表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
136/511

132 虚構の探検家

 ヒトモドキとの戦いを経て、オレたちは逃げるように、いや、事実として逃げながら東から南にかけて移動していた。

 サージさんから聞いた話によるとここから東に行くと山脈、南にいくと海にぶつかるみたいだ。そこから東に進むとラオ、そう呼ばれる領があるらしい。ただし海辺にはやたら強い魔物が出没するため、ヒトモドキは住んでいないらしい。

 オレの目当ては山と海だ。

 現状明らかな力不足を認識したので戦力の強化を急がなくてはならない。そのためにはオレの知識を活かせる道具、あるいは科学的に応用の利く物質が大量に必要だ。

 まず塩や貝などを海で手に入れる。そして鉱物や硫黄などを山で手に入れる。ざっくりと説明するとこんな感じ。

 もちろんヒトモドキとは極力接触しない。もしもあの銀髪と遭遇したらただではすまない。だからこそ道なき道を、山を、森を、切り開きながら進んでいた。以前に比べると動員できる人員が大幅に増えたからこそできた芸当だ。オレ自身が何度か巣を移動したこともある。別の蟻と出会った時は丁重に人員を頂戴したので今や数千の大所帯だ。

 それはそれで何らかのトラブルを招くと予想していたけど、意外にも厄介な魔物に出くわしたりすることはなく、順調に東に進むことができた。まるで今までオレの行く手を遮っていた何者かがいなくなったようだったけど……むしろ今まで運が悪すぎただけかもしれない。

 それでも時間が足りなくなり、山の麓に近づいた時点で冬が来たので冬眠の準備に入らざるを得なかった。

 去年に比べると準備ができていたのでそれほど苦労はしなかった。


 そして春になり、再び探索を再開した。

 しました。したんだよ。したけど……。


「何で鉱物がどこにもないんだよ――――!!!!」

 そう。思わず叫びたくなるほど何も見つからなかった。冗談抜きでビビる。

 鉄もない。銅もない。金銀見つかるはずもない。挙句の果てには石炭などの化石燃料も見つからない。

 もちろんかなり大雑把な方法だよ? ひとまず川に堆積した土などを燃やしたりして調べる。ただし蟻は土に混ざっている成分なんかもおおよそわかるので、そこまでするのは本当に怪しかったときだけ。

 怪しそうだったら適当に地面を掘ってみる。その繰り返し。数十回、数百回と繰り返しても全く金属が見つからない! 調べた山はもう百を超えている。

 ここまで見つからないとなるともう運の問題じゃない気がする。何か理由があるはずだ。

 例えば……地殻変動や鉱物の堆積の仕方が地球とは違うとか? あるいは過去に栄えた文明が資源やらなんやら使い果たしたとか?

 どっちもやだなあ。とにかく最低でも鉄と硫黄だけは見つけないとだめだ。理想的にはバナジウムとか白金があるとすごく助かるんだけどなあ。

 何を作りたいかって? もちろん火薬だ。

 多分銀髪には爆薬か火薬がないと勝てない。正直あっても勝てるかどうかわかんないけど……それが無理ならもう核兵器でも作るしかねえな。


 火薬は硫黄、木炭、硝石があれば作れる。

 硝石は硝酸があれば作れるし、硝酸はアンモニアと触媒があれば作れる。アンモニアを大量に作るにはハーバーボッシュ法が一番効率がいい。

 そのためにはどんだけ最悪でも鉄がないと無理。白金は少量でもいいけど……現状見つかる気がしねえ。

 要するに今のところ無理。

 次に手っ取り早いのは古土法? だっけ。農家とかの土から抽出する方法。しかし、残念ながらヒトモドキの農家からは硝酸は取れない。しかもこの辺りにはヒトモドキ以外の国どこにあるのかわからない。サージは大雑把な地図しか知らないみたいだったし。なので培養法という方法で一から作るしかない。

 ただし数年かかる。ダメじゃん。

 とでも言うと思ったのか!?

 実はその期間を短縮する方法がある。魔物の成長加速能力だ。

 アルコール発酵の時に明らかになったように自身以外の細胞分裂を加速させると思われる働きがある。

 硝酸は土中などに含まれる微生物によって作成される。つまり微生物の成長を加速させれば迅速に硝酸が作成可能なはず。

 そのためにはきちんと硝酸菌などの成長加速方法を確認しないといけない。

 まず微生物を単離する。そして成長を加速できるかどうかを確かめる。もし上手くいけば硝酸は問題ない。でも硝酸菌の単離って結構根気がいるはずだからなあ。ひとまず経験を積みつつ実験するしかないか。


 しかし問題なのは硫黄だ。

 硫黄がなくても硝酸だけで火炎放射器くらい作れるけど……火薬を作ってさらに先に行くには硫黄が必要だ。

 硫黄を採掘するには火山に行くのが手っ取り早い。

 ……日本ならなあ。火山大国ならなあ。こんな苦労しないのになあ。地震とかで悩みそうな気もするけどな。

 鉄もないからなあ。いやまあ、鉄がどこかにあるのはわかってるんだ。だってオレたちの血は赤いからな。

 血が赤いのはヘモグロビンに含まれる鉄だ。極論すれば血から鉄を取り出すのは不可能じゃない。超効率悪いけどな。

 とにかく資源が少ないんだよ。

 もしかして武器を作る能力を持っていたはずのエルフがヒトモドキに負けたのってここの資源が少なかったからか?

 ……あれ? ちょっと待てよ?

 たしかエルフは西から来たんだよな? じゃあ、西には資源が豊富なのか? もしそうなら資源がちゃんとあって武器も豊富だったエルフが何でここに来たんだ?

 何らかの環境要因ならまだいいけど……もしも武器を持ったエルフよりも強い魔物がいたとしたら?

 なんてこった。会ってもいないのに敵が増えちまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うちの猫は液体です 新作です。時間があれば読んでみてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] あれだけ搦め手が得意な紫水は、銀髪と正面衝突しか思っていないのは遺憾です。 それこそ他の女王を殺した方法とか、銀髪の近い人間にジャガオを食わせるとか、村の井戸に毒を入れるとか、波状攻撃…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ