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173 眠り姫

 急いでその場を離れる。ここまでくれば何かただならぬ事態が起こっていることは見ればわかる。海が盛り上がっている。

 津波のように均等に水平線がせりあがるのではなく、何か巨大なものが海面を突き破りそうな勢いでこちらに来る。今まさに砂浜にその姿を現す。

 間違いない。海。エコーロケーション。襲う。そこから導き出される生物は一つ。こいつは――――シャチ! ……じゃなーい!?

 ワニの頭に足じゃなくひれがついており、純粋な水棲生物であることがうかがえる。しかし真に驚くべきはその巨体。一体何メートルなのか。怪獣にしか見えないほど、巨大。

「プリオサウルス、いやモササウルスか!? 今度は水棲爬虫類かよ! プレデターXが何でいるんだよ!?」

 一説によると地球史上最強とさえ恐れられる水棲爬虫類のビッグ2。何でこんな浅瀬にいるんだよ! ここの水深じゃ体が大きすぎて動けなくなるはずだろ!?

 いや、冷静に考えればわかる。奴の魔法も海老と同じで水を操るタイプ。強引に水を自分の周囲に纏って浅瀬でも活動できるだけの水量を確保している。ただ一瞬だけ水が解けたのは魔法を無効化されたからだろう。いや、真に恐ろしいのはあの頑丈な謎生物を一瞬でかみ殺す水棲爬虫類、とりあえずプレデターXでいいか、の咬合力。

 やっぱ魔法より筋肉だよ。魔法がチート臭くてもパワーでごり押しできるもん。

 あんなのに咬まれたらオレなんか一瞬で死ぬぞ。誰か科学特捜隊でも呼んでくれ。つーかあれまじで駆逐艦とか潜水艦じゃないと倒せない気がする。中世くらいの科学力で建造可能な船、例えば大型の帆船くらいじゃどうにもならないんじゃないか?

 海ヤバイ。これ無理だ。

 森も厳しいけど海のどうにもならない具合に比べれば百倍ましだぞ!? 海上交易とか無理じゃね!?

  でもそうだな。水中、あるいは海上や濡れた状態でも使える兵器も作っておいた方がいいかもしれない。備えておいて損はない。

「あ、そうだ。被害はどうなってる?」

 探知能力に反応はあるから多分無事だろうけど報告確認は大事だ。

「今のところ確認なし。警告が早かったからのう。奴はあの生き物を狙っただけで妾達を獲物としてみなしておらなかったのだろう」

 結果的に謎生物の襲来のせいで大多数が海岸から離れていたことが幸いしたようだ。正直運が良かった。一歩間違えれば甚大な被害を受けていたはずだ。

 もしかするとあの謎生物を追ってきたのかもしれないから完全なラッキーとは限らないけどな。いやむしろプレデターXから逃げてきたのかもしれないけど……まあその辺はわからんか。

「建設中の巣に撤退してくれ。まだプレデターXがいないとは限らないし」

「うむ。あの謎生物も連れていくのか?」

「できれば頼む」

 あれの正体と魔法の性質を知るのは目下の急務だ。


 やっぱ海はでかいな。オレの知らないもんとかまだ見つけていない物がたくさんある。それを上手く活かせるかどうかはオレ次第だけ……

「のう、紫水。こやつ、死んでおらぬか?」

「え」

 こやつ、とはもちろん謎生物のことだ。さっきから妙におとなしいとは思っていたけどもう死んでいる? 魔物は頑丈とはいえ不死身じゃないからな。アメーバはほとんど不死身だったけど。ただ、こいつなんか色が変わって、丸まっている? 何つうか、カラカラに乾いてる? ……何か、違和感が……?

 脈拍0。呼吸確認不可。体温なし。

 誰がどう見ても触っても聞いても死んでいるはずだ。まっとうな生物なら。例え魔物でも冬眠中には呼吸をしている。こいつは間違いなく死体であるはず。でも何か怪しい。

「ひとまず巣に持ち帰ってくれ。死んでいたとしてもバラして内臓とかを調べたい」

 気に障る謎生物が死んだせいなのか意外に上機嫌で死体を引きずっていく。その様子はさっきとあまり変わらない。

 ……?

 おかしくないか? こいつは乾いている。少なくとも傷口から血は出ていない。にも拘わらず重量が変化していない。つまり水分が失われたわけじゃない。

 ええと、それじゃあ乾いているのは体の中の水分が別の物質に置き換わったってこと? 血が止まったんじゃなくて血が別の物質に変換されたってこと? 本当に死んでいるのか?

 こいつもしかして……?


 ひとまずばらす前に謎生物の体を削る。硬化能力の影響なのか爪ほどには硬い。それと明らかに傷つけても血が流れない。死体にしてもこれはおかしい。

「よし。こいつに水ぶっかけろ。ただし糸で拘束してからな」

 不思議そうにしながらも千尋はちゃんと指示に従う。さあて。オレの予想が正しければ……。

 ……。

 アレ? 何も起こらない。予想が外れ……いや、違う!

 謎生物は徐々に生気をみなぎらせ、再び暴れ始めた。

 騒ぎたてる千尋やその部下。驚きは理解できる。死体が動き始めたんだから。

 うん、間違いない。この状態は乾眠だ。またの名をクリプトビオシス。乾燥や高温、高圧、紫外線などの環境要因にやっっっったら強くなる状態。芽胞などと同様にオートクレーブでさえ簡単には滅菌できない馬鹿馬鹿しいほど頑丈な状態。

 必然的にその状態になることができる生物だと特定できる。ワムシ、ネムリユスリカ、そしてクマムシ。

 そう、こいつの正体は巨大化したクマムシだ!

 あーすっきり! どっかで見たことあるわけだよ! 実際には見たことがないけど写真とかなら見たことがある。なーるう!

 で、魔法無効化は乾眠の防御力の高さが魔法になったものか。ちなみにクマムシの場合、乾眠中でも物理的に押しつぶすことはできるらしいから物理有効なのはそういう理由か?

 具体的な魔法無効化の原理はわからないけどとりあえずクマムシなのはわかった。微生物の魔法も独特なのが多いなあ。

「とりあえず拘束続けろ。乾燥したらまた眠ると思うぞ」

 ある意味餌代とかがかからないから楽かもね。


「紫水。妙な物を見つけた」

 おっと今度は周辺の探索を命じていた蟻とカッコウのコンビからの連絡だ。物、だから魔物じゃないみたいだ。さて今度はいったいなんだ?

「誰かによって作られたものだけどそれが何なのかわからない」

 ふむ。とりあえず感覚共有。やっぱ便利だなこの魔法。

 さてさて。

 んー? 苔とか蔓に覆われてるけど、柱? 結構太いな。

 電信柱くらいには太くて大きい。

 それより小さい柱や恐らくは柱を括りつけるための縄? それに……分厚い布。

 不意にさっきの思い付きの一つが頭をかすめた。

 ……これ、まさか船の、帆船のマスト……? 分解されてはいるけど……何でそんなものがここにあるんだ?

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うちの猫は液体です 新作です。時間があれば読んでみてください。
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