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96 千里の道も一歩より

 ではまず水車の分類について説明しよう。

 特に日本の水車には三つのタイプがある。細かく分けるともっと色々あるし、最新技術を利用した水車ならもっと効率よくなるかもしれないけど、現状作れる水車はこれくらいかな。

 水輪のてっぺんから水を流す「上掛け水車」。傾斜が大きい山あいの川ではこの方法が良く使われる。水量が少なくてもよいので強い力を必要とするならこの水車がベストだ。

 水輪の下の部分に水を流し、流れる水の勢いを利用する「下掛け水車」。水量が多いが傾斜の少ない土地で使われる。

 この二つを足して二で割ったようなやり方が「胸掛け水車」。下掛け水車に段差をつけて勢いをつけるやり方だ。

 さらに水車の水の扱い方とは別にその利用方法によって分ける。製粉などの水車を動力として利用する「動力水車」。一般的にはこっちをイメージするかな?

 水を汲み上げて遠くに運ぶ、「揚水水車」。当然だけどこっちは下掛け水車しか存在しない。もちろん今回の目的は水を畑に運ぶことなのでこちらを作る。

 仕組みとしては動力水車の方が複雑だからまず揚水水車を作ってノウハウを蓄積することも目的の一つだ。いずれは動力水車にも挑戦したいな。歯車なんかを発明しなくちゃいけないからやや難易度は高いはずだ。

 これは私見なので間違っているかもしれないけど、日本ではどちらかというと揚水水車の方がよく見かけるのに対して、ヨーロッパでは動力水車の方がメジャーな気がする。風車を利用することもあるけどね。

 これは主な農業が水田だった東アジアと麦を主体とした農業だったヨーロッパの差じゃないだろうか。水田は大量の水を必要とするのに対して小麦や大麦は水をそれほど必要としないが、その代わり小麦や大麦には製粉する必要があり、人力だけではそれらすべてをまかなうことが難しかったのかもしれない。

 最終的には工場と呼べる規模の水車小屋ができることもあったとか。あるいはそれが工業化への足掛かりだったのかもしれない。

 食べ物に対するこだわりは文化を発展させることもあるのかな。


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


 まずは全部石製と木製のミニチュア水車を作ってみた。地球だったらまずやらないよな。石ってそんな簡単に加工できるもんじゃないし。<錬土>万歳。木はかんなで削ったり<錬土>でねじを作ったり蜘蛛糸を接着剤代わりにした。

 揚水水車の造りは割と単純。水車本体を作って水を受ける羽根板に水を汲む桶のようなもの取り付ける。

 一応動く……けどやっぱりぎこちない。石の方は変な音してるし、木の方は上手く回っていない。水を吸って膨張したのか、それとも単に芯の部分が上手くいっていなかったのか。

 何日か試行錯誤した末やっぱり木の方がいいという結論に達した。どうも結構摩耗してる気がするし。やや大きい水車を木製で作ってみることにした。

 そして数日後、試作品第一号が完成した! 人手が多いって素晴らしい!


「よし見ろ小春! あれが水車だ!」

「水、思いっきり零れてるけど」

 そこに気付くとは……やはり天才……じゃなくても気づきますよねはい。

 水車についた桶から水が落ちて、それを水路で受ける……しかし、水路と水車が近すぎると桶と水路がぶつかることがある。だから結構間隔をあけたんだけど……はい、ビビりました。間隔を開けすぎて水をちゃんと受けれてない。

 やっぱり、いつも何度でもミスをするのが人間なんだよなあ。後でちゃんと調整しないと。

「後っていつ?」

「そりゃあ、水車を止めてからに決まってるだろ?」

「いつ止まるの?」

「…………あ」

 水車を作るのに必死で水車を止める方法を全く考えてなかった。揚水水車だからまだいい。水を川に戻せばいいだけだ。

 が、もしもこれが動力水車だったなら? 杵やら臼やらが延々と動き続けることになる。そしてこの手の動力機構は空転が一番部品を摩耗させる。

 本日の教訓。慌てるな、水車は急に止まれない。




 川から導水路を引いてそこに水門を設置して水の流入を管理する。この設備なら水車の作動を管理できるはずだ。

「正直水車を作るよりも大変かもしれないな。小春、畑の管理は任せたぞ。オレは水路と教育に集中したいから」

「わかった。千尋にも手伝ってもらうね」

「おう」

 千尋には小動物の捕獲を任せている。畑に侵入する獣を殺したり、反対に魔物ではないカマキリなどの益虫や、合鴨農法のように害虫を食べてくれる鳥獣を飼育できないか色々試してもらっている。

 まあ今一番多いパターンはジャガオを食べた結果死亡する事故だけど。


 そして小春が子供を産んだ。現在すくすく成長中。この年で孫ができるとはな……複雑だ。

 ちなみに蟻の交尾はどこぞの霊長類のように何度も行う必要がない。一生に一度で十分だ。蟻の精子は哺乳類などと違い自力で動く能力がない。

 その代わり貯蔵性に優れており、女王蟻の体内にあれば年単位でも失活することがない。つまりもう小春は何人でも女王蟻を産むことができる。

 あまり女王蟻を産みすぎると、人口が増えて食料を賄いきれなくなるかもしれないので注意が必要だ。

 オレの学校にはオレが新たに産んだ女王蟻と孫が参加予定。農業などの合間を縫ってちょいちょい必要な知識を教えていくつもり。オレの知識を一人に全部教えるんじゃなく何人かに分散させて教える予定。万が一死んだり裏切ったりされてもその方がリスクが少ないからだ。

 そして、もう一つ別の教育、正確には訓練を開始した。


「はい、腕立て後100回! ランニング三周!」

「さー、いえっさー」

「声が小さい! ワンモアセッ!」

「さー、いえっさー!」

 筋トレと体力作りだ。やはり強い兵隊は体力や筋力がないといけない。今の蟻では全力で張り詰めた蜘蛛糸の複合弓を引くことはできない。だったら蟻を鍛えればいいじゃん!

 というわけで訓練を開始してみたけど効果はちゃんと出ている。わずか数週間で明らかに体力測定の結果が大幅に向上した。

 蟻ーズブートキャンプの効果は抜群だ!

 とはいってもせいぜいが凡人が部活のエースになったくらいで本当に強力な魔物に勝てるわけじゃないけどな。人間がどんなに頑張ったってチーターに走って追い付けるはずもない。アスリートがタイムを0.1秒縮めるのに数か月あるいは数年かけるように、蟻の地道な努力がいつか実を結ぶはずだ。

 が、しかしまた問題が発生してしまった。弓の木製部分が破損することが多くなってしまった。……今度は弓に向いた木を探さないとな。

 蟻の地道(以下略)。

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うちの猫は液体です 新作です。時間があれば読んでみてください。
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