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464 ぐんたい  

「承知。解剖の結果がこちらです」

 七海が何度か交戦した結果獲得したアベルの民を調べた結果をじっくりと眺める。検死と解剖はいつだってオレに真実を教えてくれる。

 アベルの民の体はオレが知るどんな魔物とも違っていた。特に異常なのが奴らは一つの個体ではないということ。

 つまり奴らは群体なのだ。


「切り離した腕が一つの個体として再生した事例も確認されています」

「なるほど。その個体はどうなったんだ?」

「数時間後には死亡しました。ただ、自殺である可能性も否定できません」

 色々とでたらめな魔物を見てきたけど……ほんとに不死身だな。再生能力ならアメーバに迫るかもしれない。

 さて、群体とは生物における集団の一つで、個体そのものが連結し合って発生する。棘皮動物などで見られることが多い。

 この言い方が正しいかは個々人の主観に委ねるとして、地球人類から見て原始的な生物にしか発生しない。哺乳類などの高等生物では絶対に起こりえないとされる。

 これはつまり細胞の分化が原因だ。

 哺乳類などの生物の細胞はその役割に特化した細胞に変化する。これを分化と呼ぶ。

 そしてその分化は不可逆だ。脳細胞がいきなり皮膚になったりはしないということ。

 だが、この世界の魔物にはその法則は当てはまらない。どうも魔物は再生、成長能力が高いせいなのか細胞が多種多様に分化する。

 その辺りの能力を利用して、アベルの民は個体同士の融合、分離を繰り返すことができるのかもしれない。

 どこぞのゲームに出てくる粘体生物もびっくりな不思議能力だ。

 さらに死体などを調べるとアベルの民が一つの個体でコピーできる魔法は本来一つらしい。が、融合することで一つの個体で複数の魔法を扱う能力さえ獲得してしまっている。何というか……。


「調べれば調べるほどチートだな」

「承知いただけましたか?」

「よくわかったよ。調べてくれてありがとう」

「はい。奴らはさらに複数の魔法を並列して扱うことで強引にその体を維持しているようです」

「確かに。そうでもなければ生物として成り立たないか」

 生物が巨大化すると様々な不都合に襲われる。例えば骨格の維持や、血の流れなど。

 それらを魔法、例えば魔物が持つ硬化能力を青虫の魔法などで強化したり、水を操作して血液を無理矢理循環させたりしているのかもしれない。

 逆にアベルの民が魔法を使えなくなれば即死するはずだ。クマムシみたいに魔法を撃ち消す方法はあるけど使用そのものを抑制する方法は少ないから現実的じゃないか。

 ……ぶっちゃけ明確な打開策は思い当たらない。銀髪とはまた違う形で理不尽だな。

 しかも自害するからちゃんと研究できないし……厄介だなあ。かつてエルフがこいつらと戦ったはずだ。……というかエルフは千年前とはいえこいつらと互角に戦ったのか? 少なくとも逃げ出す隙を作れるくらいにはやり合えたらしい。

 どうやって? はっきり言って弓矢や鉄製の武器くらいじゃ勝てなそうだけど……エルフが隣の大陸? そこから連れてきた連中……つまりクワイの家畜だったカミキリス、海老なんかに何かヒントがないだろうか。

 その辺りも調べるべきかもしれない。

「七海。少しでもアベルの民についてわかったことがあれば教えてくれ。ただ、それと並行してスーサンの要塞化も進めろ。優先するべきは後者だ」

「承知」

 七海は自由に動くよりもかっちりした指示を送った方が力を発揮する。どちらかと言うとナンバー2か3向きだ。

 つまりオレが下手を撃たなければしっかり働いてくれる。

 それじゃ次は……ん?


「紫水様。少しよろしいでしょうか」

「エシャ? 何かあったのか?」

 今度はリザードマンのエシャだった。リザードマンたちとはもう話がついているはずだけど、何か用があるのか?

「私の子供を預かっていただいたことに改めてお礼申し上げたく」

 ああその件か。

 エシャは久斗と交尾して子供を授かった。これはオレの計略で、リザードマンとヒトモドキが生物学的に近縁であると証明するためだった。

 あの二人をくっつけるために空や琴音あたりがいらん世話を焼きまくったらしい。空はともかく琴音がちょっかい出すのはちょっと意外だった。ただ、エシャと久斗は交尾したわけだけど、二人はその結果として子供が誕生するとは思っていなかった。当たり前だ。二人は種族が違うはずなのだから。

 さらにリザードマンの上層部、つまり金色種族(ミキエリ)はヒトモドキと茶色種族(ファイゼル)の混血であるという事実を隠しておきたい。

 オレ以外の誰にとっても予想外で、誰からも望まれていない子供なのだ。ぶっちゃけるとリザードマンたちからかなり激しく子供を引き渡す催促があったのも事実だ。

 もうちょっとうまく立ち回ればリザードマンたちから様々な譲歩を引き出せたかもしれない。

 でも策謀の結果とはいえ産まれてくる子供に罪はない。リザードマンたちに引き渡せば何をされるかわかったもんじゃない。

 だから二人の子供はエミシで預かると決めた。普通のリザードマンと比べると色が濃く、どんな種族とも違うけど、多種族混交国家であるエミシならたいして気にならないだろう。

 実質的にこれが唯一の選択肢だっただろう。


「そんなに感謝してもらわなくていいんだけどな。それよりお前こそ久斗と一緒にいなくていいのか? 確かお前たちは一夫一妻制なんだろ?」

 オレにはさっぱり理解できないけど、家族や家庭で穏やかに過ごすことを至福だと感じる輩もいるらしい。

「いいえ。私は彼と一緒にいるべきではないでしょう」

「はえ? そうなの?」

「ええ。一緒にいない方が幸せだと理解してしまったのです」

 ? ? ?

 よくわからん。男と女の機微ってやつ? 

 ……あれ? オレ、もしかして久斗にさえそういう経験で負けてんのか? ……じ、地味にショック。

「紫水様。それから久斗もあなたと話したいと仰っていました」

「わかった」

 まだまだ忙しくなりそうだった。


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うちの猫は液体です 新作です。時間があれば読んでみてください。
― 新着の感想 ―
[一言] なるほど、銀髪の能力も種族能力だと思われたのかな
[一言] 情緒ゴミなのに生命倫理パーフェクトな紫水マジ紫水。 子供ができると思ってないのに致すとか、ホントに文字通りのメイクラブだったんだね。デキると想定していなかった子供が悲劇をもたらすのはどこの世…
[一言] まぁ、そう言うこともあるだろう。
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