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175 ミッションポッシブル

 唐突だが。

 全般的にオレが今まで作った農作物は地球で栽培されている物に比べると原種に近い。

 当然ではあるんだ。地球で栽培されている農作物のほとんどは長い年月をかけて品種改良され収量や味を良くしてきた。しかし少なくともオレが育ててきた植物は収量はともかくとして味はイマイチの植物が多い。それどころか渋リンが生では渋いように、ジャガオが毒成分を含むように味どころか簡単には食べられない植物すらある。

 だからと言って魔物植物や原種が劣っているかというとそんなことはない。ほとんどの原種は(当たり前だけど)野生でも育つほどに生命力が高い。即ち病害虫への抵抗性や荒れ地でも育つ強靭さがある。人に育ててもらわなければならない農作物とは違うのだ。

 魔物植物も意外に病気に強く、そのくせかなり成長が早い。味以外は地球には存在しないほど優秀な作物だ。だからこそオレみたいな素人でもちゃんと育てられるんだけどね。

 ただ中には明らかに育種、つまり農業に適した品種へと改良された形跡が見受けられる魔物もある。米がその一つだ。多分あれはヒトモドキが一生懸命育種してきた品種なんだろう。

 では前回手に入れた小麦はどうだろうか。結論から言えば多少人の手は入っている可能性が高いけど完全に野生種から独立はしていないと思われる。特にきちんと製粉しないと明らかにえぐみがあって食べづらいという点。

 しかし収穫のしやすさやなどは野生のそれじゃない気がする。


 まあ何でこんな話をするかっていうとムギを栽培していた奴が誰かわかったんだよな。

 そう! その正体とは! 蟻です。……オレたち以外の蟻です。

 はあ。萎える。エルフいないのかあ。やっぱり絶滅したのかなあ。

 たまたま農業に向いているコムギを見つけたのかそれとも何らかの方法で品種改良を行ったのかはわからないけど農業を行っているのは確かみたいだ。ありえない話じゃない。あの樹海には多種多様な生き物がいる。今までに見た蛇とかもいるし、全く見たことのない魔物も多い。

 だから蟻の巣があることそのものは別に驚くことじゃない。しかし真に驚くべきなのはその規模。今まで見たことのないほどの数を誇る蟻の巣だった。数は数えきれない。最低でも万を超す、間違いなく国と言ってよい規模の蟻の巣。それを支えているのは小麦を始めとした農作物を栽培する優れた農業力だ。

 驚くことに小麦だけじゃなく様々な農作物を栽培している。魔物植物であることもあればそうじゃない作物もあるようだ。

 だからこそ樹海の蟻に言いたいことがある。


「もうちょっと! もうちょっとだけ工夫してくれ!」

 苦労してるのはわかる! オレだって農作業の指揮を執ってきたから大変なのはすごくよくわかる! でもな!? それでもちょっとした工夫で収量や安定性が大幅に増すんだ!


「小麦の葉に出ている白い点々! それうどんこ病! カビ! カビなの! だからうどんこ病に感染した葉はとってその場に置いておくんじゃなくて別の場所に持っていってちゃんと処分しないとダメ! 他の植物に感染するから! 

 お酢とか重曹を溶かした溶液を噴霧したら治ることもあるから貸してやりたい! カブもあるのか!? ああああ! もうちょっと土寄せしてくれ! カブが乾いちゃう! 水たりてないよ、何やってんの! 揚水水車でも作って水運べばいいじゃん! きましたトウモロコシ! 若干寒さと霜に弱い以外万能の作物! ただし肥料はたっぷりと! その代わり余分な栄養も吸いとってくれるから輪作にも向いてるぞ! でも害虫の予防は十分か!? アワノメイガによる被害は馬鹿にならないと聞いたことがあるぞ!?」


 はあはあ、つ、疲れた。ツッコミ疲れ。

「もうちょっと静かにしてよ~。さっきからうるさいよ~?」

「う、すまん。ちょっと驚いたからさ」

 この農園は膨大な時間をかけて樹海を切り開いてきた一つの成果だ。さらに多種多様な作物を栽培している点もまた素晴らしい。これほどの農作物を栽培できるとは……恐るべし。もちろん完全な正解ではないけどね。

 しかしこれほどの作物を持ってるってのは……何かあるのか? ……何にせよ調べてみないいとわからないな。

 ひとまず接触してみよう。


「のけやオラア!」

「ぶっ殺せ!」

 えー……食料などを持っていった結果がこれだよ。まあ予想はついていたけどさ。蟻はどうしてこうも同族に対して喧嘩腰なのか。以前同族の魔物に対しては痛覚が共有されると推測したことがあるけど蟻はちょっと事情が違うらしい。何というか痛覚を受け取る周波数みたいなものが狭いのだ。

 だからその周波数みたいなものが少しでも違うと痛みよりも不快感が強く、本能的に敵意を持ってしまう。感覚が鋭敏すぎるのも考え物だ。

 しかし、だ。それを解消する方法もなくはない。さっき周波数と言ったけどこれは生まれ持った性質でもあるけど同時に後天的にその周波数を変えることは可能だ。方言を標準語に矯正するようなものかな。あるいは左利きを右利きになるようにするものか。具体的な手順はこうだ。

 まずカッコウがこっそり奴らと感覚共有できる状態にする。そしてカッコウを経由しつつ蟻に樹海蟻語を覚えさせる。そしてゆくゆくは全く同じ周波数だと認識させるようになればいい。

 つまりスパイとネゴシエイターになりうる人材を育成する。

 蟻はテレパシーによって敵味方を識別していることが多い。逆にテレパシーによる敵味方識別さえ潜り抜ければ忍び込める可能性は高い。

 さあてなかなか面白くなってきたんじゃないか?


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うちの猫は液体です 新作です。時間があれば読んでみてください。
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