453 憐れむな
「さて、それじゃあ物理的な証拠を提出しよう。多分そろそろそっちに届くはずだ」
なんだか犯罪を暴く探偵のような気分になってきた。いや、自白を促す取り調べ係かな? もうタストは半落ちを超えているだろうけど。
「今度は何を?」
「転生者を見分けるのは記憶以外じゃあ難しい。でも、物理的に確認する方法があるんだ。……体を解剖しないといけないから生きてるうちは無理だけどね」
解剖という言葉にびくりと身を震わせる。そんなに心配しなくてもあんたは解剖しないよ。
指示を出しておいた働き蟻がタストに小さな幾何学模様が描かれたカードのような何かを手渡す。これは以前鵺の体内から見つかったものと同じだが、一回り小さい。そしてこれが見つかったのは……。
「これは?」
「オレは便宜上メモリーチップって呼んでる。特殊な条件を満たした転生者の死体からはこれが検出される」
「……! じゃあ、僕らの体の中にもこれが!?」
「そ。試しに壊そうとしてみたら? 絶対に壊せないから」
タストは魔法を使ったり、壁に叩きつけたり、たまったストレスをメモリーチップにぶつけているようだった。しかしメモリーチップは傷一つついていない。普通じゃないのは明らかだろう。
「これは一体何でできているんだ?」
「少なくともケイ素でできているのは間違いない。分子配列が特殊なのか、それとも原子そのものに何かの仕掛けがあるのか、明らかにまともな物質じゃない」
これこそが転生者を転生者たらしめている何かであり、同時にこれによって何らかの特殊な能力が付与されているはず。
多分、性能の高いメモリーチップを作る場合、監理局のリソースを使用するんだろう。そうでなけりゃもっと強い転生者をいくらでも作れるはずだ。
「これには、どういう効果があるんだい?」
「はっきりと確信してるわけじゃないけど、これが転生者の体内で作られる」
「……これがワープしてくるわけじゃないんだね?」
「多分。まあファックスみたいなもんじゃないかな。情報を発信して、実際に組み立てるのは生物が行う」
「……名前から察すると、これが僕らに記憶を植え付けたりするのかい?」
「大正解」
メモリーチップが破損した転生者は精神に不調をきたす。ある程度成長していれば記憶の移植や定着が完了しているらしく、影響は少ないけど、幼児期に破損すると記憶の乖離や、人格が不安定になる症状がみられる。
ちなみに体内にあるメモリーチップを破損させる方法はアリジゴクの魔法だ。あれはケイ素を遠隔で破壊する魔法なので、体内にあるメモリーチップの働きがおかしくなるようだ。
さらに言えば、このメモリーチップは転生者が死亡すると溶解する。恐らく隠蔽のためだろう。が、アリジゴクの魔法で破損させると時間が経っても消えなくなる。
鵺の体からこれが出てきたのはアリジゴクと戦闘していたせいだ。完全に偶然だけどアリジゴクには二重三重の意味で感謝しないといけない。
「は、ははは。認めるしかないじゃないか。僕たちはただのコピー品何だね」
「ご理解どうも」
「じゃあ、僕らが二人いるかもしれないのかい?」
「理論的にはいけるけど、監理局のルール的にはだめらしいな。同じ個体を複製した場合、どちらかが必ず消去される決まりらしい。あ、ついでに言うと、あんたらが転生するときに管理局員と会ってる記憶があるよな? あの時も体は製造されるけど転生前に必ず分解されて再利用されるんだとか」
「……製造とか再利用とか……僕らは機械か何かなのかい?」
「管理局にとっては似たようなもんじゃないかな」
自虐的な感想は実に的を射ている。
オレたち転生者は粗製乱造品だ。たとえ魂があったとして、それが大事だと確信したいのなら、それは唯一無二の存在でなければならない。パソコンのデータのようにあっさりコピーできるのであればそれは神秘性と絶対性を失う。
その時点で魂などというものはあってもなくても変わらない。ま、そんなものはないと思っているけどね。
「君は……どうやってそれを受け入れたんだい……?」
「正直に言えば、ショックだったよ」
自分がそんなUSBに保存されたデータ程度の存在だったと思いたくはない。
SFだとコピーされた肉体や記憶を持ったもう一人の自分がいるから私は不滅なのだー、なんて力説するラスボスはいるけど、オレはそこまで割り切れない。
やっぱり、地球で死んだあの人間と、オレは別の存在であり、オレはその記憶を受け継いだにすぎない。
仮に、あの男がここにいたとしても全く同じことをしただろう。オレとは違う存在だけど、オレと同じ記憶を持ったあいつなら。
つまり、あいつはヒトモドキを滅ぼし、国家を作り、神などと名乗るくそ野郎どもに喧嘩を売る奴だったわけだ。わがことながら、ちょっと頭おかしい。魔物よりもよっぽど化け物だ。
あれで普通の学生だったんだから恐れ入る。マッドサイエンティストでも英雄でも何でもない奴が生きたいという願望だけでそこまでのことをやってのけられるのだろうか。まあ実際できてしまったわけだが。や、まだ道半ばではあるけど。
「別人ではあるけど、よく似た奴。双子みたいなもんだと思えばそんなに苦痛にはならないんじゃないかな」
自説を述べると、タストはうなだれた。




