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207 高原連合国

 大急ぎで準備させる。

 トーテムポールの建設、読み上げさせるための原稿、とにかく何が起こるかわからないので準備のし過ぎということはない。

 とはいえ時間は有限で、相手は待ってくれるわけもない。

「コッコー。鷲に見つかりました」

「うげ! トーテムポールの設営は終わってるか?」

「形だけなら」

「それでいい。和香、誘導してくれ」

 出たとこ勝負になるのはいつものこと。せめて何かリアクションがあるといいんだけどな。

 カッコウを発見した鷲は一直線にこちらに向かってくる。この高原では逃げ場などない。

 翼を煌めかせ、カッコウをその爪にかけようとした寸前に、進路を変えた。そのまま襲いかかることもなく、上空を旋回している。今までにはなかった反応だ。不格好とはいえトーテムポールに何らかの意味を見出してくれたらしい。

 ただそれでも地面にはおりてきてくれない。空中だとテレパシーが届かないからこのままじゃ会話できない。警戒されたままだと状況は動かない。

「コッコー。しかしただ旋回しているだけではないかもしれません」

「? どういう意味だ」

「あの動き、何かの意味があるのではないでしょうか」

 じっくりと鷲の飛行を観察する。確かにただ円を描くのではなく、上昇と下降を繰り返したり、滑空したまましばらく直進したりしている。

 ……もしかしてこれはミツバチの八の字ダンスのようなものか? 仲間に花の位置などを知らせるためにミツバチはダンスのように特定の軌道を飛行することがある。それと同じように何か意味のある飛行なんじゃないのか?

 だとしたら、脈ありか?

 その予想は正しかったらしく一羽の鷲が近づいてくる。よく見るとマーモットもいる。

 ……ただ、そのう、鷲の爪につかまっているというかぶら下がっているというか……鷲がマーモットをお持ち帰りしているようにしか見えないんだが。

 いやそりゃよくあるファンタジーの騎兵みたいにドラゴンの背中に乗るよりさあ、爪に引っ掛けた方が安定するとは思うんだ。だってそもそも鷲とかの猛禽類は獲物を爪で捕らえるんだからそっちの方がいいのはわかるよ? でも全国諸氏のドラゴンライダーに憧れる中学生の夢を壊すのは良くないと思うんだ。何でこの世界ちょいちょいファンタジーをぶっ壊すんだろうな。


 そんなオレのテンションダウンとは裏腹に事態は思いのほか良い方向へ進んでいく。

 鷲にぶら下がったマーモットがテレパシーで話しかけてきた。やはりマーモットは高いテレパシー能力を持つらしい。

「聞こえますか?」

「聞こえてるよ」

 空中でも使えるのは……多分あれだ、射程距離とかが短いんだ。決してオレたちの上位互換ではない。

「何故あなた方は許可されていない。柱を立てるのですか? あれは境界ですのに」

 む、あれは土地の所有権に関わるものだったのか? もしかしてしくじった?

「許可されないと立ててはいけないとは知らなかったんだ」

「では問います。あなた方はアンティに殉じますか?」

 アンティ? なんぞそれ? などと言うと思ったか! オレの経験上これは知ったかぶりをするべきタイミングだ!

(カンペナンバースリー。読み上げろ)

 こそこそと何も知らない女王蟻に指示を出す。

「はい。我々はそうしたいと思っています」

 実に曖昧な返答。嘘をつかず、かといって正直に話しているわけでもない。

「やはりそうですか。ですがあなた方はまだティラミスを行っていません。ここはあなた方が使ってよい土地ではありません」

 ティラミス? ケーキ……なわけないか。話の内容から察すると土地を巡っての争いか何かか?

 テレパシーなら普段固有名詞は何となく意味が分かるのだけど、ティラミスというケーキの名前を知っているオレだとそっちの方に引きずられてしまって意味が理解できないようだ。現にオレ以外の女王蟻ならティラミスの意味をちゃんと理解できていた。

 この法則がのちにちょっとしたミスを引き起こすのだが……この時点では知りようがなかった。

「すまなかった。ではそのティラミスに参加させてはもらえないか?」

「今なら間に合いますが、持参料を用意していますか?」

 うぐ、ちょっと焦りすぎた。情報が足らなすぎる。ええいこれを読み上げろ。

「我々はここに来たばかりでまだ勝手がわかりません。どうか我々にティラミスについてご教授ください」

 ちょっと言い訳としては苦しいか……?

「それは素晴らしい。このロバイの外にもアンティを信じる民がいようとは」

 オッケイ! こいつも案外ちょろくないか!? 文脈から察するにロバイってのがこの高原の名前なのかな? よし、情報プリーズ。

「このロバイでは春から夏にかけて行われるティラミスによって治めるべき土地を定めます」

「ティラミスでは具体的に何をするんだ?」

「ティラミスは主に二種類。決闘と競技です。決闘では土地をかけて一対一、ないしはいくつかの団体同士で戦います。競技では足の速さなどを競い、その結果によって食料の譲渡や援軍の要請を行うことができます」

 なるほど。

 大雑把に言うとオリンピック版機動戦士ファイトだな! わっかりやすい!

「ちなみに治めている土地では何ができるんだ?」

「自由に狩りが行えます。そしてその場所を通るときにはその土地を治める者に食料を届けなくてはなりません」

 通行税やら狩猟税みたいなもんか。どうやら貨幣は存在しないみたいだな。その代わりに食料でやり取りしているというわけか。

「しかし治める土地に侵略者が来た場合迎え撃たなくてはなりません。それができなければ資格なしと判断されます」

 侵略者、リザードマンやヒトモドキかな。

「そのための援軍か?」

「その通り」

 なるほど。

 土地に関しては強くなければ手に入らないけど競技によっていい成績を収めれば自分たちの力に頼らなくても土地を維持することが可能なのか。

「一体どれくらいの種族がティラミスに参加するんだ?」

「それはもうたくさんですね」

 ざっと聞くだけでも見たことのない魔物がたくさんいる。

 驚きだ。そして素晴らしい。

 この世界では驚くほど多様な価値観や生態を持つ魔物が数多く存在する。そんな魔物をきちんとまとめ上げ、一定のルールによって統率しているなんて。

 そのルールそのものも悪くない。力で勝者を決めるなんて野蛮だとは思うけど、このルールは理に適っている。

 何しろ犠牲が少ない。戦争には莫大な出費が必要だ。

 人的にも、物資としても。それらの出費を最低限で抑えるための仕組みとしてはよくできている。

 少なくともわざわざ勝ち目のない戦いに兵士を送り出すような戦争をやる生命体よりはよっぽど理性的だろう。

 いいね、気に入った。

 何よりもこのルールはオレたち向きだ。

 このエミシには大型の魔物が少ない。しかし多様な魔物がいる。特にタイマンでは相性によって大きく勝敗が左右されるこの世界のバトルでは魔物の多様性は大きなメリットだ。

 加えてオレたちの魔法はまだあまり知られていないはず。上手くやれば初見殺しのようなこともできるはず。

 そして何より、道具が制限されていない。

 ちゃんと確認したから間違いないけど、道具の使用はなんら制限されていない。本当に何も禁止されていない。

 地球でならまずありえない。拳銃を忍ばせたままリングに上がるようなものだ。しかしこの世界ではいまだに大した兵器が作られていない。だからこそそんなありえないことが許されている。

 いいね。実にいい。これだけ勝機のあるルールなら大歓迎だ。

 力づくで全てを征服するよりも初めからルールに則った行動ができるならそっちの方がいいに決まってる。こいつらとは、共存可能だ。ようやくまっとうな知的生命体と出会えた気がする。

 まあオレたちがアンティなんぞどうでもいいと知られたら面倒ごとになるかもしれないけど今回は上手く接触できた。

「それではひとまずどこの種族のどこの土地を賭けて決闘するかを決めないといけないからな。誰がどこを治めているか教えてもらって構わないか?」

「構いませんとも。ティラミスを運営し、アンティに殉ずるのが我らの務め。可能な限り教えましょう」

 なるほど。

 どうやらこのマーモットは王ではないけど重要なポストにいるようだ。連合のとりまとめ役にしてアンティとかいう宗教の司祭みたいなものらしい。神官、という言葉が適切かなあ。

 宗教にはあまりいい思い出がないけど、ありがたいことに新参者も歓迎してくれる。割と柔軟みたいだ。では、合法的にぶんどるとしましょうか。


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うちの猫は液体です 新作です。時間があれば読んでみてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 同盟じゃなくてぶんどるんですねwww 紫水らしいなぁwwww
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