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436 無駄じゃない

 真っ先に救援の報告をしたのはリザードマンのエシャだった。

「何とか間に合いました! 茶色種族(ファイゼル)五百。金色種族(ミキエリ)五百。少数ですが助太刀にまいりました! 紫水様!」

「エシャか! 疲れていないのか?」

「そうも言ってられません。今力を貸さずしていつ貸しましょうか! 我らを運んでいただいた象も子供を返してくれた恩を返すと仰っていました」

 リザードマンがオレたちに力を貸す理由は少々複雑だ。まずは食糧支援。そしてリザードマンのとある秘密。

 その秘密を黙秘する代わりに協力を取り付けた。交渉がまとまったのがかなり遅れたので少数になってしまったのは痛かったけど、リザードマンの魔法はかなりヒトモドキと相性がいい。

 一騎当千……は無理でも一騎当十くらいなら容易い。

 そして象。

 こいつらは薬漬けになっていた象をなんとか会話できる程度まで回復させた。特別なことはしていない。辛抱強く、食事療法とカウンセリングをしただけだ。情緒不安定であることには変わりないけど、もう少し時間をかければ状態は良くなるはずだ。

 さらに、阿片らしき薬物の原材料を突き止め、それらを象に伝え、見かけ次第踏みつぶすように助言した。

 こうして奴らにとってオレたちは家族を助けた恩人になった。

 象が味方になったメリットは単純な戦力よりもむしろその運送能力だった。象自身は草木を主食とするので食料を用意する必要がない。そのためヒトモドキから奪った食料をここに集う味方に届ける役割を果たしてもらった。余裕があればリザードマンのように兵隊を運ぶこともある。

 結果的に、象は銀髪の巨人と似たような役割を果たしたのかもしれない。その役割を終えた今、その巨体を存分に戦力として使ってもらおう。

 しかしそれでも、数十万を超えるヒトモドキにはまだ足りない。




「いやあここは暑いな! ラーナではこれほど暑くなることなどないからなあ!」

「何だ? ばてたのか?」

「いやいや! 貴公への恩を返すためだ! この程度どうということもなかろうよ!」

 暑さに辟易しながらヒトモドキの頭を棍棒で吹き飛ばしているのはオーガのイドナイ。恐らくはセイウチから進化した魔物であるはずなので暑さには強くない。

 そんなオーガたちがここまで駆けつけた方法は単純。泳いできた。

 イエス、レッツスイム。

 陸路はオーガの体質に合わないし、ヒトモドキの妨害があるので難しい。しかし川まで警戒はできるはずもない。ということで当初は川沿いを移動してもらっていたけど、事情が二つ重なったので、海を利用してもらった。

 一つ。

 比較的海に近い放棄されたクワイの街を利用するため。

 二つ。

 銀髪が海の魔物をぶっ殺してくれたこと。あいつは船で移動するために海の魔物をぶっ殺していたわけだけど、そのせいなのかこの近海で大型の魔物がほとんど見られなくなった。一体どんだけ殺したんだあいつ。

 というわけで銀髪が地ならししてくれた道を歩むようにオーガたちは移動できた。それでも間に合うかどうかはぎりぎりだったけど……そこはイドナイの奮闘のたまものかな。




 そして昏倒しているヒトモドキ。これは狸の仕業……なんだけど……?

「オルーシ? お前、何でこんなところにいるんだ?」

「そんなんお助けするために決まってるやん!」

「そりゃ助かるけど……お前呼んでないよな?」

「そうやな。せやけど呼ばれんでも助けに行くんが真の友情ってもんやろ?」

 ……こんな都合のいいこと言ってるけどさあ。多分、こいつどっかで様子を窺ってたんじゃないか? それで戦局がよくなりそうだから手を貸した気がする。調子のいいというかなんというか。

 でも不思議と嫌いにはなれないんだよなあ。

「援軍には感謝する。死なないようにうまく立ち回れよ」

「おう! 土産に期待してまっせ!」

 ……とことん現金な奴だ。




「ご無事ですかな樹海の方々」

「もちろんだティウ」

 アンティ同盟の神官長、ティウが直々に軍を率いてやってきてくれた。

 こいつらは高原の北側から大回りして山を迂回してこちら側に来た。実を言うとこのルートはもともと寧々が輸送ルートをもう一つ確保するために考案したもので、七海がちょっとずつ各所に補給用の巣などを建設していたものだ。

 これはアンティ同盟に限った話ではないけど、本来行軍には莫大な食料を必要とする。しかし、今回に関しては食料の心配をする必要はなかった。何しろヒトモドキが食料を運んできてくれたのだから。

 奴らが運んだ食料を奪ってそれを輸送する。そうすることで迅速かつ確実に軍を進めることができた。

 クワイ上層部の失態は食料の管理をおろそかにしたことだ。運びきれなかった食料をそのままにしたり、輜重隊の警備をろくにしていなかったりと、軍隊にあるまじき杜撰さだった。せめて奪われないように燃やせばよかったものを。

 もっとも、奴らの教義に従えば、魔物が食料を奪うために戦っているはずはないのでそんなことができなかったのかもしれないけどな。

「それはよかった。我々の苦労も無駄にならずに済むというもの。ケーロイもリャキも随分あなたのことを気に入っておられますからな。まだまだ死なれては困ります」

「そうか。じゃあ、こっから挽回しようか」

「おや。何か秘策がおありで?」

「ああ。お前たちのおかげで銀髪以外は何とか食い止められそうだ」

 ヒトモドキの軍隊は縦に伸び切っている。壁を乗り越え、遮るものがなくなった喜びで前進を急ぎすぎたせいだ。つまり銀髪の指示も、盾も何もかも届かない。不意打ちを受けた軍隊なんざ敵じゃない。

 もっともこれは偶然じゃない。オレたちがちょうど壁を突破される頃にすべての援軍が到着するようにスケジュールを管理したのだ。

 一歩間違えればそのまま突破されたかと思うとぞっとする。

 しかしこれでヒトモドキは完全に統率を失っている。今なら銀髪だって隙を見せてくれるはずだ。

「さあ! まずはドードー! 銀髪の盾に向かって突撃だ!」

「いざゆかん。前に進むのだ」

 壁の中に待機していて、何とか生き残ったドードーたちを銀髪の巨大な盾に突撃させる。

 ドードーの魔法は魔物や魔法に触れると相手を吹き飛ばす魔法。ただし、この効果は銀髪の魔法で防がれることはあいつとの最初の戦いで知っている。

 でも、無意味じゃない。

 ドードーの魔法は相手がどこにいたとしても発動する。調べた限りでは距離や、壁によってその効果が落ちることは決してない。

 そして、魔法同士がぶつかる際、かなり激しく発光する。

 その光が、駕籠の外側まで届いたとすれば――――?

 一つの駕籠から、黄褐色と銀色の光が争うように漏れ出ている。

「大当たりだ! 銀髪が乗っている駕籠がわかったぞ!」

 何一つとして無駄じゃない。あの時の敗北も、屈辱も、何ひとつとして無益ではない!

 銀髪の乗っている駕籠はわかった。後は――――美月と久斗に任せる。


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うちの猫は液体です 新作です。時間があれば読んでみてください。
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