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9 また会えたね見知らぬ生きものさん

動物が解体される描写があります。ご注意下さい。

 遂に第一村人発見! 死体だけど!

 いやまあ人間がいるのかな? なんて思ってたけどいきなりすぎるだろ。いやちょっと待って。もしこの状況を誰かに見られたらオレが犯人にしか見えないぞ!? 探知能力と蟻の目線で誰もいないかをくまなく確認。よし誰もいない。ふーせふせふ。


 つまりこういうことだ。まずこいつは「蟻以外」の何者かに殺された。ここが一番大事。オレはやってない。無罪だ。勝訴確定。

 この人間はその何者かに負傷させられ、何とか逃げ切ったがここで力尽きた。腕を切られてることから考えると蟷螂あたりか? ぱっと服装を見たところ文明レベルは高くても中世程度か。発信機で居場所を特定なんてできないだろう。

「よし。そいつも巣まで持ってこい。所持品なんかがあればそれも一緒にな」




 人間出現のせいでだいぶ慌ててしまったがこれから解体ショーの始まりだ! ………あんまり気は乗らないけど必要だからしょうがない。


 ドードーを解体した結果。まず言っておこう。

「ふざけんな! ぜんっぜん地球と違うじゃないですか――――!!」

 地球上にこんな生物はいません。何処を探しても絶対にこんな鳥類はいないと断言できる。

 第一に骨がない。もう一度言おう。


 ほ・ね・が・な・い


 はあっ!?


 根性のない人を骨が無い人なんて言うけど実際に骨が無いなんてまったくもって予想してなかったつーの。

 蟻ならまだわかる。蟻はもともと無脊椎動物だ。本来なら外骨格によって自重を支えているはず。けどドードーは鳥、つまり脊椎動物だから骨はあるはずだ。どうやって姿勢を維持してるんだ?でも確かにこの蟻の大きさなら地球で暮らすのはかなり無理があるはず。なにか特殊な仕組みがあるはずだ。それがこの解剖実験でわかればいいんだけど。


 わけのわからないものパート2。体のあちこちから宝石みたいな石が出てきた。血にまみれてわかりづらかったが、洗ってみると黄色と黒っぽい斑模様だ。なんていったっけ? タイガーアイだっけ? そんな宝石に似てる気がする。本当に宝石ってことはないだろうけど……。真珠みたいに生物の体組織が固まったものか?

 どうも神経らしきものに癒着しているようだ。そして他の内臓なんかは地球の哺乳類とたいして変わらない……と思う。全体的に柔らかい気もするが断言はできない。正直専門家でも教授でもないオレには手に余る。ちくしょーもっと勉強してればなあ。

 けど明らかに地球の生物に存在しない器官はこの石だけ。つまり魔物が魔法を使える理由としてはこの宝石が原因である可能性がもっとも高い。じゃあこれを使えばテレパシー以外の魔法が使えるんじゃないか!?




 だめでした! やっぱりね。

 どんなに中二っぽい呪文を唱えても、囁き祈ってもうんともすんとも言いません。こいつ罠で殺したからどんな魔法使ってたのかわからないんだよな。

 うーん。ネズミも見てみるか。あいつの魔法は知ってるし。


「あれ? なんでまだ解体してないんだ?」

「まだ硬いから」

 どうも死にたての死体は硬いらしいが、時間が経てば柔らかくなるとのこと。死後硬直みたいなもんか?と思ったが少し違う。話を聞く限りではこの硬さは硬化能力によるもののようだ。蟻に比べるとやや柔軟性があるが、基本的な原理は一緒だろう。魔物なら誰でも硬化できるのか?


 硬化した部分は結構硬い。それこそ分厚くなれば骨くらいの硬さにはなるだろう。そこでピンッと閃くものがあった。

「悪いけどネズミを無理矢理解体できるか? 腕だけでいいから」

「できる」

 蟻たちは噛みづらそうにしながらもネズミの皮と肉を引き裂いていく。オレの予想が確かなら……。

 蟻たちは苦労しながらもネズミの腕だけを取り外した。魔法でナイフでも作ればもっと楽に解体できる気がするが、どうも蟻たちには刃物を作る発想が無いらしい。歩道橋なんかはつくるのに。

 それはともかくとして腕を調べると中央あたり、地球の生物なら骨がある部分だけは明らかに硬かった。そしてその硬さは時間とともに失われていった。

 思ったとおり。ネズミにも骨に相当する器官はあった。体の内部を硬化させることによって骨と同じ働きをする器官を作り出していた。この硬さは死後時間経過によって失われるんだろう。ドードーは罠によって死亡したためすでに硬化が解除されていたんだ。


 自分の手を見る。硬化させるのはほんの少し力を入れるだけでいい。そして硬化を維持するのに力をかける必要はない。なんとなく体が重いかな? と感じる程度だ。体を動かそうとすると硬化は解除される。

 次に思いっきり体に力を入れる。今度は体がほとんど動かせなくなった。しばらくすればまた動けるようになった。硬化能力は皮膚だけでなく筋肉にも備わっているらしい。内臓なんかはわからないけど。

 あたりまえだけど硬化、つまり体が硬くなれば体はまともに動かない。ようするに防御力を上げれば素早さが下がるってこと。この硬化能力のコントロールも戦う時に重要かもしれない。もちろんオレ自身はまだ戦うつもりはないけど。ネズミの体内にあった宝石握り締めてもなにも起こらなかったから、どう考えても弱いままだよねオレ! ……自分で言って虚しくなってきた。

 

 それにしてもこの硬化能力ってなんなんだ? 魔物にとって重要なのはよくわかったけど、これも魔法の一種なのか? それとも純粋に生物としての機能の一つなのか? わからんな。流石に蟻達を解剖するわけにいかないし、ひとまず保留だ。




 よし、じゃあそろそろ何か食うか! 今のオレには待望のたんぱく質がある! 期待せずにはいられない!

「肉持って来い、肉――――! ついでに渋リンもな!」

 干した渋リンもちょいちょい様子を見ているけど色合いはよくない。褐変がひどい。酸化してるだけだからビタミンCを大量に含むレモンでもあれば防げるけど無いものはない。重要なのは味だ。


 団子状に丸められたネズミ、ドードー、青虫の肉。そして干したりんごこれが今のオレ達が作れる精一杯の料理だ。肉はグロテスクだし血や蟻の唾液で濡れてるから食欲が湧くようなもんじゃない。これでも大分ましだ。進歩したのだ。さっき上がったテンションが下がったことを自覚しながらも食事をはじめた。

 

「いただきます」

 長年染み付いた習慣として手を合わせる。一度死んだくらいでは癖というものは消えないらしい。感動するようなことじゃないけれど、これもまたオレが人間であった証か。

 ちなみに全て蟻達が毒見済み。まずネズミ。食用にもされるらしいが、さて。

 んぐ。ん――不味くはないな。ちょっと筋っぽくて硬いかな?臭みもあるし、香草とかと煮込んだら良さそう。


 次にドードー。悪くないんだけどなあ。くどいかな? 鳥のくせに油が多い。とろけるような舌ざわりではなくべたべた引っ付く食感なのもマイナスポイントだ。塩かスパイスやハーブがあればいい感じになる気がする。塩か。海が近くにないなら岩塩しかない……。塩があればこの肉も保存食にしやすいけど現状じゃ夢のまた夢だな。

 それにしてもこいつらあっさり罠に掛かるくせによくここまで生きてこられたな。そこまで美味くないとはいえ腹が減ってたら十分食べれるぞ? まいっか。

 

 で、青虫。こいつは毒見した蟻が不味いと断言できる味らしい。とはいえ一度は食べてみないとわからん。もったいないの精神でいこう。覚悟をきめてがぶり。

「まっず――――!??」

 思わず吐き出しちまったじゃねえかこのやろう! これでオレもゲロインの仲間入り……になってたまるか! いやもうこれ完全に毒だろ!?  芋虫とか青虫なら毒がある奴もいるわなそりゃ! ホント毒見させてごめんな。

 青虫とかの毒って日本だとウマノスズクサとかが由来だったっけ? 流石に食べ方はわからないな。よし! 青虫は食えない! もったいないけど、毒は無理! 毒のある生物をあえて食べようなんて馬鹿なことはしない! ……よっぽど追い詰められない限り。


 干した渋リン……。青虫のこの様子だと期待できないな。恐る恐るかじりつく。

「おおっ! 渋くない、いやむしろ甘いぞ!? 十分甘いぞコレ!」

 薄めにスライスしたのがよかったか? たった一日で甘くなるとは思わなかったぞ! 太陽パワーすげえ!

「よっしゃお前らも食ってみろ!」

 干し渋リンに齧り付く蟻達。さっきからガン見しすぎなんだよお前ら! 働いてる奴もちらちらこっちを覗いてるし。

 スライスした干し渋リンを物も言わずに食べ続ける。スライスした干しリン(干した渋いりんごの略)ははっきり言ってこの世界で食べたものの中では一番美味い。いまさらになって地球の文明の凄さを実感したよ。生肉よりベーコンのほうが美味いに決まってる。地球の食品加工技術ってすごいな。

 美味いは正義。コレに勝る真理はそうそうない。やっぱ蟻達も美味いもん食べたいよな。今まで不味い渋リンばっか食わせててわるかったな。

 だがこの時点のオレは知らなかった。蟻達は畑に寄って来た虫やパトロール中に発見した木の実なんかを食べていたため現在の生活基準でそこそこ美味いものを食べていたことに……。


「女王。これあんまり味が変わってない」

「どれどれ、ああ丸々一個干した渋リンはだめか」

 スライスしていない渋リンはまだ渋いままらしい。そりゃそうだ。本来なら渋柿を干し柿にするには一月くらいかかるはず。すぐに食べるならもっと短くてもいいらしいけど。スライスしただけで、たった1日でこれだけ甘くなったのは何か理由があるのか?

 柿の渋さはタンニンが原因だが、干すと甘くなるのではなく、タンニンが可溶性から不溶性になり、その結果舌がタンニンを感知できなくなる。この反応はアセトアルデヒドと可溶性タンニンが結合することによって起こるらしい。リンゴの渋さがタンニンによるものなら何らかの理由によってこれらの化学反応が迅速に行われたってことだ。

 ……流石に原因まではわからないな。農学の講義とかで干し柿とタンニンのメカニズムは習ったけどどうすれば素早く甘くなるか、なんてことは習ってない。もうちょっと詳しく教えてくださいよ教授!


 けどこの食品加工と解剖によってわかったことはとても重要だ。美味いものが食えるってことはとても大事だけどそれだけじゃない。この世界と地球の物理法則はもちろん生物の基本的な生活環や構造はある程度共通している地続きの地平だ。


 つまり地球で蓄えた知識はある程度通用する。

 オレの知識なんて自分の趣味とテストでいい点を取るためのものだ。人に誇れる夢があったわけじゃなく、ひたすらいやなことを回避するための現実逃避みたいなものだ。それでも今役に立つなら―――オレの人生無駄じゃなかったんじゃないか?


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うちの猫は液体です 新作です。時間があれば読んでみてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 摘み食いでボスより旨いものを食べていたちゃっかり配下達。 [一言] モンスターは本来骨無しのスライム状なのか?各自が持つ魔石で内骨格や形を保っていたのかな?なかなか変わった世界観。
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