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347 魔王

「銀髪のことは一旦どけよう。他に報告は?」

「コッコー。騎士団は予定より遅く進軍しています。さらに兵隊は集まっていないもよう。病人は兵士にならないようです。七海の建造している砦にはあと数日程です」

 どうやらペスト作戦はうまくいっているらしい。こちらは完全に計画通り。

「コッコー。西方地域への偵察はうまくいっておりません」

「なにかトラブルが?」

「コッコー。それさえも不明です。スーサン以西へ向かった人員が全く戻ってきません」

 偶然ではないだろう。何らかの事情によってカッコウさえも侵入できなくなっているようだ。空を飛ぶカッコウを攻撃できるということは……飛行する魔物でもいるのだろうか。

「コッコー。これは報告するべきか迷ったのですが……」

「ん、何?」

 そう言われると気になるのが人情というもの。

「コッコー。聖別マディールというものをご存じですね」

「うん。知ってる」

 要するに魔物をヒトモドキどもの従僕にすることだ。

「どうやらその聖別マディールは王族が暮らす王宮で行われるようなのです」

「……王族が魔物を飼育しているのか?」

「コッコー。王族によって穢れを払われた魔物が聖別マディールされた魔物ということのようです」

 ……これは少し矛盾している。セイノス教は穢れを嫌う。ある意味セイノス教の象徴的トップに位置する王族がまるで魔物を集めているようじゃないか。

 何のために? それはきっと魔物を利用するためだ。聖別マディールと呼ばれる魔物の調教、あるいは品種改良。

 それはもはや、育種学と呼んでよい。ちなみによりよい品種を作成するために、農作物や家畜を選抜するという行為は地球では古来より行われていた。しかし、クワイにおいてそういう選抜が行われている様子がない。しかし明らかに品種改良されたと思しき農作物があるのも事実。

「……クワイでは品種改良などは王族が一括して管理しているのか……?」

 ……正直王族はただのお飾りだと思っていたけど……どうも違うようだ。以前魔物の調教師のような一族がどこかにいると思っていた。

 しかし王族こそがそうだとしたら? 

 例えば――――王族は何らかの方法で魔物とコミュニケーションできるのだとしたら?

 クワイにとっては一大スキャンダルではないだろうか。

「ちょっと王族について興味が出てきたな。そっちも調べてもらえるか?」

「コッコー」

 和香の気配が遠ざかる。あれで案外働き者だな。


 少しばかり休憩しようかと思ったところでまた再び遠方からのテレパシー。この能力は便利だけど着信拒否が難しいのが難点だ。

「今度はお前かティウ」

 マーモットの神官長にしてアンティ同盟の運営人とでも呼ぶべき腹黒ネズミのお出ましだった。

「おやおやお疲れの御様子ですね」

「まーな。何か用か?」

 こいつもぞんざいに扱って気分を害するような奴じゃないけどこいつの話をスルーするとあとあと面倒になりそうだからまじめに話を聞かないといけない。

「黒い悪魔の掃討が完了しました。今年は去年のようなトラブルはないでしょう」

 黒い悪魔とはバッタのことだ。去年は大発生して大変だった。

「ひとまず吉報だな。こっちも吉報だ。オーガと協力関係になった。時間があれば援軍に来てくれるかもしれない」

「ほう。流石ですな。これで対魔王同盟がまたひとつ強固になりましたね」

「……なんだその同盟?」

「魔王とは銀髪のことですよ」

「ああうん。それは大体察しが付くけど……なんで魔王?」

「こういうのは名前があった方がよいのです。魔王、と聞くといかにも不倶戴天の仇敵、という気がするでしょう?」

「そうだけどな……」

 ついに銀髪が魔王扱いか。流石にちょっと不憫……でもないな。奴にはさんざん煮え湯を飲まされてきたんだ。それくらいの扱いは許されるだろう。

「ひとまず我々は現在自由に動ける身です。進軍してくる騎士団にどう対処しましょう」

「以前と変わらないよ。オレたちの砦で止めてお前たちが補給路や背面を衝く」

「では、その予定で」

 すうっと消える感覚。

 ……あいつらいよいよオレの軍師の座でも狙ってるよな。実際必要だし。あ、銀髪が何でいないのか聞いた方がよかったか? まあいいか。






 当初アグルは少なくとも大過なく高原トゥッチェにたどり着けると思っていた。

 すでに何度か通った道であるし、すでに村や町の状況も把握してある。だが今回の行軍は例に無く厳しい行軍だった。

 進路上の町や村に恐ろしい疫病が発生していたのである。そこから騎士団への参加を依頼するわけにもいかないし、ましてや食料を融通してもらうわけにもいかない。……はずだった。

 アグルの予想に反して村々の人々は何とか騎士団に貢献しようと必死だった。騎士団、ひいては高位の聖職者に貢献することで神の怒りを鎮め、疫病を和らげようと考えたのだろう。

 その様子に感動する騎士団員もいたが、アグルとしては疫病が発生した町の住人の騎士団への参加だけは絶対に阻止したかった。もしも騎士団全体に疫病が蔓延すれば魔物の討伐どころではないのだ。

 この戦いは絶対に負けなければならない。蟻の脅威を喧伝し、銀の聖女だけがこのクワイを救えると信じ込ませるのだ。

 そういう策略をつい先日合流したトゥッチェ四天王の一人であるチャーロに、クワイに革新をもたらさんとする一団の一人であるアグルは語っていた。


「……事情は分かりました。私も協力しますが……教都チャンガンはそのようなことになっていたのですね」

 地方にいれば中央の様子はわからないだろう。

「お互いが足を引っ張っている状況ではないのです。団結するためにもこの策は必要です」

「確かに。どうも皆不安を感じているようです」

「不安? 何かあったのですか?」

 ……がっしりとした女性であるチャーロらしくない困惑、あるいは恐怖、その中間のような表情で言葉を絞り出す。

「……魔王……」

「魔王……?」

「そういう噂があるのですよ。疫病が蔓延するのは魔王がいるからだと、ね」


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うちの猫は液体です 新作です。時間があれば読んでみてください。
― 新着の感想 ―
なるほど、テレパシーが使えるのが王家なのか。そういえば銀髪祖母もテレパシー使えてたもんな
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