201 神に導かれし使徒
ほのかに心地よい花の香りが鼻孔をくすぐる煌びやかな一室で異世界転生管理局地球支部支部長代理翡翠はとある転生者と対話を行っていた。
「貴方の望みは理解しています。ですがそれには邪魔者がいます」
屈みこんでからぴらりと差し出した二枚の透明なシートに、やがてある人物が映し出された。
一枚は灰色の巨大な蟻。二枚は銀色の髪の少女。
「この二匹を殺していただきたい。この二匹は世界の秩序を乱しました。だからこそ排除しなければならないのですよ。百舌鳥の負債は清算しなければいけません」
転生者は黙して語らないが翡翠は気を悪くした様子もなく、少なくとも翡翠は転生者が提案に同意したことを疑ってはいないようだ。
「ええ、それではご武運をお祈りしております」
そう言い終えるとすぐに転生者は扉をくぐりまばゆい光に包まれた。
「転生は終わりそうですか燕さん」
「はい。予定通り順調に進んでいます」
「結構」
ふかふかの椅子に腰かける翡翠は余裕の笑みを浮かべながらもふと思いついた疑問を口にした。
「今回の転生者は十分な時間がありましたが以前の転生者に比べてもそれほど強大な能力を授けることができませんでしたが……何故です?」
「転生者には死によって本来得るはずだった幸福に見合う能力を授けることが義務付けられています」
それは転生管理局において基本的なルールだ。もっともどの程度が本来得られる幸福だったかを判断するのは局長の胸先三寸によって決められる。……しかしながら限界は存在する。
「その尺度の一つが何歳で死んだか、ということです」
「なるほど。若くして死んだ者ほど能力を与えやすいのはそういうことでしたか。件の転生者の中にガ……少女がいましたがあれがもっとも強大な力を有していましたね。なんともまあ――――」
沈痛な表情で彼女の人生に思いを馳せ――――
「ずいぶんと幸運でしたね!」
そう結論を口にした。
「いやはやどうせあのような子供は生きていたとしてもただ何も成せずに朽ちるだけだったでしょう。それを思えばさっさと死んで我々から恩寵を賜った方がよほど有意義な人生を歩めるに違いありません。というか実際にそうなっていますしね」
「はい。彼女は戦場では常勝無敗、戦場外でも常に崇め讃えられています。前世では決して手に入ることのなかった幸福でしょう」
幸福の形は人それぞれではあるが、それもまた一つの幸福ではあるのだろう。彼女自身がどう感じているのかはともかくとして。
「しかし残念ながらそれも終わりだ。あの百舌鳥の影響は全て排除しなければなりません。イレギュラーと共にね。こちらの手駒が多少弱かろうとそれはこの私の知略で補えばいいだけのこと。さて、じっくり奴らの醜態を眺めるとしましょう」
誰も知らぬ場所でひっそりと開演のベルは鳴り響いた。
次回の投稿は一月十一日(土)の予定です。




