表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/511

64 再会のモーリシャス

 以前青虫は蝶にならないと話したことを覚えているだろうか。冬の間は地中や木の洞などで冬眠する。その間は全くの無防備で、簡単に捕らえることができた。

 そう、我々の家畜第一号は青虫だ!


「気分はどうだ、青虫」

「ww満腹」

 食べることしか頭にないなこいつら。自分が柵で囲まれた牧場に閉じ込められている自覚がないらしい。

 なぜこんな不味い魔物を家畜として飼う気になったのか。それはこいつらの毒を無くす算段があるからだ。正確には毒の無い個体を育てることができる。

 種にもよるけど青虫の毒は毒のある植物を食べることによって体内に毒を蓄積させる。蛇のように自力で毒を合成していない。

 なので、毒の無いエサさえ与えていれば毒を持たない青虫になるはずだ。もしそれでも毒を持った青虫が誕生すればささっと始末すればいいだけだ。もちろん毒がなくてもすごく不味ければどうなるかは説明する必要はない。

 問題なのはこいつが卵を産むにはつがいが必要であること。どうやら無性生殖はできないらしい。おいおい探すとしよう。

「もっとwwよこせ」

 また催促してきた。冬眠明けだから腹が減っているようだ。それとも魔物は全員食い意地が張っているのかもしれない。春は新芽も多く食い扶持には困らない。

 しかしこいつらの喋り方は独特というか……妙に煽りスキルが高い。このwは(笑)と同じ意味で笑いを意味する言葉をテレパシーによって映像化しながらこっちに送り込んでくる。

 草という意味もある。どうも青虫は絵文字を一文字だけ体得しているらしく、テレパシーでは常に草と言わずにwと言っている。

 さらにwを肯定や賛同の意を示す時にも使うのでややこしいことこの上ない。

 おのれこんなところでもオレの邪魔をするかネット民!

 こうなったら是が非でも食肉にしないとな。せいぜいオレの胃袋に収めるための卵と肉を提供してくれよ? ……凄い悪役セリフだけどこれって家畜を育てているだけだから誰でも行っていることだろ? 倫理や道徳には違反していない。


 やはり春は食物が大量に存在する。少なくとも草食動物なら食うに困ることはない。だからだろうかオレは懐かしい顔とも再会することになった。以前探しても見つからなかった魔物、ドードーである。




「おおう。よかった。絶滅してなかった」

 十数匹の鳥の群れになり、呑気に森を散歩しているのは我らがしょくりょ……アイドルであるドードーだ。

 瑞々しい若草や色鮮やかな花をゆったりついばむ様子は実に和やかで、ゆるキャラにでもしたくなる。だからこそ疑問がある。

 こいつらはどうやって今まで生き延びてきたんだ?

 毒もなければ鋭い爪や牙もなく、動きも遅く頭も……よさそうではないかな。魔物が跋扈するこの世界ではもちろん地球でも生き延びるのは難しいだろう。つまりオレがまだ知らない能力を持っているはずだ。

 それはもちろん魔法だ。オレはドードーの魔法を見たことがない。

 恐らく、ドードーの魔法はかなり強力なんだろう。だからこそ他の魔物は手が出せないに違いない。

 厄介なのは地球ではすでに絶滅しているドードーの生態を詳しく知らないことだ。つまりドードーの魔法がどんなものであるか予測するのは困難だ。これはオレの頭が悪いのではなくドードーを滅ぼしてしまったご先祖様のせいだ。

 できればこいつを家畜にしたい。そのためにはこいつらの魔法を知り、その対策を練る必要がある。オレの知識で対処できるものならいいんだけど……。


 何にせよ攻撃しないことには話が始まらない。

「紫水。準備できた」

 数匹の蟻がドードーの近くに弓を構えて待機している。ドードーたちは警戒心まで薄いらしくあっさり近づくことができた。……こいつらホントに野生動物なのか? 実はどっかの家畜が放牧されてるわけじゃないよな?

「疑問はあるけどひとまず攻撃開始!」

 放たれた矢は今までに比べると貧弱極まりないがそれでもせめてドードーの魔法を明らかにするくらいはできるはず。そう信じて命令を下す。その結果は――――

 矢は次々とドードーに吸い込まれていき、あっさりとドードーは地に伏した。

 ……あれえ? 弱いぞこいつ? どうやって今まで生き延びてたんだ? いやいやまだそう決めつけるには早すぎる。これで群れに危機が迫っていることは感じただろう。生き残ったドードーから反撃が来るはず。油断は禁物だ。

 ドードーはけたたましく鳴き始め、そして!

 一目散に逃げだした! ……それも一糸乱れぬ逃げ方ではなく右往左往とさえ呼べる杜撰な逃げ方だ。そういえばドードーって前にしか走れないんだっけ。全員が一斉に同じ方向へ逃げるのは難しいのかもしれない。お前ら何がしたいの?

 よく見るとまだ息がある。まさか死後に発動する魔法とか? やや警戒しながら矢を射かける。あっさり絶命した。


 …………弱っ!


 何こいつら! 何でこんなに弱いんだ!? 逆に怖くなってきたぞ? 探知能力に反応するから簡単に追跡できるし、戦闘力も低い。これで何故絶滅しない!?

 探知能力が効くならテレパシーもできるよな? 交渉してみるか?

 待てよ? もしもこいつが定番能力の一つ、精神攻撃系の魔法を使うとしたらどうだろうか。それならあんなに弱くてもここまで生き延びた理由になる。もしそうだとすると軽々しくテレパシーを使えない。やっぱりどんな魔法を使えるかどうかは確かめないと。




 やはり魔法や弓矢より筋肉だ! 簡単に見つけられたドードーの群れに真正面から突撃!

 え? 不意打ちしないのかって? オレだってたまには正々堂々戦いますよ。決してドードーは前にしか歩けないから前から襲った方がいいなんて思ってませんよ。

「ようし! それじゃあ蟻君! 君に決めた!」

「君しかいないの間違いでは?」

「やかましい! 何でツッコミだけはキレてるんだよお前ら!」

 一匹の蟻がパニックに陥っているドードーの足元に喰らいつく! 足を一本でも叩き折ればもうまともに動けないはずだ。ドードーゲットだ……ゲフンゲフン。

 しかし、間抜け面のドードーに攻撃を仕掛けた蟻は突然見えない力によって吹き飛ばされた。

「なーにぃぃぃぃぃ! いったい何がおこったぁぁぁぁ! ま、予想はつくけどな」

 言葉とは裏腹にあまり焦ってはいない。もちろんドードーの魔法だ。相手を吹き飛ばす魔法か。シンプルな分威力は高い。シンプルだからこそ、対処しづらい。

 しかし相手に触れなければ使えないタイプの魔法だと見た。だからこそ強大な威力を発揮しているが、それは攻撃が当たってからでなければ反撃できないことを意味する。わずかだが蟻の噛み傷がついており、うまく走れていない。おまけに群れからはぐれている!

 よし。チャンスだ! 待機させていた別の蟻に突撃させる。強力だが見えなければ反撃はできないだろ!

 今度は背後から首筋に咬みつく。窒息させて気絶させるつもりだ。

 しかしまたしても吹き飛ばされた。いや、吹き飛ばされたと言っていいのかどうかわからない。正確には今まさにドードーがいる方向に吹き飛んだ。


 つまり、ドードーと蟻は力の限りぶつかった。


 偶然なんだろうか。たまたまドードーの前方に存在していた木と蟻の間に挟まったドードーは押しつぶされてしまった。

 ボキ。(首の骨が折れたと思われる音)


 …………や、やってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うちの猫は液体です 新作です。時間があれば読んでみてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ