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136  水の流れのように

「ここに水田を作ろう」

 いきなり何言ってんだこいつと思うかもしれないけどハイギョが通った道は稲作にとって都合が良い土地だ。

 平地で、なおかつ川が近い。そしてクローバーらしきマメ科植物が大量に群生していたのでなお都合がいい。前も言ったけど窒素供給にはマメ科植物を栽培するのが手っ取り早い。

 これだけでもここが栽培するのに上出来な土地だと言えるだろう。というわけで一旦鉱物探索は規模縮小。まじで見つかんないので農業がひと段落するまでちょっと停止。


 米の利点は色々ある。

 まず割と適当に煮込むだけで美味い。小麦だとどうしても製粉する工程を挟むため手間がかかる。収穫量も多いし、栄養価も高い。

 その代わり、寒さにはやや弱いし、水が大量に必要だ。品種にもよるけどね。だからこそ水の管理が大事になる。用水路などは<錬土>で設計済み。まじ便利だわこれ。海老なら水質の管理もできるらしいからその辺は任せるしかない。

 ではまず種もみの選別方法から。できるだけいい品質の米を作りたいしね。

 テゴ村から分捕……借りパ……ん、んん! 拝借した稲から苗を育てるけど、実は米作りで大事なところは苗を育てるところらしい。苗が上手くいけば順調に育つんだとか。

 まずはふるいにかける。比喩ではなく物理的に粒の太い種だけを選別しないといけない。

 次に昔ながらの方法では塩水につけて重く沈んだ種もみを選ぶ。重い種もみの方が、品質がいいらしい。

 そこで選別した種もみをできるだけ清潔な環境で育てる。

 この辺りは地球と変わらないかな。次は土を耕すんだけど……どうもサージは土の耕し方についてそれほど詳しくないみたいだった。多分その辺はデバネズミの担当なんだろう。

 土の耕し方なんて農業で大事な部分の一つだと思うんだけど、ヒトモドキときたら感謝どころか自分たちにもできる仕事を仕方なくやらせてあげている。そういう認識みたいだ。アホだろ。

 なのである程度自己流が入る。ひとまず今まであった雑草を緑肥としてすきこむ。

 これが結構重労働だけど、蟻の<錬土>やはり農業適性が高い。人間なら鍬などが必要だけど、蟻なら土のあたりに手を差し込むだけで攪拌したように混ぜることができる。そのうち耕運機みたいな道具も作りたいけど今はこれで十分。

 ここから水を入れる。

 そしてようやく田植え。田植えができるのは蜘蛛と蟻だけ。蟻は普通に手で植えていくけど、蜘蛛は……糸に苗を大量にくっつけて投網みたいに投げ込んでいる。それでいて測ったかのように正確だ。

 苗の間隔は地球の稲よりも広めにとる。稲株一つがでかい都合で、間隔は広くとらないといけない。

 後は雑草や病気に注意しつつ適宜肥料を加える。天候や気温はオレじゃどうにもできないから運を天に任せるしかない。

 それほど手間がかからないのも米の利点ではある。ある程度の管理維持に人手はいるけど、それを誰に任せるか。

 それで合鴨農法ってあるじゃん。あれと同じことドードーでできないかなあって思ったんだけどさあ……あんの野郎ども!


「だから稲は食うなっつってんだろうがああああ!」

「香り立つ草こそ至高にして嗜好」

「韻を踏んでもダメなものはダメだ!」

 これである。

 合鴨農法の注意点として稲を食べる危険性があるらしいけどこっちも同じだ。どうして食い意地が張ってる奴ばっかりかなあ。

 その代わりに生物農薬を使うことにした。去年ちょいちょい試して一番効果があった虫で、千尋が捕ってきた通常サイズのテントウムシだ。種類にもよるけどテントウムシは益虫に分類される。農作物の天敵であるアブラムシなどを食べてくれる。

 問題点はテントウムシが飛ぶ昆虫だからすぐにどっか行っちゃうこと。地球だと飛ばないテントウムシとか売っているらしいけどここにはそんなものはないのでもっと単純にテントウムシの羽を切って飛べないようにしていた。

 昔ながらの農家さんではおなじみの手法らしい。

 しかしまあ皮肉だな。地球での蟻とアブラムシ、テントウムシの関係はほとんど逆だ。アブラムシの蜜を目当てにテントウムシなどの天敵からアブラムシを守っている。共生関係の代表例として教科書にも記載されていたはずだ。

 もっともあれを……


「ねえ~紫水」

「どうかしたか、千尋」

「テントウムシの羽を切るのはめんどくさいみたいだよ」

 確かにな。小さいテントウムシの羽を広げてプルプル指を震わせながら羽を切るだなんて面倒だろう。しかしやってもらわないと……

「だから違う方法で飛べなくさせてもいいかなあ」

「ほう? どんな方法だ?」

「糸で羽をくっつけて広がらないようにする方法だよ」

 なるほど。確かにそれはありだな。

 実は千尋が言ったような方法は地球でも行われている。

 テントウムシの羽に接着剤をくっつけて飛べなくさせる方法だ。さらにこの接着剤は時間が経つと剥がれる仕組みになっており、役目を終えたテントウムシはどっかに飛び立っていく。

 まあオレたちならそこまで気にせず普通にテントウムシを食うなりなんなりすればいいけどね。

「おっけ。いい方法だ。新しいやり方はどんどん試していけ」

「は~い」

 千尋もちゃんと考えてくれるようになって嬉しいよ。一年前は食う寝るだったのに。

 あ、それと米も魔物だから何か魔法を使うはずなんだけど、実は米の魔法が何かわからない。サージいわくマディールによって邪悪な魔法はうんたらかんたら言ってたけど無視していい。 もしかしたら何らかの条件を満たした場合のみ発動するタイプの魔法なのかもね。普通に育てていれば無害だと思いたい。


 次に去年収穫した米の脱穀、および精米について説明しておこう。

 稲をいくつか拝借したのでそれを育てて何とか収穫できるほどに栽培できた。

 ほとんど脱穀せずに種もみのまま保存しておいたのは米をきちんと栽培できる自信があったからだ。

 ただ、ほんのちょっと、ほんのちょっとだけ食べるために脱穀した稲がありましてですね。それを今から食べてみたいと思います。ただしここで注意点が一つ。どうもこの米、玄米のままでは食べづらい。食べれなくはないけどちょっと苦い。

 ちゃんと精米して白米にしないとこの苦味は消えない。恐らく玄米に含まれるぬかにタンニンか何かが含まれているんじゃないかと思う。でもこの世界の精米技術は手押しの臼みたいなものを未だに使っているらしい。

 今はそれでいいけど、本気で米作りを始めるなら動力水車により、自動化を推し進めなければなるまい。……いや、もしかしたらもっと手っ取り早い方法があるかも。


「カミキリス。お前らこいつを分離できるか?」

 一つかみの玄米と精米した白米と糠を比べるように差し出す。

「やってみるでやんす」

 カミキリスの<プラントテープ>は繊維を分離、接合できる魔法だ。もしかしたら……。

「できやしたぜ」

「おっ。おお!」

 ちゃんと精米できてる! すげえ! 少量ならこれでいいかもな。魔法はこういう細々したことが得意みたいだな。

 さあそれじゃあ、たまたま余ってしまった米、今食わずしていつ食う!

 そして作るのはみんな大好きカレー! ……によく似た何かだ。


 まずは白米を炊こう。

 はじめちょろちょろなかぱっぱ。だっけ。飯盒炊飯とか何年ぶりだろ。

 火加減に注意して……

「って、言ってる傍からふきこぼれてるじゃねーか!」

 薪! 薪! 抜け抜け!

 吹きこぼれていたご飯はどうにか収まった。あぶねえ。超貴重な米が台無しになるところだった。

 コンロって偉大だなあ。火加減がつまむだけでできるって思いついた人天才じゃないのか?炊飯器を発明した人も凄いけどね。

 きちんと炊けたのでしばらく蒸らす。

 ではカレーのルーを作っていこう。

 鳥肉とジャガオを炒める。日本なら簡単にできるこの作業ができるようになるまで去年どれだけ苦労したことか。

 ドードーを飼う態勢を整えて、植物から油を抽出したんだよなあ。ジャガオを別の群れから拝借して……。この料理はまさに去年の集大成といっても過言ではないのでは?

 炒めた具に水を入れてそのままコトコト煮込む。一般的なカレーの作り方ってこんな感じだよな? カレー作りに失敗したら流石にちょっと恥ずかしい。

 火が通ったらここでスパイスの投入! カレーらしくなってきたな!

 スパイスは辛生姜のドライジンジャーだけ。粉末にして、スパイスっぽくなったドライジンジャーをスプーン大さじ一杯くらいドバっと鍋に放り込む。

 この鼻孔を刺激する香り、カレーっぽい! いやあ、興奮してきましたねえ!

 色は……黄土色かな。日本だと茶色のカレーが一般的だけど世界を見回すともっと比喩抜きで色々なカレーがあるらしい。

 なのでこれもまたカレーだ。とろみをつけるためにすりおろしたジャガオ、そして水溶き片栗粉を少量ずつ入れる。よし、上手くできた。

 最後に隠し味として渋リンをすりおろし加える。カレーにワインを入れたりもするし、今回はあまり渋みを感じないから生でいいはず。

 これで完成! 


「カレーだ。お、おおお! カレーだ!」

 できたのはたった三杯のカレーライス。オレ、千尋、その他の希望者のぶんだけ。しかし、ここに至るまでにどれほどの苦労があったことか。さあ、食べようか。

 スプーンですくってパクっと一口。

 美味い。ピリッとする辛味。ごろりと転がるジャガオ。脂ののった肉。ちょっとだけ粉っぽいけどまごうことなきカレーだ。

 あれ? 涙出てきた。やば。カレー食べて何で泣きたくなるんだろう。

「辛い! もう食べられないよ~」

「そうか千尋。じゃあオレが食ってもいいか?」

「冗談ではない。これは妾の食事だ」

 お、おおう。思わずマジレスさせてしまった。

 このままいけばカレーを巡って大惨事大戦が勃発しそうなので大人しくしよう。あーホント美味かった。

 稲作が上手くいくとこれくらいの飯が毎日食えるわけか。よし。頑張ろう。凄いやる気できたっぞ! しゃおらー。

 米と言えばヒトモドキだけど奴らは今頃何してるかね。特にあの銀髪。あいつが積極的に動いているとなると……迂闊な行動はできない。見つかったら確実に全滅する。ラスボスどころかイベント戦闘で強制敗北させられる敵くらいの実力差がある。

 どっかの屋敷で悠々自適の隠遁生活を送ってくれていればいいなー。無理な気がするけどな。

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うちの猫は液体です 新作です。時間があれば読んでみてください。
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