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72 多様「性」

 ではまず発情期とは何かをおさらいしておこう。

 生物が交尾を行う期間であり、何らかの発情を示す兆候を出す生物が大多数を占める。ではなぜ発情期が存在するのか?

 生物には栄養を蓄えることに向く時期、子育てをすることに向く時期。それらのタイミングを逃さないために発情期が存在する。動物に限らず植物にも当然存在する。有性生殖を行わない生物なら話は別だけど。

 もちろん有性生殖を行うけど発情期がない生物もいる。我らが人間だ。後はネズミとかウサギとからしい。

 人間の場合知識によって環境をコントロールできるようになったから発情期が失われたとか。

 ネズウサはとにかく子供をたくさん産んだ方がいいので発情期がなくなったらしい。

 ボノボなんかは疑似発情といって発情期じゃないのに発情した様子になることがあるらしい。

 ではなぜ十分に環境をコントロールする能力――つまりは文明が存在するにも拘わらずこの世界の人間であるヒトモドキは発情期が存在するのか?


 あくまでも推測だけど冬眠するからじゃないかなあ。流石に妊娠中に冬眠はできないだろう。魔物の冬眠能力が高すぎるがゆえに文明がそこそこ発達しても冬眠をやめなかった。

 結果として発情期も受け継がれ続けた。そんなところかな?

 でもまあ、これくらいなら驚かなかったかもしれない。困惑したのはむしろここから。


 さっきも言ったけどヒトモドキは別に行為を隠さない。なのでオレがその様子を逐一観察することも可能だ。

 で、だ。

 ここでは仮にA太さん、B子さんC太さんと表記しよう。

 A太さんとB子さんがいたしていたわけだけど……行為が終わった後B子さんはC太さんと行為を始めてしまった。


 ゔん????


 いやいやいやちょっと待って?

 B子さん! あなたA太さんと結婚してたんじゃないのか!? あっさりC太さんと逢引していいのか!? A太さんめっちゃこっち見てるよ!?

 もはや貞操観念とかそういう問題じゃない!

 地球だったら空振り三振どころかトリプルプレーの後にレッドカードで退場をくらうくらい法律に違反してますよ!?

 これさあ敬虔なクリスチャンとかムスリムが見たら卒倒して発狂して石でも投げるんじゃないか?

 うーむ。なかなかの衝撃だったけどここは冷静に分析しよう。


 別にこいつらだけじゃない。他の村人も色々な人たちとまあ、お楽しみしているようだ。何故かいたす前には必ず魔法の白い剣を作っているけど儀式か何かなのか? この世界では昨夜はお楽しみでしたねなんて表現は奥ゆかしすぎる。

 昨日は朝も昼も晩もとっかえひっかえお楽しみでしたね。くらいでも笑って許されるだろう。

 つまりこの村のヒトモドキは一夫一妻制じゃない。多夫多妻制だと推測できる。そもそも結婚という概念がない。そう考えた方がいいのか?

 結婚の様式は生物によってさまざまだ。一夫一妻は鳥類や哺乳類に多いんだっけ。チンパンジーなどの猿は多夫多妻もいるからその辺から進化した生物なのかな?

 蟻……正確にはこの世界の蟻は単為生殖可能かつ有性生殖も可能だからな。そもそも地球上の結婚観に当てはめるほうが間違ってる。

 別に地球の人間は全て一夫一妻ってわけじゃない。

 昔なら一夫多妻なんてごく普通に存在していたし、チベットなんかでは一妻多夫なんて結婚制度もあるそうだ。子供は家族という一つのコミュニティで育てられるらしい。誰が父親なのかは気にしない。

 ヒトモドキもそんな感じなのかな? でも国がどうとか言ってたからな国王はいると思うんだけど……誰が父親かわからなかったら後継者争いとかでもめたりしないのか?


 ん?

 あれ?

 ああ、そういうことか!

 だから女系国家なんだ!


 多夫多妻制では誰が父親かはまずわからない。わからないなら気にしなければいい! 逆に母親の血統のみを考慮すればいい。

 父親が誰かはわからなくても母親ならごまかしようがない。後継者を全て女性にしてしまえば十分封建制は維持できるはずだ。

 おおお! すげーすっきりした。そう考えると結構論理的だな。多夫多妻なら何らかの場合で伴侶が死んでも替わりがいるからかえって血筋みたいなものを維持するのも楽かもしれない。発情期があるなら発情期以外なら繁殖に割くエネルギーを抑えられるだろうし、性犯罪みたいなトラブルも少ないかもな。

 そう考えると地球の結婚方式って意外と論理的じゃないのか? ま、本能や伝統に文句言ってもしょうがないし、こういうのは一概にこれが正解というものはないだろう。

 他にも何か違いとかがあるかなあ。気になるから情報収集だ。何日か見張って探るとしよう。




 そして数日がたち、なかなか面白いものを発見した。

 こいつらは行為を隠さない。畑仕事の最中にやらかしてる人もいた。しかも異性ではなく同性同士でいたしてる人もいた。その辺もおおらかなのかもしれない。

 しかし、なぜかこっそりと行為を行っている二人組を見つけた。恐らく探知能力がなければ見つけることは困難だったな。

 ではなぜそんなことをしているのか?

 それを突き止めることは容易かった。どうも女性側がこの村の人間ではないようだった。男の方はこの村の他の人ともやることやっていたので男自身に何か咎がある様子ではない。

 女性はある建物にいて、日中は出歩かないようにしていたみたいだけど夜にこっそり密会していたようだ。

 数日がたつと何事もなかったかのように村を去っていった。

 ……どう見ても初犯じゃねえな。ふてぶてしすぎる。


 見えてきたぞ。こいつらの家族や家庭といった概念のとらえ方が。

 まずヒトモドキは多夫多妻だ。それは間違いない。では誰とでも行為を行っていいかというとそうじゃない。

 同一のコミュニティに属さない人間とはそういうことをしてはいけないに違いない。こそこそ行動していたのはそういう理由があるはずだ。

 要するに村全体で一つの家族だと捉えているようだ。逆に他所の村は敵ではないけどご近所さんだと認識している。

 もしかしたらもっと大きな町では、町の中に様々なコミュニティが存在し、そこ以外では行為ができないというルールがあるかもしれない。貴族とか王族のコミュニティもあるかな?


 間違いなく浮気や不倫などの概念は存在する。もちろん地球とは大きく異なるけど。

 精神構造が大きく異なるよりも単に文化が違うだけなのかな?

 つーかこいつらにハムレットとかロミジュリとか読ませたらどういう反応するんだろう。やべえめっちゃ気になる。

 ロミジュリで思い出したけど昔バラエティー番組か何かでハイエナの恋物語を放映していたことがあったっけ。たしか群れの外からやってきた序列最下位の雄とリーダーの娘がくっつく話だったっけ。

 番組ではいかにも身分違いの恋みたいな口調だったけど、オレは別の見方をしていた。リーダーの娘が外からやってきた雄を選んだのは何らかの理由があり、必然だったのかもしれない。そう考えていた。

 その理由とは近交弱勢を避けるためだ。生物には近親交配を繰り返すと生存に不利益な形質が発現することがある。それが近交弱勢だ。もちろん例外もある。シロアリなんかは近親交配を繰り返した結果真社会性を獲得したともいわれる。

 近交弱勢を避けるためにもっとも手っ取り早い方法は他の群れのメンバーと交尾することだ。それを本能的に理解していたハイエナの雌は外から来た雄をつがいとして選んだ。オレはそういう仮説を立てた。もちろん根拠の薄い妄想の類だけどな。

 もしこの仮説が正しいなら新しい物好きな性質が性的嗜好に直結することは生存にとって有利に働く可能性は十分にあるはず。そういえば好奇心や冒険心が強い人は浮気とかしやすいらしいな。

 つまりいかにも運命的な出会いをしただけであっさり恋に落ちるような人間は浮気などをしやすいはず?

 ……オレ何の話をしてたんだっけ。ああヒトモドキがシェイクスピアを見たらどうなるかだっけ。


 ハムレットは王弟と王妃ができちゃったことが発端なんだっけ。あれ? 多夫多妻だと何の問題もなくね? あ、でも女系国家だから王様が男ってことにはツッコミが入るかも。論点がずれてないか?

 ロミジュリはえーと、他のコミュニティの男女がくっつくのはアウト。……浮気扱いになるのか?

 ……すんません、ウィルおじさん。貴方の作品は多分この世界では受け入れられません。どんどん話が不味い方向に向かってる気がする。いや別に文学をディスりたいわけじゃないですよ?

 ま、まあ村を一つ見ただけだからな。この国の全てがこの村と同じだとは限らないよな。


 ちなみに村を出ていった女性を尾行して他の村を発見することにも成功したけど……大体どの村も同じ感じだった。

 できれば浮気がバレた奴がどんな目に遭うのか見たかったけどそんな修羅場には出くわさなかった。単なる好奇心じゃなくてこいつらの間で浮気というものがどの程度の罪なのか知りたかっただけだ。

 一般的に宗教だと浮気に対して不寛容な気がする。でも多夫多妻制なら浮気に対してはやや寛容かもしれない。つまり生物の本能を優先しているか文化や信仰を優先しているかが判断する指標になるかな、と思ったけどまあ現実は上手くいかない。

 改めて考えると結婚とか交尾とか動物によって違うよなあ。

 ついでに言うと浮気する動物は結構いる。一部の鳥の中には浮気しないように見張っている鳥もいるとか。だからと言ってそれが浮気していい理由にはならないけどな。

 やっぱり生物によって婚姻や性は多様極まる。もし地球の人間がヒトモドキに転生したらとても苦労……しないかな?

 よく考えたらたかが結婚やら家族やらの形が違うだけだし。そんなもん慣れさえすればどうでもいいだろう。

 少なくともオレよりはましだ。逆にオレでもこの状況に順応できたんだから普通ならたいして時間もかからずに適応できるかもしれない。でもヒトモドキは変な宗教の信奉者らしいからなあ。その辺りでつまずく奴も多いだろう。

 やっぱりオレ以外の転生者も探しておくべきだな。ヒトモドキ以外に転生してる可能性のほうが高いかもしれないけどな。


 観察しているうちに気付いたことだけど子供の姿は見当たらない。どうもどこかの家に集められているようで、まかり間違って子供に強いることはないようにしているみたいだ。たまに外出する時も男女別に固められている。

 どこの世界でもロリコンやショタコンには厳しいみたいだな。もちろん非難するつもりはない。子供は基本的に守られるべきだろう。

 でもできれば中の様子が見たい。子供が集められているならそこでは教育を行っているはずだ。学校が上手くいっているとは言い難いオレにとって参考にしたいけど……感覚共有は蟻以外とはできないし、これ以上近づくわけにはいかないのでお預け状態だ。

 家の中、観察できないかなあ。

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うちの猫は液体です 新作です。時間があれば読んでみてください。
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