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255 色変わり

「紫水。遊牧民の動向をご報告いたします」

 和香の報告を期待していた矢先に寧々から連絡がきた。

「お、どうだった?」

「概ね予想通りに。地形を探る様子で徐々に移動距離が増えています」

「あー、やっぱりあいつらこの辺にはあんまり来たことがないのか。土地勘がないから効率よく水場や草地を見つけられない」

 ここまで進出できることは多分あいつらもそうないはず。前にも言ったけど遊牧民はきちんとしたルートを作って移動するらしい。しかしそれは経験に裏打ちされた道のりだ。未開の土地では目隠しをつけたまま歩く迷子に等しい。

 逆にアンティ同盟にとってここはまさにホームグラウンド。

「ティウに連絡だ。遊牧民の移動経路や取得しようとする水場を避けて進軍するようにな」

 今回の作戦の仕上げは夜間強襲による遊牧民の撃滅。それまではアンティ同盟の影を見せてはならない。今こいつらが砦を攻めているのは蟻の軍団が弱いと思っているからで、強い敵……つまりアンティ同盟が迫っていると知れば即座に逃げ出すだろう。

「万事計画通り、ですね」

「だな」

 ……いかん、上手くいきすぎてなんか不安になってきた。やっばい。マジで何か見落としてないか? 

「……寧々も翼も、何かこう、違和感とかないか?」

「そう言われましても」

 翼はすまし顔。寧々は――――。

「そう言えば、すこし気になることが」

「え、何?」

 何だろうこのトラブルがある方がむしろ安心する気持ち。心配性……まあ臆病なのは間違いないけど。

「妙な魔物の群れを和香が発見したようです。大群でありながら探知できなかったようなので報告を」

 探知できない? 宝石がダイヤなのかな? 例のテレパシー補正装置とかを使っても探知やテレパシーをできない魔物はまだ多い。

「どんな奴?」

「羽があり、六本脚で後ろ脚が大きい、褐色の虫です」

 虫の魔物かあ。見た方が早そうだな。

「映像はあるか?」

「……カッコウの内の一人が追跡しているようです」

「ありがと。じゃあ見てみるか」


 わらわらと草原を埋め尽くす褐色の群れ。これだけの群れを今まで見逃していたのか? 探知能力が利かないとはいえ……徐々に嫌な予感が大きくなる。

「もう少し近づけるか?」

「コッコー」

 群れを刺激しない程度の距離の上空を旋回する。ここまで近づけば何の魔物かはわかる。バッタだ。この群れはバッタの群れだ。わらわらと蠢くバッタの群れは汚泥のような怖気を誘う気色悪さがある。

 ふと、思考の端を既視感が掠めた。確か、バッタの魔物は見たことがある。ええと、どこだ? どこだっけ?

「翼、寧々。あの魔物はどこかで見たことがあるか?」

 感覚共有できない翼には口頭で特徴を伝える。すると翼から返答が返ってきた。

「確かライガーの族長がそのような魔物を食べていたと記憶しています」

 あ、そうだそうだ。思い出した。確かあいつらはバッタを食べていた。でも違和感が拭えない。

「確か、ライガーが食べていたバッタは……緑色じゃなかったか?」

「そうだった気がしますが……何か?」

 バッタ。

 群れ。

 色。

 それらの言葉がぐるぐると脳内を巡り、一つの単語が導かれた。


 相変異。


 冷たい濁流が血液に流し込まれた錯覚を覚える。両手両足が今にも凍えて震えそうだ。

「王?」

「紫水?」

 二人からの怪訝な声で現実に引き戻される。迷っている暇はない。一歩さえも、一呼吸さえも無駄にできない。

「翼! どうにかして蜘蛛を連れてあの魔物を捕獲しろ! 寧々! 捕らえた奴らを実験する区画を整備! 七海にも連絡しろ! 和香! 他にもこの魔物の群れがいないか捜索!」

「は!」

「コッコー」

「はい。では紫水は?」

「オレはティウ達にこのことを知らせる! 急げよ!」

 あのバッタが昔からこの高原に住んでいるなら当然アンティ同盟もあのバッタについて詳しいはず。きちんと対処する方法も知っているはずだし、オレとも危機意識を共有できるはずだ。むしろそうでなければこの高原は草一本残らなくなってしまうかもしれない。

 それを座視しているわけにはいかない。

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うちの猫は液体です 新作です。時間があれば読んでみてください。
― 新着の感想 ―
蝗害かぁ……ただでさえ色々ときつい高原で何もかも食べ尽くされたら同盟しぬやん
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