爵家であるヴァルフェリウス家と王室との間で実に380年ぶりに成立する婚姻となる。


王室の藩屏たる貴族の頂点にあるヴァルフェリウス公爵家と王室。この両家の婚姻は間違いなく国内外に大きな影響を与える。


最早神話と言ってもおかしくない建国時の大功によって立てられた史上唯一の世襲公爵家が、どう言うわけか代々少子の血統であった為に両家の子女が婚姻適齢期を迎える機会を得る事が滅多に無く、これだけ有力で重要な家系であるにもかかわらず歴代の王室または王族との婚姻数は他の有力貴族家に比べ極めて少なかった。


 今から3年前、夫婦仲が睦まじいとの評判のわりに、長年子宝に恵まれなかった現国王と王妃との間に待望の女子が誕生した際、この娘は誕生直後から唯一の嫡出子として内外から注目を集め、命を落とす事の多い嬰児の段階を過ぎた頃から配偶者の選定を巡ってあちらこちらの勢力が動き始めた。


ジヨーム自身も思い立って行動を開始した一人である。


 ジヨームは6年前、自らのお手付きで行儀見習いの侍女を妊娠させ、それが発覚した直後に正妻の激しい悋気に遭って屋敷を追い出された侍女がその後実家で男子を出産した事、その際に彼女が命を落としたと言う事を側近の手による極秘調査によって報告を受けていた。


その嫉妬で怒り狂った正妻自身は新婚早々に男子を二人産んだが、老境の現在においては最早子供を産めるようなわけでも無く、またジヨームもあの時に醜い悋気で何の保障も与えず侍女を放逐した初老の女と添い寝する気も起きなかった。


あのすっきりとした長身で物静かな、町民出身とは思えないような気品を持っていた侍女……アリシアは暇を出される瞬間も怒りの感情を見せる事なく、口元に寂しげな笑みだけを浮かべて屋敷から去った。


決して何か見返りを求める事も無く。


そして彼女の父ローレンもその後何事か訴える事も無いまま実家に娘を引き取って沈黙を貫いた。


 「王女が健やかに成長する兆し有り」と見たジヨームはアリシアの産んだ男子の存在を思い出し、これを遅まきながら迎え入れて公爵家より久しぶりに王室へ送り込む為、正妻とその実家であるノルト伯爵家への説得を開始した。


不当な仕打ちによって屋敷から追い出してしまった幸薄き女に対する贖罪の気持ちもあり、滅多に自己主張をしないジヨームは次男と20も歳の離れた庶子の認知に奔走したのである。


 正妻のエルダは予想に反してすんなりとジヨームの説得を受け入れた。


母親が既に故人であり、遺された息子も迎え入れてそのまま王室に送り込むのであれば、自分が生んだ二人の息子の立場を脅かされる事もない。


将来、王配となったその子に息子二人が頭を下げないといけなくなるのは業腹だが、それでも王族と近親で縁戚となるのは息子たちにとっても実家にとっても悪くないだろうと言う打算が働いたと見える。


ジヨームは一番の難関と思われた正妻の説得を成功させ、万難を排してこの日の対面を迎えた。


ちなみに26歳の長男と25歳の次男は既に婚礼を済ませており、

家督を継ぐ長男はともかく次男も婚姻先であるマーズ子爵家側の判断如何では子爵家の家督を継げるかもしれない。


 その幼児は美しかった侍女アリシアの面影を色濃く受け継いでいるように見えた。透き通るような白い肌に秋の夕暮れ時に見る小麦畑を思わせる金色の髪とやや赤みのかかった茶色、いわゆる鳶色(とびいろ)の瞳はいつも静かに微笑んでいた彼女と同じものだ。


目元と鼻筋も記憶に残っている彼女に驚く程そっくりである。


しかし、幼児の瞳は左目だけで右目は……瞼が閉じられていた。


そしてその表情はと言うと、初めて対面した自分の事などそこに居ないかのような表情で口をポカンと開けていた。


 ジヨームは《ルゥテウス》と名付けられた我が子の名を何度か呼びかけてみたが、その表情は変わる事なく無反応であった。


……もしや耳も聞こえないのであろうか。


「この小童は耳が聞こえないのか?」


「いえ、決してそのような事はございません」


 ルゥテウスの右手を引いて隣に立つ彼の祖父ローレンはこれまた押し殺したような無表情のままにジヨームの下問に対して答えた。


その目からは自分に対する好意的な感情など見られない。


「しかしいくら呼んでも返事すらしないではないか」


「そのようございますな。まぁ……この子はこう言うところがございまして……」


「ふむ……で、この開かない右目はどうなっておるのだ?」


 ジヨームはルゥテウスの前に膝を落として屈み込み、手づから幼児の右目の瞼を開いてみようと手を伸ばした。


しかし幼児は伸ばされたジヨームの手に対して緩慢ながら反応し、父の手を空いている左手で払った。


そして開いている左目の視線がやや不快そうな感情を見せて父の顔に向けられた。


この間、この幼児の口からは一言も声は発せられていない。


 ジヨームはそんな幼児の仕草に顔をしかめつつ立ち上がり、軽く湧き上がった不快感を幼児の祖父に向けた。


「どうなっておるのだ?なぜ右目を開けないのだ」


「恐れながら……この子の右目は(めしい)ております。生まれつきでございます」


「なんと……生まれながらに見えないと申すのか」


「はい……あの日、予想日をとうに過ぎても陣痛の兆しすら見せなかった娘でしたが、私めが階下で商いを続けている間に誰に告げる事もなく独りでひっそりとこの子を産み落としたのでございます。


私が食事の合間に様子を見る為に部屋に上がると、泣き声すら上げる事も無く眠るこの子と、隣に横たわる血溜まりの中で既に事切れた娘の姿があったのでございます。


数日して開いたのは左目だけでございました。右目には瞳の()()()()ございません。この子の右目には光がございませぬ」


「盲ている上に瞳すら持たぬこの子の右目は好奇の目に晒され、それ故か瞼の中を覗かれるのを極端に厭がるようになったのでございます」


 当時の光景を思い出したのか、もの悲しそうな顔でローレンは答えた。


本来であれば公爵閣下の御前である為、孫と手など繋がずに直立の姿勢をとるべきなのだろうが孫が手を放すのを厭がった。


孫と共にこの屋敷の門をくぐってから()が見せた感情的な反応は、この手を放すのを拒んだ事と自身の右目に伸ばそうとした父の手を払って睨み付けた事のみである。


「むぅ……これでは……これではとてもじゃないが使()()()()ではないか。せっかくここまでやってきて肝心のこやつが……これでは……」


 ジヨームは両手で自らの頭を鷲掴みに抱えながら大きく呻いた。


今では仲も冷め切っている正妻エルダやその親戚筋に対して必死に今回の婚姻の重要性を説き、宮内卿を始めとする宮廷閥の連中にまで頭を下げ回ってきた事が、今この瞬間水泡に帰したのである。


この運動で個人の資産から少なくない出費をした事も全てが無駄となる。


ここまで1年以上もかけてきた結果が、今目の前で呆けている隻眼の小童なのだ。


 不意にジヨームは声を荒げた。


あまりの事態に頭の中が飽和してしまい感情が制御出来なくなったのである。


「もうよい!退がれっ!さっさとその役立たずを連れて行けっ!これ以上見たくもないわっ!」


 右手を大きく払いつつ二人に背を向けたジヨームに対して、悲しみと怒りに肩を震わせながらローレンは辛うじて自分を抑えて静かに言った。


「かしこまりました……かくなる上は二度と御目にかかる事もございますまい。失礼致します」


 「役立たず」と怒りをぶつけられても全く感情を動かさない孫の手を引いたまま、ローレンは領都オーデルにある公爵家の屋敷を後にした。


 いくら大貴族の領主とは言え、娘を弄ばれ勝手な都合で屋敷を逐われたあの時もローレンは怒りで我を忘れそうになったが、娘を送り届けてきた公爵屋敷の者の冷酷そうな顔の手前、怒りを必死に抑えた。


無力な薬屋店主である自分や妻、そして身重になって帰ってきた娘に、公爵……特に正妻の手の者がどのような危害を加えてくるのか想像だに恐ろしかったのだ。


 娘は失意こそ表に出さなかったが、妊娠初期の不安定期に領都から実家のあるダイレムまで5日間も長距離馬車に揺られた事で体調を崩し、辛うじて回復した頃には既に堕胎する事も(ママ)ならなくなっていた。


娘が表に出さない悲嘆とその境遇に母であるローレンの妻ミムは精神的にも肉体的にも参ってしまい、娘の帰郷から半年後に孫の顔を見る事なくこの世を去った。


更に数ヵ月後、独りで孫を産み落とした娘も他界したのである。


 ローレンは孫の手を引き、このヴァルフェリウス公爵領最大の街であるオーデルの中心街から長距離馬車に乗り込み、公爵領南西にある港町ダイレムへ帰る事にした。


ここに呼ばれた時は公爵屋敷から馬車が迎えに来た。あの6年前に娘を送り返してきた忌々しい乗り物だ。


実は帰りも公爵家より馬車にてダイレムまで送り届けると家宰らしき男性からの申し出があったのだが、ローレンはあえてそれを無視する事で怒りと失望を表した。


この不遜な態度に公爵家側から何かしらの制裁を受けても構わないと覚悟していたが、流石にそこまで無恥では無かったようである。


祖父と孫はあっさりと屋敷の門を出る事が出来た。


最早二度とここを訪れる事もあるまい。公爵屋敷どころか、この街にすら二度と来るまいと思った。


娘を奪い、勝手な都合で逐い出した街。娘と妻を苦しめ命を縮めさせた《邪悪な者(大貴族)》が住む街。


 孫の手を引いて馬車乗り場を目指しながら不意にローレンは……なぜ娘は独りでこの子を産み落としたのかと当時の娘の境遇に思いを馳せながら領都の空を斜めに見上げた。


あの頃は出産が近いと思われた日から何度も町の産婆に診てもらっていた。


元々が非常に物静かな性分であり、あれだけの苦難に晒されても娘は非常に落ち着いていたので、産婆もこれなら多少遅れているようだが経過もそれ程悪くないと言っていた。


親である自分の目から見て、娘は何かに挑もうとしているようにすら思えた。自身の悲しい境遇など最期まで微塵も感じさせなかった。


まるで公爵家に、そして自らの運命にすら挑みかかるように……。

抗うのではなく、挑むかのように……。


 しかし……あの日娘は逝ってしまった。慌てて連れて来た産婆は血溜まりの中に横たわる母体を見て、突発的な分娩が始まり父親に助けを求めるまでもなく産み落ちてしまい、臍帯(へそのお)は母親が自ら噛み切ったのではないかと、あまりの壮絶な光景を前に泣きながら言っていた。


それでも残された赤子は殆ど声を上げる事無くただ眠っていた。もし彼女が、公爵家や自らの運命に挑む事を期していたとしたら……彼女は死に逝く自らをどう見ていたのだろうか。自ら臍帯まで噛み切って遺した赤子がこのような障害を抱えて生きて行く事も知らずに……。


それでもローレンは血だまりの中に横たわる娘の美しい死顔に何か誇らしげな笑みさえ見て取れた。


彼が何があっても赤子を守って行こうと決意したのは、まさにこの瞬間であった。


 寝台の横にあるスツールの上には娘の文字で


「男の子ならルゥテウス 女の子ならエミーネ」


と書かれた紙切れが置かれていた。名付けの由来は分からないが、これが彼女の「遺書」のようなものだ。


父は娘の遺志に従い赤子には《ルゥテウス》と名付けた。


ルゥテウスはその誕生の経緯から、近所の人々に愛されて育った。


右目が見えず更に魯鈍な様子を見せたが、それは一層彼らの同情を引いた。ローレンは彼らの手を借りながらもたった一人残された孫を薬屋の経営を続けながら男手一つで育てたのだ。


 だからこそ娘同様再び有無を言わせず引っ立てられるように領都まで連れ出した挙句、「役立たず」と声を荒げて罵った公爵が許せなかった。


ローレンはダイレムへと向かう長距離馬車の中で何度もそれを思い出しては隣に座る孫を怖がらせないようにと怒りを懸命に抑え続けた。


相手が相手だけに報復はおろか批判すら出来ないと言うやるせ無さはローレンの若くない肉体と精神に大きなストレスを与え続けたのである。


 道中4つの宿駅に泊まりながら予定通りに5日後、長距離馬車はダイレムの中心街にある長距離馬車乗り場に到着し、祖父と孫は約半月ぶりに我が町へと帰ってきた。


そのまま下町にある自宅へ向かって歩き始める。


ここ数日、雨が降らなかったせいか海からこの季節になると吹いてくる潮風が石畳の埃を巻き上げていた。


****


 馬車乗り場からしばらく歩くと、この港町の中でも一際大きな四階建ての建物が見えてくる。


この港町で最も大きいとされる《ガルロ商会》の本館だ。


この大商会を率いるジノ・ガルロこそがローレン一家にとっては全ての元凶であった。


ローレンは建物の正面入口の前でペッと唾を吐いた。


 250年の歴史を持つと言うガルロ商会は近年のダイレムの発展と共に商圏を拡大してきた老舗だ。


商会の11代目頭取であるジノ・ガルロは地元ダイレムのみならず領都オーデル、更には王国の首都であるレイドスへ本格的な進出を果たそうと、更には公爵家の政商となるべく一計を案じた。


 ジノは公爵とその若くない正妻との仲が完全に冷え切っている事、それでも公爵が正妻とその縁戚に遠慮してか側室を持たないと言う情報を掴み、彼に愛妾と成り得る美女を献上して知己を得ようとしたのである。


公爵が正妻を同伴して毎年二度回って来る領内巡回がダイレムまでやって来る機会を狙い、町の中心街にまでその評判が広がっていた下町の薬屋の娘、アリシア・ランドに納入予定の薬品を商会まで届けさせて、接待中のジヨームの目に止まらせたのだ。


ジノの目論見は当たり、ジヨームは一目でアリシアを見初めた。


ジノはジヨームに娘を屋敷へ行儀見習いと言う形で上げる事が出来ると囁き、その場に同席していた正妻をも出し抜いてジヨームの許諾を取り付けた。


付近の地域巡回を続けるジヨーム一行がダイレムを去って数日後、ローレンの薬屋を訪れたジノはジヨームの署名がされていると言う《出仕命令書》と書かれた紙切れ一枚を見せながら


「公爵様の奥方様がお嬢さんを大層気に入り、身の回りの世話を頼みたいとの仰せです。お嬢さんをオーデルのお屋敷に《行儀見習い》として上がらせろとのご命令なんですよ。

ここは堪えてもらえませんでしょうかね。今後は私も色々と商売の事で便宜を図りますので」


と……親娘の返答もろくに聞かぬまま、アリシアを迎えに来たと言う公爵屋敷の馬車に詰め込んで領都へ連れ去ってしまった。


ローレンはジノに激しく抗議したが、公爵夫妻からの下命である事、今後は冒険者ギルドへの薬品納入に便宜を図ると言われ、抵抗すら出来ぬまま泣く泣く娘を送り出すしかなかったのである。


 娘を連れ去られて途方に暮れていたローレン夫妻はその夜、自分も数日前に実際に会って挨拶を交わした公爵と、その際その場に居たのに全く声を聞く事も無かった正妻に対するあれこれと聞いた評判を口にしながら不安な気持ちをお互い吐露し合ったのだが、どこかに訴える事も出来るはずもなく意気消沈としながら娘の今後の幸福を神に祈った。


 それなのに……。


****


 アリシアはいつも店番だけで納品は全て自分の仕事であった。その前日、商会の当主と言う多忙なはずの身でジノは初めて自ら《藍滴堂》までやって来た。


商会の建物では何度か顔を合わせていたが、あの日に限ってあのガルロ商会の頭取であるジノ・ガルロがわざわざやって来たのだ。


そして以前の注文で納品日が翌日となっていた箱詰めの薬をどう言うわけかアリシアに持って来て欲しいと申し出てきた。


それ程威圧的でもなく気軽な口調で


「この際お嬢さんにも建物の中を案内しておきたいのですよ」


などと言いながら。


「まぁ、ほら。今後ウチとお宅との付き合いもありますしね。今からでもお嬢さんにウチの店との取引に慣れて欲しいのですよ。はっはっは」


 今後の取引と言う話を持ち出されたら断るに断れない。別段ジノ自身アリシアをいやらしい目線で見ているわけでもなし。その態度は極めてビジネスライクなものである印象だ。


最近の港町では一番羽振りが良く、今後は大口の取引先になるかもしれない大商会の、しかも当主がわざわざ自分で足を運んで来て申し入れているのである。


ここは多少不安だが娘を行かせておくのもいいかと。いくらなんでもそんな無茶はしないだろうとローレンは考えた。


 結局翌日の納品にローレンも同行した。と言うよりもローレンが娘を連れて行く恰好だ。


やはり娘一人をいきなり行かせるわけにもいかない。


自分で言うのも何だが我が娘ながらアリシアは近所でも評判の美しさだ。


下町を歩いていれば、その長身と言う事もあってアリシアを初めて見てすれ違う十人が十人男女問わず振り向くくらいだ。


向かいの食堂のネイラ婆さんは


「アリシアちゃんは本当に綺麗になったわねぇ。これなら貴族様のところにだって嫁に出せるんじゃないの?」


などと最近は会うたびに娘について軽口を叩いていた。


そういえば娘も今年で18になる。


そろそろ好きな男でも出来て結婚話でもしてきておかしくない年齢なのだが、娘はどう言うわけか父の薬効研究を手伝う事へ夢中になっている。


どこかに嫁に行くのではなく藍滴堂を継ぐ気なのか。その気持ちは嬉しいのだが娘の幸せを考えると、それもちょっと心配だなとローレンはこの頃考えていたくらいである。


 納品自体は特に何事も無くあっさりと終わった。品物を渡し、納品書の写しを受け取る。代金は月末にまとめて支払ってもらう契約だ。


それ程大量でもない、たかが総額で金貨数枚の低級薬の納品に商会主であるジノが直々に出て来た事へローレンは多少の嫌な引っ掛かりを覚えたが、ジノはローレンが同行してきた事に対して別段何の屈託を見せる事もなく、かと言って彼の後ろで今日は一応《よそ行き》の服を着て控えているアリシアを見て、それ程大喜びで歓迎している風でも無く気軽な口調で申し出てきた。


「お嬢さん、それではついでにウチの建物の中を少しだけ案内しますよ。これから何度も来てもらう事になるでしょうしね。

来るたびに迷子になられても困りますし。一応、入って良い所とご遠慮願いたい所くらいは知っておいてもらわんと。はっはっは」


 わざとらしい笑いを交えながら尤もな事を言い、ジノは父娘について来るよう促して先を歩き始めた。


それに続く父娘。四階建ての広い建物の二階に上がり、色々歩き回りながら時折扉は開けて


「ここは商談で使う応接室です」

「ここも応接に使う部屋ですな」

「ここもです。全部で四部屋ですかな」

「ここは伝票を振り分ける部屋です。普段は外部の方々の入室はご遠慮願いたいのでご注意を」


等と、商会主自らが案内しながら階段を上がって行く。


ローレンもこれまで何度か取引で来ているから分かっているつもりだが、ガルロ商会本館で外部の人間が納品や取引で出入りするのはせいぜい二階部分までだ。


一階には納品渡し口と伝票受取りカウンターがあり、通常の納品はそこだけ済む。商談の際は今案内された二階に何部屋かある応接室を使う。


ジノが今言った通り、二階には応接室の他には商会の業務作業の部屋しか無く、その辺りは既に外部の人間が立ち入れる場所では無いはずだ。


 そして商会主に連れられて父娘は三階にまで上がって来た。ローレン自身、ガルロ商会本館の三階に上ったのは初めてだ。


ガルロ商会とは、まだこの商会がダイレムの中でも中堅だった先々代の頭取の頃からの付き合いだ。


その頃はまだ港町の中堅商会らしく、もう少し波止場寄りの場所にそこそこ中規模で二階建ての旧本館が建っていた。


それが頭取が当代になってから商況が急速に上昇し、いつの間にかこんな一等地に巨大な新本館が竣工したのが三年前。


頭取就任から僅か10年足らずで商会を中堅から一気にトップにまで押し上げた30前の若き敏腕商会主が、こんな下町のしがない薬屋を営む父娘を自ら、しかも外部の人間が普段絶対に立ち入る事の無い三階に上げるとは。


 ローレンは多少不安を覚えた。


(娘を一人で行かせなくてよかった。この男はなぜ自分達をこんな場所にまで連れて来ているのか。見た所当人に何か他意があるようには感じない。そこがおかしいのだ。今の状況は明らかにおかしい。自分たちはただ約束の薬を納めに来ただけだったのだ。


昨日店に来た時も建物内を案内するとは言ってはいたが、普通それは取引相手が出入り出来得る範囲での話だろう。

それが当主自らが、機密第一であろう大商会の中枢に近い場所まで案内するとは……。

この男は自分達をどこに連れて行こうとしているのか?)


 ローレンは色々と思案を巡らせながら首だけ振り返って左斜め後ろを歩いている娘の顔を見た。


アリシアは振り返った父に軽く目線を映しながら表情を消して歩いていた。


あくまでもビジネスに徹するような態度だ。彼女は商会の建物に入ってから一切言葉を発していない。


今日はあくまでも父についてこの町で一番大きな、今後藍滴堂にとって非常に重要な取引先になるであろう大口顧客への対応を学ぼうと思って来ているだけであった。


納品のやり方も場所も覚えたし、二階には四部屋も応接室がある事も聞いた。


入ってはならない場所も聞いたし、後は何か気を付けなければならない事があるのかしっかりと覚えておかなければならない。


アリシア自身は本館の三階に外部の人間が上る事すらありえないと言う事情を知らなかった。


ただひたすら余計な事を考えず、父の後ろを歩いて何か教われば忘れないように覚えておけばいいのだと思っているだけだ。


(大丈夫よお父さん。ちゃんと後についてきているから)


ローレンの心配そうな表情を余所にアリシアはなるべく音を発てず静かに先頭を歩くジノ・ガルロ頭取とそれに続く父親の後を歩いた。


 やがてジノは他の部屋とは明らかに様子の違う大きな両開きの扉の前に二人を連れて来ていた。


「ここが特別応接室です。まぁ滅多に使わないんですがね。貴族様がいらした時だけ使います。流石に二階のあんな狭い部屋へご案内するわけにもいきませんからね」


「ほぅ……なるほど。やはりこれだけ大きな商会ともなりますと商いのお相手が貴族様でいらっしゃる事もあるでしょうなぁ……」


尤もな説明をするジノに多少感心しながら、ローレンは自分には一生縁の無いであろう、特別応接室なる部屋の大きな両開きの扉をしげしげと眺めた。


「まぁ、しかし実はその貴族様がこの町にいらしておりましてね。ご領主様が秋の領地巡回でダイレム周辺を回っていらっしゃるのですよ。

そして今回の御巡回では勿体なくもこのガルロ商会本館にご滞在頂く事になりましてな。

前回の御巡回ではまだこいつは完成してませんでしたから。今回はお泊り頂けると聞いて、貴賓室まで拵えていた甲斐がありましたよ」


ジノは少し声を落としながらも誇らしげに説明した。


(そう言えばもう秋の巡回の季節で今年は南西地域の番だったか。なるほど。今年はここを滞在先にするのか。

まぁダイレムみたいな田舎の港町にはご領主様がお泊り出来るような大きな旅館は無いからな。

毎回大きい商会が持ち回りで場所を提供してると言う話をどこかで聞いた事があったな)


「せっかくですから、部屋をお見せしますよ。この部屋もご領主様をお迎えしてようやく使う事が出来るのですからね。

準備も万全にしましたし、飾り付けの方も気を遣わせて頂きましたよ。はっはっは」


ジノは少し自慢げに言うと、特別応接室の両開き扉の右扉のノブに手をかけ手前に引いた。


扉はかなり厚い造りで、一体この扉だけでいくらするのかと下町の小市民が考えるであろう感想を浮かべつつローレンは開かれる扉を眺めていた。


 扉を開けて中に入ろうとしたジノが突然驚いたように「あっ」と声を上げた。


扉を開けたままの姿勢で動かなくなっている。

ほんの数秒だったか、ジノは己を取り戻したかのような仕草を見せて部屋の中に向かって声を放った。


「閣下。大変失礼致しました。既にご到着でいらっしゃいましたとは。誠に申し訳ございません。

ご到着は午後になるとお伺い致しておりましたものですから……。午前中に所用を済ませてお待ちするつもりでございました。不調法と不手際をお詫び申し上げます」


 特別応接室の中にある重厚で十人は座れるであろう大きな楕円テーブルの上座に当たる位置には既に到着していた主賓である、ジヨーム・ヴァルフェリウス公爵と、その右隣には巡回に同行してきた正妻であるエルダ・ノルト=ヴァルフェリウス夫人が座り、いわゆる「御付きの方々」だと思われる男女四人が奥の壁際に並び立っていた。


ジノが無遠慮に開けた扉のすぐ内側には公爵の護衛官とガルロ商会でジノの頭取秘書を務める初老の男性が並んで控えるように立っていた。


護衛官と頭取秘書は部屋の中側で扉を守るように立っていたのだが、背後でジノが不意に扉を開けたので立ちはだかるような形になってしまったのだろう。


分厚い扉のせいで廊下で会話をしていたジノとローレンの声が聞こえなかったのか。

ジノが開けた右扉側に立っていた頭取秘書が慌ててジノの前から移動し、中に入れるように場所を空けた。


「うん?そうであったのか?そのような事は聞いておらなんだがな。なるほど、こちらも気を遣わせて済まなかったな」


部屋の中から低い響きで声が聞こえた。


 頭取が随分と改まった態度で話している事から、ローレンは部屋の中の様子は分からなかったが今しがた彼が話題にしていた、領主であるヴァルフェリウス公爵が既に到着している事を察した。


公爵家が今の代に替わり随分と月日が経っていたが、彼は領主の顔を見た事が無かった。このような田舎町の、それも下町に住んでいる自分に領主の顔を見る機会などあるわけがない。


 そもそもローレン自身、これまでの人生でダイレムの外に出た記憶など数える程しかない。


せいぜい、薬剤の材料を採取しに郊外の丘や南にあるロセロ村まで赴く事は何度かあったが、それらの行動範囲を超えるような長距離の移動など全くと言っていいくらいに無かった。


 人生で初めて聞く領主の低い声にローレンは緊張した。自分と娘は今この場所にいるべきでは無いと瞬時に判断し


「頭取、ワシらここで失礼しますよ。大切なお客様に失礼があっては申し訳ない。今日は色々案内してくれて感謝しとります」


そう言って後ろに立つアリシアを促してローレンは退散する事にした。


しかしここで、ジノが信じられない事を言った。


「あぁ、ランドさんもお嬢さんもお待ち下さい。せっかくですからご領主様にご挨拶なさっては?このままお帰りになったら却ってご無礼になりませんか?」


ジノの言い分はそれ程おかしな事では無い。


扉越しとはいえ、領主が近くにいるのに何も挨拶せずに立ち去っては確かに無礼な気がする。


しかし、しがない下町の薬屋店主とその娘が、このような場でわざわざ領主に声を掛けてもいいのか。


何か非常に憚れる気がするとローレンは感じた。


 ローレンがどうしていいのかその場で狼狽(うろた)えていると、ジノはさっさと両開きの左側の扉も開け放った。

両開きの扉が二枚とも開け放たれるとローレンの立つ位置からも室内の様子が見て取れた。


部屋の中に置かれた大きなテーブルの一番奥側、真正面の位置に領主と思わしき身なりの良い壮年の男と、右隣に薄いヴェールの様なものを被った薄紫色のドレスを着てあちこちに宝石を身に着けている自分と同年輩に見える女性が座っていた。


恐らく領主とその奥方だろうとローレンは見当を付けた。


「閣下、お寛ぎのところを重ねて申し訳ございませぬ。こちらはこの町で腕の良い薬剤師をしておりますランド殿でございます。そして後ろに控えるのは御令嬢のアリシア嬢でございます。


先程来、彼らと商談がございまして。そのついでにこの建物の中を案内していたところでした。御一行様方はまた御到着されないと思っておりまして……はい。

せっかくですからお帰りになる前に閣下と奥方様にご挨拶頂きたく引き留めてしまいました。……お時間を頂けますでしょうか?」


予想外の事態に不自然なまでに滑らかに回る舌でジノはローレン父娘を公爵夫妻に紹介した。


そして父娘に部屋の中へ入るように促し、公爵夫妻からよく見える位置にローレンの腕を引いて立たせた。ローレンの後ろからアリシアも静かに入って来る。


「こっ、これは……お寛ぎのところ、お目を汚して申し訳ございませぬ……。

私は薬店をやらせて頂いておりますランド……ローレン・ランドと申します。

後ろに控えるは娘のアリシアでございます。

我らは礼儀知らずの田舎者。このような恰好でのご無礼をお許し下さりますよう」


ジノに最前列まで引っ張り出されたローレンは緊張のあまり震えながら深々と頭を下げて公爵夫妻に挨拶をした。


礼儀作法などまるでわからない。今までそのようなものは必要無かったのだ。


ローレンが俯いたまま立ち尽くしていると、その横に並んだ娘が改めて挨拶をした。


「薬剤師ローレン・ランドの娘でありますアリシアと申します。本日はこのような姿ではございますが、ご無礼をお許し下さい」


アリシアは短く挨拶を述べて深々と頭を下げると、そのまま一歩後ろに下がって控えるように立ち直した。


アリシアの姿を見たジヨームは少し身じろぎをしたように見えた。

緊張していたローレンにはジヨームの背後にある窓から差し込む昼の光が逆光となり、その表情はよく見えなかった。


「そうか。薬剤師とな。儂も近頃は時折体調がすぐれぬ時があるのでな。薬には世話になっておる。そうか、ご苦労な事だな。そう緊張せずもっと寛いでくれ」


ジヨームは父子に優しく声をかけてきた。横に座っているエルダは不機嫌なのか、それとも疲れているのか。何も言葉を発しない。


「そっ、それではこれで失礼申し上げまする。ご領主様にこれ以上お時間を取らせてしまっては申し訳がございませぬ」


ローレンはもう一度深々と頭を下げて、頭を上げると傍らに居たジノに話しかけた。


「それでは頭取。今度こそ失礼致しますぞ。今日はご領主様にお引き合わせ下さり感謝致します」


そう言うと再度小さく頭を下げて部屋から出た。


アリシアも続けてギヨームに向かい「失礼致します」と深々と頭を下げて後から続いた。


 ジノはそのまま部屋に残り、両開きの分厚い扉が重たい音を発てつつ静かに閉められ、廊下に出た父娘を頭取秘書である初老の眼鏡をかけた痩せ型の男性がそのまま出口まで案内した。


「忙しいのにお手数を掛けてすみませんでしたな。頭取に改めて宜しくお伝え下され」


「ええ。お伝え致します。ご苦労様でした」


ちょっと神経質そうに見えた初老の頭取秘書は、以外にも丁寧な応対で父娘を送り出してくれた。


頭取秘書が建物の中に姿を消すと、入口の前に立ち尽くしていた父娘は揃って大きく息を吐いた。


「いやいや。まさか領主様が居るとはのう。驚いたわえ」


「そうね。あんな偉い人なんか初めて見たから緊張しちゃったわ。いきなりだったし」


二人は思い思いの感想を口にしながら自宅に向かって歩き始めた。来る時は商品の箱を持っていたが帰りは手ぶらだ。


今日は瓶に入った水薬が幾つか入っていたので荷物は結構重く、それを考えると二人で来たのは正解だったのかもしれない。


「しかし何だな。窓の光が眩しすぎて肝心のお顔がはっきりとは見えなかったよ」


「そう?私の立っていた位置からは何となく見えたかな。お辞儀して顔を上げたら目が合っちゃった。失礼にならなきゃいいけど」


「そうか。奥方様はずっと喋らなかったな。ちっとも動かなかったし。人形かと思ったが最後に少しだけ顔が動いていたな」


などと他愛もない事を二人で話しながら、父娘は町の中心から少し南側を海に向かって横に切り裂くように流れるリズ川にかかるテンス大橋を渡り、15分程歩いて父娘は帰宅したのである……


この後、商会本館で父娘の運命を暗転させる謀議が開かれる事も知らずに。


****


結果として娘の……ひいては妻の命をも奪う事になったケダモノ貴族の片棒を担いだジノに対して、内心激しい怒りを抱えたままローレンは孫の手を引いて自宅のある下町まで、孫の歩く速度に注意しながら石畳の道に歩を進める。


ジノが娘の悲劇にどれだけ加担していたのかローレン自身は事情を知らない。


しかしあの日、奴が薬の納品を強引に娘に頼んでこなければ……。


あいつはきっと何か企んでいた。


あれだけ大きな商会の当主が下町の薬屋にわざわざ自分からやってくるなど明らかにおかしいではないか。


(あんな薄い紙っぺら一枚で娘をさらって行きよって……!)


あの憎っくきジヨームはもう数百キロ彼方の存在だが、この町にはジノ・ガルロと言う共犯者が居る……。


本当ならば自分の命と刺し違えてもジノを八つ裂きにしたいのだが、そうなると残される幼い孫が不憫でならない。ローレンの激しい怒りを抑え込んでいるのはその一念だけである。


 二人はやがてテンス大橋を越えて下町に入った。あと数分もすればようやく我が家に戻れる。


強引に連れ出された時に遠巻きで馬車を囲みつつ不安な目で見ていた近所の人々に、今回の件について話してしまうと勢い余って公爵家への誹謗中傷に繋がってしまいそうなので、どう誤魔化そうかと考えながら歩くローレン。


領都からの帰り道、ずっと怖い顔をしている祖父を不安そうに見上げるルゥテウスの視線に気付いたローレンは立ち止まって自分の顔が孫の顔と同じ高さになるよう屈み込み、無理に笑顔を作ってゆっくりと話しかけた。


「どうした。そんな顔するな。これからもお祖父ちゃんと一緒じゃ。大丈夫じゃよ。お前はなーんも気にしないでいい。今度、町の外まで一緒に薬草を摘みに行こうな」


「うん。おじぃ。わかった」


孫がようやく口をきいてくれた。


普段は滅多に喋らないこの子は自分が生まれた境遇が……母の最期の事が解っているのか。

その開かれた左目から不安が消えて多少の喜びの色が見えた時、ローレンは余計に悲しくなった。


目元から流れそうになる涙を見せまいと急いで立ち上がろうとした瞬間、ローレンは突然激しい胸の痛みに襲われた。


(ううッ!いかん……この子を……この子を独りで残していく事なんぞ出来ん……!)


 必死に胸を押えて痛みと戦いながらローレンは呻いた。ここ数ヵ月、頻繁に胸が刺し込むように痛み、息が出来ない事がしばしばあったが、更にここ数日の間に怒りを堪えて溜め込んできたツケが回ってきたのか。


今ここで死ぬわけにはいかないと思いつつも胸の激痛は益々ひどくなる。

やがて意識が遠のくその視界の中に、残されるであろう不憫な孫の顔が映った。

驚いた表情を見せて


「おじぃ!おじぃ!」


と言う声が聞こえてくる。そしてその声が段々と小さくなり……。


(ワシは娘どころか孫すら守ってやれないのか……。何と言う無能さだ……。ワシの人生は負けっぱなしではないか……)


ローレンはうつ伏せに倒れ、その場で息絶えた。


片目を盲た幼い孫をただ独り残して……。

【登場人物紹介】※作中で名前が判明している者のみ


ルゥテウス・ランド

主人公。5歳。右目が不自由な幼児。


ローレン・ランド

主人公の祖父。港町ダイレムの下町で薬屋《藍滴堂》を経営。


ジヨーム・ヴァルフェリウス

第107代ヴァルフェリウス公爵。主人公の実父。


エルダ・ノルト=ヴァルフェリウス

ジヨームの正妻。


ジノ・ガルロ

ガルロ商会11代目頭取。


アリシア・ランド

主人公の母。故人。ローレンの一人娘で《藍滴堂》の看板娘。


ミム・ランド

主人公の祖母。故人。ローレンの妻。


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