381 雷光
わずか十人の敵兵に対してこちらは百人以上。
こちらはほとんどがラプトルと働き蟻、カッコウが数人。ただ主な武器は弓。しかし十倍の兵力差があれば押し切れる自信があった。
まずは数人の働き蟻が牽制するように家屋に身を隠しながら弓矢を放つ。未知の敵に対して迂闊に突撃せずに味方が集まるまで時間を稼ぐつもりのようだ。
西藍たちはバリアを張り、防いでいるが、手を出せないようにも見える。
だが一人の西藍が何やら腕に妙な二本の金属の棒を取り付けている。何というか……ロボット? その金属の棒が何かよくわからない物質で包まれていく。
生物ではなく機械、あるいは兵器のよう無機質さがある。その直感は正しかった。
光。
一瞬だけ、稲妻のような光が瞬くと……働き蟻が壁ごと貫かれ、絶命していた。
何かを考える暇もなく、また光が輝く。
何が起こったのかはわからない。だがしかし西藍から放たれた何かが働き蟻を貫いたのは確かだ。
飛び道具。それは理解できる。だがあまりにも速すぎる。
そして。これは銃ではない。
発想は同じだが、動力が違う。確信があるわけではない。しかし、あの兵器は――――。
「レールガン!? いや、リニアガン!? なんかわからんけど、でも、あれは火薬じゃない! 多分電気の力で弾丸を射出する兵器!? ふざけんな! 何でそんなもんがそこにある!?」
地球においてレールガンなどの電気や磁力を利用した兵器はほぼすべて実験段階の域を出ない。
しかしこの西藍は地球でさえ実用化していない兵器を使いこなしている。もちろん地球ではレールガンのような兵器以外にもっと使える兵器があるから環境が同じわけではないし、あいつらが使っているのは歩兵レベルの携帯火器。
それでもあまりにも疑問点が多い。
電気をどうやって得ているのか。いくらなんでも威力がありすぎないか? 弾丸の材質は? そもそもどうやって思いついた?
が、それよりもまずい事実が一つある。
「レールガンの弱点って何だ……?」
残念ながら実験兵器でしかないレールガンの知識はほとんどない。それこそ地球上の誰だって歩兵が実戦で使えるくらいのレールガンの知識なんかあるはずもない。
いやそもそも、これがレールガンだったとして本当に地球のレールガンと同じかどうかの保証はない。
い、いやいやいや!
それでもレールガンはレールガン!
所詮は銃の延長線上にしか存在しない兵器! 突然体が硬くなるわけじゃない! 生き物ならどんな兵器を使っていたって首を斬れば死ぬはずだ!
働き蟻たちが一斉に矢を射かける。
今までの感触からすると西藍のシールドはそれほど硬くない。集中砲火すればそのうち割れるはず!
だが、そのむしろ敵のシールドは先ほどよりも輝きを増し、強固になっているようにさえ見える。
それどころかレールガンによる反撃が増え、こちらの被害が増えてきた。
それに伴い、なぜか西藍の体からボイラーのような蒸気が噴出されている。まるで体そのものが一つの機械のように。
嫌な予感が頭を掠める。
こいつらはまさか……。
「発電や発熱のエネルギーを利用して魔法の能力を底上げしてるのか?」
体の中にエンジンのような動力機関、あるいは動力器官を持ちそれらのエネルギーを利用して魔法を発動させる。
比較的それに近いことはカンガルーたちがやっている。運動エネルギーを吸収し、放出する。
しかしこれは訳が違う。電気や熱という全く違うエネルギーを様々な形に変換していることになる。
つまり、最低でも電気を操る魔法を使えるはずだ。
そんな生き物がいるのだろうか――――いるのだ。
地球には。電気を自在に操る生物はいる。
「デンキウナギか――――!! 発電魚だな!? あいつら、発電魚の魔物の魔法を奪いやがったな!? ああくそ! そうか、だから水素を作る海藻を重要視していたのか!?」
水素と酸素の化学反応によって電気が発生する。
これは水素電池などの基本的な原理であり、将来的な環境対策として研究段階の技術だ。恐らく西藍はこの反応を利用して電気を得ている。
ただし本来なら水素を大量に取得するのは化石資源か、発電によって水を電気分解するなどの回りくどい方法が必要だ。
しかし、この世界には水素を発生させる海藻がある。時間さえあれば水素はいくらでも作れる。
ただし。
目で見ただけならば水素と酸素の反応で電気が発生しているかどうかなんかわかるはずもない。地球人なら。
発電魚には電気を発生させるだけでなく、電気をレーダーのように使い、獲物や外敵を探知することもできるという。
そして魔物ならそれこそ手足を扱うかのように魔法を使える。電気を操る魔法を使えるなら、やはり手足の如く電気を操っているのだろう。
本能的に電気という概念を理解できるのだ。
だからこそ蒸気機関のような過程をすっ飛ばして電気による兵器や動力を生み出せるのではないだろうか。
さらにその発電や熱を利用して魔法を強化している?
今まで魔法のエネルギー源はよくわからなかった。少なくとも体内のエネルギーを利用していたはずだ。ただし、こいつらは外部からエネルギーを供給することができる。
例えるなら車のエンジンを人間にぶち込んで無理矢理動かす改造人間。いや、改造魔物か。
根本的に文明が違う。
道具を発達させた地球人類文明とは根本的に別方向に向かった文明だ。
だからこそ。
「あいつらにだってオレたちの道具は理解できないはずだ! 相手に対処される前に潰すぞ!」
恐らくは西藍との前哨戦となる戦いが本格的に始まった。




