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321 美しい友情

 小奇麗ではあるのだが、薄暗く鬱々とした空気が充満した部屋に柔和な老人が長椅子に腰かけていた。

 何をするでもなく、部屋の隅を眺める様子は老人らしいと言えなくもなかったが、そのぎらついた眼光は野心を忘れてはいないのだろう。

 ふと足音が聞こえる。音の間隔は短く、その音の主が焦っていると想像できる。

 老人の瞳によりいっそう剣呑な灯がともる。しかしその灯は一瞬で消える。途端に立ち枯れた樹木のような弱弱しさが老人にとりついた。


 靴音は部屋の扉の前で止まり、鍵が開くと同時に一人の男が部屋の中に足を踏み入れる。

 その男こそ異世界転生管理局地球支部支部長代理翡翠(かわせみ)だった。そして部屋に軟禁されていた老人こそ元異世界転生管理局地球支部支部長百舌鳥(もず)だった。

 二人の視線が交錯する。

 言葉を交わさずにつかつかと百舌鳥に歩み寄り……そして、中腰になった翡翠は百舌鳥の手を取り、謝罪するように頭を下げた。

「百舌鳥さん! 申し訳ありません! 私が間違っていました! あなたを拘禁するべきではなかった!」

 ように、ではない。その口から飛び出したのはまさしく謝罪だった。なんという面の皮の厚さ。以前これ幸いと百舌鳥を罵ったのはその口だろうに。

 しかし百舌鳥は鷹揚にうなずきながら優しく声をかけた。

「よいのだ翡翠君。いつか君ならわかってくれると信じていたよ」

 何という慈悲深い心だろうか! あれほどむごい仕打ちを行った翡翠を許すとは! 百舌鳥の心は星よりも輝き、世界を照らすのだろう。

「はい! 百舌鳥さんには私の補助を頼みたいのです! あなたと私ならば私が抱える問題など立ちどころに解決できるでしょう!」

 その言葉を聞いた百舌鳥は一瞬だけこめかみに青筋を立てる。翡翠からは見えないことを理解しながら。

 翡翠はあくまでも権力構造はそのままに、百舌鳥の助力を希っているのだ。百舌鳥を十全に信頼していないことは明らかだ。あまりにも一方的な要求を百舌鳥が受け入れると思っているのだろうか。

「もちろんだとも。君と私ならばいかなる問題もあるまい」

 百舌鳥は鷹揚に受け入れた。それを聞いた翡翠も喜んで答える。

「はい! ありがとうございます!」

 二人は手を取り合い、そしてお互いを抱擁した。ここに二人の和解はなった。

 この輝かんばかりの美しい友情を心の裡に持つ二人ならばいかなる障害も、困難も打破できるに違いない。


お待たせしました。

第五章の投稿を開始します。

今日中にもう一話、明日に一話投降した後、いつも通り、火曜、木曜、土曜の19時に投降する予定です。

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うちの猫は液体です 新作です。時間があれば読んでみてください。
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