賢者候補エマ
「エマ!エマ!オキロ!オキロ!アサ!アサ!」
「うるさい…サロメ……。」
「グエッ…!!!!」
眠っていた私の体の上で蛇の使い魔のサロメが暴れるのでついつい魔力を使って吹き飛ばしてしまう。
まだ重たい瞼を擦りながらベットの近くの棚に置いてあった時計を見ると8時半過ぎ…確か今日は魔法塔に9時までに到着しないといけない。魔法塔では賢者候補の集会があった筈だ…。
「うっそ!!!遅刻しちゃう!」
「ナンドモ、オコシタ!エマ!オレ!フキトバス!」
「ごめんサロメー!!」
魔法塔には最速で飛んで行っても1時間はかかる。やらかしてしまった、昨日は夜中まで新薬の研究をしていたから寝過ごしてしまった。これではまた怒られてしまう…。
「急いで飛んでも間に合わない…あっ!分かった!転送魔法陣!転送魔法で行けばすぐよ!!!!」
「バカ!アレ!ミカンセイ!ドウセ、マタ、シッパイ!」
「大丈夫!成功すれば集会で報告出来るし、転送魔法で到着とかかっこいいでしょ?箒で飛んでいっても落ちちゃうし…!」
魔法で朝ごはんの準備をしながら、身だしなみを整える。髪がすっかり長くなってしまったので寝癖を直すのがめんどくさい。魔法の材料になるので伸ばしていたがそろそろいいだろう。
「サロメ!いつまで大きくなってるの!?小さく!小さくなって!連れて行けないよ?」
サロメは体の大きさを自在に変えることが出来る、指示するとまだ起こす度に吹き飛ばされた事を根に持っているのかムスッとしながらズルズルと小さくなり、大蛇から私の腕くらいの長さになった。
「最近作ったばかりのやつが……あった!これこれ!」
「ダイジョウブカ?コンドコソ、シナナイカ?」
私は一応最年少の賢者候補なのだが、いつも大事な所でミスをして失敗してしまう。生まれつき魔力が多いので力加減が難しい所もあるが性格的な問題が大きいのだろうと師匠に言われられた事がある。使い魔に心配される程酷いとは…。
「あーでも怖いなぁ、他の賢者候補の人達怖いんだもん…新しい魔法を報告すれば睨むし、何か発言すれば睨むし、お互いにギスギスしすぎじゃない?賢者はもっとどっしり構えてるもんでしょ?」
準備が整ったので、転送魔法陣を抱えて部屋の奥にある研究室…と言っても、そもそも住んでいる所が王都の外れの森の奥にある小さな小屋なので人が3人入ればキツキツのスペースだが物を強引に移動させて魔法陣を敷く。
「ワスレモノハ?」
「大丈夫!必要な物は全部【クローゼット】の中だよ!」
【クローゼット】とは魔法使いが使える基本的な収納魔法の事で、入口さえ決めてしまえばその中に無限に物を収納出来る便利すぎる魔法なのである。まるで四次元○ケットのように…。
「遅れたらニーナ姉さんに怒られちゃうし、師匠の面汚しはしたくないからね!さぁ行こうかサロメ!!」
「タヨリナイ!タヨリナイ!」
「あっ!いけない!チョーカーしないと!」
早速【クローゼット】の中から黒色のチョーカーを取り出して首につける。首にはぐるっと囲うように賢者の紋様があるが、暗黙の了解で他の人に見せないように隠している。
賢者の紋様とは、賢者の素質がある魔法使いが生まれつき持つもので紋様の濃さや色、模様によって魔力量や強さが違うらしい。その為紋様を持つ魔法使いは他の魔法使いを怖がらせない為に隠すように言われているが…まぁ実際ちゃんと隠しているのは私くらいで他の賢者候補達は隠しているが隠しきれていない…というか絶対に見せつけている。私の紋様は濃いめの赤色で模様は蛇の様だった。紋様が出る場所も人によって違う、私は首だけど太ももや手の甲、背中など様々である。
現在の賢者候補は私含めて12名、だけどその中でなれるのは僅か1、2人程である。いつの時代紋様世界に賢者はたった10人位しかいない、賢者とは道を極めた魔法使いに「魔法塔」から与えられる称号で、膨大な知識を有する魔法使いの最高位の存在である。
今回の集会でも賢者候補としてどのような活動を行ったのか、賢者に相応しいかを審査されるのだが、賢者候補達としてのプライドや魔法使いの意地や絶対的な自信がぶつかり合う……本当に怖い。
「エマ!エマ?オクレルゾ!」
「ごめんねサロメ、賢者候補として頑張らないとね!帰りに林檎買って帰ろう、美味しいやつ!」
林檎が大好きなサロメは嬉しそうに私の腕に絡みつく、一旦気持ちを落ち着かせると集中して魔法陣を発動させる。
「【転送魔法】魔法塔まで…!」
魔法塔とは魔法使いの組合の本拠地である、中には魔法学校や研究所も兼ねている。魔法使いになる申請~賢者の選定まで行う場所である。魔法塔の幹部は賢者や上位の魔法使い達であり、魔法塔は王宮内にあるので魔物の討伐にもサポートや戦力として参加する、王国騎士隊もあるのだが魔法使いと騎士、兵士達は仲が悪い事で有名だ。
魔法が1番優れていると思っている魔法使いと己の剣こそが最強だと思っている脳筋連中は似ているようで分かり合えない。
全身が光の粒で覆われる、転送魔法はまだ研究中だが完成すれば多くの人が助かることだろう。怪我や病に苦しむ人達を回復魔法や薬で助ける事や戦う兵士達のサポートをしたり、一緒に戦う事はとても楽しくて魔法使いとして満ち足りている、何より感謝された時は頑張ってよかったと心の底から思える程に幸せな瞬間だ。賢者になれなくてものんびりとこの日々が続くなら悪くないなと思っている。
ゆっくりと目を閉じる……不安は確かにあるが何とか成功するだろうと信じる。師匠に拾われて弟子として魔法を学び始めた時から何かとドジをして迷惑をかけてきた、力加減を間違えて姉弟子の杖を燃やしたり、兄弟子に催眠魔法をかけようとすればやり過ぎて本当に永眠させようとしてしまったり、大釜で薬を調合しようとすればミスで晩御飯の材料を入れてしまい途中で姉弟子が気づいてその日からしばらくシチューが続いた事もあった…。ダメだ不安になってきた、失敗してまた小屋を爆発されたらどうしよう…よく失敗させては何かと爆発させていたので不安で仕方ない。
「お前100年後位に爆破の賢者とか言われてそうだな笑」
師匠の言葉をふと思い出してしまう、師匠元気かな?私、別に爆発系の魔法は得意な訳ではないんだけど…。100年後かぁ、死んでるだろうな私。どんな未来になっているのかなぁ?気になるな…魔法はどれくらい進歩しているだろう。新しい属性とか見つかってるのかな?
今思えば開発途中で不安定なのに発動途中で余計な事を考えては行けない。想像力と魔法はとても強い関係にあり、魔法を発動させる時も頭の中で強くイメージさせる事が大切だと弟子は大抵師匠に1番最初に教わることである。
そしてやらかしてしまった、目を開ければそこは王都でも魔法塔の中でもない…果てしなく広がる草原、青い空、空を飛ぶ鳥獣達…爽やかな風が私の額や頬を撫でる。
「エマ!エマ!ココドコダ!!」
「サロメごめーん!失敗だああああ!!!」
未知の場所に転送してしまったエマと使い魔、この時はまだ知らなかった自分達がやってきたのは100年後の世界で、その世界には魔法使いは1人も居ないことを。