463 海の底から
「それはそれは。なんとも非常事態の御様子。ぜひとも我々に協力させていただけませんかな」
今のところ最大の協力相手であるアンティ同盟の神官長ティウがクワイの現状を聞いたところこの反応だ。
実に頼もしい。
この返答の直前に食料やらなんやらを大量に要求された気もするけれど、それは些細な問題だ。
「そういやティウ。お前たちのところにはクマムシは来てないのか?」
「まったく見かけませんな。海から来る敵であるなら、高原までたどり着けないのでしょう」
それもそうか。高原はかなり内地にあるのでクマムシの被害は全くないらしい。遊牧民を手なずけておいてよかった。高原が最期の避難所になってしまう事態を防げたようだ。
「それなら遠慮なく引き抜くぞ。連絡役としてマーモットはいる。後は足の速い奴だな。特に鷲。アベルの民に勝つには奴らの協力がないとどうにもならない」
「話を聞く限り、空を飛ぶ要塞のような敵ですな。打つ手はあるので?」
「一応な」
銀髪は搦手でなければ対処できないけど、アベルの民は力押しで倒せる。というか、情報が少なすぎて交渉や謀略がかなり難しい。何をどうやったら会話のきっかけになるかもわからない。
なので上空を攻撃できる兵器を樹里が必死に開発中。アドバイスはしたので時間さえあれば完成にこぎつけるだろう。……ますますオレの仕事が少なくなるな。結構なことだけどちょっと寂しい。
「鷲、ハリネズミ、スカラベ辺りはいればいるほどありがたい。カンガルーたちは放っておいてもついてきそうか?」
「でしょうな。執念深くはありませんが、好機を見逃すほど優しくはないでしょう。彼女らも、あれの殲滅を願っています」
ヒトモドキによる被害で刻まれたのは、一度や二度の勝利で消え去るほど生易しい怨恨ではない。
「了解。補給などの心配はいらない。全部こっちが持つ」
「結構です。では、戦場で会いましょう」
「おう」
まあオレ自身が戦場に立つことはないけどな。
他からも色々と戦力を捻出できないか聞いてみたところ、大部分の勢力が協力してくれることになった。例外はめんどくさがった眉狸や、単純に居住地から距離がありすぎるオーガだ。
ただ、地上戦力の多くは直接戦闘には参加せず、露払いや物資の運搬を担当させるつもりだ。
銀髪とアベルの民の火力が高すぎてまともな方法じゃ近づくことさえままならない。それでも肉壁を剥いだり、主攻部隊を守ったりはできるので役には立つけどね。
どちらかと言うと、今まで住んでいる地域から離れて今までクワイの支配地域を見てもらいたいのだ。この戦いに負けたとしても、奴らは出ていくのでクワイの土地は丸々手に入る。
それをオレたちが全部手に入れてもいいけれど、流石に手に余る。かと言って放置しすぎると厄介な魔物が住み着いたりするかもしれない。適度にこちらの言うことを聞いてくれる入植者を募集したいのだ。
つまり、戦いの先を考える余裕が今はある。ま、そもそも戦争なんてその先の結果を考えてからじゃないと本来やっちゃいけないんだけどな。去年のヒトモドキどもみたいに自爆するのは極端だけど慎重に熟慮してからで遅くない。
そこでもう少し考えるべきなのは、アベルの民の正体だ。今までの魔物は地球に住んでいる生物と共通点があった。果たして奴にも地球の生物と関りはあるのだろうか。
少なくとも、奴が海や水辺の生物だという可能性は高いと思う。
電気を上手く使う生物は水に多いし、あの鮮やかな色合いはどちらかと言うと海の有毒生物のようだ。
というわけで、援軍要請のついでに、オーガたちに話を聞いてみた。数少ない海棲動物でありながらオレたちの味方だからだ。海老? 奴らは飼いならされていたから駄目だ。
「いやあ、すまん! 聞いたことがないなあ!」
オーガの国王イドナイは子供をあやしつつ、イクメンの本領を発揮しながら豪快に返答する。
「もともと我らは沖には向かわん。浅瀬や、入り組んだ海底でなければ魔獣どもに見つかるからなあ」
海にはプレデターXをはじめとした超大型魔物がおり、それらを魔獣と呼んでいるらしい。
「ちなみに魔獣に見つかればどうする?」
「逃げる」
ですよねー。
あれには勝てん。わかりきってることだ。
推測なのだけれど、オーガやアベルの民は海棲爬虫類などとの生存競争に敗北して陸上に進出した魔物ではないだろうか。
その結果として手先の器用さや、道具などを活用できる知能を手に入れたのではないだろうか。この世界の進化史は地球とはかなり違うと言っても法則くらいはあるはず。
ふむ。やっぱりアベルの民は水中生物だった可能性は高そうだ。ではさらに絞り込むにはどうするべきか。それを知るためにも現在直接アベルの民と直接交戦している経験が最も多い七海に話を聞きに行こう。




