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166 ガラスの葦

 あれだけオレの巣を荒らしまわってくれたアメーバさんは今現在地下の牢獄、と言っても穴を掘ってそこにアメーバを置いただけ、に閉じ込めている。

 濁った色のゼリーがうぞうぞ蠢く姿は魔女の大釜か蟲毒の壺を思わせる。

 適当に食べ物を放り込むと食べているのでまあ餓死することはないはずだ。そもそもこいつどうやったら殺せるのかわからないくらい不死身だしな。会話ができないから実際にどうなのかはわからない。

 ただしエサのやりすぎには注意。放っておくとがんがん増殖する。一部を切り取ると新しい個体が誕生することもある。やっぱり不死身すぎるぞこいつ。

 こいつを閉じ込めておくのに有効だったのは精油する時に作ったフローラルウォーターだ。花の香りがするこの水は蟻にとってはかなり臭いけどどうもアメーバにとっても不快なようで、これを撒いておくと全く出ようとはしない。

 そういえばヒトモドキの村の近くに香り袋が置かれていることがあったな。もしかしたらあれはこいつを恐れていたのか? 確かにこいつは厄介すぎる。

 しかし、そんな厄介な敵も味方とは言わないまでも利用することができれば極めて強力な武器になる。

 オレが今回作りたいのはプラスチック複合材料だ。




 プラスチック複合材料。金属に比べると軽い割に丈夫な物質。

 もっともよく知られているのはガラス繊維複合材料と炭素繊維複合材料だろうか。

 複合材料、つまり複数の素材で材質を強化された物質、そのものの歴史は極めて古く、粘土に植物繊維を混合してレンガを作るという手法は紀元前に行われており、あの万里の長城にも使用されている。

 しかしプラスチックになると話は別だ。いわゆる樹脂の開発と工業化まで待たなければならなかった。

 しかし、このアメーバ及びその他の魔法があれば一気にショートカットできる!

 まずはガラス繊維からだ。何しろオレたちはすでにガラスを開発済み。いやそれどころか<錬土>がある分、ガラスの取り扱いに関しては地球の最新技術さえ上回るかもしれない。

 ではまずガラス繊維を作ってみよう。


 地球でのガラス繊維は主に二つある。短繊維ガラスと長繊維ガラス。

 短繊維ガラスの作り方はガラスを溶かしてミクロン単位の細い繊維を綿状にする。遠心法っていうわたあめの作り方に似ている。色々な使い道があるけど一番多いのは断熱材かな。

 本題は長繊維。これの作り方はダイレクトメルト法だっけ。溶かしたガラスをまるでクリームを絞るように細く糸状にして巻き取る。

 ひとまずこの方法を参考にする。

 漏斗みたいなものに小さいガラスを入れて<錬土>でガラスを溶融しているかのような液状にする。それを下から糸車で巻き取っていく。とりあえずそれらしくなってきたな。この糸をシート状にしたり細かく粉末状にしたり糸のまま使ったりする。

 で、このガラスでできた糸をどうやって複合材料にするか。まあ色々方法はある。

 接触圧形成法、連続成形法、高圧成形法、低圧成形法。まあぶっちゃけなんのこっちゃわからんと思う。てかオレもよくわからん。

 例えるなら、左から順にすしネタ、うどん製麺機、圧力鍋、布団圧縮袋らしい。

 余計わかんない? そう習ったんだって! これ教えてくれた人絶対お腹すいてただろ!

 まあ要するに押したり圧力をかけたりしてくっつけるってこと。ホントはシランカップリング剤とかいるんだけどね。これは無機物や有機物をくっつける接着剤の役割をする物質。その代わりになりそうなのは<錬土>だ。プラスチックとガラス繊維のケイ素を無理矢理くっつけられると期待するしかない。


 アメーバとは会話ができないけどその法則を知ることはできる。音を鳴らせば、光を当てれば、ぶん殴れば、どうなるか。それらの法則を今日夜問わずに調査した結果、液状のプラスチック樹脂を安定してパク……採取することができるようになった。

 それだけじゃなく、どのタイミングで物を近づければその物質をプラスチックに混ぜ込んでくれるかを把握することもできた。ここまでくればガラス繊維強化複合材料はあと一歩。

 熱したり圧力をかけたり<錬土>でごちゃ混ぜしたりした結果ガラス繊維強化複合材料完成! 長いからGFRPとかガラス繊維でいいよね。

 正直オレもよくできたと思っている。ありがたいことにGFRPには<錬土>が有効だ。つまり、だ。特別な設備がなくても蟻がいるだけでガラス繊維を自在に成型、修理ができる。複合材料の弱点の内の一つに補修なんかが難しいことが挙げられるけどその心配はいらない。

 さあではせっかくできたGFRPで何を作るか。決まってる! 弓だ! 名づけてグラスボウ!


 GFRPの用途は多岐にわたる。自動車、バスタブ、ゴルフクラブ。軽くて丈夫な他、絶縁性、耐浸食性、断熱性などから利用される。そして意外なことに弓にも使用されることがあるらしい。初心者向けの弓だとか。初心者向けとは威力が低いわけではなくて、誰にでも一定以上の威力が保証されているということ。

 さあそれでは今までの複合弓と石が鏃の矢。石の板に向かって矢を放つ。


「矢が砕けた」

「ん、予想通り」

 撃った働き蟻はどことなく残念そうだ。

 威力はあるんだけど、それに矢が耐え切れない。

 今度は弓、鏃共にGFRP製。さあ、どうなる?

 星のように飛ぶ矢は石板を貫いた! 


「ひゃっほう! 大成功!」

「わーい」

「よーしよしよし。いくらでも喜んでいいぞ!」

 ちなみにこの弓には威力を上げる仕組みがある。というか勝手にその機能が付加された。<錬土>で弓を引くときに弓自体を柔らかくさせて、放つ瞬間硬さを元に戻す。すると本来より高い威力が出る。まあ、体を動かしながら魔法を使うのは難しいから成功率は低い。しかし普通に撃っても今までの弓よりかなり性能が上がっている。

 何より簡単に整備できるのがいい。複合弓はその性質上どうしても複雑な機構になるから一度故障すると最低でも蜘蛛と蟻、できればカミキリス、がいないと直せない。しかしGFRPは蟻さえいれば何でもできる!

 整備のしやすさはかなり重要な性能だ。実際の現場でも使いやすくて壊れにくい武器の方が性能よりも重視されるって聞いたことがある。今ならオレもその意見に賛同するだろう。

 そして生産性も悪くない。何しろ原材料はそこら辺の土とアメーバの食料。時間さえあれば無制限に作ることができる。

 だけどこれはあくまでも始まり。GFRPに続いて強化炭素繊維複合材量、略してCFRPもしくは炭素繊維なんかも開発するつもりだ。こうなると一気にできることが増える。以前諦めかけた馬車の開発も視野に入れられるかもしれない。


「よし! 全員に通達! アメーバを分裂させて各地でプラスチックの生産を開始する! 取り扱いには十分注意しろ!」

 さあ、作るぞ! 大量に、使いやすいものを!

 ものづくりの本質とは性能の良いものを一つ作るのではなく、そこそこの性能を持った物を大量に作ることだ! 特別な何かではなく、誰にでも使える物を誰にでも使いやすく改良していく。

 不遜ながら発明王を見習ってやってみせるさ。


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うちの猫は液体です 新作です。時間があれば読んでみてください。
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