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275 天からの贈り物

「ようし。カッコウたち。いけそうか?」

「コッコー。障害になりそうな敵はいません。ですが、敵の何人かがそちらへ向かうようです」

 げ。

 もしかしていつまでも戻ってこない味方の様子を見に来るのか? ……排除したいけど、下手に手を出すと逃げそうだよなあ。後で翼に相談だな。

「まあいい。それじゃあ予定通り、届けろ」

「コッコー」

 カッコウたちは上空から何かを落とす。爆弾でも落とせばよかったけど……残念ながらまだ爆弾は大量生産不可。ま、考えようによっては爆弾よりもえげつない兵器だけどな。

 狙うのはヒトモドキではなく、家畜のヤギだ。

 カッコウがぽとぽとと落としたのはジャガオ。いきなりヤギたちは落ちてきたジャガオを胡乱な目つきで見ていたが、ふんふんと匂いを嗅ぐと食べ物だと判断したのかもぐもぐと食べ始めた。

 ジャガオはジャガイモとチョウセンアサガオ辺りの植物の性質が混じった魔物植物。その魔法は<心変わり>。同種の魔物を襲わずにはいられなくなる幻覚を見せられてしまう。

 ヤギはかなりおとなしい魔物だけど、それでも生き物だ。敵に襲われれば身を守ろうとするはずだ。しかも、敵ではなく、信頼すべき仲間に襲われればどうなる?

 そりゃ混乱するさ。

 カッコウは数十人しかいないけどジャガオをきちんとばら撒いて同士討ちが始まれば遊牧民の野営地は大混乱に陥るはずだ。なにしろヤギの数はヒトモドキよりもよっぽど多いんだから。予想通り野営地の各所で騒ぎが始まった。今はまだボヤだけどそのうち大火事になるに違いない。

 たとえうまくいかなかったとしても戸惑ってはくれるさ。

「カッコウたち。監視を継ぞ――――いや待て」

 探知能力を集中させる。追撃部隊が戦闘している場所の北から集団が馬を走らせている。

 今追撃させているヒトモドキの部隊は東北東に向かっている。そっちに野営地があるからだ。だから援軍が来るとすれば東のはず。

 だが、北から角馬に乗ったヒトモドキの一団が駆け抜けてくるはずはない。……いや、遊牧民は牧草や水場を求めてこの辺りを放牧していたはず。そいつらが異変に気付いたのか?

「予定変更。一人だけ野営地を見張って、他の奴らは戦場の周囲を監視しつつ、敵増援がいないかを確認してくれ」

「コッコー」

 これからも逐次増援が来るとしたら……よくないな。いや、むしろいいのか? 敵戦力が勝手に分散してくれるんだから。いやでもそれで追撃の手が緩んだら……うーん。ひとまず翼に報告だな。


「翼。敵増援を確認。北から。数は騎兵五百。おそらく放牧していた連中だ」

「承知いたしました。まずはそちらから殲滅します」

「それだと追撃している本隊に抜けられないか?」

「そうなるでしょう。ですがそろそろ砂煙が晴れます。そうなってから合流されると挟撃の危険があります。ならばこちらも一度離れて態勢を整えた方がよいでしょう」

 ほへー。色々考えてるんだなあ。逆に言えば向こうに立て直す時間を与えても問題ないくらい戦局が有利だってことかな?

「それよりも野営地での破壊工作はどうなりましたか?」

「ばっちりだ。ヤギは暴れまわってる。本格的に混乱するのはもう少し先になりそうだけど……あ、でもそっちに野営地から偵察が向かってるぞ」

「それも問題ありますまい。野営地が混乱していれば統率された退却は困難です。追撃は可能でしょう」

「頼もしいよ翼。ただ損害が多くなりそうならお前の判断で退却してもいいからな」

「御意」

 戦場はもはや翼の手の上で転がっている。後は詰めを誤らなければいいだけだ。




 ウェングたちが偵察として砂煙が起こっている場所に到着し、ようやく何が起こっているか一部だけでも見えるようになると、あまりの惨状に絶句した。

 夥しい信徒の死体。今朝普段と変わらぬ挨拶を交わした女たちが血を流しながら倒れ伏している。

 顔を紅潮させた男が今にも馬の尻を蹴り、走ろうとするが、ウェングはそれを制止した。

「どこへ行くつもりだよ!」

「決まっているだろう! 族長たちを助けに行く!」

「はあ!? 何考えてるんだ!? 野営地に戻って事態を報告しないといけないだろう!?」

「奴らを見捨てろというのか!?」

 話しかけている男とは別の男が罵声を浴びせてきたが、ここで引き下がるわけにはいかない。

「冷静に考えろ! 一万人以上いる味方が負けたんだぞ!? 数人でどうにかなるわけないだろう!?」

「そんなことはない! 神の導きがあれば必ずや!」

(くそ! 予想外の事態だから完全に度を失ってやがる。どうしたら説得できる?)

 未来を見る。どうすればいいのかを探るために。そして一つの可能性が映し出された。その手段に頼るのは不本意だったが、これが一番良い方法だと理解してしまった。

「俺たちがサイシー様より託された命令は偵察だ。ここで突撃することはその命令を破ることになるぞ」

 ぴしり、と硬直した後、男たちはうなずいた。

「……わかった。まず野営地に戻ろう」

 不満を隠そうとしていないが命令を破る度胸はないらしい。

 今の自分はさしずめ虎の威を借りる狐だろうか。

(俺は母親どころか妹の力を借りなければ話さえ聞いてもらえないのか……?)

 不満は燻っていたが、今そんなことを気にしている余裕はなかった。

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うちの猫は液体です 新作です。時間があれば読んでみてください。
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