総合評価B クッキーは世界を救う!
作品名 クッキーは世界を救う!
作者様 神野咲音
評価コース 【有償】辛口
キャラクター造形力 B
―風の国の登場人物
メインキャラ
シャイラ 案内役の女の子 この子視点で物語が進む。快活な様子がとてもよく表現できている。魔物が気にする何かを持っている。
フィスク 傭兵に置き去りにされた精霊の子である男の子 口数は少ない。→序章で空から落ちた精霊。登場するキャラクターの中で唯一回想と見せ場があり読み手の興味を集めている。
サブキャラ
コーニ 診療所で働く医者の卵の男の子 紺色の髪の精霊の子。この子に焦点を当てたストーリーがあっても良かったように思います。今のままだとメインに近いキャラの立ち位置にも感じますが印象が薄すぎます。
アロシア 協会にいる帝都から来た巫女、若干狂信的な部分が感じられて良い。
レオディエ シーレイアの警備隊長 オフでは抜けているタイプの人間。
アゲリ 商人。フィスクがシーレイアに来るきっかけとなったときの護衛対象。
エリーシャ シャイラの母親 花屋。
シャイラが案内の依頼を受けたおじさま 無名の割には人の好さが伝わってきて妙に印象に残りました。今後何らかの形で物語に関わってくると面白いかもしれません。
印象度B共感度B-
文章力 B 構成力B-
設定力 B+独創力B
総合評価 B
良かった点
読みやすい文章と場面を想像しやすい表現、誤字のなさ、その全てから作者様がこの作品を非常に丁寧に書かれていることが伝わってきます。
日本語が綺麗。全体を通して綺麗な印象を受けます。それ自体はとても素晴らしいことですが、そのせいで逆に小綺麗な文章という枠に収まりすぎて読み手を強引に物語に引き込むだけの力強さを感じられなくなっているかもしれません。しかし、読み手に対して伝わりやすい文章を書くことには成功しているので、今後はそれを維持しつつ、いかに読み手の心をつかみ取る文章を書くか、という事を重点的に模索していくと良いと思います。
気になった点
1話 嘲笑う ルビを振った方が良いかもしれません。
1話 背中の傷を踏みにじられて 踏みにじられる。という表現は主に心や人格等の形のないものに使われる表現であるため変えた方が良いかもしれません。
2話 「貴族様の護衛なら、金払いはいいかしらねー」“金払い”という俗っぽい言い方の後に“いいかしらね”とちょっと上品な表現が続くことで違和感が生まれています。どちらかの表現に寄せた方が良いと思います。
2話 3人組に目をつけられたシャイラは依頼主と一緒に食事中だというのにすぐに言い返しにいっています。その理由として
「だって、おじ様が何かしようとしていたのが見えたんだもん。だから大丈夫かなあ、って」と依頼主を当てにした発言をしています。これは人によってはよろしくないと感じやすいと思うので、言い返しに行く前に依頼主のおじさまに一言断りを入れる等の配慮があってもいいのかなと思いました。
フィスクのセリフで文頭と文末両方に3点リーダーが使われていることがあります。視覚的にあまりよろしくないのと3点リーダーでしか物静かな雰囲気を出せないように見えてしまいます。地の文章で無口の雰囲気を表現できるようになれば良いと思います。
12話 睥睨 ルビを振った方が良いかもしれません。
2章の開始である14話ですが、1つの問題が片付いて次の問題が始まる情報が最後の方でチラッと出てきて、インパクトのあるセリフで終わっています。これは話の引き際としてはとても良くて、私は2章の1話目として出すよりは1章のラストにおいて2章を読みたいという気持ちにさせる方が効果的であると考えます。
タイトルに関して。現在のタイトル、クッキーは世界を救う!ですが、作品中でのクッキーの立ち位置はフィスクが若干気に入っている。という程度でそこまでクッキーの登場シーンが多いわけでもなく、クッキーを使ってどうやって世界を救うんだ?とタイトルにつられてやってきた読者が、1~2話を読んだら純ファンタジーで求めていたのはこれじゃない…という感じになってしまっている印象を受けます。タイトルというのは作品の顔でクリックする読者の志向を左右します。できれば本文の内容に直接沿ったタイトルをつけるとより読者が定着しやすくなると思います。
あらすじ 寂しがり屋の女神という表現に関して。 1章時点で女神が出てきていないのでここはとある女神という程度にとどめておいてもいいのかなと思いました。あらすじで存在感を主張する登場人物が1章終了時点で出てこないのはそこが気になって作品を読み始めた読者のストレスになりやすいかもしれません。後で女神が登場したときに、とある女神ってそういえばあらすじで言っていたかな、というか寂しがり屋かよ、この女神可愛いな!と思わせた方が若干得な気もします。
総評
最低限のキャラ付けには成功していますが、そこで止まってしまっています。1章終了時点での文字数が6万字程度なのでライトノベル1冊が約13万字だとすると、あと7万字分を使ってキャラを魅力的に感じさせるエピソードを挟んでみて読み手に感情移入を促すのも良いかもしれません。
全体を通して-100~100点の点数付けで65~75点を取れている優等生タイプに感じます。しかし、私の武器はこれだという大きな魅力がないため、良い作品ではあるが読者をつかんで離さないだけの握力に欠けている印象があります。これだけ聞くと悪い印象の方が強いかもしれませんが、実はここまでマイナス面が少ない作品というのも珍しく、かなり良いことであると思います。今後は良かった点でも触れた、読み手の心を掴む文章表現の模索と、作品としての強烈な特徴を生み出せるととても良い作品になると思います。
以下、作者様コメント
この作品は、昔富士山に行った時に閃いたものです。
雲海の中を、何かが、いえ、誰かが落ちていく様を、見た気がしたのです。
はっとして、そして直後に思いました。
「いや某有名アニメ映画じゃん」
そして差別化を図るべく、落ちた人物を男の子に、精霊にしました。
そこに私の好みを詰め込んだのが、ヒーローのフィスクです。
クール系の美少年。背中に羽が生えてるといいなあ。空を飛びながら大きな得物を振り回して欲しい。などなど。
この作品は彼のためにできました。
そして自分の故郷から落ちてしまった彼について考えるうち、傍に一人の女の子が浮かんできました。
ヒロインのシャイラです。
彼女はフィスクにないものを補ってくれます。
人あたりの良さとか。笑
シャイラはフィスクにとって欠かせない存在ですが、未だそれを描写できていないという……。
早くそこまで話が進むように頑張ります……!
私は登場人物だけでなく、世界そのものが生きているようなお話が書けるようになりたいと思っています。
メインの二人だけでなく、どこかでキャラクターたちが息衝いきづいている、そんな気持ちになって貰えたら嬉しいです。
↑ここまでが客観的評価と作者様コメント
↓ここからが主観的感想等
この作品、というよりは作者様……ですね。はとても個人的にとても思い入れが強くって、というのも、この作品、上に書いてある通り、有償での依頼となっています。
ノベプラ運営と相談して、私のTwitterや、その他勧誘をしなければ利用規約的に大丈夫と言われているので、ちょっと念押しをしますが、断じて勧誘ではありません。
話を戻します。有償依頼の中でもこの作品は無償分でしか募集をやっていなかった中、初めて有償でやろうと思って募集をかけたときに応募してくれた方だったんです。当時の私は、無償分でしかやっておらず、評価シートも画像1枚分程度にしか纏めていなくて、今見たらおいおいって思ってしまうレベルなのですが、それでも私に可能性を見出して応募してくれた6人の中の1人で、あぁ、私を必要としてくれている人がこんなにもいるんだと思えて、今、活動を続けられている原動力となってくれている方の内の1人です。
本当に、いつもありがとうございます。
恐らく作者様にも読まれるので、恥ずかしいお話はここまでにして、作品の感想を書いて終わろうと思います。
この作品で一番良いと思っているのは世界観の作りこみです。物語の中の、架空の歴史でありながら、きちんと、どういった歴史があったうえで今の風の国が存在しているというのがはっきりと認識できるところがとても良いです。
簡単なことに思えるかもしれませんが、自身が思い描いた世界観を文章化し、それを更に読み手に対して違和感なく受け入れさせるというのはかなり難しいことです。これができていないと、感情移入がし難かったり、できても没入というレベルまでいかなかったりと、たとえストーリーがどれだけよくとも、なんかイマイチ入り込めない作品だなと思ってしまわれやすくなります。
なので、それができているというのは本当に、
しゅごい。
今回はここまで。またね。