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230 大空に舞う

 明るい月が荒涼とした大地を照らし、もうすぐ夏を迎えるにもかかわらずひりつく空気が夜闇を支配する。かがり火を焚き、灯りと熱が必要なほどに深く静かな夜。

 その高原の夜を裂いて大空から巨体が舞い降りる。

「よく来てくれたなケーロイ」

「はははは! そりゃ来るとも! もうすぐ決闘が始まるというのに私を呼びつけるとは剛毅じゃのう!」

 豪快な笑い声の主はもちろん石の部族の長、鷲のケーロイだ。

 鷲について知りたいことと、戦いを有利に進めるための提案をするためにここに呼び出した。

「早速本題に入るぞ。次に行われる決闘の場所を指定したい」

 本来場所を指定する権利は鷲にあるけど、こうやって『お願い』するのはルール違反じゃないらしい。

「ほう。しかしそりゃあ虫が良すぎる話じゃありゃせんか?」

 ごもっとも。これは誰がどう見ても罠だ。そこに何か仕掛けてあると考えるのが普通だ。まあ実際に何か仕掛けるわけだけど。

「そうだな。だからオレたちとの決闘に勝った場合獲得できる食料を増量する。これでどうだ?」

「予定しておる場所はどこじゃ?」

「ここだよ」

 地図はないからマーモット経由で感覚共有によって投影。何の変哲もないただの荒野だ。

 少なくともそう見えるはず。

 ケーロイは沈黙を保ったまま動かない。


「ええじゃろう! その挑戦を受けよう!」

 ほ、助かった。正直五分五分くらいの成功率だと思ってたから上手くいってよかった。

「受け入れてくれて感謝する」

「話は終わりか? では神官様たちに決闘の場所を伝えねばな! これにて失礼する! お互いに悔いのない戦いを!」

 翼をはばたかせ、一陣の風と共に飛んでいく。

「悔いのない戦いを、か。どこまでもスポーツマンシップにあふれてるねえ」

 こっちはそんなもんを持っている余裕はないけれど。卑劣に素敵に勝利を奪い取って見せなければ。

「寧々。どうだった?」

「残念ながらわかりませんでした」

 ケーロイをこの場に呼んだのは決闘の場所を変えるためだけじゃない。もう一つ確かめたいことがあった。寧々なら判断できるかと思っていたけど……難しかったらしい。

「しょうがないか。琴音待ちだな」

 あいつが上手く情報を聞き出してくれればいいんだけど……どうにも気分屋だからなあ。

 ひとまず上手くいくと仮定して作戦を建てよう。


「茜。戦いの準備は?」

「ご安心下さい! 準備万端です!」

 数匹の蟻とともに装備の点検に励む茜は確かに不備が見当たらないようだ。

「わかってると思うけど、人命が優先だ。やられそうになったらすぐに降伏しろ。死んでまで戦う必要はない」

「わかってます! 心配してくれてありがとうございます!」

「わかったらそろそろ寝ろ」

「はい!」

 この元気の有り余った返事からすぐ寝るところは想像できない。できる限りのことはした。後は本番が始まらないとわからない。いつものことだけどな。




 そして決闘当日。今度はアイスが欲しくなるくらい暑い。この寒暖差で敵が風邪でも退いてくれればうれしいんだけど……そんな都合よくはいかないか。

 じりじり照り付ける太陽な下で現れたのはケーロイに劣らないほど立派な体格をした鷲だった。

「うむ! 我が息子よ! よく戦え!」

 ケーロイの声援が飛んでくる。その声に応えてバサリと羽をはばたかせる。鷲なりの敬礼だろうか。

 というかお前の息子かい。

 ちなみに鷲たちは遠くの高台に集結している。

 もしもあれが一斉に飛び立って上空から爆弾でも落とした日には都市の一つや二つあっさり滅ぼせるだろう。あの銀髪でさえ空を飛ぶ鷲には手が出せない。

 もしも実現できればだ。

 まさしく捕らぬ狸の皮算用。そんなことより目の前の戦いに集中だな。


 茜も以前の戦いと同様に大量の武具防具を持ち込んでいるけど、豚羊の荷物を持てる量がずば抜けているおかげで個人が持てる量をはるかに超えた武器を持っている。

 それらが空を飛ぶ鷲に対抗できるかどうかは……オレたちの準備と茜がそれを使いこなせるかどうかにかかっている。


 向かい合うのは豚羊と鷲。

 刻限が迫っている。

 翼を広げた全長なら鷲の方が大きいかもしれないけど重量なら豚羊の方が上かもしれない。単純な力勝負なら分があるかもしれないけど……そこまで持っていけるかどうか。


 審判のマーモットが近づいてくる。

 空気が徐々に張り詰める。

「これより決闘を開始する!」

 お決まりの文句が荒野に吸い込まれる。

 鷲は翼を広げて飛び立ち、茜は荷物を広げた。

 鷲との戦いが始まった。

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うちの猫は液体です 新作です。時間があれば読んでみてください。
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